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グーグルのNexus 7

日本でもこの秋から販売が始まったグーグルタブレット「Nexus 7」の評価がじわじわと高まっている。タブレット市場はアップルのiPadの一人勝ちが続いているが、Nexus 7の登場で7インチタブレット市場が大きく盛り上がりそうだ。

タブレット市場で圧倒的な存在感を示しているアップルの「iPad」。全世界での販売シェアは60%を超えており、Android OSのタブレット新製品が多数登場する中にあってもライバルたちを寄せ付けない強さを保っている。

最近では企業での導入も加速化しており、航空会社が紙のマニュアルを廃止してiPadを採用したり、飲食店では電子メニューや注文受注端末としてiPadを利用したりする動きが進んでいる。ABI Researchによれば2012年第2四半期の世界のタブレット出荷台数は2500万台、前年同期比で77%増だが、そのうちiPadは1700万台に達している。

iPadが先行しているタブレット市場だが、スマートフォン市場同様、Android OS端末がiPadのシェアを侵食し始めている。特に今年夏以降はグーグルのNexus 7に続き、9月にアマゾンが「Kindle HD」を市場に投入。

250ドルを切る低価格で大きな話題となり、各国のタブレットセールスの上位に顔を出し始めている。また10月頭に「Pew Internet & American Life Project」が発表した報告によれば、アメリカの成人の4人に1人がタブレットを所有しており、iPadが過半数の52%であったもののAndroidタブレットは48%と両者の差は大きく縮まってきている。

とはいえ、Androidタブレットの内訳を見ると、実はKindle Fireが4割以上を占めているのだ。しかもKindle Fireは初代製品が発売されてからまだ1年しかたっておらず、わずか1年で全タブレットの21%ものシェアを獲得するほどの人気を得ている。11月には8.9インチ版 Kindle HDも発売が予定されており、Kindleタブレットの販売台数はこの冬のクリスマスシーズンにはさらに伸びていくだろう。

このKindleの躍進は、アップルよりもむしろAndroidタブレットメーカーにとって大きな脅威となる。Kindle FireとiPadは実はターゲット層が異なる製品であり、両者の購入層はバッティングしないのに対し、Androidタブレットは各社が7インチから10インチの製品をラインナップしてはいるものの、10インチではiPadに対抗しうる製品は無く、売れ筋である7インチ部門でKindleに市場を奪われ兼ねないからだ。

グーグルにとっては自社サービスの利用増加が収益につながるため、Android端末そのもの販売台数にこだわる必要が無い。しかもスマートフォンのOS別シェアでは、すでに過半数以上を握っている状況だ。しかし今後に目を向けると、PCからの代替や、電子書籍、ビデオ配信端末としても大きな成長が見込まれるタブレット市場が、このままではアップルとアマゾンによってエコシステムの主導権を握られてしまうだろう。スマートフォンOSにおけるシェア争いが落ち着いた今、グーグルが次に必要なのはタブレット市場の建て直しなのだ。

グーグルが今年3月にアプリケーションマーケットの名称を「Google Play」に変更したのも、アプリだけではなくゲームや電子書籍、ビデオなどのコンテンツ配信を見込んでのものであり、これはタブレット市場の覇権獲得を見据えての布石だったのだろう。そして次の一手は、Google Playのコンテンツを利用するためのハードウェアの販売と拡大が必要となるわけだが、iPad、Kindleという2大ブランドがタブレットの代名詞となっている中で、既存メーカーが自社タブレットを低価格で市場に投入したとしても消費者の目を引き寄せるのは難しい。こう判断するの当然の流れだろう。

そこでグーグルは、これまでスマートフォンのリファレンスもモデルのブランドとして使っていた「Nexus」の名前をタブレットにも付与したのだ。それが日本でもこの9月から販売が始まったASUS製のNexus 7だ。しかし、Nexus 7はNexusスマートフォンのようにハイスペック、最新技術をフル搭載するといった性質の製品ではない。Nexus 7は、コストパフォーマンスに優れ、誰もが購入したくなる製品を目指したものである。すなわちグーグルが考える「これからの売れ筋タブレット」の基本モデルがNexus 7なのだ。

グーグルがこのようにインチタブレットを重要視する姿勢を明確に現したことから、今後Androidタブレットメーカー各社は10インチよりも7インチ製品を強化し、Nexus 7をお手本にした製品を矢継ぎ早に投入してくるだろう。

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中国で早くも登場したiPad miniと見られる非公式のモックアップ。果たして本当に発売されるのだろうか?


一方、アップルも黙ってこの状況を見ているわけではなく、この冬には7インチサイズのiPad miniを用意していると言われている。アップルは圧倒的に高いブランド力を持っており、製品を含めたエコシステムの完成度の高さも他社を寄せ付けない。すなわち、たとえ価格がAndroidタブレットより割高でも十分な競争力を持っているのだ。

アップルの前CEO、故スティーブ・ジョブズ氏は7インチは作らないと発言していたが、そのころはまだKindleタブレットは存在していなかった。だがアップルは電子ブックリーダー端末しかまだ販売されていない時代からアマゾンの動きは常に注視しており、7インチタブレットの重要性もKindle Fireの登場前後から気が付いていないわけがない。iPad miniが本当に登場すれば、7インチタブレット市場は競争が激化し、大きな市場として確立していくことになりそうだ。

アンプル、グーグル、アマゾンといった先行する勢力の競争の中で、タブレットの製造原価は年々下落しており、中国メーカーによる格安な製品が次々と登場している。しかも無名メーカーの粗悪品だけではなく、OEM/ODM専業メーカーによるしっかりとした品質の製品が通信事業者ブランドとして発売される例も増えてきている。

最近では秋葉原でも中国製のタブレットが1万円を切る価格で販売されているが、中国本土では5000円クラスの製品が増えているなど、価格破壊が予想以上に加速化していく兆候が現れている。すでに述べたようにブランド力が確立されているiPad、Kindle以外の製品では、今後は低価格な製品も視野にいれなくてはならず、タブレット市場の競争は品質と価格の両面から激化していくだろう。

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新興国でもタブレット需要が伸びる。中国製の低価格な製品も増えている


タブレットの出荷台数はこれからも毎年10-20%の伸びが予想されている。競争は激化する一方だが、全体のパイが広がることでスマートフォン市場のように、新規参入メーカーが一定の販売数を確保するチャンスもまた広がっており、日本メーカーにも大きなチャンスともいえるだろう。

すでに、日本メーカーも東芝などは海外市場でタブレットを販売しているが、NECが日本向けに販売している世界最軽量、249gのMEDIAS TAB UL(N-08D)のような日本ならではの技術力を誇示できる製品が海外市場に投入されていないのは残念なことである。タブレット市場はこれから各社が本腰を入れ始める時期だけに、日本メーカーにも積極的な展開を期待したいものである。

記事執筆:山根康宏


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