IE終了とこれからのウェブブラウザについて考えてみた!

筆者がインターネットを利用し始めて、四半世紀以上が経ちました。当時はまだ自分専用のパソコン(PC)というものを持っていなかった筆者は、大学や図書館のPCから、Netscape Navigator(Netscape)というウェブブラウザを使ってインターネット上の文献を検索していたのを覚えています。

その後1999年にようやく自分専用のノートPCを購入してネット回線の契約をしましたが、そのPCにプリインストールされていたのがInternet Explorer(IE)でした。

そのIEが、2023年2月14日に配信されたMicrosoft Edge(Edge)のアップデートにより、Windows 10において無効化されました。IE自体の配信およびサポートは2022年6月15日に終了していましたが、これで日本国内での一般向けとしては、ほぼ完全に利用不可能となります(一部の法人向けや海外向けのWindows 10では利用可能)。

IEとは何だったのでしょうか。IEは現代の私たちに何を教えてくれるのでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はIEの歴史を振り返りつつ、これからの時代のウェブブラウザについて思いを馳せます。

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今後IE互換の表示が必要なサイトではEdgeの「IEモード」を利用することになる


■IEが生んだ功罪
IEの話をすると、使用したことのある人々の反応は大きく2つに分類されると筆者はいつも感じています。

一方は「IEね。懐かしい。昔使ってたなぁ」と、あっさりとした返事が返って来るタイプです。そしてもう一方は「IE!?やめてくれ!その名前はもう聞きたくない!」と、アレルギーのような拒絶反応を示すタイプです。

前者はPCの一般的なライトユーザーであり、後者はPCを弄り倒すヘヴィユーザーやプログラマー、そしてウェブデザイナーではないでしょうか。

もちろん、筆者は後者です。

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ウェブサイトを作っていて何度こんな気分になったことやら


IEは世界にインターネットという電脳空間の存在を一般化しただけではなく、そこで様々なビジネスとサービスが生まれ、地球上の論理的距離を一気に縮めたという多大な功績があります。

それはWindowsというOSとともに世界中に共通仕様を普及させたMicrosoftの功績でもありますが、一方でHTMLやCSSの記述および解釈が独特であり、さらに多くのバグ(あるいはバグ的挙動)を内包していたことから、多くのウェブサイトクリエイターを悩ませ続けたのです。

何よりの罪は、そのバグだらけ&独自仕様だらけのIEがウェブブラウザ業界の覇権を握ってしまったことです。日本を例に挙げるなら官公庁のウェブサイトはほぼIE準拠となり、IE以外のウェブブラウザを推奨しないどころか、IE以外のウェブブラウザの使用を禁止する事態にまで発展しました。

IE向けに作成されたウェブサイトはプリントアウトでもレイアウトが大きく崩れるなど面倒が多く、とにかく扱いづらかった記憶しかありません。

そのため筆者は一般向けのウェブサイト制作ではIEを使いつつNetscapeも併用し、Mozilla Firefox(Firefox)が登場してからはFirefoxをメインで利用するようになりました。

現在はウェブサイト制作をやめてしまいましたが、仕事や私用では今でもFirefoxをメインに、Google Chrome(Chrome)やEdgeなど複数のウェブブラウザを用途に応じて使い分ける形に落ち着いています。

as-272-004ポストIEとして一世を風靡したFirefoxも、今やChromeの影にひっそりと隠れている


■ウェブブラウザ戦国時代の背景にあるもの
PCにおける現在のウェブブラウザの主流はChromeです。HTMLやCSSのなどの解釈に癖がなく表示も高速且つ忠実で、何よりGoogle謹製というお墨付きが人々に安心感を与えました。

筆者がメインブラウザとして愛用するFirefoxもまたChromeと並び非常に優秀なウェブブラウザですが、過去にはレンダリングエンジンの刷新や仕様変更に伴い旧来アドオンの大半が利用できなくなるなどの混乱もあり、シェアは大きく後退して10%前後となっています。

