Android端末の品揃えが一番広いドコモ。それだけに「断片化」も… |
「『素』のAndroidがいい」――文脈は様々ですが、よく聞く言葉です。
しかし、自分がこの言葉を聞く度にすごく疑問が湧くのです。そもそも、「素」のAndroidって何だろう、と。そんなのあるのかよ、と。
今回は、そんな疑問から、これまた時々聞くAndroidの「断片化」問題と併せて、あれこれ考えていこうと思います。
■同じOSのはずなのに、全然違うUI
Androidスマートフォン・タブレットは、OS自体はGoogle(Open Handset Alliance)が提供するものを共通して利用しています。OSの構造(ソース)は公開されていて、誰でも搭載端末を開発可能、ということが特徴です。
しかしながら、それが、今回話題にするAndroidの「断片化」のひとつの要素を形成しているのです。
上に、いくつかのAndroid 4.0(開発コード名:Ice Cream Sandwich;ICS)を搭載するスマートフォンのスクリーンショットを掲載してみました。仕事柄、色々な端末を使用することが多いのですが、メーカーごとにユーザーインターフェイス(UI)が違っていて戸惑うことが意外と多いのです。
仕事で色々触っている自分がそう感じる、ということは、「スマートフォンが流行っていて買おうと思っているんだけどー」という方はもっと戸惑うんじゃないでしょうか。「標準」Webブラウザーに関しては、見た目だけでなく、機能面でも違いがありますし、もうありとあらゆる面で違いがあって、本当に困ってしまうかもしれません。
「『素』のUI」というものをどこに求めるかという問題がありますが、仮にAndroid SDK(ソフトウェア開発キット)やGALAXY Nexusあたりのものを素であると定義すると、国内メーカーよりも海外メーカーの方が寧ろUIでは「素」から遠い傾向にあります。
特に、HTCは「UIいじり」ぶりが結構ダントツで、ありとあらゆるところが「素」ではありません。人によってはゴテゴテしすぎていて何だかなぁ、と思ってしまうかもしれません。
UI面でAndroidの「素」が好みなのであれば、国内メーカーが作るAndroid端末の方がベターだ、とも言えるかもしれません。唯一の例外はシャープです。シャープは国内メーカーとしてはかなりいじりまくる会社なので……。
UIの差異、というのは別にソフトウェアに限ったことではなく、ハードウェア面でも見受けられます。これもGALAXY Nexusを「素」であると考えると、音量ボタンと電源ボタンは、しっかりボタンとして配置し、戻るキー、ホームキー、アプリ履歴キーをディスプレイに表示することが「素」ですが、戻るキー、ホームキー、アプリ履歴キーをハードウェアとして搭載したり(HTC)、アプリ履歴キーの代わりにAndroid 2.3までは「素」であったメニューキーを搭載したり(サムスン、LG、富士通など)と、やはりばらつきがあります。
キーをハードウェアとして設置するにしても、タッチセンサーにするか、しっかりとした「ボタン」にするか、という差異もありますし、配列の差もありますし……。上の写真の通り、同じメーカーでも端末の登場時期によってキー配列が変わってしまうことすらあります。
良く見れば、このように色々「違い」が出るのがAndroidの魅力ですが、悪く言えば、メーカー、あるいは登場時期によって操作が変わったりして落ち着いて使えない、という風にも言える訳です。これが嫌だからiOS(iPhoneやiPad)を使う、っていう人も居なくはないですしね。
■ハードウェアのカスタマイズは日本メーカーだけ?
