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スマホ向けインディーゲームの楽しさについて考えてみた! |
酷く暑かった夏が終わり、台風が過ぎ去る度に涼しくなっていく今日この頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか。9月~10月は連休も多く、まさにこのコラムが掲載される(であろう)今日もまた3連休の只中です。
連休を利用してレジャーに行く方も多いかと思いますが、中には家でゴロゴロ、のんびりと過ごしたいという人も少なくないはず。そんな時の良い暇つぶしこそがゲームです。とは言え埃のかぶった家庭用ゲーム機を引っ張り出してくるのも面倒ですし、スマートフォン(スマホ)ゲームを……と思っても、課金ガチャを必要とするものはお金が掛かりすぎて暇つぶしにはイマイチ向きません。
ということで、筆者がオススメしたいのがスマホ向けのインディーゲームです。いつでもどこでもスマホ1つで手に入り、多くの課金を必要とせず、ちょっとした空き時間で遊べるゲームのことです(インディーゲームの定義ではありません)。ここ数年、こういった暇つぶしに適したインディーゲームが盛り上がりを見せており、ジャンルとしても非常にホットな環境になりつつあります。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はそんな秋の暇つぶしに最適なインディーゲームの世界や市場環境、そしてこれからの展望について考えてみたいと思います。
■「課金ガチャ」の息切れ
はじめに現在のスマホゲーム市場の動向や状況を見てみましょう。Gzブレインが6月に発刊した「ファミ通ゲーム白書2018」のプレスリリースによれば、全世界のゲームコンテンツ市場の規模は2017年に初めて10兆円の大台を突破し、日本国内のゲーム市場で約1兆5000億円に、そして日本国内におけるゲームアプリ市場の規模も約1兆円と、非常に好調な推移を見せています。
とくにゲームアプリ市場の規模で言えば、中国・韓国の合計が約2兆円、北米が約1兆円、欧州が約5000億円の規模であることを考えると、日本のゲームアプリ市場はユーザー単位の課金額の多さが伺えます。
そんな景気の良い調査内容がある一方で、今後の市場成長を不安視する声もあります。スマホ向けゲーム「パズル&ドラゴンズ」(パズドラ)で未だにロングランセールスを続けるガンホーの森下一喜社長は、7月に行われた決算説明会で同アプリの苦戦とともに「今のスマートフォンゲームはレッドオーシャンを超え、ブラックオーシャンとなっている」と語り、新作ゲームがヒットに結びつかない苦境を吐露しています。
年間では伸び続けているゲームアプリ市場ですが、四半期ベースでは前期を下回るメーカーが増えており、その成長ペースに陰りが見え始めているのです。一体ゲーム市場に何が起きているのでしょうか。
原因となる理由はいくつか考えられますが、1つのゲームが長くセールスチャート上位に居座ることによって他のゲームの宣伝機会や知名度向上の機会を奪い、結果として市場全体の萎縮を生んでしまうことは大きなデメリットです。
ゲーム内課金によって市場全体の見かけ上の売上高は伸び続けていたとしても、新しいゲームアプリ本体が誰にも知られなくなり売れなくなってしまっては、参入メーカーが減少し市場が縮小・自滅してしまいます。
もう1つの大きな理由がスマホユーザーの「課金疲れ」です。いわゆる「課金ガチャ」と呼ばれるゲーム内アイテム課金型の場合、消費アイテムやキャラクターデータに課金が行われます。それによってプレイヤーはゲームを有利に進めゲームメーカーは収益を上げるというシステムが構築されますが、その収益力の高さ(≒課金の容易さ)からゲームメーカーがユーザーの射幸心を煽り、1つのゲームで長期間多額の収益を上げることに執着した結果、ユーザーが課金に疲れゲーム自体にも飽き始めているのです。
■暇つぶしのためのゲーム
そのような中で再び注目を集め始めているのが買い切り型や緩い課金要素を採用したインディーゲームアプリです。明確な線引や定義があるわけではありませんが、インディーゲームとは1名~十数名程度の小規模な開発体制によるゲーム市場のことであり、いわゆる大手ゲームメーカーのように数十人~数百人体制で開発を行ったり、外注による分業化が進んだ開発体制および市場を指すものではありません。
インディーゲームの特徴は非常に分かりやすく「娯楽としてのゲーム」に徹している点です。ゲーム自体のボリュームや長時間プレイによる攻略要素には重点を置かず、1つのアイデアや単純明快なゲーム性で勝負しているゲームがほとんどであり、短期決戦的、あるいは言葉は悪いですが「一発屋」的なゲームが多く見られます。
