かつて日本が得意とした「軽薄短小」の世界の変化とこれからを考えてみた!

みなさんは「軽薄短小」なんて言葉を聞いたことがあるでしょうか。別に男性蔑視の用語だとかという物騒なものではありません。「軽い、薄い、短い、小さい」の漢字を抜き出したもので、かつて日本が「電子立国」などと呼ばれていた時代、日本製品の特徴を指して言われた言葉です。

日本人は道具や機械のコピーと改良が得意で、海外から手に入れた技術や製品を精査しては自分たち独自の技術をプラスして次々にコンパクトで使いやすい道具を生み出していったことから生まれた言葉ですが、この言葉が代名詞的に使われたメーカーの筆頭と言えばソニー以外にありません。文字通り世界を変えたウォークマンに始まり、携帯ラジオやノートパソコンなど、全てを軽く、薄く、そして小さくしていったのです。

ソニー以外のメーカーもこぞって軽薄短小を目指しました。家電製品からクルマまで、ありとあらゆるものが多機能をコンパクトに凝縮し、狭い日本の家や街に合わせて製品化されたのです。今の日本で軽自動車が大流行しているのも単に安いからだけではないでしょう。駐車場や道路など、ありとあらゆる場所が狭いからこそコンパクトで小回りの利く軽自動車が好まれたのです。

しかし時代は変わりました。何もかもを軽薄短小に収めれば良いという風潮は終焉を迎えます。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はそんな「軽薄短小」の世界に収まらなくなったモバイルガジェットの現在と未来についてお話します。

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物理的なサイズには「ちょうどいい」が必ずある


■小さくすれば良いというものではない
まあ、もったいぶって話を引き伸ばすほどのものでもありません。早い話が携帯電話(ケータイ)やスマートフォン(スマホ)です。ケータイは登場当初こそ大きく重く、それこそ「ショルダーフォン」に代表されるほど持ち運びにも苦慮する代物でしたが、あっという間に小型化が進みPDC時代には手のひらサイズにまで小さくなりました。

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車載電話から進化したショルダーフォンなどは今見るとジョークアイテムにしか見えない大きさだ


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1994年4月発売のIDO向け日本電装製携帯電話「T204」。故・ジャイアント馬場さんが指2本でT204を隠すCMが当時話題となった


バブル景気前後までの電子機器というのは、とにかくありとあらゆる部品が大きく人の手に収まるサイズに作り込むことが容易ではありませんでした。だからこそ日本の家電メーカーや電子機器メーカーは部品単位での小型化に躍起になっていたわけですが、2000年代にもなると基板の集積技術にも一定の目処が立ち、手のひらどころか指先レベルにも小型化が可能になってくると小型化することへの大きな意味や意義が薄れてきます。

そしてその後のケータイの小型化は、重さわずか69gしかないソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ(現、ソニーモバイルコミュニケーションズ)製の「premini」で一旦の終着点を見ます。性能の凝縮と小型化への追求は端末の「物理的な扱いづらさ」や「機能の限定化」を生んでしまい、モバイルガジェットに求められる使いやすさや汎用性といった部分まで削ぎ落としかねないために歓迎されなくなったのです。

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pureminiの後継機種「premini-S」。小型・軽量というメリットをスポーティなカラーとデザインで若者に訴求した


スマホも同様の道を歩みます。かつての電子手帳からPDA、そしてWILLCOM向けのシャープ製「W-ZERO3」へと進化して生まれたスマホはiPhoneの登場によって世界にモバイルデバイスの革命をもたらし、その後薄型化は進みましたが小型化や軽量化に関してはむしろ真逆で、見やすさや使いやすさを追求していった結果、年々大型化していったことは以前のコラムでも言及した通りです。

また薄型化についても厚さ5mm前後が使いやすさや強度の限界となり、2014年に中国のメーカー・OPPOが厚さ4.95mmの「OPPO R5」を発表してからは7~8mm前後で落ち着き始めています。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:誰がために超小型スマホは鳴る。テクノロジーとウェブサービスの進化に裏打ちされたその魅力について考える【コラム】


The R5 - Does it SMASH?

