5G普及のカギについて考えてみた!

3月末にNTTドコモおよびau(KDDIおよび沖縄セルラー電話)、ソフトバンクの3者から一斉に「5G(第5世代通信システム)」サービスがスタートしました。とはいえ、発売済みの5G対応スマートフォン(スマホ)はシャープ製「AQUOS R5G」とサムスン電子製「Galaxy S20 5G」、ZTE製「Axon 10 Pro 5G」などの数機種しかなく、選択肢が非常に限られています。

また対応エリアについても前回のコラムでも軽く触れたように、各社ともに現状ではスポット的な基地局整備に留まっており、5Gの恩恵に預かれる人はかなり限定されます。

果たして5Gサービスはいつ頃普及の兆しを見せ、一般人を巻き込むトレンドとなっていくのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は5Gエリアの現状や料金設定、端末の発売状況などを読み解きながら、5G普及のカギを探ります。

as-122-002
5Gが「普通に」使える日はいつ来る?


■各社の5G料金プランをざっくり紹介
はじめに各社の5G向け料金プランを見ていきましょう。

NTTドコモは、定額プランの「5Gギガホ」と従量制プランの「5Gギガライト」を軸に、各種割引施策や追加のデータ通信専用プラン「5Gデータプラス」などを用意する形です。

大きな特徴は、5Gギガホで「通常100GBまで定額(100GB超過時は最大3Mbpsに速度制限)」のところを、終了期限を設けない形で「データ容量無制限キャンペーン」を謳っている点です。

このキャンペーンの目論むところは、他社が容量無制限や容量制限があっても動画などのコンテンツをカウントフリーとする料金プランを打ち出している中、容量制限がデメリットとならないようにするためで、ユーザーが十分に増え、回線容量が逼迫するような事態にならない限りは続けられるものと思われます。

【5Gギガホ・5Gギガライト・5Gデータプラスの概要】
プラン月額料金
利用可能な月当たりの高速データ通信容量通話料
5Gギガホ8,415円
(5Gギガホ割適用で7,315円)
100GB
(100GB超過時は最大3Mbpsに速度制限)
※データ量無制限キャンペーン期間中は上限なし&速度制限なし
別途22円/30秒
(家族間通話無料)
※かけ放題オプション(月額1,870円)と5分通話無料オプション(月額770円)のオプションあり
5Gギガライト6,765円7GB
(7GB超過時は最大128Kbpsに速度制限)
5,665円3〜5GB
4,565円1〜3GB
3,465円0〜1GB
5Gデータプラス1,100円親回線と共有
※親回線が5Gギガホの場合は30GBまで
(30GB超過時は最大3Mbpsに速度制限)
※金額はすべて税込表記。税抜表記は公式Webページ「報道発表資料 : 「5G」サービスを提供開始 | お知らせ | NTTドコモ」をご確認ください。

as-122-003
キャンペーンによってユーザー離れを抑えたいNTTドコモ


KDDIは、定額制プランの「データMAX 5G」と従量制プランの「ピタットプラン 5G」の2つが主軸。NTTドコモ同様に各種キャンペーンでの割引施策を行うことで割安感を出しつつ、最大のメリットはデータMAX 5Gが容量無制限という点です。

しかし、注意点はあります。データMAX 5Gではテザリング利用時に30GBまでという上限があり、上限を超えると最大通信速度が128kbpsに制限されます。超高速通信が売りの5Gで128kbpsに制限されるというのも極端な話ですが、テザリング利用が多い人は留意しておくべき点でしょう。

プラン月額料金利用可能な月当たりの高速データ通信容量通話料コンテンツ
ピタットプラン 5G4,565円〜1GB別途
22円/30秒
(家族間通話無料)
※通話定額(月額1,870円)と通話定額ライト(月額770円)のオプションあり
なし
6,215円〜4GB
7,865円〜7GB
データMAX 5G9,515円使い放題
※テザリングなどでは30GBまで
データMAX 5G Netflixパック10,615円使い放題
※テザリングなどでは60GBまで
Netflixベーシックプラン
TELASA
データMAX 5G ALL STARパック12,265円使い放題
※テザリングなどでは80GBまで
Netflixベーシックプラン
TELASA
Apple Music
YouTube Premium
※金額はすべて税込表記。税抜表記は公式Webページ『データ使い放題で人気エンタメコンテンツがセットのau 5G料金プラン「データMAX 5G ALL STARパック」などを3月26日以降に提供開始 | 2020年 | KDDI株式会社』をご確認ください。

as-122-004
他社と比較して各種キャンペーンや割引施策が多く、料金体系が複雑な印象のKDDI


3社の中で最も分かりやすい料金施策を打ち出しているのはソフトバンクです。同社は5G料金として別途プランを用意せず、4G向けのプランに月額1,000円のオプション「5G基本料」を追加することで利用できるようにしています。

