LINE Corp.(以下、LINE)は5日、同社が運営する「LINEアカウントメディアプラットフォーム」のサービス開始後1年間の実績および今後の展開に関する記者説明会を開催しました。LINEアカウントメディアプラットフォームとは参画メディアがLINEの公式アカウントを開設し、フォローしたユーザーに対して媒体独自の視点で編成・編集されたニュースや情報をダイジェスト形式で配信することができるニュースプラットフォームで、サービス運用が2015年12月1日に開始されています。
これまでオンラインニュースメディアと言えば、Yahoo! JAPANやLINEが運営するlivedoorといった「ポータルサイト」型が中心であり、ユーザーはポータルサイトをブックマークしたり、検索することで情報を手に入れてきました。しかし、スマートフォン(スマホ)とSNSが情報コミュニケーションの中心となった今、これらの「PULL(プル)」型のニュースソースではなく、媒体側から自動的にニュースが送られてくる「PUSH(プッシュ)」型のニュースソースが主流になりつつあります。
LINEアカウントメディアプラットフォームもまたそういったプッシュ型のニュースメディアをめざした取り組みであり、現在は「LINE NEWS」としてLINEアプリの利用者に広く利用されるようになりました。本記事ではこのLINE NEWSの1年間の取り組みの成果や同時に発表された「LINE MEDIA AWARD 2016」の表彰式の模様などをお伝えしつつ、昨今話題となっている「キュレーションメディア」の先駆けともなった「NAVERまとめ」の現状と今後について、同社の発表内容を交えて解説したいと思います。
■ユーザー囲い込みの成功ポイントは「パーソナライズ」
発表会では上級執行役員でメディア担当を務める島村武志氏が登壇、LINEアカウントメディアプラットフォームのこれまでの実績とその理念(スタンス)について語りました。冒頭では同社が今年、5年計画のスローガンとして捧げた「CLOSING THE DISTACE」の文字を再びスライドに映し出し、人とサービス、そしてそれぞれの企業の距離を縮めていくという流れを語り、同プラットフォームがその主軸である点を強調しました。
LINE NEWSとしての実績ではニュースのパーソナライズとユーザークラスタの概念による個別配信によって媒体(ニュースソース)側がニュースを必要としている人へピンポイントに情報を届けられる仕組みが確立された点を挙げ、媒体アカウントによるプッシュ配信がユーザーの囲い込みに一定の成功を収めているとしました。
またこれにより「媒体力」の維持が可能となったことでメディア運営に必要な収益性の確保にも目処が付いたとし、2017年内にもエンゲージメントランクによる変動報酬制の導入を行うと明言しました。
■2017年の課題は媒体の収益力向上
今後のサービス拡充施策では、数記事をパックにして「号」単位で課金して購読する有料記事「Premium Article」を2017年1月より導入すると発表しました。課金方法にはLINEの仮想通貨「LINEコイン」が利用されます。またPremium Article導入の第1弾として週刊文春の参画が決定しています。
媒体の収益力強化の施策としては、LINEトークを通じて配信されるダイジェストニュース内に各メディアの特性やユーザー属性にマッチしたネイティブアド(広告)「DIGEST Spot」が2016年11月より既に導入されているほか、前述したエンゲージメントランクの導入を2017年3月より予定しているとしました。
エンゲージメントランクの決定にはユーザーアクティビティー(回遊率やクリック率などの能動的アクション)を指標化しメディアジャンル別にユーザー満足度の順位付けを行ったものが用いられ、その順位に応じて広告の収益分配比率を50:50から最大80:20まで変動させるというものです。
各メディアが開設する公式アカウントのホーム画面である「Media Top」も充実を図り、即時性や鮮度が求められるプッシュ型配信のニュース以外にもユーザーの任意でアーカイブ化されたニュースを閲覧できるようにする
発表会後半ではLINE NEWSの1年間を振り返り、大きな話題を提供した媒体や注目を集めた媒体などを表彰する「LINE MEDIA AWARD 2016」の表彰式が行われ、地方紙部門、女性部門、総合ニュース部門、カルチャー専門部門、スポーツ部門、ビジネス部門、エンタメ部門、そしてLINE特別賞の8つの部門の表彰が行われました。表彰された媒体は以下の通りです。
- ・地方紙部門……山梨日日新聞
・女性部門……RoomClip mag
・総合ニュース部門……朝日新聞デジタル
・カルチャー専門部門……枚方つーしん
・スポーツ部門……GDOゴルフニュース
・ビジネス部門……アスキー
・エンタメ部門……NEWSポストセブン
・LINE特別賞……西日本新聞
