筆者が選ぶマイベスト・オブ・ザ・ガジェット2017はこれだ! |
みなさんこんにちは。今年物凄く中途半端なタイミングで唐突に執筆者名をこれまでのハンドルネーム「あるかでぃあ」から本名に切り替えた秋吉です。本名にした最大の理由は「なんとなく」なんですが。
そんな「なんとなく」毎日を生きている筆者ですが、振り返れば今年はあまりモバイル機器を購入することもなく、そんなんでモバイル系ライター名乗れんの?とダメ出しされそうな1年でした。
正直購入したものといえばスマートフォン(スマホ)では「iPhone 8」くらいしか思い出せません。あ、スマートスピーカー「Google Home Mini」も買いましたが、まだ箱も開けてません。やる気なしライターで本当にすみません。
そんな筆者ですが、今年は最後の最後に10年分くらい感動するモバイル機器を1つ購入しておりました(昨年もAirPodsの記事で10年来の衝撃だったとか書いたような気もしますが気にしないでください)。それがソニーのデジタルスチルカメラ「サイバーショット DSC-RX10M4」(以下、RX10M4)です。
本媒体でもいつレビューを書こうかとネタだけ温めていたのですが、今年のマイベスト・オブ・ザ・ガジェットとして紹介するのが適しているだろうと考えた次第です。
■「衝動買い」に相応しいカメラ
RX10M4は、見た目こそレンズ交換式デジタル一眼カメラのようなデザインをしていますが、実はレンズ交換の出来ない一体型カメラです。なので、ソニーでもレンズ交換式ブランドの「α(アルファ)」ではなくコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)ブランドである「サイバーショット」として発売しています。
そんな「サイバーショット」なのにデジタル一眼の風貌をしているのには理由があります。このカメラに搭載されたレンズはカールツァイス製の「バリオ・ゾナーT*(ティースター)」という高級レンズで、デジタル一眼用の交換レンズとしては常に上位を占める人気ブランドです。それだけのレンズで、しかも72mmという大口径は1インチという撮像素子には不釣り合いなほど大きなものです。
しかしその大口径レンズの表現力があまりにも圧倒的すぎたのです。筆者はこのカメラが発売されるまで全く興味がなく、発売の報を受けて「さて、どんな写真が撮れるのかな」と大手価格比較サイト「価格.com」の購入者レビューを見に行ったところ、そこに掲載されていたテスト撮影画像や比較写真に「……え?これこのカメラの写真なの?嘘でしょ?」と目を疑いました。そしてその衝撃のままに思わず衝動買いしてしまったのです。
その画質は周辺部まで見事に描写しており、画像が流れたりパープルフリンジが盛大に出るなどといった様子は一切ありません。またこのカメラは35mm換算で24mmから600mmまでズームする超高倍率仕様となっていますが、ワイド端からテレ端まで画像の歪みが非常に小さく、しかもテレ端でもF4.0という明るさを維持できるのです。
比較として、愛用のα77II+タムロン製高倍率レンズ「16-300mm F/3.5-6.3 Di II VC PZD MACRO」と撮り比べた画像を掲載します。
こういったデジタル一眼の画像の解像感の悪さや画像の歪みについてはレンズを高級な単焦点や倍率の小さなものに変えることで解決しますが、レンズ交換を面倒だと感じ高倍率レンズ1本で全てをまかないたい筆者としては、それだけの装備と手間をかけることに強い抵抗感があるのです。
ソニーの公式サイトでも「レンズ交換式カメラであれば通常3本以上の大口径交換レンズが必要」と書いているように、仮にこのレンズに相当する解像感や撮影可能距離をデジタル一眼用レンズで揃えた場合、40万円や50万円では済まない出費となるでしょう。
そもそも、カメラを趣味の対象ではなく仕事道具と割り切って使用している筆者にとって、高額すぎる設備投資は無駄でしかありません。如何に機動性良く取り回しがラクでローコストな機材を揃えるかというのは、フリーランスライターとして最重要とも言える課題なのです。
■RX10M4作例
作例などもいくつかご紹介しておきます。撮影は横浜市にあるよこはま動物園・ズーラシアにて行いました。超高倍率のズームレンズと秒間24コマという超高速撮影が売りの本機だけに、こういった動物の撮影こそが最も適したシーンだと言えます。
また本機はαシリーズではなくサイバーショットシリーズであるために、撮影設定などはデジタル一眼に迫る多機能性を確保しつつも電動ズームを取り入れることでレンズ側のズームリング以外にシャッターボタン周辺のズームレバーによる片手ズームも可能としました。これが筆者の使い方には最も適していたのです。
例えば展示会や発表会などの取材では片手に商品を持ちながら撮影することが多くありますが、その際に片手でズームできないと非常に不便なことになります。またワイド端ではレンズ前3cmから撮影が可能という高い接写性能も強みの1つで、被写体に大きく寄って撮影が可能なためズームレンズなのに単焦点のような撮影感覚を確保できています。
■動画撮影性能の高さが本機の真骨頂
そして本機の隠れた魅力とも言えるのが動画撮影機能の高さです。本機では4K動画撮影まで対応しており、連続動画撮影は「カメラ」としての製品区分から29分もしくはデータ容量4GBまでと制限されるものの、高いレンズ性能を活かした高品位な動画撮影が可能です。
以下にズーラシアでの動画撮影テストをいくつかご紹介します。全て「XAVC S HD:60p 50M(フルHD/60fps/最高品質)」での撮影です。
