mineoの炎上騒ぎから「通信の最適化」について考えてみた!

企業にとって都合の悪いことはだいたいタイミングの悪い時に起こるというのが「マーフィーの法則」に載っていたかどうかは定かではありませんが、世の中がゴールデンウィークに突入しようかというタイミングで、通信業界ではちょっとした騒動が持ち上がりました。

NTTドコモやauから回線を借り受けて仮想移動体通信事業者(MVNO)として携帯電話サービスを行っているケイ・オプティコムの「mineo(マイネオ)」が送受信データ中の画像などのファイルの圧縮などにより「通信の最適化」やHTTPSやVPNなどの特定の通信経路において速度制限をする「ポート規制」を行っているのではないかというものです。

事の発端はmineoユーザーによるTwitterへの投稿ですが、その後もさまざまな検証が行われ、画像圧縮が行われていることが確認された上、サイトが暗号化され画像圧縮などができないサイト(SSL通信を利用するHTTPSサイト)では通信速度そのものを制限する帯域制限が課せられているのではないかという疑惑まで持ち上がり、いわゆる「炎上」状態となってしまいました。

まさにケイ・オプティコムにとってはゴールデンウィークというユーザーが暇を持て余しSNSでネタ探ししやすい時期に炎上騒ぎを起こすという事態に遭遇し、青天の霹靂といったところかもしれません。いや、状況的には起こるべくして起こったと言ったほうが良いでしょう。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はmineoの炎上騒ぎで再燃した「通信の最適化」にまつわる問題点や解決策について広く考えてみたいと思います。

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mineoの件はTogetterにもまとめられ大きな波紋を呼んでいる


■そもそも「通信の最適化」とは何か
はじめに通信の最適化とは一体どういったことなのでしょうか。これはNTTドコモやau、ソフトバンクといった移動通信体事業者(MNO)やMVNOの業態にかかわらず、通信事業者が画像や動画などのファイルを不可逆圧縮することによって通信データ量を削減し、通信帯域を確保することを指します。

“最適化”と言えば聞こえは良いですが、早い話が画像や映像を劣化させているわけで、ユーザーとしては通信事業者によってそれを勝手にやられてしまっては理不尽感が拭えません。この通信の最適化が問題として大きく取り上げられたのは2015年頃で、この時もユーザーによるTwitterへの投稿が問題を取り上げる発端となりました。

当時はソフトバンクで通信の最適化が行われており、スマートフォン(スマホ)向けゲームの画像データの圧縮によってデータ不一致が生まれ、MNO回線ではゲームが正常に遊べなくなるという不具合が起きたことが通信の最適化が明るみとなったきっかけでした。

通信の最適化そのものは歴史が長く、それよりも以前より実施されており、現在でもNTTドコモやauでは通信の最適化を実施していますが、両社は通信の最適化を解除する方法などユーザーへ案内し、対応策を打っています。

一方、ソフトバンクは解除方法を用意するのではなく、通信の最適化自体はやめており、特定のファイルやサイト、アプリなどを速度制限することで対処しています。

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現在のNTTドコモではオンライン手続きによって通信の最適化の有無を選択できる


■通信の最適化によるデメリットとは
通信の最適化が行われることによって通信データ量は削減され、全体として帯域が確保されることで十分な通信速度を維持しやすくなったり、通信が混雑しつながりにくくなる「輻輳(ふくそう)」を軽減できるというメリットがありますが、では通信の最適化が行われることのデメリットとは何でしょうか。

ユーザー視点で言えば、最も端的なデメリットはクラウドサービスをバックアップや転送経路として使えなくなるという点です。例えばクラウド上にスマホで撮影した写真などを保管していた場合、写真のアップロード時やダウンロード時に圧縮されてしまうため、画質が大きく損なわれることになります。当然これを繰り返すほどに画質はどんどん劣化するため、バックアップや保管場所としての意味がなくなります(どういった通信状況で圧縮を行うかは通信キャリアの設定による)。

ただし、通信の最適化はHTTPSなどで暗号化されている経路では実施されませんので、現状で一般的なクラウドサービスなどではHTTPS経由で通信しており、それほど大きな問題にはならないとは思いますが、自分で用意したシステムなどでHTTPやFTPなどの暗号化されていないネットワークを利用する場合には注意が必要です。

もう1つは前述したようにアプリなどが起動しなくなる不具合が発生する危険性です。ほとんどのアプリではそのアプリ内で利用する画像のファイルサイズやタイムスタンプなどを参照して同一性を確認した上で利用するため、画像が圧縮されてファイルサイズが変わっていたりタイムスタンプが変更されていた場合に「これは不正データである」と突き返され、アプリで利用できなくなったりアプリそのものが起動しなくなる可能性があります。

これを防ぐために現在は多くのアプリで暗号化されたHTTPS通信や事前に圧縮データで送受信を行いアプリ内で解凍するなどの対策を打っていますが、それでもすべてのアプリがそうであるとは言い切れません。また今回のmineoのように圧縮ができないHTTPS通信の場合に帯域制限などが意図的に行われた場合、十分な通信速度が確保できずに更新作業が大きく遅延したりダウンロードそのものが失敗したりする危険も増加します。

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アプリによっては更新ができなくなり利用不可能になる場合も(画像はガンホーのスマホ向けゲーム「パズドラレーダー」)


そこまで極端な例ではなくとも、美しい写真やタブレットで描いた絵を家族や恋人に送ろうとした時に勝手に画質が落とされ高圧縮JPEG特有のモアレノイズだらけの画像にされていたとして、それを許容できる人はどのくらいいるでしょうか。

少なくともイラストレーターや写真家であれば仕事にも影響する大問題です。私情のみで片付く話ではなくなってしまいます。

■グレーゾーンの2つの侵害問題
こういったことから通信の仕組みに詳しい人ほど通信の最適化を嫌がる傾向が強く、通信会社を選ぶ際に「通信の最適化を行っていないか、もしくは解除方法がある」ことを条件としているユーザーも散見されるほどです。

しかし、通信の最適化が真に問題とすべきところは別のところにあります。それは「通信の秘密の侵害ではないか」と「同一性保持権の侵害ではないか」という2つの法的問題です。

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通信の最適化は法に抵触している?


