スマホに置き換えられたデジタルなモノやコトについて考えてみた!

今年5月、個人的に少々ショックなニュースがありました。オーディオ・音響機器メーカーのオンキヨーホームエンターテイメント(以下、オンキヨー)が自己破産申請をしたというものです。オンキヨーの業績や財務状況が相当厳しいという話は数年前から知っていたため、「ついにこの日が来たか」と、強い寂寥感や無力感を覚えました。

オンキヨー破産の原因は当然ながらオーディオ機器が売れなくなったことですが、その最大の要因となったのがスマートフォン(スマホ)とオンラインサービスの台頭であったことは疑う余地もないでしょう。サブスクリプションによる音楽のストリーミング配信サービスが主流化し、人々は高価な音響機器を揃えることなく音楽を手軽に楽しむようになったからです。

スマホによって消えたものや消え行くものは音響機器のみではありません。人はスマホで何を失い、何を手に入れ、何が変わったのでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はスマホによって淘汰・代替されていったモノやサービスから、デジタル関連のものをピックアップして考察します。

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時代が変われば、道具も変わる


■携帯電話・PHS
はじめにこのガジェットを持ってくるのはどうなのか?という声も聞こえてきそうですが、個人的に「今後一般的には無くなっていくだろう」と強く感じているのは携帯電話(フィーチャーフォン)およびPHSです。

総務省が2021年に公開した「令和3年 情報通信白書」によると、日本におけるスマホの保有率は2020年で69.3%、携帯電話およびPHSの保有率は21.8%です。この比率は年々スマホが上昇しており、その流れに淀みはありません。

むしろ、個人的には「まだ20%以上も携帯電話利用者がいたんだな」という印象すら覚えましたが、シニア層や法人需要などを加味すれば何ら不思議ではなく、一般的な日常用途に限定するなら、スマホの比率はもっと高くなることが予想されます。

PHSなどはすでに個人向けの公衆サービスが2023年3月に終了することが決定しており、これは「消え行くモノ」というよりも「消えるモノ」と断定するしかないモノでもあります。


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これほどのパラダイムシフトが起こると、15年前に予想した人がいるだろうか


■音響機器・CD
冒頭で紹介した音響機器についても、もう少し詳しく触れておく必要があるでしょう。

オーディオ業界、という大きな括りで言えば、実は業界として大きく成長を続けています。衰退の一途を辿っているのは、いわゆる「ピュアオーディオ」などと呼ばれる高級な家庭用音響機器の分野と、CDを再生するためのコンポーネントステレオ(ミニコンポなど)やCDラジカセといった個人用の機器です。

オンキヨーはまさにこのピュアオーディオやミニコンポを主軸として展開していた企業であったため、時代の変化の煽りを正面から受けてしまったのです。

人々はストリーミング配信される音楽をスマホと完全ワイヤレスイヤホン(TWS)によって楽しむようになり、それ以外の機器や媒体、コンテンツサービスが大きく後退しました。

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今CDを購入している人はどのくらいいるのだろうか


例えばソニーの「ウォークマン」に代表されるようなデジタルオーディオプレイヤー(DAP)もまた、機能そのものがスマホに統合され衰退していくジャンルの1つです。

何度も引き合いに出しては申し訳ない気もしますが、オンキヨーもDAPを兼ねたピュアオーディオ路線のスマホ「GRANBEAT DP-CMX1」を2017年に発売しています。

しかしながら、このスマホが人々の心をつかんだ記憶はなく、音楽性能に特化させて成功することの難しさを痛切に感じます。

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ハイレゾ音源を高級ヘッドホンで……という需要はあまりにもニッチ過ぎた


■デジタルカメラ
今やスマホの機能と言えば真っ先に挙がるのがカメラでしょう。スマホメーカー各社もカメラ機能の強化こそが至上命題であると言わんばかりにその強化に取り組んでおり、本連載コラムでも先日取り上げたばかりです。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:ペリスコープ方式ってなんだ!?スマホカメラの次の進化をカメラユニットやニーズから考える【コラム】

かつては「スマホのカメラでは手ブレ補正までは搭載できないだろう」、「さすがに3倍以上のズームレンズは搭載が難しいだろう」などと言われた時代もありましたが、手ぶれ補正機能は早々に搭載され、3倍以上の光学ズームも各社が実装し、超高画素の撮像素子(CMOS)やデジタルズームも組み合わせることで100倍ズームといった異次元の性能も手に入れました。

