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EXILEもヒューマンセントリックなARROWSにメロメロ?

「ARROWS(アローズ)」と言えば、富士通および富士通モバイルコミュニケーションズのスマートフォン・タブレット端末のブランドですが、皆さんはどのような印象をお持ちでしょうか?

昨冬の「ARROWS Z ISW11F」、今夏の「ARROWS X F-10D」や「ARROWS Z ISW13F」では発熱によって一部機能に制限がかかりやすいことが話題になりました。また、「ARROWS X LTE F-05D」では熱は前三者ほど問題視されなかったものの、電池消費が非常に速いことが問題視されました。

ARROWSのサブブランドとして扱われている「REGZA Phone」でも、「REGZA Phone T-01D」で発売初日に通話関連の不具合が見つかり販売一時見合わせになったり、その前の「REGZA Phone IS04」も不具合が少なからずあったりしました。

おかげで、REGZA Phone、そしてARROWSに「アアアッ」という不名誉なネットスラングが付けられてしまったのも有名な話です。(詳しくは「アアアッ」でググってみてください)

その一方、ARROWSシリーズのハイスペックモデルは、国内メーカーのスマートフォンとしては、非常に良く売れている部類に入ります。筆者の職場でも、F-05D、F-10Dユーザーは結構いたりします。特に自分が勧めた訳でもないのに……。やはり、海外勢含めても、トップクラスの「全部入り」であることが、購入動機に少なからず入っているようです。

そうした背景から“売れてしまっている地雷”と化している感もあるARROWSシリーズ。今冬、ドコモからは計3機種投入されます。富士通は、今までの機種のことを“反省”せずに、今売れているハイスペック路線をただただ踏襲し突っ走るだけなのでしょうか?

20日、富士通主催で今冬のドコモ向け新商品説明会を開催されました。そこで見聞きしたことと、「ARROWSコレクター」とか「富士通信者」とか巷で呼ばれている筆者の考えを交えて、ARROWSの今後についてちょっと考えてみようと思います。縦長な記事ですが、是非おつきあいください。

■キーデバイスである「通信チップ」供給不足への対処
今夏のスマートフォンでのトピックといえば、全世界的にクアルコム製のチップセット「Snapdragon S4」が品不足になったことです。ドコモでは、一気に「Xi(クロッシィ)」に対応するスマホのラインナップを増やしましたが、Snapdragon S4を採用する一部メーカー・機種において、出荷遅れや発売延期に陥ったことは記憶に新しいです。


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富士通主導の合弁会社、アクセスネットワークテクノロジの坂田社長

そんな中、国内メーカーが作るドコモ向けXiスマホの中で、事実上唯一、影響を受けなかった機種があります。それは「ARROWS X F-10D」でした。実はF-10Dは今夏モデルで唯一、“クアルコム製ではない”LTE通信チップを使っていたのです。その名は「SAKURA(サクラ)」。

ドコモ・富士通・NEC・パナソニックが共同で開発した“日の丸チップ”です。このサクラチップは、スマートフォンでは、昨冬モデルである「ARROWS X LTE F-05D」で初採用となり、今冬モデルである「ARROWS V F-04E」でも採用されています。

サクラチップ採用スマホは、個人的な実感でしかありませんが、クアルコム製チップセットを使った機種よりも通信に安定性があり、以前のコラムでも指摘した“LTEになかなか切り替わらない病”もほぼ起こりません。

ただし、3G(W-CDMA)/2G(GSM)通信に関しては別途通信チップを搭載する必要があり、更にアプリケーションプロセッサ(パソコンでいうCPUに相当する部分)も別チップで搭載しなくてはならないため、全部ワンチップ化したものも用意されているSnapdragonシリーズと比較して電力消費面や基板への実装面で不利な面もあります。


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SAKURAの後継は「COSMOS(コスモス)」!

それでも、今夏の件でも明らかな通り、クアルコムだけがLTE通信チップを供給する状況では、クアルコムに何かあった時に端末供給に影響が出る上、1社の事実上独占も市場的に好ましくありません。

そこで、富士通は、サクラチップの後継LTE通信チップ「COSMOS(コスモス)」、そして更なる後継通信チップを開発すべく、NEC、ドコモ、そして自社の半導体子会社である富士通セミコンダクタと組んで「アクセスネットワークテクノロジ」(ANT)という新会社を設立しました。

コスモスチップは、サクラチップと比較して、2方式のLTE(FD-LTEとTD-LTE)両方に対応した上で、3G/2Gの通信機能を内包しつつ、省電力化・小型化を実現しています。未だにアプリケーションプロセッサは別途搭載する必要がありますが、ANTとしてはアプリケーションプロセッサを自由に組み合わせられることを強みとして訴えていくようです。

極端な話、コスモスチップに、通信機能のないSnapdragonシリーズのプロセッサを組み合わせる、ということもアリなのです。将来的には、アプリケーションプロセッサ内蔵モデルも考えてはいるようですが……。


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コスモスが初めて咲き誇るのは「ARROWS Tab F-05E」。

このコスモスチップ、初採用商品は富士通のタブレット、「ARROWS Tab F-05E」となります。アプリケーションプロセッサとしては、NVIDIA社のTegra 3(最大1.7GHz駆動)を組み合わせます。