また、5G普及施策として、5G基本料が2年間無料になる「5G無料キャンペーン」(申込不要)を、2020年8月31日まで実施します。この条件が適用されるのは、

・「基本プラン(音声)」「基本プラン(データ)」のいずれかに加入すること

・「データプランメリハリ」「データプランミニフィット」「データプラン1GB(スマホ)」「データプラン1GB(ケータイ)」「データシェアプラス」のいずれかに加入すること

このようになっており、8月31日までに上記プランへ加入することで、自動適用される仕組みです。

新プランではなく4G向けプランの条件がそのまま適用されることから、例えばデータプランメリハリの場合は50GBの容量上限があるものの、YouTubeやAmazonプライム・ビデオ、Huluなどの動画配信サービスや、Twitter、LINE、InstagramなどのSNSでのデータ通信をカウントしない「カウントフリー」を採用しており、これらのサービスを頻繁に使う人には事実上の無制限に近いプランとなります(ただし、時間帯による速度制御あり)。

as-122-005
ソフトバンクの料金プランは比較的分かりやすいが、若干クセがある印象だ


各社共通している点としては、5G向けとして定額制と従量制のプランを用意しつつ、各種キャンペーンなどの割引施策によって実質利用料金を下げる工夫をしている点ですが、その施策や利用可能な容量などは大きなバラつきがあり、2010年代半ばまでの4G向け料金プランのような横並び感はほとんどありません。

こういった状況となった背景には、総務省による料金施策への介入や値下げへの度重なる強い要請、さらには2019年10月の電気事業法一部改正が大きな要因として挙げられます。

前向きに考えるならば、正しい市場競争状態へと突入したことになりますが、それだけにユーザーは自らのモバイル通信の利用状況を正しく判断し、適切な通信キャリアと料金プランを選択しないと大損する可能性が出てきたとも言えます。

as-122-006
データプランメリハリなどは、動画をあまり見ない人やSNS利用の少ない人には無駄なプランとなってしまう


■5Gをアピールしたくてもアピールしづらい各社のジレンマ
NTTドコモによるデータ通信容量無制限の実質無期限化や、ソフトバンクの5G無料キャンペーンなどの背景には、5Gエリアの構築がまだまだ進んでいない状況に対する「先行投資ユーザーへの優遇措置」の一面もあります。

どんなに魅力的な料金プランを打ち出せても、それを使えるエリアがなくては何の意味もありません。事実、NTTドコモは自社の5Gエリアを「スポット」と表現するほどにエリア展開地域が少なく、一般ユーザーが全国の主要都市部で常時使えるような環境を整えられるのは2021年3月末頃、つまり1年後だとしています。

as-122-007
都市部以外の広域で利用可能になるのは2022年に入る頃だと思っても良いかも知れない


ソフトバンクやauの対応エリアも同様であり、2020年3月末時点でのエリア展開はスポット的で、広く「エリア」として利用可能になるのは1年後あたりであると考えて良いでしょう。

ソフトバンクが5G専用の料金プランを設定せず、4G向け料金プランへのオプション扱いとした点は、こういったエリア展開的なアピールの難しさの現れとも言えます。

5Gスマホに買い替えたのに5Gの電波を全然掴めない、割高な5Gの料金プランにしたのにその恩恵がない、そのような批判を回避するための施策が必須となる時期でもあるのです。

as-122-008
各社の5Gエリア展開状況。詳細は以下のPDFファイルへのリンクを参照


・NTTドコモ:5G通信利用可能施設・スポット一覧(2020年3月末時点)
・KDDI:au 5G 対応エリア(2020年3月末予定)
・ソフトバンク:SoftBank 5G 対応エリア(2020年3月31日予定)

また、5G端末のラインナップがなかなか進まない現状も、「5Gを大々的にアピールしたいがアピールしづらい」というジレンマの原因の1つです。

現在国内の移動体通信事業者(MNO)から販売されている5Gスマホの機種は、冒頭でお伝えした

・シャープ製「AQUOS R5G」(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)
・サムスン製「Galaxy S20 5G」(NTTドコモ、KDDI)
・ZTE製「Axon 10 Pro 5G」(ソフトバンク)

※カッコ内は販売している通信キャリア

この3機種で、その他の機種については4月下旬から6月以降の発売となっており、ラインナップとして若干心許ない状況です。

5Gのスタート時期や技術的要件が1~2年前には確定していたことを考えても、サービススタート時点でのラインナップがここまで揃わないことは筆者的にも意外でした。

現在世界で猛威を振るう新型コロナウイルスの諸問題も含め、生産への影響なども少なくない状況だけに、発売時期が遅れてしまったメーカーも多々あると思いますが、現実として「端末がなければ何も始まらない」わけで、その点でもサービススタートが盛り上がらない原因になってしまった印象です。

as-122-009
3月24日に行われたauの5G端末タッチ&トライでは、ZTEの端末(ZTE a1)はモックしかなく、Xiaomiに至っては準備が間に合わずモックすら展示されていなかった