AIを用いた画像加工技術の高性能化も相まって、ボケの表現や色調補正、果ては撮影された画像から不要なものを取り除く加工まで手元で簡単に行える時代になったのです。

今やデジタルカメラと言えばレンズ交換式の一眼カメラ(デジタル一眼、デジタルミラーレス一眼など)が最後の砦であり、手頃なコンパクトデジタルカメラ市場はスマホによって完全に駆逐されたと言っても過言ではありません。

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現在個人でデジタルカメラを愛用している人は、余程のカメラ好きか仕事用として所有している筆者のような人くらいだろう


■電卓・電子手帳(PDA)
電卓は法人需要で絶対に消えることはないと思いますが、個人で購入する人はあまり多くないのではないでしょうか。

電子手帳(PDA含む)の場合は少々事情が異なります。そもそもスマホの進化の歴史を辿ればPDAやそれ以前の電子手帳に行き着くため、置き換わったり代替されたというよりもスマホへ進化した、と言うべきでしょう。

1990年前後、まだ世の中にほとんど携帯電話が存在せずポケベルが大ブームとなっていた時代、高校生だった筆者はカシオやシャープの電子手帳を愛用していました。

そこからPalmやWindows CEといったモバイルOSを搭載したPDAに進化し、モバイル通信機能を標準搭載したキーボード搭載のスマートフォンへと進化し、そして現在のiPhoneタイプのスマホへと進化したのです。

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筆者が愛用していたシャープの電子手帳「電子システム手帳 PA-7000


■テレビ・ラジオ
テレビやラジオはまだまだ衰退していないだろう、と思われる方も多いと思いますが、1人ぐらしの学生や社会人であっても、テレビを自宅に持っていないという人は意外と多いようです。

また、自宅にテレビがある人でも「テレビを観ない(15分以上連続して観ることがない)」という人はさらに増えます。

NHKが2021年5月に公開した「2020年 国民生活時間調査」によると、テレビ視聴は2015年と比較して10代~50代で大きく下落しており、特に20代以下は50%前後にまで落ち込んでいます。

つまり若年層の半数がすでにテレビを観なくなっているのです。

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衝撃的でありつつ、一方で必然すら感じられる数字だ


インターネット利用との比率を見ても、30代を境に利用状況が見事に逆転しています。未来を担う若年層のテレビ離れは決定的で、インフラとしての役割や公共性、さらに世界的な業界規模から鑑みてテレビ自体が無くなることはなくとも、現在のラジオ程度の存在になる可能性は十分にあります。

そもそも、人々はテレビという箱が好きなわけではありません(中にはそういう珍しい人もいるかもしれないが)。そこで放送されているドラマやアニメ、映画、ニュース、そしてスポーツなどの番組(コンテンツ)が好きだから観るのです。

そういったドラマやアニメ、映画などは、今やオンラインサービスでいくらでも視聴が可能です。しかも時間や場所にとらわれることなく何度でも再生や見直しが可能です。最近では若者を中心に、倍速視聴で時短するといった視聴スタイルすら定着しつつあります。

そしてそれらを手軽にしたのがスマホです。スマホの大画面化と映像コンテンツサービスの充実の間には、間違いなく因果関係の一端があるでしょう。

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若者はテレビを必要としていない。少なくともテレビという箱に興味はない


ラジオの場合、スマホ以前にテレビによってその役割の多くを代替されていましたが、ラジオパーソナリティのトークを楽しんだり音楽を楽しむといった「残された用途」においても、音楽のストリーミング配信やradikoや音泉といったインターネットラジオによって代替されつつあります。

かつては携帯電話やスマホにテレビ視聴機能やラジオ機能があることがメリットとされた時代もありましたが、それももはや過去の話です。フルセグ・ワンセグはもちろん、FMラジオ機能すら現在主流のスマホには存在しません。

