ホームルーターの買い替えについて考えてみた!

みなさんは自宅などで「ホームルーター」を利用しているでしょうか。筆者はかなり古参のホームルーター利用者で、IEEE 802.11a/b規格といった初期の無線LAN(Wi-Fi)の時代から利用しており、もう20年以上もホームルーターを利用していることになります。

この20余年の間に交換したホームルーターの数は十数台に上り、メーカーもバッファロー(当時のメルコ)やNEC、アイ・オー・データ、エレコム、コレガなど、大手メーカー製はひと通り使ってきました。

その間に通信速度も劇的に高速化し、接続方法や設定方法も大きく様変わりしました。現在のWi-Fiルーターの手軽さは、かつての苦労を知るほどに隔世の感があります。

そんなホームルーターですが、一般的にはどんなタイミングで買い換えれば良いのか分からないという人も少なくないでしょう。通信に関わるものだけに故障してからでは困ります。かと言って不必要なタイミングで買い替えては無駄が増えます。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はホームルーターを買い替えるべきタイミングや買い替えたほうが良い条件などを考察します。

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いつ、どんな機種へ買い替えるのが正解?


■ホームルーターを買い替えるべき2つの理由
はじめにホームルーターを買い換えなければいけない大きな理由を2つ挙げておきましょう。

最も気をつけたいのはWi-Fiのセキュリティーです。みなさんの中には接続の手間が面倒でホームルーターの接続パスワードを設定せずに利用している人がいるかもしれませんが、これは何よりも危険です。このコラムを読むのを一旦やめて今すぐ設定してください。

パスワード設定を行っている人でも古いホームルーターでWi-Fiを利用している人は要注意です。Wi-Fiでは通信規格とは別にセキュリティーにも規格が設けられており、古くはWEP、最近のものでもWPA、WPA2、WPA3と、複数のセキュリティー規格が存在します。

セキュリティーレベルは基本的に新しいものほど強固です。WEPやWPAなどは暗号化アルゴリズムの脆弱性からセキュリティーとして機能しないと考えても良いレベルですが(そもそも対応機器が現在はほぼない)、WPA2のような比較的新しい規格でもハッキング被害やハッキングできるという実証報告が挙がっています。

もし自宅のホームルーターがWPA3に対応していない場合にはできるだけ早期の買い替えをオススメします。

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現在最も多くの機器で利用されているWPA2でさえ18年も昔の規格で(2004年策定)、できるならWPA3に対応した最新の製品にしたい


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バッファロー製ホームルーターの場合、工場出荷時のアクセスポイント名に「WPA3」と入っているのが最新のセキュリティー規格に対応した回線になる


もう1つの理由は通信の安定性です。

冒頭で書いたようにWi-Fiは非常に長い歴史があり、その間にいくつもの通信規格が生まれました。それぞれのWi-Fi規格や、その元となった正式な通信規格名を分かりやすく列記すると以下のようになります。

第1世代……IEEE 802.11a
第2世代……IEEE 802.11b
第3世代……IEEE 802.11g
第4世代……IEEE 802.11n (Wi-Fi 4)
第5世代……IEEE 802.11ac (Wi-Fi 5)
第6世代……IEEE 802.11ax (Wi-Fi 6、Wi-Fi 6E)
第7世代……IEEE 802.11be EHT(Wi-Fi 7) ※現在策定中

一般的に使われる「Wi-Fi」(ワイファイ)という呼称は「Wi-Fiアライアンス」という業界団体が無線LAN規格の普及のために付けたもので、厳密にはIEEE802.11規格とはイコールではありませんが、一般的な認識や用途としては同じと考えて問題はありません。

この中でも現在、最も使われていると思われる規格はWi-Fi 4およびWi-Fi 5です。策定された時期がWi-Fi 4は2007年、Wi-Fi 5が2013年であり、いずれも通信速度の面で一般的な家庭で用いられる光回線(FTTH)の実効通信速度を十分にカバーできるという点から広く普及しました。

しかしながら、Wi-Fi 4およびWi-Fi 5には欠点があります。それは通信方式です。周波数分割方式として「OFDM」という方式を採用していますが、このOFDMは同一周波数帯を使うほかの機器と干渉を起こしやすく、周波数変化にも弱いという欠点があります。

かつて自宅内でLANケーブルを通せない部屋にある据え置きパソコンとの1対1通信のような使い方であれば、こういった弱点もあまり問題にはなりませんでした。

ところが、家族全員がスマートフォン(スマホ)やタブレットを持ち、家の中であちこち移動しながら複数機器の同時接続を維持しなければいけない時代になった結果、自宅での利用にはあまり適さない通信方式になってしまったのです。

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人々の生活様式の変化にWi-Fi規格が追いつけなくなった


そこで登場したのがWi-Fi 6です。Wi-Fi 6では周波数分割方式として「OFDMA」という方式が用いられていますが、これは4G(LTE)に代表される携帯電話などの広域モバイル通信でも採用される方式で、移動する多数の端末との接続性に優れています。

