LINEの新たなチャレンジ「LINE Token Economy」を解説!

LINE Corp.は都内にて新サービス発表会を9月27日に開催し、独自開発したブロックチェーンネットワーク「LINK Chain」を基盤とした「LINKエコシステム」や、このエコシステムによる仮想通貨経済圏「LINE Token Economy」構想を発表しました。また「LINKエコシステム」内で利用できる日本向けの汎用コイン「LINK Point」や海外向け(日米以外のユーザー向け)の汎用コイン「LINK」も公開しました。

LINK PointおよびLINKは合わせて総数10億個が発行され、このうち8億個は「LINK エコシステム」に参加するサービス毎に設けられた報酬ポリシーに従って分配される予定で、残りの2億個は予備として発行元であるLINE Tech Plusが管理を行うとしています。

同社はこれまでにもコミュニケーションサービス「LINE」を中心に利用できる「LINEポイント」を発行しており、同社アプリの決済などに利用できるエコシステムを構築してきましたが、今回新たに仮想通貨経済圏の構築に乗り出してきた理由とは何でしょうか。本構想の解説とともに考察します。

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LINEが仮想通貨事業へ本腰を入れる最大の理由とは


■トークンエコノミーによる強固な自社経済圏を確立
「LINE Token Economy」構想は独自のトークン(仮想通貨)を発行・流通させることによって成立するトークンエコノミーシステムです。いわゆる国家がその価値を保証し一元管理しているリアルマネーの経済圏(エコノミー)に対し、トークンエコノミーではユーザー1人1人が取引に用いられる仮想通貨の台帳を分散的に管理するブロックチェーン技術が用いられます。

この取引台帳は誰でも管理できる代わりに非常に強固な暗号化が行われるため、取引情報を一元管理する従来のエコシステムよりもセキュリティ的に強固である点や、ユーザー自身がさまざまなサービスの提供者にもなり得るため、インターネットで広まったフリーミアム志向からさらに進化したユーザー中心の経済圏を構築できる点が大きなメリットとされています。

LINEが今回発表した構想ではLINKという仮想通貨が用いられます(日本向けではLINK Point)。同社はLINKエコシステムの中で利用できるアプリ(dApp、もしくは複数形であるdAppsと表現される)を多数用意し、またサードパーティやユーザーによるDAPPの制作や公開をオープン化することで大きな市場を形成することで、より強固に自社の経済圏へユーザーを囲い込んでいくことが大きな目的です。

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分散管理であるブロックチェーンシステムは外部からの攻撃に非常に強い


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独自ブロックチェーンシステム「LINK Chain」はiconとの共同開発


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LINK Chain上で動作するアプリをdApp(ダップ)と呼ぶ


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海外向けトークンであるLINKは10月16日より仮想通貨交換所「BITBOX」にて取引が開始されている


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日本向けのLINK PointはLINEポイントへ交換して同社の各サービスで利用可能


■なぜ敢えて独自トークンエコノミーなのか
一見すると「それ、LINEポイントで良かったのでは?」とも思える今回のトークンエコノミー構想ですが、同社にとって本構想は日本や一部のアジア圏など、SNSアプリ「LINE」が高いシェアを持つ国や地域以外へビジネスを広げていく大きな賭けでもあるのです。

LINEがこれまで発行してきたLINEポイントはLINEのサービス内でしか利用できず、そのアプリが普及している地域以外での市場的価値はほぼありません。しかし新たに仮想通貨による独自経済圏を持ち、従来のLINEポイントへの後方互換性を保ちつつも全く新しい仮想通貨経済圏を構築することで、全世界へビジネス展開する足がかりを新たに作れるのです。

同社はこれまで欧米でのビジネス展開に苦戦しており、とくにSNSアプリとしての「LINE」を中心としたビジネスモデルはLINEアプリ自体の浸透に失敗した現在ではほぼ不可能に近く、手詰まりといった状況でした。