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ラジオはネットで聴く時代になった


■パソコン
パソコン(PC)もまた、需要こそ絶対に無くならないもののスマホによってその多くの機能と需要が代替されていったものの代表です。

かつて自宅外でインターネットを楽しむにはノートPCと通信モジュールが必須の時代がありましたが、それらはスマホによって置き換えられました。

今でもノートPCを持ち歩く人は多くいますが、その用途は仕事や大学生の論文作成など非常に限定的です。個人で私用として持ち出す人は稀でしょう。

自宅用として購入したPCですら、ホコリを被ったまま放置している人は少なくないのではないでしょうか。特に日本ではWindows 95ブームの頃より何十年も個人利用が定着・一般化しなかった経緯もあり、置き換えられたというよりも「はじめてインターネットが身近になったのがスマホだった」という人すらいるほどです。

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モバイルノートPCにPHSモジュール挿してネットサーフィンをしていた時代があった


■腕時計
腕時計というと、先日も本連載コラムでウェアラブルデバイスのコラムを執筆した際に引き合いに出していますが、現実として腕時計という機器と文化を衰退させたものは、ウェアラブルデバイスではなくスマホでしょう。

「スマホがあるのにどうして腕時計がいるの?」とは、腕時計をしない人の定型文のようなものです。現在の腕時計は単なるファッションの1つであり、ネックレスやブレスレットと大差はありません。そこに機械仕掛けの機能を有しているファッションアイテム、あるいは社会的なステータスアイテムという位置付けです。

筆者は子どもの頃から腕時計が大好きで「大人になったらカッコイイ腕時計をするんだ」と心躍らせていたものですが、時代はさらに先へと進み、腕時計が「古臭い代物」扱いされるところまで来ています。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:「幸せな進化」を遂げたウェアラブル。購入者層やニーズから普及の先にある市場の今後を予測する【コラム】

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少年時代の腕時計への憧れは未だに残っている


事実、腕時計市場はスマホがキャズムを超えてブームアイテムから一般的な道具へと進んだ2015年をピークに売上が落ち始め、2020年には2015年の50%程度の販売規模にまで落ち込んでいます。

スマホの台頭に加えてスマートウォッチのようなウェアラブルデバイスも定着してきた中、腕時計はますますその需要を落としていくことになりそうです。

しかしながらその一方で、高級腕時計だけは世界的に需要が急増しているというデータもあります。つまり腕時計は一般人が求める日常的な道具やファッションとしてではなく、前述した社会的なステータスアイテムとしての需要が高まっているということです。

一部のビジネスマンの世界ではネクタイや靴を見てその人の人となりやその場に相応しい人物かどうかを推し量るといった習慣が未だにありますが、腕時計はそういった世界での道具として生き残り続けるのかも知れません。

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腕時計の価値や役割は、見た目ではなかなか分からないものだ


■技術が機能をつないで進化させていく
ここまで、スマホによって代替されたり歴史の中へと消えていったデジタル機器を紹介してきましたが、ほかにも歩数計や防犯ブザーなど、ニッチな用途のデバイスも数多くスマホによって代替されています。

デジタル機器の場合、役割の変遷と道具の変化には1つの特徴があることが分かります。それは「新しい技術が以前の技術を引き継いで進化していく」という点です。

例えばiPhone以前のスマートフォンは、通信モジュールを接続したPDAの進化した姿ですし、そのPDAもまた電子手帳の進化した姿です。

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それまでPDAの進化の終着点とすら思われていたキーボード付きスマートフォンを、スティーブ・ジョブズがさらに進化させた


PCはインターネット端末という機能でスマホに代替される以前、文書作成という機能でワープロが進化したものとしてビジネスツールの役割を置き換えました。テレビは電波という同じ技術の延長線にありながら、情報ソースやエンターテインメント性という点でラジオを置き換えています。

技術の進化は機能の高度化と情報量の増大を生み、小型化と通信サービスの多様化によってスマホへと行き着いたのです。この先、果たしてスマホを代替する何か(もしくはスマホの一部機能を代替する何か)は現れるのでしょうか。

その意味でスマートウォッチをはじめとしたウェアラブルデバイスは、今後スマホの一部機能を代替していく有力な候補と言えます。

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ウェアラブルデバイスの可能性はまだまだ発展途上だ


今回はデジタル機器に限定してピックアップしてきましたが、スマホが代替してきたものはデジタル機器のみではありません。アナログな道具やその文化もさまざまに取り込み進化させています。

次回のコラムでは、そんなアナログな製品や道具、そして文化・慣習などをつらつらと書き綴りたいと思います。

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スマホが変えたモノ、スマホが変える未来


記事執筆:秋吉 健


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