動画リンク:https://youtu.be/Ah0A_0cDPpU

重さに関してはさらに顕著にこれまでの「モバイルの常識」を覆しつつあります。スマホは画面が大きい方が便利である、という点については上で紹介した過去記事などにも記した通りで、大画面化によって得られた広いプットプリントによってバッテリーも大型化し、さらに大きな端末でも十分な強度を確保するために金属フレームを多用したことから重量の増加は避けられず、今やハイエンドのスマホは180g前後から200gを超えるまでに重くなっています。

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サムスン製「Galaxy S9+」。重さは189gでずっしりとした重量感がある


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ソニーモバイルコミュニケーションズ製「Xperia XZ2 Premium」に至っては圧巻の236g。もはや片手で扱う前提のモバイル機器の重さではない


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アップル製「iPhone 8」の148gが軽量クラスと呼ばれるほどになってしまった


■スマホの「ちょうどいいサイズ」はどの程度なのか
かつてスマホが大型化し始めた頃、筆者は「スマホのサイズは横幅70mm以内、重さは150g以内に収めるべきだ」と事あるごとに主張していました。しかしそれは「片手で操作できるちょうどいいサイズと重さ」を求めていたからであり、現在の人々がスマホに求める「大きな画面」、「両手で操作しやすい大きさ」という要求を満たすものではありません。

両手での操作を前提としている今のスマホにおいては200gを超える重さもそれなりに妥協できる範囲というか、200gどころか300gすらも余裕で超えるタブレット端末やニンテンドー3DS LL、ニンテンドースイッチのようなモバイルデバイスで育った世代にとっては「まだまだ軽くて使いやすい端末」の部類なのかもしれません。

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ニンテンドースイッチに至ってはジョイコンを接続すると398gにもなる


現在の筆者が考える「ハイエンドクラスの性能を有するスマホの最適サイズ」に最も近い端末はアップル製「iPhone X」です。

横幅はギリギリ70mm台と呼んで良い70.9mm、画面は十分に大きな5.8インチ、厚みも8mmを切る7.7mm、重量は180gを下回る174g。このいずれもが「片手で操作できる限界値」に近く、それでいて両手での操作も十分に快適なサイズです。これが横幅78mmにもなるiPhone 8 Plusでは大きすぎて片手操作は完全に諦めざるを得ません。

欲を言うならiPhone 8のサイズと重さ、性能、そして価格でiPhone Xのような全画面タイプが登場するならそれが個人的至高であり間違いなく買い換えるのですが……さて、今年のiPhoneにそのようなモデルが登場するのかどうか。

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大きな画面は欲しいが片手でも使いたい。そんな要求は贅沢だろうか


■技術の成熟の先にあるもの
今更ですが、トップ画像に使わせていただいたのは筆者がかつて愛用していたソニー製ポータブルMDプレイヤー「MDウォークマン MZ-E10」です。現在のシリコンオーディオプレイヤーと違い、光学ディスクを物理的に回転させて読み取る方式であった当時の音楽プレイヤーをジャケットケースサイズにまで小型化し、一体どこに駆動部やバッテリーを収めているのか理解不能なほどの小型化を果たした名機ですが、こういった小型化が称賛された時代は終わりました。

製品の内部基板や部品が小型であることは当たり前であり、それを如何に使いやすいサイズと使いやすい性能へ落とし込むのか、というデザインコンセプトが必要な時代なのです。「道具がファッションになる」という比喩は、まさにこういった技術の成熟によってもたらされたと言っても過言ではないでしょう。

果たしてスマホはファッションになり得たでしょうか。スマホをおしゃれに持ち歩く人は増えましたが、そこに個性や他のファッションとの組み合わせを楽しむ“隙間”はあるでしょうか。ただひたすらに軽薄短小を追い求めていた時代から、どこまで道具は進化できたでしょうか。

筆者は手元のスマホを手に持つ度に、重さや大きさを確かめながらそんなことを考えてしまうのです。

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道具は適したサイズであってこそ輝く


記事執筆:秋吉 健


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