KDDIのUQ mobile事業統合に至る経緯を解説!今後の格安SIM市場はどうなる!?

既報通り、KDDIおよびUQコミュニケーションズ(以下、UQ)は14日、UQおよびUQモバイル沖縄が仮想移動体通信事業者(MVNO)として提供している携帯電話サービス「UQ mobile」の事業を会社分割によって2020年10月1日をもってKDDIが承継すると発表しました。

これによりUQ mobileは、MVNOから「KDDIのサブブランドMNO」(MNO=移動体通信事業者)として再出発することになります。元々KDDIのグループ企業としてモバイル通信業界内でも特別感の強いMVNOという印象がありましたが、KDDIの経営資源の集約のため、経営統合されることになります。

そもそも、これまでのUQ mobileがなぜ「特別」であったのか、MVNOやMNOといった法的なくくりではなく「格安キャリア」などと曖昧な定義によるカテゴリーで語られることが多かったのはなぜかなど、一般にはなかなか理解の難しい問題が背景にはありました。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は、そんなUQ mobileのモバイル業界における微妙な立ち位置や今後の戦略について考察します。

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経営統合の真の目的とは


■特殊な立ち位置だったUQ mobile
2020年9月末まで、UQ mobileはMVNOとして存在します。MVNOとは、通信設備を有し周波数帯の免許を取得しているMNOから回線を借り受けて運営する通信事業者なので、通信回線の収容量が小さく、品質が低い(通信速度が遅い、すぐに混雑するなど)といったデメリットが存在します。

そのため、

・MNO : 料金は高いが回線品質が良い
・MVNO : 料金は安いが回線品質が悪い

といった、非常に分かりやすい厳然とした区分がありましたが、UQ mobileはこの法則に当てはまらない「例外」の通信キャリアだったのです。

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UQ mobileの回線品質が「例外」とは?


筆者の記憶にあるところでは、2017年5月に行われた総務省による「電気通信市場検証会議」の場において、

二種指定設備設置事業者のグループ企業である一部のMVNOの提供するサービスについて、
・他のMVNOには提供されていないテザリングが提供されている
・他のMVNOでは実現できないようなプロモーションがなされている
・当該二種指定設備設置事業者との販売連携がある
等の差異があり、競争上優位。当該二種指定設備設置事業者による優遇があるのではないか

二種指定設備設置事業者のグループ企業である一部のMVNOの提供するサービスについて、他のMVNOでは実現できないような料金設定がなされ、競争上優位。当該二種指定設備設置事業者による優遇があるのではないか

このような指摘や確認があります。

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要は「UQ mobileは不当廉売に当たるのではないか」という指摘だ


当然ながら「二種指定設備設置事業者のグループ企業である一部のMVNO」とは、UQ mobileを名指ししているも同然の表現であり、有り体に言ってしまえば「KDDIはUQ mobileだけ贔屓しているのではないか」と、他MVNOから文句を言われたのです。

この指摘には裏付けがあり、通信速度テストなどを行うと、明らかにUQ mobileのみが他MVNOよりも格段に通信速度が速いのです。

例えば2020年3月にMMD研究所が行った「2020年3月格安SIM・格安スマホ通信速度調査」によれば、楽天モバイルやmineo、BIGLOBEといったKDDI回線を用いるMVNOが、東京・大阪・名古屋といった大都市部で下り最大30Mbps程度に抑えられている中、UQ mobileのみが60Mbpsを超えています。

Y!mobileはMVNOと勘違いされやすい通信キャリアですが、実際はソフトバンクグループのサブブランドMNOであり、MVNOとは法的に扱いが異なります。

そのY!mobileとほぼ同等の通信速度(通信品質)を持つUQ mobileが、他MVNOと大差のない料金プランでサービスを提供しているという時点で、他MVNOから「おかしいじゃないか」と言われていたのは当然のようにも思えます。

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これだけの速度差を実測値で見せられてしまうと、贔屓しているのではという不満の声にも説得力が出てくる


この通信速度の傾向はUQ mobileのサービス開始当初からほぼ変わっておらず、「身内に甘いKDDI」などと揶揄されることすらありました。

そのため、業界的にも上記で示したMNOやMVNOといったくくりとは別に、ソフトバンクグループのサブブランドMNOであるY!mobileとKDDIグループのUQ mobileの2社のみ、「格安キャリア」などという定義の存在しない曖昧な表現で扱われてきたという慣例があったのです。

つまり、業界に詳しい人々によるカテゴリー分けで言うならば、

・MNO : 料金は高いが回線品質が良い
・格安キャリア(Y!mobile、UQ mobile):料金も十分安く回線品質もそれほど悪くない
・MVNO : 料金は安いが回線品質が悪い