本構想はこういった状況を打開できる新たな戦略でもあり、またトークンエコノミーという新しいエコシステムの実験場としても最適であることが、同社をゼロからのチャレンジに踏み切らせた大きな要因ではないでしょうか。

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「敢えて小さなチームで小さなプロダクトから果敢にチャレンジしていきたい」と語るLINE取締役CSMO 舛田淳氏


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SNSアプリのLINEを中心としたエコシステムとは違う新たなエコシステムの構築は同社のビジネス拡大において急務だった


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安全性や運営の透明性(健全性)などから新たな独自経済圏の構築を考えた場合、ブロックチェーンはまさにうってつけのシステムだったのだろう


■まずは数種類の自社dAppから
LINK Chainの運用開始にあたり、同社では数種類のモバイル端末(スマホおよびタブレット)向けdAppを順次公開していく予定で、10月下旬に予定されているのは知識共有プラットフォーム「wizball」(ウィズボール)です。

ユーザーが質問や情報を書き込むことでデータベースを構築していくもので、質問や回答にLINK Pointが付与され、またその回答の評価などにもLINK Pointが付与されるため、コミュニティの中で回答の品質や専門性が担保されるという仕組みです。

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8月31日よりβ版アプリが先行公開されている


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サービスイメージとしてはYahoo!知恵袋などが近い


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人々の「集合知」の活用はブロックチェーンのシステムと相性が良い


未来予測プラットフォームと名付けられた「4CAST」(フォーキャスト)もまたユーザー同士のコミュニティを中心としたサービスです。

「テニス大会の優勝者は誰か」、「今年の冬に流行りそうな色は?」といったような人々の何気ない未来予想を投票で決めていくというクイズゲーム的なサービスで、正確に未来を予測するといった使い方ではなく、友人と雑談をするような感覚で「◯◯だったらいいな」といった話をするコミュニティサービスとして提供されます。

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こちらも9月4日よりβ版が公開されている


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あなたの予想は当たるか、ハズレるか


このほか、商品を撮影するだけで商品レビューができる「Pasha」(パシャ)やレストランのレシートを撮影するだけで商品レビューが行えるグルメレビュー用の「TAPAS」(タパス)、旅行先などをレビュー・シェアするロケーションプラットフォーム「STEP(仮称)」(ステップ)など、ユーザーレビューによるコミュニティを軸にしたdAppを今年度中に順次公開予定です。

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TAPASではレシートに記載された商品ごとにレビューが行えるため、お店の評価ではなく「お店のメニューの評価」を個別にできる点が新しい


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各dAppは2019年3月までに順次公開される


同社では各種dAppを中心としたエコシステムのレイヤーを構想しており、dAppによって得られたLINK PointをLINEポイントへ交換して利用してもらい、さらにその先のレイヤーとして各種アプリやECサイトの利用へとユーザーを誘導していきたいとしています。

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グローバルな運用のLINK ChainからローカルなLINEエコシステムへと繋げていく


■世界を相手にした新たなチャレンジは成功するか
本構想自体は非常にチャレンジングで面白いものですが、その成否については全くの未知数です。とくに仮想通貨としてのLINKの取り扱いやその原資の持ち出しについては「現在は我々の負担」としつつも「今後サードパーティが参画した場合にその負担率を検討していく」としており、手探りでのスタートとなる点には若干の不安もあります。

質疑応答の席で「我々がやろうとしていることはプラットフォームそのものを作ること」と断言していることからも、現在のLINEプラットフォームのようにユーザーを囲い込むエコシステムをさらに大きく全世界へと広げていくための基盤がLINK ChainでありLINE Token Economy構想である点は疑う余地もありませんが、果たしてその構想が正しく機能するのか、また機能するほどのユーザーをどのように集めていくのかというマーケティングの部分が大きな焦点となりそうです。

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LINEプラットフォームの枠を超えた新しい経済圏の確立は成功するだろうか