震災被害の大きかった釜石市でWi-Fi実証実験 |
9月1日は防災の日。東日本大震災からまだ約2年半しか経過していないこともあり、全国各地で緊張感のある防災訓練が行われたことと思います。
そんな中岩手県釜石市では、総務省や携帯電話会社各社をはじめとする通信会社などがメンバーとなり設立されている「無線LANビジネス推進連絡会」により、災害時を想定した実証実験が行われました。
現在、携帯電話会社各社がそれぞれ独自に行っている公衆無線LANサービス。普段は各携帯電話会社のユーザーしか利用できない設定となっていますが、今回、災害時専用の「統一SSID」(無線LANアクセスポイントの名前)を用意し、災害時は携帯会社各社のユーザーの垣根を越え、スマホ、タブレット、パソコンなどを使い、無料でインターネット接続ができるようにする実証実験が釜石駅前のシープラザ釜石ならびにローソン釜石駅前店で行われました。
KDDIが震災後立ち上げた「復興支援室」から釜石市役所へ出向している社員がいたこともあり、今回は、自治体である釜石市の全面協力で大規模な実証実験が実現しました。その模様をレポートします。
今回大規模な実証実験を受け入れた野田武則釜石市長は、1週間携帯電話がつながらず、衛星携帯電話を使ったもののそれもつながりづらかったとのこと。国や県とうまく連絡が取れず、救助活動や安否確認に時間がかかった経験を語り、「災害時安心できる街づくりのため」今回の実証実験を受け入れたとのことで、災害対応がよりスムーズになることに期待感を示していました。
総務省データ通信課河内達哉課長も、「無線LANをより身近に感じてもらうため、ビジネスにとどまらず災害時に機能するものに」と、今回の実証実験の意義を語りました。
◯シープラザ釜石での実証実験
今回の実証実験はまずシープラザ釜石にて行われました。釜石駅前に位置し、物産センター・土産物屋などのある建物ですが、東日本大震災3日後からは釜石市の災害対策本部となったそうです。
今回の実証実験は、携帯キャリア3社が提供する「docomo Wi-Fi」および「au Wi-Fi」、「ソフトバンクWi-Fiスポット」などの公衆無線LANサービスを災害時に無料開放し、どの携帯電話キャリアユーザーでも使える「JAPAN」というSSIDを割り振り(今回は仮の名前で、正式サービスの暁には名前が変わるかもしれません)、WEPキーなど面倒な設定なしに、スマホやタブレット、パソコンなどの無線LAN対応機器がインターネット接続できる環境を作り、許容度を調査するものです。
全てのアクセスポイントがSSID「JAPAN」を提供(右)
災害時には携帯電話キャリア3社(NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクモバイル)の公衆無線LANサービスアクセスポイントはすべてSSID「JAPAN」を提供し、WEPキーなど面倒なパスワード設定なしに、無線LAN機器をインターネットにつなぐことができます。
今回の実験では3社の公衆無線LANサービスアクセスポイントがSSID「JAPAN」を提供していましたが、実際の災害時には、どこかのキャリアのアクセスポイントが使えなくなることも十分考えられます。アクセスポイントが一つでも生きていれば、無料でのインターネット接続が可能になります。
なお、災害後どのタイミングで、どの程度の災害で無料のインターネット接続が利用可能になるか、などは今後実証実験を積み重ねた上でガイドラインを決めていきたいとのことです。
実際にシープラザ釜石を訪れた釜石市民向けに貸し出し用のスマホやタブレットが用意され、多くの市民が無料の公衆無線LANサービスによるインターネット接続を試していました。スマホ利用は初めてという野田市長も体験していました。
◯ローソン釜石駅前店での実証実験
ローソン釜石駅前店でも同様の実験が行われましたが、ここでは無料となった公衆無線LANサービスに接続すると、災害時向けのポータルサイトが現れ、災害時、災害用伝言板や各種被害情報、安否情報などにより簡単にアクセスしやすくする仕組みが用意され、使い勝手などをポータルサイトからアクセスできるアンケートサイトで調査する実証実験が行われました。
無料公衆無線LANサービスのSSID「JAPAN」に接続すると、上のような画面が表れ、利用規約に同意すると以下のような災害用ポータルサイトが表れます。
ポータルサイトでは各種災害情報や、災害用伝言板に簡単にアクセスすることができ、さまざまな情報を得ることができます。また、アンケートサイトが用意され、使い勝手や無線LANの利用状況などを調査できるようになっていました。ポータルサイトはシンプルなつくりで、さまざまな情報にアクセスしやすくつくられていました。
なお、この実証実験は宮城県仙台市でも同様に行われたとのことです。
◯今後の課題は?
今回の大規模実証実験は、無線LANビジネス推進連絡会が自治体を巻き込んで行いたいとのことで、自治体を探していたところ、東日本大震災後にKDDIが立ち上げた「復興支援室」から釜石市に出向し、釜石市総務企画部広聴広報課地域情報化担当職員職員として勤務していたが石黒智誠さんが仲立ちとなったそうです。
そして、釜石市を無線LANビジネス推進連絡会の特別会員に招き入れ、今回の大規模実証実験が実現したとのことです。その石黒さんは、今後の課題について「市民の無線LANへの認知度の低さ」を挙げていました。
当ブログメディア「[http://s-max.jp[S-MAX(エスマックス)]]」をご覧になっているみなさんの大半は、Wi-Fiで何ができるのかはすでにご存じの人ばかりかと思いますが、地方都市ではまだまだスマホやタブレットユーザー自体が少なく、そもそも無線LAN(Wi-Fi)でインターネットに接続することに敷居の高さを感じる人が多いのです。
こうした無料の公衆無線LANサービス開放が多くの都市で実現できる仕組みを急いで固めることも大事ですが、この仕組みが実現することで、さまざまな情報を災害時にも得やすくなるのだ、ということを、普段スマホやタブレット、パソコンで無線LANを使っていない市民にも認識してもらうことは、今後このサービスの普及に向けて大きな課題となることでしょう。
より多くの人に公衆無線LANサービス無料開放の有益性を知ってもらい、一日も早く公衆無線LANサービス無料開放が全国の都市で実用化されることを願っています。今回の実証実験がその第一歩になることを期待したいと思います。
記事執筆:こば(小林健志)
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