大阪北部地震における通信会社各社の対応状況などを検証してみた! |
日曜日の余韻を引きずりつつ人々が重い足取りで職場や学校へ向かっていた6月18日月曜日の午前7時58分頃、それは起こりました。大阪府北部を震源とした地震(以下、大阪北部地震)は最大震度6弱を記録し、4日経ったこの記事を執筆している22日現在もまだ混乱は続いています。
数人の犠牲者も出たため、大きな被害もなく……とは言い切れないのがとてもつらいところではありますが、都市部での災害としてはライフラインの寸断も復旧が早く(未だガスなどは一部で復旧していませんが)比較的被害が軽度であったことは不幸中の幸いと言えます。万全ではなかったとは言え、阪神淡路大震災や東日本大震災に学んだ経験が生きた結果かもしれません。
このような都市型自然災害で最も恐ろしいのは交通網の麻痺と前述のようなライフラインの寸断です。ビルや家屋の倒壊を免れたとしても交通機関が麻痺し通信手段さえも途絶してしまった場合、人ができる行動は著しく制限されます。「情報がない」というだけで人々がどれだけの混乱や不安に陥るのかは東日本大震災を経験した人々であれば痛感していることでしょう。
今回の大阪北部地震あたり、通信各社はどのように動き通信インフラの維持と混乱の抑制に努めたのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回は大阪北部地震への対応を中心に巨大自然災害への通信各社の対策やこれからの災害対策についてご紹介します。
■地震発生時のMNO各社の動き
まずは大阪北部地震発生当日の移動体通信事業者(MNO)各社の動きを追ってみましょう。NTTドコモでは地震発生時点で大阪府、京都府、兵庫県の一部で基地局に影響が発生。また大阪府内の一部で通信が集中し繋がりにくい状況が発生し局地的・限定的に通信規制が敷かれました。また災害発生時点からドコモショップ店頭での充電サービスが順次開始されました。
KDDI(au)では地震発生時点での大きな基地局障害は認められなかったものの、一部で通話が繋がりにくい状況が発生。固定回線でも06番への繋がりにくい状況を確認。通信規制などはとくに行わず、災害時充電サービスなどは状況を見て対応とのことでした。
ソフトバンクでは地震発生時点での大きな基地局障害などは認められず、地震発生直後に一部地域で通信規制を行ったものの10時前には全て解除されています。ソフトバンクショップなどでの災害時充電サービスなどは状況を見て対応とのことでした。
地震発生時点ではMNO各社で若干の混乱や災害対策措置が取られたものの、当日午後(遅くとも13時前)には全ての通信インフラが通常状態に復旧しています。地震自体が断層型で局地的であったことが幸いしたようです。
またMNO各社は18日午後より大阪府内全域において各社の公衆無線LANサービスを無料開放する措置を取っています。これらの災害対策措置についての各社の対応状況の詳細などは以下のリンクよりご確認ください。
ドコモからのお知らせ : 平成30年大阪府北部を震源とする地震に係る災害救助法適用地域のお客さまに対する支援措置 | お知らせ | NTTドコモ
平成30年大阪府北部を震源とする地震にかかる支援について (更新) | 2018年 | KDDI株式会社
(更新)平成30年大阪府北部を震源とする地震に伴う支援措置について | ソフトバンク株式会社 | グループ企業 | 企業・IR | ソフトバンクグループ
■インフラ企業としての使命を全うするMNO
MNOによる通信インフラの維持は最重要であり、災害発生時の復旧や緊急措置としての仮設基地局の配備などを如何に迅速に行うのかというのが各社の大きな課題や取り組みとなっています。
例えばNTTドコモでは同社の通信インフラ全てを制御するネットワークオペレーションセンター(NOC)を東京と大阪の2箇所に置き、万が一どちらかのNOCが災害によって機能不全に陥ったとしてももう一方のNOCによって管理・制御が可能となるようにシステム全体の冗長性を持たせています。
またMNO各社では移動基地局や簡易基地局設備を常に保持しており、災害発生時に基地局が故障した場合や通信網が寸断した場合への対策を行っています。具体的には移動基地局車両や移動基地局船舶、車両やヘリなどで運べる可搬式の簡易基地局などがあり、交通網が途絶した孤立地域であっても通信設備を搬送できる体制も整えています。
