スマホディスプレイの「角丸デザイン」について考えてみた!

筆者がiPhone 8からiPhone XSに変えて早1ヶ月。ロングレビュー的に色々といじって来ましたが、結論としてはとても満足しています。かつてiPhone Xが発売された2017年当時はTrueDepthカメラの精度や利便性に若干懐疑的でもあり、また指紋認証という生体認証方式に不満を感じていなかったことから順当にiPhone 8を購入しましたが、現在のところiPhone XSは概ねiPhone 8よりも快適だという個人的評価です。

ところで。何かを評価する時に色々と理由をこねくり回すのが大好きな面倒臭い性格の筆者ですが、iPhone XSで一番気に入っている部分は、実は「ディスプレイの角が丸い」という一点だったりします(筐体の角ではない)。

えぇ、そんなところなの……とライター仲間などからも笑われますが、正直iPhone 8を使っていてiPhone Xや他社の新型スマートフォン(スマホ)を見る度に「ディスプレイの角が丸い……羨ましい」といつも思っていたのです。

見回してみれば、今やディスプレイの角が丸いスマホが巷にあふれています。昨今のスマホデザインの流行りだよね、と一言で片付けてしまうのも簡単ですが、実はここに至るまでには理路整然とした理由があったのです。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はスマホのディスプレイの角が丸くなった理由やその意義について考察します。

as-046-002
角丸ディスプレイはなぜ生まれたのか


■そもそも角丸デザインから始まっていたスマホ業界
スマホのデザイントレンドや機能的トレンドを語る際にまず思いつくのは「iPhoneが採用したデザインや機能が流行る」という一連の流れですが、ディスプレイの角が丸い、いわゆる「角丸ディスプレイ」はiPhoneが発祥ではありません。同じ2017年でもLG製の「LG G6」やサムスン電子製の「Galaxy S8」などが半年ほど早く発売されており、デザイントレンドの潮流は韓国企業から始まっていたのです。

as-046-003
LG G6(左)とGalaxy S8(右)。現在の角丸デザイントレンドの走りとなる端末だ


ディスプレイに限らず、デザイン市場において角丸デザインは以前からさまざまな理由で採用されてきました。まず最も大きな理由は「柔らかなイメージがある」点です。デザイン業界的には「女性的」だとか「優しい印象」を与える表現として考えられており、例えば企業サイトなどでも堅苦しいイメージの強い業種では角ばったスクウェアデザインが好んで採用され、花屋さんやレストランなどのように優しさや温かさを表現したい場合は角丸デザインが多用される傾向があります。

振り返ってみても、実は初代iPhoneからアイコンデザインは角丸です。角丸のアイコンは「ボタン」としての意味を強調するデザインとしてウェブサイトやアプリのUIとしてもよく用いられており、iPhoneのアイコンが角丸であったことはデザインにこだわりの強かったジョブズらしい選択だったのだろうと想像ができます。

また筐体デザインでもiPhoneシリーズは一貫して角丸デザインを採用しており、現在のiPhone Xシリーズのディスプレイが角丸になるのはブランドデザインの視点からも必然だったと言えます。

as-046-004
iPhone 3GS。よく見れば角丸デザインの塊だ。むしろ角のあるディスプレイだけ異質感がある


■大画面化の行き着いた先に角丸があった
デザインとしては非常に好印象な角丸ディスプレイですが、ディスプレイ本来の用途としては若干デメリットがあるのも事実です。言わずもがな、これまでの画像・映像コンテンツは四角く隅まで表示することが基本で成り立っており、文字の表示にしても画面端ギリギリまで表示できるスクウェアデザインのほうが無駄がないからです。

携帯型端末という大きさに制限のある機器において、こういったデメリットを敢えて選択してでも角丸デザインにこだわった理由とは一体どこにあるのでしょうか。実は、スマホの大型化と密接な関係があるのです。

as-046-005
スマホが大きくなると角が丸くなる?


スマホは世に登場して以来ひたすらに大画面化を続け、今や5インチ画面ですら小さな部類に入るほどになりました。それは人々がより大きな画面でより快適に(≒物理的にサイズの大きな高性能チップセットの搭載に伴う実装基板の大型化)、そしてより長時間利用できること(≒大容量バッテリーの搭載)を望んだ結果ですが、それによってスマホは筐体サイズが肥大化し重量も増加しました。

かつてソニーのXperiaブランドにZシリーズが登場した当時、その四角い一枚のガラス板のような美しい外観が評価される一方で、「角や側面部分のエッジが手に当たって痛い」という評価が一部にあったことを皆さんは覚えているでしょうか。大画面化に伴う端末の大型化と重量増加によって、エッジの立った先鋭的なデザインは手に馴染みにくくなってしまったのです。

as-046-006
スマホ業界の歴史を語る上で外すことのできない名機だろう


この「スマホが重く角ばったデザインが手に当たる」問題は他メーカーでも認識しており、側面デザインを丸くしたり背面に緩やかなアール(丸み)を付けるなどの工夫をするとともに、角部分も丸く持ちやすいデザインにすることで、持ちやすさや手への馴染みやすさをセールスアピールとする端末が多く登場しました。

