タブレット市場の動向について考えてみた!

既報通り、Apple(アップル)は18日(現地時間)、新型タブレット「新しいiPad Pro(11インチおよび12.9インチ)」を発表しました。新型コロナウィルス感染症対策から例年のような大規模な発表会が行われなかったため、発表を知らなかった人もいるかも知れません。

恐らくみなさんも何かしらのタブレットを持っているか、購入した経験があるかと思います。過去に一度も使ったことがないという人は少ないでしょう。しかし、その買い替えや新たなタブレットの購入となると、なかなか踏み切れないのも人の心理です。

2017~2018年頃のタブレット市場の動向を振り返ってみると、「沈むタブレット市場」、「出しても売れない」、「低迷するタブレット売上」など、そのような内容の見出しを多く見つけられます。

ところが、2019年半ばから再び活気づいており、電気通信事業法が一部改正された2019年10月以降も、モバイル端末業界全体としては売上を落としつつもタブレット市場は前年を上回る販売状況が続いています。

タブレット市場に一体何が起こっているのでしょうか。また現在のタブレットの魅力とは一体何なのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はタブレット端末の人気の秘密と購買層の心理的変遷などを考察します。

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タブレットはどう変わり、どこへ向かうのか


■持ち歩きから自宅利用へと変化していったタブレット端末
はじめに、タブレットがブームとなった2015~2016年頃のモバイル市場の動向を振り返ってみましょう。

当時のタブレットと言えば、8~10インチ前後の端末が主流で、外出先で動画を見たり、資料をチェックする目的を前提とした商品アピールが多くありました。スマートフォン(スマホ)の画面サイズはまだハイエンド端末でも5インチ台が多く、6インチ以上のものはほとんどありませんでした。

そのため、大画面での動画視聴やゲーム利用など、エンターテインメント系コンテンツの需要が多くあったのです。

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2016年発売のLGエレクトロニクス製「Qua tab PX」。8インチ画面の廉価なモバイルタブレットとして好評を博した


しかしその後、モバイル市場の動向に大きな変化が訪れます。スマホの大画面化が止まらなかったのです。

すでに2016年の時点で5.5インチ程度まで大きくなっていたスマホの画面サイズは、縦長ディスプレイの採用なども増え、2018年あたりからはハイエンドでは6インチ以上が主流化していきます。

端末も高額化していく中で、「これだけ画面が大きいならスマホだけでいい」、「価格も高くなってきたし、タブレットを買う余裕はない」、「1台で済ませられるなら大画面スマホを買う」、という流れになるのは必然でした。

これによって、タブレットブームが一旦沈静化してしまったのです。持ち運び用として購入したタブレットは使われることなく埃を被り、バッテリーすら充電されずに放置されていきます。「使い道がない」、「モバイル端末を2つも持ち歩くのが面倒」、「いちいち使い分けるメリットが薄い」……タブレット暗黒時代の突入です。

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2017年発売のアップル製「iPhone X」。ノッチデザインとホームボタンのない超縦長ディスプレイが人々に衝撃を与え、縦長画面(全画面)スマホブームに火を付けた


ところがその後、タブレット人気は突然息を吹き返します。10インチ以上の大型タブレットの時代がやってきたのです。

スマホの大型化によって、「画面の大きな上位モバイルマシン」的な立ち位置は失われましたが、一方で「自宅内で持ち歩けるマルチメディアデバイス」としての優位性が出てきたのです。

大きな要因は端末性能やOS機能の向上とアプリの充実です。専用のスタイラスを利用した精密な描写機能がタブレットをクリエイターツールに進化させ、高精細なディスプレイや高品位な立体音響システムの導入が動画視聴の質を大きく向上させました。タブレットは「小型で持ち歩きに便利」から、「大きな画面で動画視聴もイラスト作成も思いのまま」な存在へと変化したのです。

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スタイラスを必要としないデバイスへと進化し普及したはずのスマホやタブレットは、技術の進歩と時代の要求によって再びスタイラスを復活させた