こういった、特殊な区分だったと言えます。

■経済圏の強化と独禁法対策としての経営統合
そのため今回の経営統合は、単純な経営資源の集中・集約という大義名分の裏で、総務省(ひいてはMVNO各社)からの突き上げや不満を回避するという意味合いが大きかったものと思われます。

Y!mobileがどんなに料金をさげてもMVNO陣営から何も言われないのは、何度も繰り返すようにソフトバンクグループのサブブランドMNOであるからです。MNOであれば通信回線の卸売といった仕組みを利用する必要がなく、単純にMNOとしての料金施策やブランド戦略の一環でしかないからです。

最高品質のサービスと端末と回線を提供するソフトバンクに対し、Y!mobileがMNOとして最低限の回線品質と端末ラインナップと料金プランで攻めているように、KDDIでは高品質ブランドがau、最低限の品質と料金のブランドがUQ mobileとなるのです。

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UQ mobileの回線品質と料金プランは、筆者のようにあまりモバイル通信を利用しない人にとっては十分すぎる


この経営統合はモバイル通信業界に何をもたらすでしょうか。

まず1つに、MNOによる経済圏集中が激化することです。ソフトバンクグループは2020年10月を目処にヤフーとLINEを経営統合すると発表していますが、これはソフトバンクグループの経営資源を集中させ、PayPayなどを中心とした巨大経済圏を確立するための動きでした。

同様に、KDDIも同社のau WALLETポイントとロイヤリティ マーケティングが運営する共通ポイント「Pontaポイント」を2020年5月に統合しており、このPotaポイントをauやUQ mobileでの利用に絡めていきたい狙いです。

ポイント経済圏はそれだけでは動きません。元々経済圏に強みがあった楽天モバイルがMNOに参入したように、経済圏を動かすための「エンジン」としての通信事業が必要なのです。

KDDIが言う「グループ経営資源の集約による競争力の強化」とは、まさにこれを指しています。

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UQ mobileの経営統合でグループ連携を強化し、Pontaの統合でグループ外からの顧客獲得を狙う。非常に明快な経済圏戦略だ


そしてもう1つが独禁法対策と料金プランのシンプル化です。前述したようにUQ mobileは不当廉売の可能性を指摘され続けてきた経緯があり、これまでは「そういった事実はない」と突っぱねるばかりで料金施策などを改善する様子はありませんでした。

しかしUQ mobileがMVNOでなくなれば、どこからも文句を言われなくなります。また、UQ mobileを名実ともに低価格ブランドとして堂々と売り込めるようになることで、auの料金施策をさらにシンプル化し、ハイブランドの通信キャリアとして分かりやすい戦略を取れるようになります。

業界に詳しい人々からも「auの料金プランは複雑すぎて分からない」、「注釈販売(細かな条件を大量に付けて値引きを行う販売)をやめろ」と言われるほどに、auの料金プランは評判がよくありませんでした。

その複雑怪奇な料金プランを、UQ mobileの経営統合によってシンプル化できる可能性があるのです。事実、auは2020年6月1日で4G LTE向けの5つの料金プランの受付を終了し、3つの料金プランへ集約させます。

料金体系を大容量・高価格な定額制の2プランと段階従量制の1プランにまとめることで分かりづらさを解消する目的ですが、これらのプランでカバーできない「さらに低料金を望むユーザー」や、「ほとんどモバイル通信を利用しないユーザー」の受け皿としてUQ mobileが使われることになります。

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6月1日で受付が終了する4G LTE向けプラン一覧。今までは自分がどのプランを使うべきなのか、全く判断できないほどに複雑だった


■「格安サブブランド」としての再出発
UQ mobileの経営統合は、MVNO業界にとっても小さくないインパクトになります。名実ともにMVNOではなくなるため、これまでY!mobileと併せて「格安キャリア」などと曖昧に区分していたものが「格安サブブランド」として明確にカテゴリー分けされ、MVNOはそれよりも確実に安価な料金プランを見せなければ勝てない時代になるからです。

しかし、ただでさえ赤字経営が圧倒的に多いMVNOにとって、これ以上の単純な低価格戦略は非常に難しい状況です。そのため、最大通信速度を抑えることで料金を下げたり、SNSなどの特定のサービスでのデータ通信量を料金に含めない「カウントフリー」を導入するなど、さまざまに「お得感」を出す方向での戦略が、今まで以上に求められることになるでしょう。

モバイル通信業界は2019年から2020年前半にかけて、総務省による値下げ圧力と電気通信事業法の一部改正によって大きく揺れ動きましたが、2020年後半も、まだまだ大変革と波乱がありそうです。

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2020年後半は、UQ mobileとauのブランド変化に注目したい




記事執筆:秋吉 健


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