通信の秘密とは「個人間の通信(信書・電話・電波・電子メールなど)の内容及びこれに関連した一切の事項に関して、公権力や通信当事者以外の第三者がこれを把握すること、および知り得たことを他者に漏らすなどを禁止すること」(Wikipediaより引用)となっており、例えばユーザーがメールなどで送った画像が何であるのかを通信事業者が把握することを禁じている法律です。

具体的には、電気通信事業者の取扱中にかかる通信の秘密については電気通信事業法では第4条および第179条、有線電気通信における通信の秘密は有線電気通信法第9条および第14条、無線通信における通信の秘密は電波法第59条および第109条により、それぞれ罰則をもって保護されています。

通信データの中身を把握し画像や映像を自動判別して圧縮するという行為はまさに通信の秘密を侵害する行為と言われてもおかしくはないものであり、仮に契約約款上(mineoでは約款に付随する「提供条件」にサービス開始時の2014年6月より「通信の最適化」および「ポート規制」について記載)でそれを認める内容が書かれていたとしても単純に看過できるものではありません。

ましてやmineoのように約款上で通信の最適化が行われる可能性があると明言しているとはいえ、これまでそれを行ってこなかった通信事業者がユーザーに何の告知もなく適用を開始していたとなれば、法律や約款の問題ではない「企業としての倫理的な信用問題」につながります。

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mineoの契約約款より抜粋。契約時に同意しているとはいえ、約款に書かれていれば何をしても良い、では納得しない人もいる(約款のPDFファイルはこちら


同一性保持権の侵害についてはもう少し状況が複雑になります。同一性保持権とは「著作者人格権の一種であり、著作物及びその題号につき著作者(著作権者ではないことに注意)の意に反して変更、切除その他の改変を禁止することができる権利のこと」(Wikipediaより引用)であり、今回の問題に合わせて例えるならスマホで撮影した写真や映像のことを指します。

ここで重要なのは「著作者(著作権者ではないことに注意)の意に反して」という点です。あらかじめユーザーに「データ量の多い画像は混雑時に自動圧縮されます」と告知されていれば問題ありませんが、ユーザーの知らないところで画像が圧縮されて送受信されていたとなれば、それは同一性保持権の侵害にあたる可能性があります。

企業側としては「約款に書いてあるので問題にはならない。約款を読んでいないのに同意した利用者が悪い」と言いたいところでしょうし、実際この件で裁判を行っても企業側の主張が認められる可能性のほうが高いと筆者は考えます。しかし……それでは納得できないのも利用者側の心境というものです。

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法的に問題なければ、それで良いのか?


■自身の通信回線契約を見直してみよう
では、通信回線を利用するユーザーとしては企業のやり方に従うのみで泣き寝入りするしかないのでしょうか。そんなことはありません。

今回騒動となったmineoの他にも「nuroモバイル」や「楽天モバイル」などのMVNOでも通信の最適化をオフにできずに実施していますが、同じMVNOでも「BIGLOBEモバイル」のように通信の最適化をユーザーの任意で解除するための専用APN(アクセスポイント)を用意していたり、そもそも「IIJmio」のように通信の最適化を行っていないMVNOも存在します。

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BIGLOBEモバイルによる通信の最適化の告知および解除方法の案内(サイトはこちら


価格競争の激しいMVNOでは企業ごとの料金格差は小さく、MNPなどによる乗り換えでも通信コストにかかる負担はあまり大きくありません。またMNO各社においても通信料金が大きく変わらない点は同様です。

つまり、通信事業者の企業姿勢や方針が自分の利用用途に合わないと感じたならば、別のサービスへと乗り換えれば良いのです。違約金や2年縛りといったような制約が少ないのもMVNOのメリットの1つですし、そこはユーザー側が自由に通信キャリアを選べるメリットを最大限に利用すべきところではないでしょうか。

筆者もまたmineoのユーザーであり、今回の問題とそれに端を発した通信の最適化についての議論の再燃は、自分の通信回線および通信環境を見直す良い機会となりました。mineoがブランドステートメントとして「Fun with Fans!」を謳い、ユーザーファーストの名のもとに信頼を勝ち取って契約数を伸ばしてきた点は大いに評価していますし、実際それだけの努力をしている様子もこれまでの取材を通して常に感じてきたことですが、今回の対応(というか、5月6日現在この状況についての公式見解や対応策の発表はない)はあまりにも同社のブランドステートメントから逸脱しているとしか思えず非常に残念なところです。

筆者としてはモバイル回線をすでに別のMVNOへ乗り換えており、予備回線についても順次他社へ切り替えていく予定で「嫌なら使うな」を地で行く自由主義を通していますが、できることならmineoのまま通信の最適化の有無を任意で選択できる方がベターだったと感じている次第です。

みなさんはこの問題、どうお考えになるでしょうか。通信の最適化について知らなかった方はもちろんのこと、すでに知っていた方もこの機会に自身の通信回線の契約内容について再考してみるのも良いかもしれません。

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企業の信頼は法律のみで語れるものではない


記事執筆:秋吉 健


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