■爆発的普及のカギは「ミドルレンジ」と「iPhone」
エリア展開と端末不足に悩まされる5Gの現状ですが、その打開時期や普及のカギを握るのは「ミドルレンジ端末」と「iPhone」であると筆者は予測します。

現在発売されている、もしくは発売を予定している端末の多くはハイエンド機種であり、価格は9万~11万円前後と非常に高額です。メーカー別シェアを見ても現在発売されている機種が大きなトレンドを生むことは少ないと思われます。

しかし、例えばZTEが準備している「ZTE a1」はミドルレンジスペックの5Gスマホで、その価格は未定ながらも「十分に驚いていただける価格になる」(展示会担当者談)と話しており、一般的なミドルレンジスマホの価格帯に抑えられる可能性は十分にあります。

価格が高くとも最先端の技術を手にしたいと考えるアーリーアダプター層にだけ売れているうちは、普及とは言えません。コストパフォーマンスが良く価格的な魅力で訴求する端末が出てきて、初めてトレンドやブームは生まれます。

現在のところ、ZTE a1以外のミドルレンジ端末が各社のラインナップにない点は非常に残念です。その点でも「5Gはまだ試験運用段階」と考えざるを得ず、各社が本格的な普及を図る段階と考えていないことが察せられます。

as-122-010
5Gスマホが「当たり前」の世界になるには、もう少し時間がかかる


そしてやはり、世間的な注目度も含めて重要な位置付けにあるのが「iPhone」です。

今年も例年通りであれば秋~冬に、新型コロナウイルスに関連した生産遅延などで2021年にずれ込むかも知れないとの噂もありますが、いずれにしても新型iPhoneが登場する頃には5Gエリアの整備もかなり進んでいるものと思われます。

iPhoneおよびアップル製モバイル製品の市場シェアが一際高い日本市場において、5G普及を牽引する機種となることは間違いありません。

例えばAndroidスマホも全体としてのシェアは非常に大きくなり、各社の調査結果を見ても、いずれも約半数がAndroidスマホであることが伺えます。しかし同一ブランドや同一メーカーの端末という点で見ると、iPhoneシリーズが45~50%前後であるのに対し、AndroidスマホではソニーのXperiaシリーズの15~20%弱が最大で、その後にシャープのAQUOSシリーズやサムスンのGalaxyシリーズが続く形です。

いわゆる流行やトレンドを生み出せる、同一ブランドでのブーム化がデバイス技術やインフラ技術の普及のカギであることは間違いありません。5Gもまた、こういったトレンドリーダーとしてのiPhoneや、そこに牽引される形で追随するコスパ重視のミドルレンジスマホこそが、5G普及の真の立役者となるでしょう。

as-122-011
5G対応の次期iPhoneはノッチがない完全フルディスプレイ仕様になるとの噂もあるが、果たして……


■今は5Gの「真の戦い」に備える時
MNO各社がTVCMやウェブ広告などでセンセーショナルに5Gを宣伝する一方で、各社の施策や端末戦略、そして前回のコラムでも解説した5Gに用いる電波の周波数特性などを精査してみると、そこには「5Gを推したくても推しきれないジレンマ」が見えてきます。

エリア展開が十分になれば、5Gが夢のような世界を構築するであろうことは想像に難くありません。しかし今はまだその環境整備段階です。本来であれば十分なエリア構築が完了してからサービスを開始すべきなのかも知れませんが、各社の熾烈な競争の中で、そういった猶予こそほとんどないのが実態です。

先行して発売されたハイエンド機種を予約してでも購入しようというアーリーアダプター層はともかく、一般層はまだ様子見で問題のない時期です。少なくとも、各社の5Gスマホが出揃い、その価格や評価が落ち着く夏までは慌てる必要はないと思われます。

今は5Gに対して期待しすぎるでもなく失望するでもなく、ただその推移を見守る時期です。筆者の勘では、その大きな勝負どころは今年の年末商戦ではないかと予想していますが……果たしてどうなるでしょうか。

5G時代に向けた新サービスや新コンテンツの充実も含め、各社の「仕掛け時」が気になります。

as-122-012
5Gの特性を活かした大容量コンテンツの充実もまた、普及の大きなカギになるだろう








記事執筆:秋吉 健


■関連リンク
エスマックス(S-MAX)
エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter
S-MAX - Facebookページ
連載「秋吉 健のArcaic Singularity」記事一覧 - S-MAX