スマホの持ち歩き方について考えてみた!

先日、スマートフォン(スマホ)用のホルダーケースを購入しました。ベルトに提げる革製のホルスタータイプです。かつてフィーチャーフォン(従来型携帯電話)全盛の頃はさまざまな種類が存在したホルスタータイプのホルダーですが、最近はファッション的な古さからすっかりマイナーになり、オーダーメイドでもしないと気に入ったデザインのものが手に入りづらくなりました。

みなさんは普段、どのようにしてスマホを持ち歩いているでしょうか。女性ならカバンやポーチに入れて持ち歩くのが一般的だと思われますが、男性の場合はカジュアルな外出でカバンなどを持ち歩く人も少なく、特に上着を着ない夏場などはしまう場所に困ることが多くあります。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はスマホの持ち歩き方の実態から、人々がスマホに求めるサイズや機能性について考察します。

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今回購入したスマホホルダー。デザインと機能性で大変満足している


■数字が語る人々の生活スタイル with スマホ
はじめに、スマホの持ち歩き方についての調査データを見てみましょう。

MMD研究所が2020年2月に行った「2020年2月スマートフォン端末に関する意識調査」によると、「スマートフォンを外出時に入れている場所」の第1位は「カバンの中」が49.3%と非常に多く、次いで「パンツやスカートなど脇ポケット」が17.6%、その他の衣服ポケットが10%前後と続きます。

一見すると「みんなカバンに入れて持ち歩いているのか」と思ってしまいそうですが、衣服のポケットに入れている人の割合を合計すると48.9%となり、カバンに入れている人とほぼ同割合となります。

ネックストラップ利用者やその他の持ち歩き方の人は合計しても1.8%しかいないことを考慮すると、ほぼすべての人がカバンかポケットに入れて持ち歩いていることになります。

筆者のように、専用ホルスターケースをベルトに提げているような人は相当珍しい部類でしょう。

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数字は嘘をつかない。スマホホルダーの市場が縮小するのも頷ける


スマホの持ち歩き方を年代や性別ごとに見てみると、また面白い数字が現れてきます。

カバンにスマホを入れる人は女性が圧倒的に多く、しかも年代が上がるに連れてその割合は大きく増えていきます。50代以上の女性の場合、9割近くがカバンに入れているというのはなかなか見事な数字です。

男性でも面白い傾向があります。カバンにスマホを入れている人の割合は各年代であまり差がありませんが、ポケットにスマホを入れている人では、「パンツやスカートなど脇ポケット」に入れている人は若い世代ほど多く、「上着やシャツの胸ポケット」に入れている人は年齢の高い世代で顕著に多くなります。

これには、世代によって普段のファッションや生活習慣の違いが見えてきます。10代~30代は「若者」らしくラフにシャツを1枚羽織っただけのカジュアルスタイルを好みますが、40代あたりが境目で、50代にもなると落ち着いたジャケットスタイルで街を歩いている様子が伺えます。

当然ポケットの位置も服によって決まるため、上着を着ない若者は入れるポケットがパンツの横ポケットなどに限定されるというわけです。

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数字が物語る人々の生活スタイル


さらに、筆者的に面白いと感じた数字があります。それは「男性」の「40代~60代」の「その他」の数字が、誤差ではない程度に少し多めだという点です。

他の世代が0~0.5%とほぼゼロであるのに対し、男性の40代~60代は1.5~3.2%となっています。つまり、これが筆者のようにホルダーを提げている層だとも言えます。

実は、この世代にこういったファッションスタイルを好む人がいるのには理由があります。かつて携帯電話が普及するよりもさらに以前、仕事道具としてポケベルが普及した時期がありました。

この時、ポケベルを携帯するための道具としてベルトホルダーが流行したのです。そのため、携帯電話が普及した際にもベルトホルダーを根強く支持する層が形成され、それが今でもスマホホルダーに形を変えつつ愛用されているという流れです。

つまり、この世代にとっての「携帯端末を持ち歩く仕事スタイル」がベルトホルダーだとも言い換えられます。

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Amazon.co.jpなど検索すれば「これぞオジサンホルダー!」と言わんばかりのスマホホルダーがずらりと並ぶが、そこには歴史的背景があった


もう1つ、重要な数字があります。それは「ネックストラップなどを付けて首から下げている」人がすべての性別・世代で非常に少ない点です。この理由は、次の調査データなどから推測することができるでしょう。

「カバンに入れて持ち歩く際のスマートフォンの大きさ」の調査項目では、「ちょうどいい」と答えた人は72.1%で「大きすぎる」や「やや大きい」と答えた人が合計で24.4%あったのに対し、「洋服に入れて持ち歩く際のスマートフォンの大きさ」の調査項目では、「ちょうどいい」という答えは50%へと大きく減り、「大きすぎる」および「やや大きい」の合計は47.6%と、ほぼ拮抗するまでに膨れ上がります。

