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ライブコマースの問題点について考えてみた! |
先日、いつものようにニュースサイトを巡り歩いていたところ、TBS NEWSにて中国のニュースが目に留まりました。内容はライブコマースの有名配信者が脱税で捕まったというものでした。
ライブコマースに関しては本連載コラムでも過去に取り上げたことがありますが、中国ではその後も非常に高い人気が続き、現在では1つの市場として成立するまでに成長しています。
このニュースの真偽はともかくとして、ことお金儲けには敏感な中国人だけにライブコマースが儲かると認知された以上、今後も大きく成長していく市場であることは間違いありません。
しかしながら、ライブコマース人気の広がりは脱税や詐欺といった犯罪以外にもいくつかの新たな問題を引き起こしつつあります。ライブコマースの何が問題で、どのような解決策があるのでしょうか。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はライブコマースが生み出す新たな問題について考察します。
■ライブコマースの普及によって浮き彫りになった問題点
はじめにライブコマースについてのおさらいや、以前本連載コラムで掲載した記事をご紹介しておきます。
ライブコマースに馴染みのない方もいるかと思いますが、中国で人気を爆発させたライブ配信による商品紹介コンテンツ(サービス)のことを指します。
いわゆるYouTuberのような配信者がライブ配信や動画配信によって商品を紹介しながら販売するというもので、日本で分かりやすい近似例は、YouTubeなどでの動画配信による商品レビューやテレビショッピングになるかと思います。
日本ではライブ配信を使ったライブコマースはこれまであまり流行りませんでしたが、一方で番組としての体裁を整えた編集動画による商品レビューが中心となり、数多くのYouTuberが企業案件や広告案件として商品やゲーム、サービスなどの紹介を行っています。
また、企業自身が独自にチャンネルを開設し、そこで自社商品を紹介したり、YouTuberと正規に契約を結んだ上で商品紹介専用のチャンネルを設けるようにもなりました。
【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:オンラインショッピングの助け舟!eコマース全盛の今だからこそ活用したい「ライブコマース」の利点・欠点を考える【コラム】
以前のコラムでは、そのデメリットについてライブコマースの認知度の低さ(≒宣伝力の低さ)や、商品紹介という販売者側の視点が強調されることによる商品評価の甘さなどを挙げました。
ところが、昨今ではこれに加えてもう1つ、「ライブ配信そのものが迷惑行為になる」という点が浮き彫りになりつつあります。
■同人界隈に煙たがられるライブコマース
ライブコマースという手法そのものが問題視されつつあるのは、同人イベント(同人誌即売会など)や展示会といったイベント会場でのライブ配信についてです。
コロナ禍の収束によって今年の冬は多くのイベントが復活し、とくに人が多く集まる音楽ライブや同人イベントを心待ちにしていた人々は胸を撫で下ろしながらイベントを楽しみにしているかと思います。
そんな久々のイベント会場において、これまでとは違った動きを見せていたのがライブコマースの存在でした。ライブコマースの配信者が各出展ブースに立ち寄り、思い思いにライブ配信を行いながら視聴者に商品(同人グッズ)を紹介したり、購入者を募って大量に購入するといった行為が行われたのです。
そもそも、同人イベントなどでの購入代行のようなものは、イベントの性質上歓迎されるものではなく、以前にも高校生によるコミックマーケット(コミケ)での購入代行をウェブサイトがビジネスとして紹介したことが問題視され、大きな炎上騒ぎになりました。
それだけにライブコマースが事実上の購入代行のような行為に及ぶことは、それだけでも問題であると考えられても仕方がないことです。
ライブコマースの場合は、さらに問題が複雑になります。
いわゆる購入代行や仕入れに近い大量購入からの転売が問題視されると同時に、ライブ配信のために出展ブースの前を長時間専有したり、他の購入者の邪魔となる行為が目立ち始めたのです。
このブース前を専有する問題に関しては、同人イベントだけではなく企業向けの展示会や商談会でも起こり得る問題です。企業の宣伝をしているのだからイイじゃないかと言われても、ブース前を長時間専有されては迷惑以外の何物でもありません。
そのため、イベント会場内でのライブコマースを制限したり禁止する同人イベントなども登場し始めています。
例えば、ものづくりのクリエイターが全国から集まる同人イベント「クリエイターズマーケット」では、11月26日に「ライブコマース禁止に関するご案内」として、ライブコマースを目的とした動画配信を禁止する告知を行いました。
イベントの趣旨や事務局側の指示に従わない場合は退場を勧告する場合もあるという厳しい措置ですが、それだけ出店者や来場者からクレームや対応を求める声が上がっていたという証拠でしょう。
こういった厳しい制限や禁止行為としてライブコマースが嫌われる要因の1つとなった背景には、やりすぎや行き過ぎた行為・行動というものがあったことは間違いありません。
実際に同人イベントへブース出展していた人の話では、ライブコマースを積極的に行っていた人々は中国系や韓国系の人々であったとの話を多く見かけます。
普段から声量の大きさや大胆な爆買いなど、日本人の感性とは一味違う独特な商習慣を持つ海外の人々による、語弊を恐れず書いてしまうなら「場を弁えない行動」が、イベント関係者や出店者の逆鱗に触れてしまったということなのかもしれません。
■新しいビジネスだからこそ新しいルールを
では、ライブコマースという手法そのものが悪いのでしょうか。筆者はそうは思いません。問題点は、イベント会場という本来別の目的が存在する場所でライブコマースを行うことです。
同人イベントには同人コミュニティとしての交流の場、展示会には企業の新製品を一般消費者へ披露する場、商談会には企業同士の商談の場という本来の目的があります。
しかしながら、そこにライブコマースの配信者が割り込み長時間居座った挙げ句、商品やイベント限定グッズをごっそりと買い占め・持ち帰ってしまったのでは、イベントへ出展した本来の目的を果たせません。
例えるなら、店舗の商品棚の前で突然商品紹介と購入代行の募集を長時間行うようなものです。そのような行為が迷惑がられないわけがないのです。
ライブコマースといっても、そういった迷惑行為に当たるようなものばかりではありません。ブーム発祥の地である中国ではライブコマース専用の貸しスペースや貸し会議室の利用が人気になりつつあります。
他者に迷惑がかからないように配慮した上で行われる分には、ライブコマースは商品の認知度向上やファン層の獲得など、メリットも多いビジネスなのです。
ほかにも、ライブコマースはある意味転売の温床にもなっているため、家庭用ゲーム機やおもちゃ関連の転売問題が深刻化している日本では、ライブコマースという手法自体が嫌われているという指摘もあります。
このあたりの温度差は、国ごとの文化や商習慣の違いによるものと言えます。
いわゆる企業案件として正規に契約し専用スタジオを使って配信しているテレビショッピングのようなものも、イベント会場での迷惑なゲリラライブ的なものも、すべてをライブコマースという範疇で括ってしまっているのも問題かもしれません。
新しいビジネススタイルであるだけに言葉の定義が曖昧で、しかも人によってその解釈が異なることが問題を大きくしているようにも思えます。
ライブコマースという名目であれば転売を許容するのか、商品を大量に売りたい一心でそれ以外の消費者の邪魔をして良いのか。議論の焦点は尽きません。
ライブコマースはビジネスモデルとしても大きな可能性を秘めているジャンルです。それだけに、早急なルール作りや人々の迷惑とならない正しい使い方の徹底が必要であるとも強く感じます。
記事執筆:秋吉 健
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