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子どものスマホデビューで保護者が抱える悩みについて考えてみた! |
筆者がこのコラムの連載を開始して以来、定期的にテーマとして取り上げている問題があります。それは子どもたちのスマートフォン(スマホ)デビューについてです。
時にはフィルタリングサービスの重要性を説き、時にはモバイルリテラシー教育やルール作りの重要性について考察してきましたが、子どもたちを取り巻くスマホ及びモバイル環境とその問題は年々複雑に、そして難しくなっているように感じます。
子どもたちのスマホデビューにとって必要な環境とは何なのでしょうか。そして子どもたちのスマホデビューを支えるために私たち大人ができることとは何でしょうか。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は子どもたちのスマホデビューを支えるための「環境」に焦点を当てて考察します。
■年々低年齢化するスマホデビュー
はじめに、現在の子どもたちのスマホデビューについての調査データを見てみましょう。
2023年1月にMMD研究所が公開した「2023年1月初めてスマートフォンを持つ子どもと親への意識調査」によると、大学生までの子どもたちのスマホデビューの時期で最も多いのは小学6年生の14.9%、次いで中学1年生の12.7%、中学3年生の10.0%となっています。
傾向としては2022年の調査データとほぼ同じで大きな変化はないものの、2019年の調査データからの継続的な推移を調べてみると、小学6年制や中学1年生のスマホデビューが伸び続け、その他の時期が押し並べて減少しています。
「同級生のみんなもスマホ使ってる」、「うちの子にもそろそろ持たせるしかないか」。子供の心理としても、保護者の心理としても、そのような流れでスマホデビューの時期が決まりつつあることが示唆されます。
子どもにスマホをもたせる上で最も重要と考えられるルール作りに関しては、「スマートフォンを利用する時間に関するルール」や「アプリ内課金やアプリのダウンロードに関するルール」、「使用できるアプリや閲覧できるサイトに関するルール」などの割合が高いものの、全体として大きく偏ることなくスマホ関連のトラブルを回避するためのルール作りが行われています。
また、それらの多岐にわたるルールが守られているかという点もほぼ同様の割合を示しています。
気になるのは「特にルールを決めていない」としている家庭が19.6%もある点や、さらに「現在も守れているルールはない」という回答が8.0%ある点です。
とくに「特にルールを決めていない」というのは非常に問題があると感じます。スマホは世界中の人々や金銭の深く関わる企業サービスと直結する道具であり、それを使うには高いリテラリー意識が必要です。
自らを律する力が十分に醸成されていない(自立していない)子どもたちにそれを放任的に持たせてしまうことは非常に危険です。筆者はそれをネグレクトに近いとすら考えます。
子どもにスマホを持たせるのであれば、正しい使い方を家庭内でしっかりと話し合い、それを守ることの大切さやリスクを理解させることを徹底していただきたいと願うところです。
■親世代の深刻なモバイルリテラシー不足
そして今回、筆者がもっとも深刻であると感じた調査データがあります。それは「スマートフォンに関連したトラブルを回避するために、困っていること」という項目です。
これは子どもたちに質問したものではありません。保護者への質問であり、保護者の視点での回答です。
「ルールを決めたが管理することができない(23.9%)」、「ルールを決めることが難しい(22.3%)」といった回答が目立つ一方、もっとも多かった回答は「何をすればいいか分からない(25.9%)」でした。
この事実に筆者は戦慄し、ひどく失望したのです。
実に保護者の4人に1人は、子どもをスマホ関連のトラブルから守る方策を理解(把握)していないのです。このような状況でスマホデビューの時期がどうのと語っているのがバカバカしくなります。もはやそれ以前の問題です。
いわゆるiPhone型のスマホが日本に登場して今年で15年。Androidスマホの普及を考えても10年以上が経過しました。
また、かつての携帯電話(フィーチャーフォン)の時代から含めれば、コミュニケーショントラブルや課金トラブルなどへの対策といった非常に基本的なモバイルリテラシーが求められるようになって四半世紀が経とうとしています。
その当時小学生や中学生だった人が、現在小学生や中学生の子どもを持つ親世代でしょう。それなのに、モバイルリテラシー教育について「何をすればいいか分からない」と答えているのです。忌憚のない言葉をかけるなら「あなたは十数年~20年近くもケータイやスマホを使ってきて何も学ばなかったのでしょうか」。
これが、普段自宅では滅多に触らないパソコンであったり、免許が必要な上に子どもには絶対に操作させることのない自動車の運転などであれば、親が「何をして良いか分からない」と考えたり、親が介入する余地が少ないと考えるのも理解できます。
しかしながら、これはスマホの話です。私たちが毎日何時間も使い倒している道具です。恐らくこのコラムを読んでいる、その道具です。
一部の特殊な人々だけが使う属人器ではなく、人々が当たり前に使い、手放すことができなくなった汎用製品の使い方やリスク管理の方法を知らないというのは論外です。
以前から感じていたことではありますが、先ずモバイルリテラシーを学ぶべきは子どもではなく、その子供のお手本となるべき大人です。逆説的に、携帯電話をこれだけ普及させておきながら、そのリテラシー教育を放置してきたツケが今この状況を生み出しているということでもあります。
■スマホは現代の聖書である
現在のスマホとそのサービスは高度化する一方で、一朝一夕にはその利用方法やリスク回避の方法のすべてを知ることはできません。
毎日スマホのことを考え、スマホの情報を収集している筆者でさえ、分からないことは大量にあります。しかしながら、そういった知識の量は本質的な問題ではありません。
筆者はよく知人からスマホやパソコンの設定およびトラブルについて相談を受けます。それらの知識をすべて持ちわせているわけではありませんが、それでも相談に応じて多くの場合は解決することができます。
なぜならそこにパソコンやスマホがあり、そこで問題解決の方法を「調べる」ことができるからです。筆者は「検索技術」で他の人よりも若干長けているに過ぎません。
人々の中には、少なからず自分が今持っている道具が何であるのかを正しく理解していない人がいます。スマホは物事を知るための道具であり、その「調べ方」さえ知っていれば、世界中の叡智が私たちを助けてくれます。
自分の子どもがスマホでトラブルを起こさないために何をすれば良いか分からないのなら、今すぐ手元のスマホで調べましょう。
もちろん、調べた内容が正しいかどうかを判断するための前知識が必要です。情報や知識というのは断片的ではなく、常に連続したつながりと広がりを持つものです。
だからこそ、高度化し複雑化した現代社会を生きていく基礎知識として学生時代の勉強が必要なのです。
もしも子どもとの会話の中で「どうして勉強しなきゃいけないの?」と聞かれたなら、ぜひ「スマホ欲しいんでしょ?スマホを正しく使うために何が必要なのかを調べて、それが正しい情報なのかを判断するのに必要なのが学校の勉強だよ」と教えてあげて下さい。
役に立たないと思っている国語や数学や社会の勉強は、必ず人生の役に立ちます。基本的な物事や素養を知っているほどに、その後の人生で「自分が調べられる物事」が増えます。そして調べた物事は、次に何かを調べる際の基礎となります。
スマホは現代社会のバイブルです。そこには迷える人々を救うすべてがあり、すべての入り口でもあるからです。分からないことや悩みごとがあるなら、迷わずスマホで調べましょう。子育てもリテラシー教育も、そこに答えがあります。
人々はそのバイブルを毎日持ち歩き、悩みや答えをそこに書き込み続け、そして世界中に発信し続けているのですから。
記事執筆:秋吉 健
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