IEに代わるMicrosoftの次世代ウェブブラウザとして登場したEdgeは、登場当初こそバグや不安定な挙動が目立ちましたが、後の大型アップデートでコードベースにChromeと同じ「Chromium」を採用したことで安定性が大きく向上し、現在はメイン検索エンジンである「Bing」とともに、使いやすく独自色のあるウェブブラウザとしてじわじわと人気を獲得しはじめています。

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2012年にIEの世界シェアをChromeが追い抜き、現在では8割以上のシェアを誇っている


PC向けのウェブブラウザとしてChromeが人気となった背景は、Google謹製だからという理由だけではないでしょう。

GoogleはiPhone型スマートフォン(スマホ)用のOSとしてAndroidを生み出しましたが、そのAndroidのモバイル市場でのシェア推移を調べてみると、PC向けのウェブブラウザであるはずのChromeと、そのシェア拡大の流れや割合が驚くほどピッタリと合致するのです。

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モバイルOSシェアの推移。Androidのシェア推移がPC用Chromeのシェア推移とほぼ同じだ


これには正しく理由があるように感じます。

ChromeにはPC版とモバイルOS版で同期機能があり、どんなデバイスからも常に同じブックマークや閲覧履歴を共有できるというメリットがありました。

Androidには2013年にリリースしたバージョン4.4からChromeがプリインストールされたため、人々はウェブブラウザの閲覧履歴やブックマークを簡単に同期できるPC用のChromeも同時に使い始めたのです。

IEにはそもそもAndroid版がなく(かつて存在したとの噂もあるが筆者は確認できず)、Microsoftのスマホ用OSであったWindows Mobileはシェア争いに負けて市場から撤退したため、Windows Mobile版IEもまた姿を消しました。

シェアを落とし続けていたPC版Firefoxがある時期から下げ止まり、むしろシェアを若干取り戻しているのも、モバイル版のFirefoxとの同期や連携が強化されたおかげかもしれません。

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検索すると「Internet Explorer Android」というものがヒットしたが、ダウンロード先にあるのはAndroid用のEdgeだった


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Firefoxも「Sync」機能が実装されてChrome同様に同期が可能になり使いやすくなった


■PCからスマホへ。端末の変遷とともに進化するウェブブラウザ
今や多くの人々にとって、インターネットの世界を閲覧するための道具はPCではなくスマホです。そのスマホでOSシェアの覇権を取り、そのOSとともに普及していったChromeがウェブブラウザの覇権を握ったことは必然だったと言えます。

前述のようにIEはPCという箱から出ることができず、ひたすらに扱いづらいウェブブラウザとして歴史から消えていきました。

もしWindows MobileがWindows Phoneへと進化した後にモバイル市場でそれなりにシェアを獲得し、モバイル版IEも一緒に普及していたとしたら……といったIF世界を想像したこともありましたが、それでもやはり時代とともにEdgeに置き換えられ、結局消えていく運命だったのだろうと考えるところです。

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Windows Mobileの名機「Advanced/W-ZERO3 [es] WS011SH」。かつてスマートフォンと言えばキーボード付きだった


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Windows Phoneは日本でも販売され、最盛期には世界で5%前後のシェアを獲得していたが、それ以上は普及しなかった


これからの時代もまた、モバイルOSとそこで利用されるウェブブラウザが世界を動かしていくでしょう。

AndroidではChromeが、iOSではSafariがウェブブラウザの主流として存在し続けると思いますが、現在よりもさらにOSやデバイスの垣根を超え、人々が意識しないレベルまでシームレスにウェブサイト閲覧をつなぐ存在へと進化していくはずです。

かつて人々が「我が家にインターネットがやってくる」と熱狂した2000年前後、IEはまさしくインターネットを見るための「窓」としてそこにありました。

あれから20余年、モバイル全盛のこの時代にIEが幕を閉じるという話題がネット上を駆け抜け、1つの時代が終わったことを強く実感します。

みなさんはIEにどんな思い出があるでしょうか。筆者のように苦い思い出ばかりではないことを願いたいところです。

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ウェブブラウザが、人々と世界をつなぎ続けていく


記事執筆:秋吉 健


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