「素」のAndroid議論の延長線上でこれまた良く聞かれるのは「日本メーカーのAndroid端末はあちこちカスタマイズしているから不安定だし、OSのアップデートも遅い」という意見。確かに日本メーカーのAndroidスマートフォンは、フィーチャーフォンの機能をスマートフォンでも使えるように、というアプローチで開発してきたために、特に初期段階では動作の不安定さやOSのアップグレードの提供が困難になったり、ということもありました。
一方、海外メーカーのAndroidスマートフォンも、本当に海外で売られているものと全く同じものを売っている、というケースはほとんどありません。例えば、Motorolaは、グローバルモデルである「RAZR M」に対して、NFCの代わりにおサイフケータイ(モバイルFeliCa)を搭載して「RAZR M 201M」としてリリースしました。しかも、海外には無い、専用筐体を持つホワイトまで用意しました。
LG電子は、自社のフラグシップスマートフォン「Optimus G」を日本に「Optimus G L-01E」や「Optimus G LGL21」として投入する際に、これまた専用筐体・部品を用意して防水に対応した上で、バッテリーの脱着も可能にしました。L-01E、LGL21ともにおサイフケータイを搭載していますし(LGL21はNFCも搭載)、L-01Eではモバキャス(NOTTV)チューナーまで搭載しています。
ここまでカスタマイズすることを「余計なこと」と言う人もいるのですが、ここでまた疑問が湧きます。何故、「余計なこと」をしてまで日本市場向け製品を作るんだろうか、ということと、海外向けの商品では、このようなハードウェアの変更を伴うような「カスタマイズ」を一切していないのか、ということです。
前者については、もちろん、キャリアからの要望もありますが、そうしないと「手にとってもらえない」という市場環境にある、ということが最大の原因です。仕事で海外メーカーの方と色々話しをする機会も多いのですが、どのメーカーも口を揃えて「日本のお客様に『これが無いと選択肢から除外する』という機能を尋ねるとダントツで『おサイフケータイ』を挙げる」と言うのです。ワンセグや赤外線通信ではなく、おサイフケータイなのです。
国内メーカーのAndroidスマホが出てきてから、おサイフケータイが搭載されていない海外メーカーのAndroidスマホが売れ行きの面で苦戦する、というケースも確かに出てきていました。国内での販売競争力を付けるためには、せめて「おサイフケータイ」を、というのは海外メーカーの共通の意見。だからこそ搭載するようになったのです。利用率の問題ではないようです。
後者については、結構やっているメーカーもあります。サムスン電子の「GALAXY S III」に関しては日本向けだけで3種類、海外も含めるとかなりのハードウェアバリエーションがあります。また、LG電子は先ほど挙げたとおり、基本設計まで特定国に特化するカスタマイズを日本に限らず結構やっています。
規模がある程度大きくなれば、仕向け地固有のニーズに積極的に取り組む必要も出てくる、ということです。「海外仕様が欲しいなぁ」と言っても、「海外仕様」が無数にある、という感じで、日本向けもそのバリエーションのうち、ということですね。
こうやって、実は海外メーカーの中でも端末仕様の「断片化」が起こっているんです……。
とは言え、日本メーカーとは違い、スケールが大きくある中で作られたスタンダードをもとにして日本仕様を作る、という感じなので不具合や動作の不安定さはより少なくなる傾向にあるのですが。(その代わり、海外向け端末で発生したソフトウェア不具合が、日本向けでもそのまま発生する、っていう可能性は高まるんですけど……。それにプラスして日本仕様固有の不具合も、っていうこともありますが。)
ハードウェアに関しては、「素」と全く同じ、というのは海外メーカーでも求められないですね、どう考えても……。
■解像度の断片化も?
あと、これは「素」の議論ではありませんが、Androidでは、画面解像度の「断片化」も問題です。上に挙げたのは、手持ちの富士通製端末3台のホーム画面です。
一番左側は、Android 4.0にバージョンアップした「ARROWS X LTE F-05D」で、720×1280ドットあります。真ん中は、「REGZA Phone T-02D」で、540×960ドットあります。同じ16:9という画面アスペクトではありますが、解像度が異なります。一番右は「ARROWS V F-04E」の画面で、F-05Dと同じ720×1280ドットではありますが、システムキーを画面上に配したため、720×1184ドットが実質的な表示領域となります。