スマートフォンに搭載されるのは来年以降となるそうですが、今後の焦点は、富士通以外のメーカーが採用することがあるのか、そもそも国内のドコモ以外向けLTEスマホ・タブレットで採用されるか、そして海外メーカーも採用してくれるかどうか、という3点です。

1点目はNECがANTに出資している関係上、自社開発のタブレット端末、あるいは子会社のNECカシオモバイルコミュニケーションズが開発したスマホで採用される可能性がありますが、それ以上の広がりを求めるには、市場環境が難しいのかな、と思います。

2点目は、TD-LTEとほぼ互換性のある「AXGP」(Advanced XGP)を採用する「SoftBank 4G」を擁し、3Gではドコモと同様W-CDMA規格を採用しているソフトバンクモバイル向けスマホで採用の可能性がゼロでは無いはずですが、ANTの筆頭株主にして連結親会社たる富士通的にはドコモ向け以外は全てクアルコムの通信チップを利用しようと考えているようです。その点からすると、ドコモ向け以外での採用はやはり難しいのかな、と思う次第です。

3点目は、ANTの構想初期ではサムスン電子も参加予定だったものが、結局参加しなかったことを考えると、これまた厳しいのかな、と考えてしまいます。

このまま、事実上の富士通端末専用チップになってしまったら、非常にもったいないので、ANTの活躍に期待したいところです。


■「ハイスペック」推し?「ヒューマンセントリック」推し?
富士通は、パソコンや携帯電話などで「ヒューマンセントリックテクノロジー」という言葉を結構頻繁に使います。それは、その名の通り、「人間中心の技術」。人間の五感に優しい技術を搭載することを目指しています。今夏モデルからは、「ヒューマンセントリックエンジン」(HCE)と呼ばれる専用LSIまで搭載しているぐらいの気合いの入れようです。


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今冬モデルについて説明するモバイルフォン事業本部長の髙田執行役員

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「ヒューマンセントリックテクノロジー」で世界一使いやすい端末を目指す

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専用LSIも装備してます

今冬のスマホでは、画面の色味を年齢に最適化して表示する「あわせてビュー」、通話相手の音声も分析するようになった「スーパーはっきりボイス4」などを新規採用しています。また、「らくらくスマートフォン」由来の技術として、手や指が不意にかかってしまった際の誤作動を抑える「うっかりタッチサポート」も搭載されています。

更に、もはやお馴染みとなった「指紋センサー」や、(まだiモードケータイほどではありませんが)強力な「プライバシーモード」も忘れてはいけません。富士通の端末を買っているユーザーには、これらのような“富士通にしかない”機能を求めている人も少なくありません。

一方、富士通端末フリークのもう一つの集団としてハイスペックかつ何でも入った「ハイエンド端末」を求めるユーザーが居ます。特にFOMA 905iシリーズのころから、富士通のハイエンド端末は、他社を圧倒、までは行かないまでも、機能が満載でカタログスペック上は最強、という感じになりました。ここに惹かれて富士通端末を、という人たちです。

しかしながら、昨今のスマホブームにおいては、後者の「ハイエンド端末」は、海外メーカーのものが有力な候補として上げられるほどの製品力を身につけました。特に、ソフトウェア面の完成度に大きな差があったことから、多くのハイエンド端末好きユーザーが海外メーカーに流れたのも事実と言えるでしょう。

富士通もハイエンドスマホで対抗するようになりましたが、冒頭に書いた問題点によって、ユーザーだけでなく、実際のユーザーサポートを行うキャリアショップにも多大な“迷惑”をかけてしまっています。前者の“富士通にしかないもの”を求めるユーザー以外は、“矢”に射貫かれてケガなんてしたくないでしょうから、逃げて行ってしまっても仕方ありません。

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質疑応答時の様子

富士通としては、そのような状況で良いと思っているのでしょうか。今夏モデルの説明会でソフトウェア品質について質問した際は「品質基準を高めている」と答えました。確かに、F-10DやT-02Dを昨冬モデルと比較すると、ソフトウェアの動作・挙動面の問題はほとんど解決しています。今冬モデルはその上で、更なる改善を施しています。

課題になったことは、しっかり解決するべく動いている…、と思いきや、発熱問題はISW11Fで懲りたはずなのに、F-10DやISW13Fでも解消できていませんでした。チップ構成や筐体構造的に放熱に不利な面があるとは言え、ユーザー側にはそんなことは関係ないのです。

そこで、今回の説明会では、熱問題について質問してみました。今冬のF-04Eでは、筐体全体の熱設計を見直し、放熱素材を利用することで体感温度を下げるようにした、とのことです。確かにガンガン使っても、F-10D比ではかなり“ぬるく”なっています。ようやく実用的になったのかな、というところでしょうか。寧ろ、「何でさいしょからこうしなかった」状態です。実利用環境でも是非体感したいところです。

ただし、先ほども触れた通り、ハイエンド端末は、寧ろ海外メーカー製の方に人気が集まる構図になっています。そこで、これからは“富士通にしかない”ヒューマンセントリック技術を磨いて差別化を図っていくようです。これからARROWSは、ハイスペックからヒューマンセントリックに重きを移して人々のハートを“射貫いて”いくのかもしれません。


何だかんだ言われますが、国内メーカーのスマートフォンとしては“一番売れているブランド”であるARROWS。ユーザー、サポートの人、誰にでも受け入れられるような品質面での努力を惜しまないで欲しいです。スピードが速い今の時代だからこそ、妥協しない物作りをして欲しいです。



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