オンラインゲームをWi-Fi接続で遊ぶための知識や注意点をまとめてみた! |
本コラムでは何度但し書きしたか覚えていませんが、筆者は無類のゲーム好きです。いわゆるゲームオタクの範疇を超え、コアゲーマーやゲーム廃人と揶揄される類の好事家ですが、そんな筆者が巷でまことしやかに話される内容で、いつも気になって口を挟みたくなるものがあるのです。
「オンラインゲームするのにWi-Fiはないわ」
「Wi-Fiの奴はネトゲすんな」
……そう、オンラインゲームを遊ぶ際にWi-Fiルーター(無線LANルーター)などを使って遊ぶことへの偏見です。何を隠そう筆者のPCゲーム環境は光回線にWi-Fi接続です。ゲーム廃人がそんな環境でいいのか!と怒鳴られそうですが、いえいえ、イイんです。ちゃんと正しい知識と環境を整えておけば、Wi-Fi接続であってもオンラインゲームは他人に迷惑を掛けることなく十分に楽しめるのです。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はWi-Fiやモバイル回線といった無線接続でゲームを遊ぶ際の注意点やWi-Fiルーターの選択ポイント、覚えておくべきことなどをご紹介します。
■ゲームに必要なのは通信速度よりも「応答速度」
まず、意外と知られていないのが通信回線の「応答速度」(ping)です。通信における応答速度というのは、その名の通り「通信相手が応答してくるまでの時間」であり、こちらがデータを送信(応答を要求)してその返答が帰ってくるまでにどれだけ時間が掛かったかを指します。
例えばNTTドコモやSoftBankなどが通信サービスを売り出す際には、「ドコモなら受信時最大988Mbps/送信時最大75Mbps!」といったように通信速度の最大値(理論値)を謳っている場合がほとんどで、その応答速度については記載すらない場合がほとんどです。
LTE回線の応答速度は実測で約50ms(ミリ秒、1ミリ秒は1000分の1秒)程度で、混雑時間帯などでは150ms前後まで遅くなることがあります。これが光回線では1~5ms程度と非常に速く、これらのことから「家庭用やPC用のオンラインゲームはモバイル回線で遊ぶな」と言われてしまうのです。
ちなみに対戦格闘ゲームなどでよく使われる「1フレーム」とは60分の1秒のことで、約16.7msを指します。つまり16ms以下であれば回線環境での遅延では1フレーム以内に収まっていると考えて問題なく、LTE回線のように応答速度で50ms掛かっている場合、その遅延は3フレームにもなるということなのです(実際にはゲーム機やサーバー側の処理性能、さらに物理的な通信距離も遅延に含まれてくるため入力ラグはもっと大きくなる)。
ここで気になるのはWi-Fi接続時の応答速度です。本当にWi-Fi接続による応答速度は遅いのでしょうか。試しにWindows標準のコマンドプロンプトを用いて応答速度を計測してみました。計測に用いたのは筆者が普段遊んでいる「ファイナルファンタジーXIV」のサーバーです。実際に普段から遊んでいるサーバとの応答速度なので、いわゆる通信速度テスト用のサーバよりも確実な数字が出せます。
応答速度を測るには「ping」コマンドでサーバーのIPアドレスを指定する
前述の通り筆者の通信環境は光回線(FTTH)からのWi-Fiルーター経由でPCをつないでいますが、その平均応答速度は5ms。遅くても6msですので十分な速度が確保できています。パケットロスもなく安定した環境と言って良いでしょう。一応スピードテストサイトによるテスト結果も乗せておきます。
有線接続よりは1~2ms程度遅くなるかもしれませんが、Wi-Fi接続だからといって極端に遅くなるというものではないのです。
またオンラインゲームには通信速度そのものはあまり影響しません。というのも、オンラインゲームで通信されるデータ量は多くても200kbps程度。ほとんどのオンラインゲームの推奨通信速度が1Mbps程度であることを考えると、とても少ないデータ通信量だということが分かります。つまり、オンラインゲームを遊ぶ環境を考えるなら通信速度はほとんど気にしなくて良いのです。
■モバイルWi-Fiルーターはゲームに向かない
むしろ問題なのは、巷で「Wi-Fiは反応が遅い(遅延が大きい)」という風説を生んでしまった原因の1つにモバイルWi-Fiルーターがあるという点です。Wi-Fi接続そのものの応答速度が遅いのではなく、その先のモバイル回線(LTEやWiMAXなど)の応答速度が遅く、またモバイルWi-Fiルーターの処理性能そのものが低いためにさらに遅くなっているのです。
モバイルWi-Fiルーターは端末が安価な上にランニングコストも安く、手軽に高速通信回線を導入できることから1人ぐらしの学生や新社会人を中心に固定回線の代用として広く使われていますが、ことゲーム用途としては若干厳しいと言わざるを得ません。その応答速度は100ms以上になることも多く、LTEなどのモバイル回線に接続しているために常時接続回線としては通信が不安定で突然の切断や瞬間的な接続不良を起こしやすいのです。
スマホでの通話やモバイルWi-Fiルーターを用いたLINEやSkypeによる通話を思い出してみてください。突然相手の声が途切れたり、音質が酷く低下して聞き取りづらくなるのを経験した人は多くいるでしょう。あの状態でオンラインゲームを遊ぶのですから、想像しただけでも不安定なのは分かるかと思います。
また、同様の回線品質の悪さは当然ながらスマホによるテザリング通信でも起こります。原理としては同じものなので、応答速度の遅さ以上に通信が安定しないことによる遊びづらさのほうが、さまざまな問題を引き起こしているかもしれません。
今月19日にインターネット接続サービス「So-net(ソネット)」が、2018年の夏に実家に帰省した全国の20代~40代1,317名を対象として、帰省時の実家での過ごし方とインターネット環境についての調査報告を公開しましたが、その中で現在住んでいる家のネット回線契約状況について、スマホのみで済ませていると答えた人が10.6%、モバイル回線(モバイルWi-Fiルーター)を利用している人が15.2%となっており、実家暮らしではない人のうち、実に4人に1人以上がモバイル回線のみで済ませているという調査結果になりました。
ランニングコストや利用頻度、そして何より工事費用やその契約の手間などを考えるとこのような状況になるのも無理はないように思われます。それだけに、現在のオンライゲームに関連する通信環境は、モバイル回線が固定回線の代替システムとして広く普及する以前よりも劣化していると言えるかもしれません。
アパート暮らしなど、個人では固定回線を引きづらい環境も影響しているだろう
■購入するならIEEE 802.11ac対応モデルを!