この違いが何をもたらすか、というとアプリの表示の「断片化」です。解像度や表示領域の違いを全て想定してアプリを開発すると、手間がかなりかかってしまうのです。
ある程度、画面アスペクト・解像度・表示領域は揃えられる傾向にあるのではありますが、iOS機器と比べるとバリエーションはありますし、そもそもハードウェアやキーなどにも差異があるので、「断片化」が結構ある、という状況は変わりません。一部のiOS開発者がよりユーザーを見込めるはずのAndroidアプリ開発に消極的な理由のひとつが、このような解像度面での「断片化」だったりするようなので……。
こうして考えてみると、選択肢が多いことは楽しいけれど、罪なことも少なくないんだな、と痛感します。使い勝手を競い合える、ということでもあるんですけれど、そのせいでプラットフォームとしての整合性がパソコンのWindows以上に取れていない、っていうことが操作面、そして開発面ではマイナスにになるのかなー、と。
皆さんも、色々なメーカーの色々なAndroid端末に可能な限り、長い時間触れてみて下さい。意外と問題って根深いんだなー、と感じると思いますよ……。
■関連リンク
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Androidスマートフォン・タブレットは、OS自体はGoogle(Open Handset Alliance)が提供するものを共通して利用しています。OSの構造(ソース)は公開されていて、誰でも搭載端末を開発可能、ということが特徴です。
しかしながら、それが、今回話題にするAndroidの「断片化」のひとつの要素を形成しているのです。
上に、いくつかのAndroid 4.0(開発コード名:Ice Cream Sandwich;ICS)を搭載するスマートフォンのスクリーンショットを掲載してみました。仕事柄、色々な端末を使用することが多いのですが、メーカーごとにユーザーインターフェイス(UI)が違っていて戸惑うことが意外と多いのです。
仕事で色々触っている自分がそう感じる、ということは、「スマートフォンが流行っていて買おうと思っているんだけどー」という方はもっと戸惑うんじゃないでしょうか。「標準」Webブラウザーに関しては、見た目だけでなく、機能面でも違いがありますし、もうありとあらゆる面で違いがあって、本当に困ってしまうかもしれません。
「『素』のUI」というものをどこに求めるかという問題がありますが、仮にAndroid SDK(ソフトウェア開発キット)やGALAXY Nexusあたりのものを素であると定義すると、国内メーカーよりも海外メーカーの方が寧ろUIでは「素」から遠い傾向にあります。
特に、HTCは「UIいじり」ぶりが結構ダントツで、ありとあらゆるところが「素」ではありません。人によってはゴテゴテしすぎていて何だかなぁ、と思ってしまうかもしれません。
UI面でAndroidの「素」が好みなのであれば、国内メーカーが作るAndroid端末の方がベターだ、とも言えるかもしれません。唯一の例外はシャープです。シャープは国内メーカーとしてはかなりいじりまくる会社なので……。
UIの差異、というのは別にソフトウェアに限ったことではなく、ハードウェア面でも見受けられます。これもGALAXY Nexusを「素」であると考えると、音量ボタンと電源ボタンは、しっかりボタンとして配置し、戻るキー、ホームキー、アプリ履歴キーをディスプレイに表示することが「素」ですが、戻るキー、ホームキー、アプリ履歴キーをハードウェアとして搭載したり(HTC)、アプリ履歴キーの代わりにAndroid 2.3までは「素」であったメニューキーを搭載したり(サムスン、LG、富士通など)と、やはりばらつきがあります。
キーをハードウェアとして設置するにしても、タッチセンサーにするか、しっかりとした「ボタン」にするか、という差異もありますし、配列の差もありますし……。上の写真の通り、同じメーカーでも端末の登場時期によってキー配列が変わってしまうことすらあります。
良く見れば、このように色々「違い」が出るのがAndroidの魅力ですが、悪く言えば、メーカー、あるいは登場時期によって操作が変わったりして落ち着いて使えない、という風にも言える訳です。これが嫌だからiOS(iPhoneやiPad)を使う、っていう人も居なくはないですしね。
■ハードウェアのカスタマイズは日本メーカーだけ?