■タブレットがあればPCは要らない時代に
タブレット人気を復活させた要因は他にもあります。例えば若年層によるPC代わりとしての利用です。

いわゆるスマホネイティブと呼ばれるような世代にとって、一般的なPCは非常に「とっつきの悪いデバイス」です。日本人の場合、ただでさえ物理キーボードに不慣れである上に、ファイル操作やアプリの仕様などがスマホと大きく違うため、新たに覚えることが多く面倒を感じてしまいがちです。

しかしタブレットであれば、OSの挙動やアプリの仕様がスマホと似ているため、大きな違和感を覚えることなくすぐに操作ができます。さらにはオフィス系アプリや画像・動画編集アプリなどの充実もあり、PCがなくともタブレットで十分に作業ができる環境が整い始めたのです。

こうなると、「若者のPC離れ≒若者のタブレット利用の増加」という図式が生まれます。大学生のPC所有率はそれほど低くなく、数字上では若者のPC離れが進んでいるわけではないのですが、利用のしやすさや普段の利用頻度で言うならば、「PCは持っているけど得意ではないしあまり便利にも使っていない。タブレットの方がいい」という人が多くなるのは当然と言えます。

アップルが新しいiPad Proでトラックパッドに対応させてきたことが、その大きな証拠でしょう。これまでスマホとタブレットで共有してきたOSも2019年に「iPadOS」として分化させましたが、スマホライクな使い勝手はそのままに、PCライクにも使える「第3のデバイス」としての進化が始まりつつあります。

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専用キーボードのトラックパッドでPC同様にカーソルポインターを動かせるように。オフィスアプリ利用時やテキスト編集時に大きな威力を発揮する


学生の学習用機器としての活用もまたタブレットの大きな役割です。今や参考書も問題集もタブレット向けとして多く出版されています。分厚く重い書籍よりも、タブレット1つのほうが圧倒的に多くの教材や例題を手に入れられます。

またタブレットだからこそ、どこに居ても先生や生徒同士で学習内容を共有したり、課題についてのアドバイスを端末上で得ることもできます。わからない点について自ら検索して学習をすすめることも可能な点は、ある意味「どこでも図書館になる」デバイスとして非常に大きな意義があります。

このように学習端末として考えた場合も、大型のディスプレイとスタイラスを活用した学習スタイルと、学校や予備校、家庭など場所を問わず利用できるメリットは非常に大きいと言えるでしょう。

■生活の一部として進化を続けるタブレット
ビジネスであればPC利用は未だに必須ですし、PCでなければできない仕事も多くあります。しかし、個人が私用に持つデバイスとしては、PCは少々冗長な代物になりつつあります。少なくとも、タブレットほどの手軽さはありません。また私的な用途において、タブレットでできないこともかなり少なくなってきました。

将来(近未来)の展望としても、5G時代には高品位な動画配信やクラウドゲームといった用途が生まれます。新しいiPad ProにLiDAR(ライダー)が搭載されAR機能が大幅に強化されたように、xRデバイスとしての活用もこれから注目されるところです。

よりリッチなコンテンツ体験をより大画面で、という需要も今後大きく伸びていくことでしょう。

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NTTドコモはクラウドゲームサービスとして「dゲーム プレイチケット」を発表。人気の高い家庭用ゲームをスマホやタブレットでどこでも楽しめる環境を提供する


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拡張現実をよりリアルに、より身近に


みなさんならタブレットを何に活用しますか? もしくはタブレットで何をしたいと考えますか? 筆者は動画視聴端末やゲームデバイスとして日々大いに活用しています。この先クラウドゲームなどでも大活躍するかと思うと楽しみでなりません。

タブレットが進化する時、生活スタイルもまた進化していくのです。

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タブレットが生活を進化させ、進化した生活がタブレットに新たな需要を与えていく


記事執筆:秋吉 健


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