かくいうXperia Zシリーズもデザインを少しづつ変化させていき、Xperia Z3では側面を丸くし、Xperia XZ2では背面にもアールを設け、そして最新機種となるXperia XZ3では端末全体が有機的な曲線で描かれた美しい楕円デザインへと進化(変化)していったのです。

as-046-007
ディスプレイ面の曲面ガラスから薄い側面、そして緩やかにカーブを描く背面へと流れるように連続した丸みを持つXperia XZ3


スマホの大型化は消費者がより大きな画面を欲したことに端を発したものなので、当然ながらディスプレイそのものも大型化しなければ意味がありません。横幅の大型化が片手で扱える限界に来た時、各メーカーはディスプレイを縦に伸ばし始めました。iPhoneのアスペクト比3:2の画面から16:9へ、そしてさらに縦長の18:9へ。現在のiPhone Xシリーズはさらにワイドな19.5:9という比率にまでなっています。

スマホの行き着く先が完全にツライチで物理キーの存在しない全画面ディスプレイであるなら、そのディスプレイが筐体デザインへ沿わせるように角丸デザインになるのは必然だったのです。それでも上下のベゼルが若干存在するGalaxy シリーズやXperiaシリーズなどの場合はただの意匠としてのデザインに留まっていますが、iPhone Xシリーズのように無駄なベゼルを極限まで削ぎ落とし「ディスプレイ=筐体」と呼べるデザインまで進化すると、それはもうだたのデザインではなく機能美と直結するのです。

「ディスプレイの角は丸いほうが見た目の印象が良い」といったものではなく、「ディスプレイの角は丸くせざるを得なかった」のです。

as-046-008
持ちやすい角丸の筐体にディスプレイがフィットしていくのは自然な流れだった


また18:9や19.5:9という超ワイドディスプレイは既存コンテンツにおける角丸ディスプレイの欠点を補ってくれる効果もあります。例えば16:9で撮影された画像や映像を観る際、丸く削られたディスプレイ部分を利用することなくソースのままにコンテンツを閲覧することができます。

さらにこれまでの16:9ディスプレイでは画像や映像を表示している際に、上部のステータスバーや下部のナビゲーションボタン(Androidスマホで採用)が隠れてしまったり画像の上にオーバーレイ表示されるなどの不便がありましたが、18:9以上の画面であればそれらの表示を消すことなく常に表示しておくことも可能です。

とくにiPhone Xからトレンドとなった、上部カメラ部分がせり出した「ノッチデザイン」においては、このノッチ部分も気にすることなく16:9比率の映像などを楽しめるため、角丸デザインと超ワイドディスプレイは非常に相性が良いのです。

as-046-009
既存のコンテンツや画像を閲覧する際、超縦長ディスプレイなら丸い角もノッチも邪魔をしない


■欲望と技術革新がコンテンツを進化させる
例えば自動車業界でセダンからミニバンへ、そしてSUVへと流行りやトレンドの変遷があったように、スマホ業界においてもそのトレンドは人の欲望や世相を反映して日々刻々と移り変わっています。一時期は3D表示可能なディスプレイを推す流れもありました。スマホからイヤホンジャックが削除されBluetoothイヤホンの利用が一般化したのも新しい流れです。同じように、ディスプレイもまた10年の歳月を経て人々が欲する方向へと進化し始めたのです。

角丸デザインのような非定形ディスプレイを業界ではフリーフォームディスプレイなどと呼びますが、こういったフリーフォームデザインを従来の液晶ディスプレイ技術でやろうとすると、ゲートドライバが邪魔になったりバックライトとなるLEDの配置が難しくなり輝度ムラが出やすくなるなどの欠点がありますが、近年これらの欠点を克服できるようになったこともまた、業界的に角丸ディスプレイの採用が進んだ要因の1つと言えます。

またハイエンドスマホなどで採用が増えているOLEDディスプレイの場合、フリーフォームデザインに加工しやすかったこともトレンドを加速させた大きな要因と言えるかもしれません。

as-046-010
シャープのフリーフォームディスプレイ技術(公式サイト)


ディスプレイ形状が変わればコンテンツも変わります。今までは16:9という比率の角張ったディスプレイに最適化されたUIデザインが基本でしたが、これからはスマホ独自の丸みを帯びた有機的なUIデザインが台頭してくるでしょう。

コンテンツもまた、画面サイズや画面比率にとらわれない自由でフレキシブルなデザインが求められる時代となります。人々の欲求と技術の進化がスマホのデザインを作り、その新しいデザインがコンテンツを変えていくのです。

「ディスプレイは四角くなければいけない。画像の端まで表示できないディスプレイに価値はない」と切り捨てるのは簡単ですが、逆の考え方もできます。「画像の端が切れてしまってもいいじゃないか」と。すべてがそこに写っている必要はないのです。かつて3:2比率の銀塩フィルムがデジタル化して4:3や16:9になった時、一部の写真愛好家からは「3:2じゃない写真など……」と不満も出ました。しかし今そこに不満を持つ人はほとんどいません。

Instagramで正方形の写真が流行ったように、これからの時代は18:9やそれよりも広いパノラマで撮られた写真が流行る日が来るかもしれません。そもそもディスプレイサイズに写真を合わせる必要すらないのです。360度撮影された写真をVR的に動かして楽しむのがトレンドになるかもしれません。それもまたスマホだからこそできる楽しみ方だからです。

ディスプレイはこうあるべき、スマホはこうあるべきと定義したまま停滞するのではなく、常に人々の欲望と技術革新の先を見つめて新しいモバイルデバイスの楽しみ方を模索していきたいものです。

as-046-011
人がデザインを進化させ、デザインもまた人を進化させる


記事執筆:秋吉 健


■関連リンク
エスマックス(S-MAX)
エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter
S-MAX - Facebookページ
連載「秋吉 健のArcaic Singularity」記事一覧 - S-MAX