また、固定回線からのWi-Fi接続であれば無条件に問題がない、というものでもありません。まず気にすべき点は5GHz帯の電波が利用できるルーターであるのかどうかです。Wi-FiにはIEEE 802.11bやIEEE 802.11g、IEEE 802.11n、IEEE 802.11acなどといった細かな通信規格(方式)の違いがあります。一般にWi-Fiが分かりづらいと言われてしまう理由の1つですが、オンラインゲームを遊ぶ上で重要なのは規格よりも周波数帯です。
Wi-Fiで利用している周波数帯には主に2.4GHz(ギガヘルツ)帯と5GHz帯という2つがありますが、この2.4GHz帯という周波数帯にはほかにもBluetoothなどの無線通信規格があり、電波干渉が起こって通信速度の低下や応答遅延および通信障害など、さまざまな問題を引き起こします。また家庭用電子レンジもこの2.4GHz帯の電波を利用しているため、電子レンジを使用した瞬間に通信が止まったり通信速度が著しく低下するという現象が起こります。
5GHz帯の電波を利用するIEEE 802.11ac規格に対応したWi-Fiルーターであればこの影響を受けないため、家庭用のWi-Fiルーターを購入する際は必ずIEEE 802.11ac規格を採用しているものを購入しましょう。なお、IEEE 802.11nでも5GHz帯は利用していますが2.4GHz帯も利用しているため、接続時に間違えやすいので設定に慣れている人以外にはオススメしません。
モバイルWi-Fiルーターも同様にIEEE 802.11acや5GHz帯のIEEE 802.11nに対応したものを推奨しますが、安い機種では対応していないものも多く、こういった製品を購入する層の大半がコストパフォーマンス重視であることからも、購入時の検討条件に入っていないことが多いのではないでしょうか。
モバイルWi-Fiルーターを自宅の固定回線代わりにも利用したいのであれば、ゲーム用途ではなくても通信の安定性やBluetoothスピーカーといったBluetooth機器との干渉を防ぐ意味でもIEEE 802.11ac対応のものを購入するほうが良いでしょう。
■Wi-Fiルーターを置く位置にも注意
Wi-Fiルーターを置く位置にも注意が必要です。鉄筋コンクリートの家屋や金属製の扉がある部屋では電波が遮断されやすく通信が安定しない場合があります。もし設置位置が悪いような場合は固定回線のモデムやONU(光回線の変換器)などから電波が届きやすい位置までLANケーブルで延長して配置するか、Wi-Fiの中継機を配置して対応すると良いでしょう。
木造家屋であっても1階にWi-Fiルーターを設置し3階などで利用する場合などは電波が弱くなり不安定になる場合があります。そういった場合にも2階の部屋などに中継機を設置して電波強度を保つようにすると快適に利用できます。
またWi-Fiルーターには電波を出力している方向(指向性)があります。家庭用の機種の多くは無指向性といってWi-Fiルーターから360度どの方向にも電波が届くような仕組みとなっていますが、上記のよう電波が届きにくい状況では指向性アンテナによって電波の出力範囲を集中させ、より遠くまで電波を届かせる方法もあります。
■少しの環境改善で快適なゲームライフを
現在の固定回線用Wi-Fiルーターは安価なものでも品質が安定しており、接続機器との相性問題や機器固有の接続不良などはあまり起こらなくなりました。IEEE 802.11bやIEEE 802.11gといった規格にしか対応していない古いWi-Fiルーターを使い続けているならともかく、ここ1~2年以内にIEEE 802.11ac対応のものに買い替えているならオンラインゲームを遊ぶ上では問題ない環境と言えます。
また筆者が過去に遭遇した状況としては、固定回線そのものが不安定でオンラインゲームをまともに遊べなくなったことがあります。これはプロバイダ側の問題で、結局回線契約ごとプロバイダを変更しました。
ゲームのためにそこまでやる人は稀だと思いますが、プロバイダの利用者が増加しAmazonビデオやNetflixなどのような動画配信サービスの利用にも影響が出るような回線速度の低下や輻輳(回線の混雑で通信が不安定になること)が発生することは珍しくなく、こういったプロバイダが原因による通信不良などのほうがWi-Fiルーターを起因とした通信不良よりも多いのではないかとすら感じるほどです。
「Wi-Fi奴はキックな」とオンラインゲーム上で直接暴言を吐かれるようなことはまずありませんが、それでもやはりオンラインゲームは他の人とのチームプレイやコミュニケーションによって成立するものです。いつも不安定な回線や遅延の酷い回線で遊んでいては周囲の人とのコミュニケーションにも壁ができてしまいます。
お互いに気持ちよく遊ぶためにも、古いWi-Fiルーターを買い替えたり、たとえモバイルWi-FiルーターであってもIEEE 802.11ac対応の機種に交換して電子レンジやBluetoothの電波干渉を防ぐなど、ちょっとした工夫をしてみると良いかもしれません。
記事執筆:秋吉 健
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