■情報の「真偽」に揺れるキュレーションメディア
今回の発表会で当初の予定よりも多くの時間が割かれたと思われるのが、NAVERまとめの今後の方針についての説明と質疑応答です。
奇しくも本発表会の数日前にDeNAが運営する医療情報サイト「welq(ウェルク)」が医療関係者による監修などを受けないままに事実と異なる情報や他サイトからの情報転用などを行っていた問題が発覚し、インターネット上における情報サイトの信用問題にまで発展した事案を受けた形での緊急の発表といった様相でした。
ウェルクのような複数の関連情報を取りまとめたニュースサイトを「キュレーションサイト」などと呼びますが、こういったキュレーションサイトの“はしり”とも言えるのがLINEの運営する「NAVERまとめ」であり、同社はキュレーションという手法の持つ重要性や可能性について以前から重視する姿勢を取ってきました。
今回のDeNAの問題を受け、NAVERまとめとしても著作権の所在やその侵害についての対応の不明確さや執筆者の信頼性の問題、そしてまとめられたソース情報の作成者のメリットが希薄である点などを認識、今後改善していくとしました。
具体的には常時監視体制の構築による著作権保護の強化、権利許諾済みコンテンツの提供などを挙げていますが、インターネット全体の課題としてコンテンツの身元がわからない一次提供者の権利保護や還元があると述べ、インターネットにおける情報の著作権の取り扱いや責任の所在の特定の難しさを改めて露呈する発表とも取れました。
そこでLINEでは新方針としてまとめ作成者へのオーサーランクの適用を発表、LINE IDを用いた認証を行いまとめ作成者の経歴、背景、経験などを審査・承認し、ランクに応じてまとめ記事を上位掲載したりインセンティブレートを引き上げるなどの施策を行うとしています。
また一次情報者の権利保護の施策として情報がまとめられた際にインセンティブを還元するとし、具体的にはサイト/URL単位で一次コンテンツのオーサー登録を受け付け、審査・承認後にまとめとして利用できる範囲を任意に設定可能にするなどの方針を打ち出しました。これらの施策は2017年中の運用開始をめざすとしています。
■利益重視と健全性の狭間で問われるオンラインメディアの道義的責任
NAVERまとめのようなキュレーションメディアに限らず、すべての情報やニュースソースにはさまざまな権利が付随しており、それらが完全に守られる中で情報が発信されることが最も望ましい形です。しかし情報とはそもそもが形のない「概念」のような存在でもあり、インターネットのように「いつ、どこで、誰が発信したのか」を特定することが困難な場では、しばしばそれらの権利が蔑ろにされたまま情報のみが利用されている場合があります。
今回ウェルクが引き起こした問題はそういった諸現象の言わば氷山の一角であり、これまでにも同様の問題はあったにせよ顕在化しなかった背景には、情報の「商材」としての面を強調したサービスが少なかったことや、多少の情報の間違いなどは許容され利用するユーザーの側にその情報の真偽の責任を委ねるインターネット独特の状況や慣習があったと考えられます。
しかしウェルクの場合取り扱う情報が医療関連ということもあり、情報の誤りや曲解は人の健康や生命の損害に直接関わる可能性があった上に、DeNAが得意とするSEOを駆使しその誤った情報が常に検索上位に表示され、閲覧者に容易に誤解を与える状況にあったという点が大きな問題になった背景だと思われます。
またスマホの普及などによってインターネットが一般化し利用者が爆発的に増加したことによって、これまで暗黙のうちに許容されてきた「情報の真偽やその取り扱いの責任をユーザー側に委ねる」というスタイルが許容されなくなったという状況の変化もあるのかもしれません。
DeNAは7日に謝罪会見を開き該当サイトやキューレションプラットフォーム「DeNAパレット」の事実上の閉鎖を打ち出しましたが、騒動の火種は消える様子を見せません。むしろこれまでにも燻っていたキュレーションサイトの信頼性への不安や著作権関連の不信感などが一気に爆発する形となり、LINEとしても明確な法令遵守への施策と道義的責任の明示作業が必要であったのではないでしょうか。
LINEアカウントメディアプラットフォームがめざす先にあるのは、ユーザー1人1人にマッチした「CLOSING THE DISTACE」の体制と理念です。その実現には利益を追求する企業としての姿勢も重要ですが、何よりもコンテンツの正確性や運用の公平性、そして法令以前の道義的な責任の在り方が問われます。さまざまな情報を集約し分析しパーソナライズするという「キュレーション」の未来をLINEがどう描いていくのか。2017年はLINEにとっても波乱の中での新たな1年となりそうです。
記事執筆:あるかでぃあ
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