サイバーショット「RX10M4」動画撮影テスト:ミーアキャット
動画リンク:https://youtu.be/t2egxvPicz0
サイバーショット「RX10M4」撮影テスト:キリン
動画リンク:https://youtu.be/oBJP351FqeU
サイバーショット「RX10M4」動画撮影テスト:ヒガシクロサイ
動画リンク:https://youtu.be/mSSynGBiVbQ
サイバーショット「RX10M4」動画撮影テスト:オカピ
動画リンク:https://youtu.be/0A1-PqArJ08
これだけの映像を撮影可能で、しかも音声なども小さな音まで逃さずしっかりとステレオ録音されるため、別途ビデオ機材を持ち歩く理由も薄くなりました。難点があるとすれば望遠時に手ブレが大きくなることから、本格的にビデオ撮影するのであればスタビライザーや三脚・一脚などを使用したほうが良いということくらいでしょうか。
■デメリットはメリットでもある
ここまで絶賛するカメラであっても、欠点がないわけではありません。
例えば画質では、レンズ性能こそ飛び抜けたものを持っていますが所詮は1インチの撮像素子です。スマートフォン(スマホ)に搭載された極小の撮像素子と比べれば十分に大きな撮像素子ですが、APS-Cサイズやさらに巨大なフルサイズといった撮像素子にはノイズやラチチュードの広さで敵うはずもなく、暗部描写や暗い場所での画質ではやはり劣ってしまいます。
また撮像素子の小ささはボケ表現の乏しさに直結します。写真のボケとは撮像素子とレンズの大きさで決まるため、撮像素子が小さいカメラでは物理限界からボケ表現が浅くなります。
ただし、これはデメリットばかりではありません。筆者のように「接写ブツ撮り」がメインである場合、ボケ表現は逆に邪魔になる場合が多く、被写界深度を深く取りやすい小さめの撮像素子はむしろ好都合とも言えるのです。
例えば展示会場などでスマホなどを撮影する際、APS-Cやフルサイズの撮像素子のカメラではボケが強く出ないように大きく絞って撮影しますが、そうすると今度はシャッタースピードが稼げなくなり、暗い展示会場では手ブレの酷い写真になります。当然ながらそれを防ぐには大きな三脚を用いるか大きな明るい単焦点レンズに交換するしかないわけですが、それもまた大きなボケを生む原因となるために更に絞って撮影して、またシャッタースピードを落として……というジレンマに陥ります。
つまり初めから撮像素子の小さいカメラのほうが圧倒的に有利なのです。この点においても、一般的なカメラファンや写真家が求めるカメラ性能とは違い、筆者に適したカメラであったということです。
■ソニーが次代を本気で考えたオールインワンカメラ
以上の特徴などから、本機の立ち位置やこれを必要とする層が見えてくるように思います。いわゆる「趣味のカメラ」として考えた場合撮像素子の素性や品質に限界があり、もっと良い品質のカメラが選べる以上このカメラを強く推奨することは出来ませんが、同時にこのカメラで撮れる写真と同等をレンズ交換式カメラに求めると、途端にカメラ本体とレンズ一式で50万円を超える出費を覚悟しなければならなくなります。
つまり、非常にハイレベルな画質で接写から望遠までオールマイティに使える万能カメラとして捉えると、これが市価で20万円以下(12月25日現在で16万円台)で購入できるということ自体が奇跡のようなカメラなのです。
それこそ筆者がこれまで愛用してきたα77IIと高倍率ズームレンズをセットで購入すると、現在の市価で丁度RX10M4と同程度の価格となりますが、もはや画質では圧倒的にRX10M4に負けています。レンズを強化しようにもGレンズやカールツァイスといった高級レンズは全てフルサイズ用となるため、高価な上に巨大でAPS-Cのカメラに用いるメリットがありません。それならばカメラ本体もフルサイズにしたほうが良い、ということになってしまいます。
画質で負け、サイズでも装備重量でも価格でも負け、更に動画撮影性能では太刀打ちすら出来ないAPS-Cタイプのレンズ交換式カメラに存在意義があるのだろうかと本気で悩んだほどです。逆に言えば、ここ数年のソニーがミラーレスではないαシリーズのAマウント規格を見限り、ミラーレスのフルサイズ一眼(Eマウント機種)のみに注力する戦略を取っているように思われるのも理解できるところです。
つまりRX10M4とは、趣味やプロ仕様のカメラは全て最高品質のフルサイズ機に集約し、それ以外はサイバーショットシリーズで十分である、というソニーの回答なのだと強く感じるのです。
デジタルカメラがスマホのカメラ機能に市場を奪われ縮小の一途を辿る中で、ソニーが見せた渾身の一台は、スマホとは別に持ち歩きたいと感じさせるのに十分なインパクトのあるオールインワンカメラでした。この機種が発売されたと言うだけでも2017年のデジタルカメラ市場には大きな意味があったとすら感じるほどです。
1年を振り返ってみれば、これまで何もかもを取り込み多機能化してきたスマホの進化が一段落し、逆にそこで培った音声認識機能を利用したスマートスピーカー市場がにわかに形成されブームとなるなど、これまでスマホに集約されつつあった各種機能が更に高度化し次なるステップへと分化し始めた1年にも感じられました。RX10M4もまた、カメラへの原点回帰ではなくそういった「分化による進化」の1つなのかもしれません。
2018年は果たしてどんな分化が始まるんでしょうか。その市場の形成と新たな製品の誕生を、このRX10M4と共に追いかけていきたいと思います。
記事執筆:秋吉 健
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