IT業界の新規格「Matter」について考えてみた!

みなさんは「Matter」(マター)を知っているでしょうか。恐らく言葉としての意味であれば分かる方も多いかと思いますが、これがIT用語だと言われてすぐに理解できる方は、まだそれほど多くないのではないかと思います。

IT業界では、このMatterが2022年秋頃からにわかに熱くなり始めています。Matterとは一体何なのでしょうか。そしてMatterは私たちの生活をどのように変えていくのでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は新しいITの風「Matter」について解説します。

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この写真の中には既にMatterが存在している……?


■Matterってなんだ?
Matterとは、単語の意味としては「物質」や「事柄」、「問題」など、抽象的なモノやコトを指す場合に用いられる言葉ですが、IT業界ではスマートホーム家電(スマート家電)を管理する標準規格の名称として用いられます。

Matterを策定・規格化したのは、標準化団体の「Connectivity Standards Alliance(CSA)」です。

IT業界では5~6年ほど前からスマートフォン(スマホ)やスマートスピーカーなどで家電製品を操作・管理する「スマートホーム」が徐々に浸透しつつありますが、スマートホーム市場が広がれば広がるほどに、困った問題が起こり始めていました。

それは、スマートホームを構成する「スマート家電」を操作するためのプラットフォームやデバイスを操作するためのアプリなどが、スマート家電やそのメーカーの数だけ乱立し、スマート家電が増えるほどに管理が煩雑になっていったのです。

そこで、アプリの仕様や技術基準を統一することで、このような管理の断片化を防ごうという目的で作られたのがMatterなのです。

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さまざまなスマート家電をシンプルな操作と管理で使いやすくするための規格がMatterだ


例えばスマート家電の中には、スマートスピーカーによる音声操作に対応しているものがありますが、これまではGoogleの「Googleアシスタント」やAppleの「Siri」、Amazonの「Alexa」など、操作可能な音声アシスタントが決まっていました。

しかしこれがMatterに対応すると、1つのスマート家電製品をGoogleアシスタントからも、Siriからも、Alexaからも操作可能になります。

つまり、ユーザーは自分が所有しているスマートスピーカー(音声アシスタント)のプラットフォームやOSなどを気にすることなくスマート家電を購入することができるようになります。

スマート家電メーカーとしても、操作・管理デバイスを限定したり、それぞれのプラットフォームにあわせてバリエーションを作り分ける必要がなくなり、コスト削減につながる上に消費者への訴求力が非常に高くなります。

もちろん、スマートスピーカーやスマホを提供するプラットフォーマーとしても、自社プラットフォームで扱えるスマート家電の数が大きく増えるため、メリットが多大です。

このように、ユーザーからもスマート家電メーカーからもプラットフォーマーからも望まれるかたちでMatterは登場したのです。

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CSA公式サイト上にあるMatterの紹介ページ


■2023年からが本番のMatterの普及
2023年1月現在、CSAにはGoogleやApple、Amazonなど大手のスマートホーム・プラットフォーマーを含めた300社以上の企業が参画しており、2022年12月にはGoogleがAndroidデバイスおよびスマート家電「Google Nest」シリーズがMatterに対応したことを発表しています。

他プラットフォーマーやスマート家電メーカーも順次対応を進めていくものと見られ、2023年以降に発売されるスマート家電はもちろんのこと、それ以前の製品であってもファームウェアのアップデートなどによって対応が検討されているものもあります。

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新しく発売されるMatter対応のスマート家電にはこのロゴマークが使用される


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Matterロゴマーク使用例


Matterはそもそも「ZigBee」(ジグビー)という規格から発展したもので(CSAも元々は「Zigbee Alliance」が改名したもの)、Amazonの「Echo」シリーズなどはZigBee規格に以前から対応していました。

このことから、Amazonのスマート家電やスマートスピーカーなどはスムーズにMatter規格への対応が進むと見られます。

AppleもまたiOS 16.1からMatterへの対応が完了しており、Matterに対応した機器であれば、Appleのスマートホーム・プラットフォーム「HomeKit」とそれを用いた「Apple Home」を利用することが可能となっています。

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Appleによるデベロッパー向けの説明


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Appleは2022年6月の「WWDC 2022」でMatterの採用を発表していた


■スマート家電を購入するならMatter対応製品を選ぼう
2022年内は、まだまだプラットフォーマーやスマート家電メーカーの対応が進んでいませんでしたが、2023年はこれらが一気に進む年になることでしょう。

技術の歴史を紐解けば、新しい技術や製品が登場して普及の兆しを見せ始め、類似製品が大量に登場して市場を形成し、規格やプラットフォームの乱立という経緯を経て国際標準規格が登場する、という流れは非常によくあるものです。

例えば私たちが当たり前に利用しているWi-Fiにしても、そもそもは「IEEE 802.11」という無線通信方式を用いた製品を相互に利用可能とするために作られた国際標準規格です。「Wi-Fi準拠」というお墨付きがあればこそ、Wi-Fi製品同士での安定した通信が可能となっているのです。

Matterもまた、そういった対応製品同士でのシームレスで安定した通信を可能とし、より簡単に、より一元的に管理を行えるスマートホームを実現するために生まれました。

もし今年、みなさんの中にスマート家電を買おうと検討している人がいるなら、ぜひ「Matter」の名前とロゴがあるか確認してみてください。その名前やロゴがあるなら、これからも永く愛用できる製品となることでしょう。

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Matterで広がる世界を体験しよう


記事執筆:秋吉 健


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