「素」のAndroid議論の延長線上でこれまた良く聞かれるのは「日本メーカーのAndroid端末はあちこちカスタマイズしているから不安定だし、OSのアップデートも遅い」という意見。確かに日本メーカーのAndroidスマートフォンは、フィーチャーフォンの機能をスマートフォンでも使えるように、というアプローチで開発してきたために、特に初期段階では動作の不安定さやOSのアップグレードの提供が困難になったり、ということもありました。
一方、海外メーカーのAndroidスマートフォンも、本当に海外で売られているものと全く同じものを売っている、というケースはほとんどありません。例えば、Motorolaは、グローバルモデルである「RAZR M」に対して、NFCの代わりにおサイフケータイ(モバイルFeliCa)を搭載して「RAZR M 201M」としてリリースしました。しかも、海外には無い、専用筐体を持つホワイトまで用意しました。
LG電子は、自社のフラグシップスマートフォン「Optimus G」を日本に「Optimus G L-01E」や「Optimus G LGL21」として投入する際に、これまた専用筐体・部品を用意して防水に対応した上で、バッテリーの脱着も可能にしました。L-01E、LGL21ともにおサイフケータイを搭載していますし(LGL21はNFCも搭載)、L-01Eではモバキャス(NOTTV)チューナーまで搭載しています。
ここまでカスタマイズすることを「余計なこと」と言う人もいるのですが、ここでまた疑問が湧きます。何故、「余計なこと」をしてまで日本市場向け製品を作るんだろうか、ということと、海外向けの商品では、このようなハードウェアの変更を伴うような「カスタマイズ」を一切していないのか、ということです。
前者については、もちろん、キャリアからの要望もありますが、そうしないと「手にとってもらえない」という市場環境にある、ということが最大の原因です。仕事で海外メーカーの方と色々話しをする機会も多いのですが、どのメーカーも口を揃えて「日本のお客様に『これが無いと選択肢から除外する』という機能を尋ねるとダントツで『おサイフケータイ』を挙げる」と言うのです。ワンセグや赤外線通信ではなく、おサイフケータイなのです。
国内メーカーのAndroidスマホが出てきてから、おサイフケータイが搭載されていない海外メーカーのAndroidスマホが売れ行きの面で苦戦する、というケースも確かに出てきていました。国内での販売競争力を付けるためには、せめて「おサイフケータイ」を、というのは海外メーカーの共通の意見。だからこそ搭載するようになったのです。利用率の問題ではないようです。
後者については、結構やっているメーカーもあります。サムスン電子の「GALAXY S III」に関しては日本向けだけで3種類、海外も含めるとかなりのハードウェアバリエーションがあります。また、LG電子は先ほど挙げたとおり、基本設計まで特定国に特化するカスタマイズを日本に限らず結構やっています。
規模がある程度大きくなれば、仕向け地固有のニーズに積極的に取り組む必要も出てくる、ということです。「海外仕様が欲しいなぁ」と言っても、「海外仕様」が無数にある、という感じで、日本向けもそのバリエーションのうち、ということですね。
こうやって、実は海外メーカーの中でも端末仕様の「断片化」が起こっているんです……。
とは言え、日本メーカーとは違い、スケールが大きくある中で作られたスタンダードをもとにして日本仕様を作る、という感じなので不具合や動作の不安定さはより少なくなる傾向にあるのですが。(その代わり、海外向け端末で発生したソフトウェア不具合が、日本向けでもそのまま発生する、っていう可能性は高まるんですけど……。それにプラスして日本仕様固有の不具合も、っていうこともありますが。)
ハードウェアに関しては、「素」と全く同じ、というのは海外メーカーでも求められないですね、どう考えても……。
■解像度の断片化も?
あと、これは「素」の議論ではありませんが、Androidでは、画面解像度の「断片化」も問題です。上に挙げたのは、手持ちの富士通製端末3台のホーム画面です。
一番左側は、Android 4.0にバージョンアップした「ARROWS X LTE F-05D」で、720×1280ドットあります。真ん中は、「REGZA Phone T-02D」で、540×960ドットあります。同じ16:9という画面アスペクトではありますが、解像度が異なります。一番右は「ARROWS V F-04E」の画面で、F-05Dと同じ720×1280ドットではありますが、システムキーを画面上に配したため、720×1184ドットが実質的な表示領域となります。
この違いが何をもたらすか、というとアプリの表示の「断片化」です。解像度や表示領域の違いを全て想定してアプリを開発すると、手間がかなりかかってしまうのです。
ある程度、画面アスペクト・解像度・表示領域は揃えられる傾向にあるのではありますが、iOS機器と比べるとバリエーションはありますし、そもそもハードウェアやキーなどにも差異があるので、「断片化」が結構ある、という状況は変わりません。一部のiOS開発者がよりユーザーを見込めるはずのAndroidアプリ開発に消極的な理由のひとつが、このような解像度面での「断片化」だったりするようなので……。
こうして考えてみると、選択肢が多いことは楽しいけれど、罪なことも少なくないんだな、と痛感します。使い勝手を競い合える、ということでもあるんですけれど、そのせいでプラットフォームとしての整合性がパソコンのWindows以上に取れていない、っていうことが操作面、そして開発面ではマイナスにになるのかなー、と。
皆さんも、色々なメーカーの色々なAndroid端末に可能な限り、長い時間触れてみて下さい。意外と問題って根深いんだなー、と感じると思いますよ……。
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