そして現在これらの災害対策として有望視されているのがドローン型基地局です。遠隔地から直接基地局機能を持ったドローンを飛ばすことも可能ですが、ヘリなどで現地へドローン基地局を運搬し、ケーブル接続などによって給電しながら避難場所の上空に飛ばすことで地上に置かれた可搬式移動基地局や移動基地局車両よりもより広いエリアをカバーでき、さらにドローンにカメラなどを備えることで災害状況などの確認にも活用できます。
ドローン基地局(中継基地局)についてはドローンの運用についての法的な制限もあり現在はまだ実証実験段階ですが、今後法整備が行われ技術的な安全確認などが取れれば実用化はそれほど遠いものではないでしょう。
■できることが限られるMVNOの災害対応
MNO各社が災害時の通信インフラの維持へ全力を注ぐ中、仮想移動体通信事業者(MVNO)ではどのような対策が取られていたのでしょうか。
MVNOの場合、インフラ設備の多くをMNOに依存しているため災害時にできる対応には限りがあります。MVNO各社に共通した災害対策としてはNTT東日本とNTT西日本が提供する「災害用伝言ダイヤル(171)」および「災害用伝言板(web171)」の利用が推奨されたほか、上記のMNO各社が開放していた公衆無線LANサービスも利用できます。
MVNO独自のサービスとしては、ケイ・オプティコムが運営する「mineo」(マイネオ)ではユーザー同士で通信パケット量を融通し合う「フリータンク」システムを利用した「災害支援タンク」が災害救助法適用地域向けに開放されています。mineoの災害支援タンク実施についてはこちらを参照ください。
関西地域を中心にシェアを持つmineoにとって今回の地震の影響は大きいだろう
またインターネットイニシアティブ(IIJ)が運営する「IIJmio」では災害救助法適用地域を対象として6月分のバンドルクーポン(通信パケット量)を2GB付与する施策を行っています。IIJmioの災害支援策についてはこちらをご参照ください。
MVNO最大手のIIJmioであってもキャリア単体で行える災害対策や支援策にはこのように限りがあるのが現実です。MNOの対策規模と比較すればその差は圧倒的ですが、逆に言えばこういった災害対策や支援にコストを掛けていないからこそ平常時に数百円台からの低価格プランを売り出せるというのも事実です。
しかし災害対策が弱いとは言え災害時に全く通信できなくなるわけではありません。今回の大阪北部地震でもMVNOに限って電話がつながらなかったり通信が使えなくなるといった状況はなく、全てMNOの回線状態に依存した状況となっていました。MNO回線を借り受けて運営を行うMVNOは、良くも悪くも回線の卸元となるMNO次第という事業構造が災害時のネックだというのが正しい認識でしょう。
ただしMVNOはその仕組み上災害時に限らず回線が混雑しやすいサービスでもあるため過信はできません。MVNOに限った話ではありませんが、災害発生時には極力無駄な通信や通話を避け、回線の余裕の確保を心がけたいところです。
■平常時から「もしも」の対応策を考えておこう
かつて東日本大震災の際、通信インフラは壊滅的な被害を負い、地震発生時点でMNO各社合わせて約2万9000もの通信基地局が機能を停止。その完全復旧には1ヶ月以上を要し、その間に真偽定からぬ情報が日本中を錯綜し大混乱を引き起こしました。
全ては人々の不安や恐怖、苛立ちなどが生み出した人的災害ですが、正しい情報の発信と情報網の確保はそういった「二次災害」を極力抑制するためにも必須のものだということを私たちに教えてくれました。
もし今回の大阪北部地震において通信網が寸断していたら、どれほどの混乱が起きていたか分かりません。普段人々が当たり前として利用している通信回線は、当たり前であるための日々の努力によって維持されているということを知っておくことはとても大切です。そして緊急時にどのような通信手段や連絡手段が利用できるのかを知っておくことも大切です。
地震に限らず台風や洪水、火災や土砂崩れなど自然災害は突然やってきます。身の回りの備えとともに、通信インフラの確保についても一度しっかりと見直しておきましょう。
記事執筆:秋吉 健
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