Wi-Fi 6ではOFDMA方式を採用することで、自宅内でも複数のスマホやタブレットなどからの接続がより安定するようになり、高速通信性や省電力性も向上したことで、スマホ時代に最適なWi-Fi規格になったのです。

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Wi-Fi 6は2020年代のスタンダードになるだろう


Wi-Fi 6が策定されたのは2018年で、すでに4年が経過していることから対応機器も増えています。

Wi-Fi機器で良くあるのは「最新の通信規格を早期に導入してみたら通信が逆に不安定になってしまった」というものです。

これは新しい通信規格ゆえにバグなどが多数存在し、通信が安定しないことが大きな原因であるため、ホームルーターなどの発売後に複数回のファームウェアアップデートを繰り返し、ようやく安定するようになるといったことも少なくありません。

その点でも通信規格として4年が経ち、メーカーや製品としても数年間の実績を積んでいるWi-Fi 6対応ホームルーターは今が最も「買い時」と言えます。

スマホやタブレットもまた、Wi-Fi 6に対応する機種が主流となってきました。昨年や今年にスマホを買い替えているのであれば、ほぼ対応していると考えて問題ありません(当然ながら対応状況は正しく確認すること)。

スマホなどが対応しているのであれば、より快適な通信を行うためにもホームルーターの買い替えをオススメします。

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今年9月に最新規格のWi-Fi 6Eという通信規格も日本国内で認可されたが、こちらはまだ運用実績がない上に対応スマホがほとんどない。あまり気にしなくて良いだろう


【参考】総務省、無線LANの6GHz帯と自動車内の5.2GHz帯を利用可能とする電波法改正の省令を公布・施行!ついに日本でWi-Fi 6Eが解禁に

この他、現在のホームルーターには一般的に「メッシュWi-Fi」と呼ばれるような中継通信方式に対応したものが多くあります(メーカーによって呼称に差があり)。

これは複数のホームルーターを家の中に配置し、通信を網目状(メッシュ状)にリレーさせることで安定した高速通信を維持するというものです。

例えば、1階に光回線があり、2階や地下の部屋にホームルーターで電波を飛ばそうとした場合、場所によっては電波が届きにくくなる場合があります。そういった際にメッシュWi-Fiを導入することで、家のどこに居ても快適な通信が行えるようになります。

古いホームルーターではこういった機能に対応していない場合が多くあります。自宅でWi-Fiの電波が届きにくい場所がある人は、メッシュWi-Fiに対応するホームルーターに買い替えることで改善が見込めます。

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NECのホームルーターブランド「Aterm」シリーズの公式サイトより引用


当然、ホームルーターも精密機器であるため、寿命や劣化などでの交換も必要になります。仮に明確な故障が発生していなくとも、通信速度の低下や通信の瞬断などが発生しやすくなるなど、徐々にその兆候は現れてきます。

現在のスマホユーザーでありがちな事例としては、自宅のWi-Fiにつながっているものとばかり思い込んで動画視聴やゲームのダウンロードを行っていたら、実はWi-Fi通信が途切れていて4Gなどのモバイル通信につながっており、大量のデータ通信を行ってしまったために通信制限を受けてしまった、などというものがあります。

こういった失敗をしないためにも古いホームルーターはある程度の期間で定期的に買い替えていく必要があります。

一般的にホームルーターの寿命や買い替え時期は4~5年が目安などと言われますが、通信規格的にも対応するスマホやタブレットの世代的にもやはり4~5年での買い替えが妥当だと思われます。

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通信機器は定期的に買い替えていくものと考えたい


■Wi-Fi 6が安定運用可能になった今だからこそ買い替えを
スマホとモバイル通信時代に即したセキュリティー規格や通信規格が出揃い、製品としての安定性も十分に確立された今、ホームルーターは間違いなく「買い替え時」を迎えています。

今年正式に対応が始まったWi-Fi 6Eや現在策定作業中のWi-Fi 7といった規格もありますが、これらは私たちが自宅で利用するには若干冗長な規格であり、現在の「Wi-Fi 5からWi-Fi 6へ替えたときのメリット」ほどは大きな恩恵を受けられない規格でもあります。

そのため、Wi-Fi 6Eを安心して運用可能になる数年後や、さらに先のWi-Fi 7の時代まで古いホームルーターを使い続けるよりも、今Wi-Fi 6対応ホームルーターに買い替えてしまうことが最適解と言えます。

ホームルーター自体の価格もかなり安価になっており、半導体不足や円安などコスト的な逆風の強い現在でも、安価な機種であれば5,000円前後から、高性能な機種でも多くが2万円以下で購入できます。

・自宅ではできるだけモバイル通信を使いたくない
・自宅の光回線を家族で上手に使い分けたい
・Wi-Fi通信が安定しない
・光回線は高速なのにホームルーターが古くて速度が出ない
・ホームルーターを購入してから5年以上経っている

こういった経験がある人は、ぜひホームルーターの買い替えを検討してみてください。もちろん、新規でホームルーターを導入するタイミングとしてもオススメです。

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クリスマス商戦はホームルーターも大安売り!あなたならどれを買う?


記事執筆:秋吉 健


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