つまり、大画面化が進んだ現在のスマホは、ポケットに入れて持ち歩くには大きくなりすぎたのです。大画面化したスマホは当然重量も重くなります。現在主流のスマホは180~200g前後もあるものが多く、それを首から提げて持ち歩くのは無理があるのです。

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普通に考えて、6インチ以上の画面を持つ大型スマホをパンツのポケットに入れるのは厳しい


■大画面スマホへのニーズは「単なる欲張り」?
スマホの持ち歩き方以前に、人々が真に求めているスマホのサイズ自体が、実はそんなに大きくないのではないかと推察できるような数字もあります。

例えば「スマートフォンに求めるサイズ※性年代別」の調査項目を見てみると、「片手に収まる小型サイズが良い」と答えている人の割合が性別・年代を問わず多めで、とくに若い世代ほど大画面サイズよりも片手に収まるサイズへのニーズが高いことが分かります。

高い年齢層ほど大画面を望むのは、老眼などによる視力の衰えから画面が大きくないと使いづらいといった理由もあると思いますが、前述のように普段のファッションスタイルの違いから、若者の場合はポケットに入れやすい小型サイズが良いと感じているのかもしれません。

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消費者ニーズの反映としてスマホの大画面化が進んでいる中、小型が良いという意見が意外と多いことに驚かされる


「スマートフォンで不満に感じる点」の調査項目を見ても、「片手で操作ができない」、「大きくて使いづらい」、「重すぎる」と答えた人の割合は40%~60%とかなり多く、大画面化を望み続けた結果、使いづらいほどに大きくなってしまった現在のスマホの姿が見えてきます。

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大画面化は大正義だと思っていたが、意外にも不満を抱く人が多かった


カバンでスマホを持ち歩く傾向が高い女性であれば、大画面スマホへの不満は比較的少ないのでは?とも考えましたが、「スマートフォンに求めるサイズ※性年代別」を見てみると、むしろ女性の方が「片手に収まる小型サイズが良い」と答えている割合が多く、大画面スマホに不満が募っている様子が伺えます。

年代別での傾向で若い世代ほど小型スマホのニーズが高い点は、やはり服装や生活スタイルによるものでしょう。調査データを精査するほどに、それぞれの年代の人々がどのようにスマホを使い、持ち歩いているのかが見えてきます。

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持ちやすいはずの縦長スマホのニーズがあまり大きくない点にも注目


若干話が逸れますが、一方で脱大型スマホの筆頭とも呼べるAppleの「iPhone 12 mini」の販売不振は、至るところで小耳に挟むところでもあります。

海外ではiPhone需要の中でも5~6%程度しか売れていないという数字もあり、完全にマイナーニーズとなっていますが、日本国内でもあまり売れている様子はありません。

アンケート調査での「スマホが大きすぎる、重すぎる」という意見と、現実の販売実績や端末シェアとの乖離は、一体どうして生まれてしまうのでしょうか。

筆者の推論ではありますが、iPhone 12 miniの場合は価格が高すぎたのかもしれません。「小型の端末が欲しい」とは思っていても、通常版(iPhone 12)とほとんど変わらない価格であるなら、少しでも大きな画面のほうが見た目のインパクトは大きく魅力的に思えてきます。

案外人々は、自分が本当に求めているものや使いやすいと感じるものと、見た目の欲求とのズレや感覚の差に気が付かないものなのかもしれません。

「大画面スマホが魅力的に思えて購入してみたものの、実際に持ち歩いてみたら片手では持ちづらいしポケットにも入れづらくて困ってしまった」という経験をした人も少なくないのではないでしょうか。

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だから私は、iPhone 12 mini。大画面スマホは魅力的だが、それ以上に使いやすさと持ちやすさ、携帯のしやすさを優先した。それにiPhone 12 miniでも画面は5.4インチあり十分に大きい


■スマホの「あるべき場所」を探して
携帯が人々の生活必需品となり、その後スマホがその座について四半世紀ほど経ちました。変わり者で有名な筆者は相変わらずホルスター型スマホホルダーなどを使いつつも、あまりオジサン臭くならないようにデザインにもこだわって……と、ニッチな需要の製品を探し続けていたりします。

普段肌身離さず持ち歩いているはずなのに、その持ち歩き方で苦労する不思議なガジェットがスマホです。腕時計は腕に着けるもの、メガネは耳にかけるもの、そういった「確固とした道具のあるべき場所」がスマホにはないのです。

強いて言うなら「スマホは手に持つもの」となるのかもしれませんが、その手に持つことでさえ「持ちづらい」と言われてしまう代物です。そもそも、スマホを手に持っている間は他のことができません。

テクノロジーの進化と普及が、私たちの生活習慣や慣習を変えていく速さよりも速すぎたのかもしれません。便利だからなんとなく適当に持ち歩いている、そんな今のスマホの「あるべき場所」は、この先見つかるのでしょうか。

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筆者はその昔、全身にスマホやケータイをぶら提げiPhone専用のショルダーホルスターも愛用していた。若気の至り、というより狂気の極みである(懺悔)


記事執筆:秋吉 健


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