しかしそれらのゲームにはどこか懐かしさを感じます。そう、まるでファミコンやスーパーファミコン時代のゲームのように、オンライン対戦などが存在しないゲームが持つコンパクトな楽しさがそこにあるのです。
インディーゲームを初めて遊んだ人の中には、「ゲーム内容が単調で薄い」、「すぐにゲームが終わってしまう」、「シナリオが短すぎる」と不満を持つ人もいますが、それで良いのです。インディーゲームの楽しみ方は「暇つぶし」。15分や30分といった少しの息抜きとして遊ぶのに適したゲームバランスこそが最大の魅力であって、何時間もかじりつくように遊ぶものではないのです。
人々が課金ガチャに疲れ、同じゲームをひたすらに遊び続けることにも疲れはじめた今、1つのゲームに数千円や数万円を毎月課金するくらいなら、たくさんのミニゲーム的なアプリに数百円払ったほうが楽しいと感じているのは事実でしょう。

基本的に「眺めるだけ」の不思議なゲーム「旅かえる」。iOS/Android向けで基本無料のゲーム内課金型だが課金要素はとても薄い
■インディーゲーム開発者の苦悩
そんなミニマル的発想で人々の心を掴み始めたインディーゲームですが、その開発にはそれなりの苦労があるようです。まず問題となるのは開発資金です。大手ゲームメーカーであればゲーム開発ラインを複数並べ、順次リリースできるように調整することで継続的な開発体制を敷けますが、人数も資金も限られているインディーゲームメーカーでは同時に1~2種類のゲームを開発するのが精一杯です。
その上、インディーゲームの多くは買い切り型な上にゲーム内課金要素に乏しく(というかゲーム性から意図的に排除している場合が多い)、収益の継続性に苦慮することがほとんどです。
この収益性の低さを補完するものとして、課金要素の代わりにゲーム内広告をユーザーに視聴してもらうことで広告収入を得る「ゲーム内広告」モデルがよく用いられますが、やはり直接的なゲーム内課金よりも利益率は低いため、大きく儲けて次のゲームの開発原資にする、といった大胆な経営戦略を立てづらいのも実情です。
そして何よりもゲーム開発者を悩ませるのは知名度の低さとメディア露出の難しさです。大手ゲームメーカーであれば新作ゲームは発表時点から注目され、いくつのもゲーム系ニュースメディアなどで紹介されますが、インディーゲームメーカーのほとんどはそういったメディア露出の機会がありません。メーカーとしての知名度の低さも然ることながら、ゲームを宣伝し売り込む場がそもそもないのです。
こういった状況にメスを入れようとしているのがGoogleです。同社はインディーゲームを集め優秀作品などを選考・表彰する「Google Play Indie Games Festival」を毎年開催しており、今年は日本でも初開催されました。Googleや協賛企業がインディーゲームメーカーを後押しし、販売プラットフォーム(Google Play)上でGoogle自らが宣伝することでその知名度やユーザーへの露出頻度を上げようというのが狙いです。
これらの試みが成功しているのかどうかは未知数ですが、しかし確実にインディーゲームというジャンルは人々に知れ渡りつつあります。奇しくもプレイステーション4やニンテンドースイッチといった家庭用ゲーム機のプラットフォームにおいてもダウンロード販売というスタイルでインディーゲームは市場を形成しつつあり、またPCゲーム市場においてもSteamやWindows Storeなどでインディーゲームアプリは常に人気のジャンルとなっています。

ニンテンドースイッチ向けのACT「Wonder Boy: The Dragon's Trap」。往年の名作「ワンダーボーイ」をリメイクした作品で、2017年に口コミなどからじわじわとセールスを伸ばしていた
■ゲーム本来のあるべき課金方式へ
「基本無料の課金ガチャゲー」というスマホゲームのスタイルに人々が熱狂し、そして疲れ始めた2018年。9月に幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2018」においても2~3年前までのようなスマホゲームの勢いは陰りを見せ、再び家庭用ゲームやPCゲームが復権してきたように感じました。
ゲーム内課金というスタイルを否定したいわけではありません。むしろ無料や低価格から体験版的にゲームに触れることができ、そのゲームをさらに継続して楽しませる要素としてゲーム内課金が存在する収益システムはゲームメーカーにもユーザーにもメリットのある良い仕組みだと思います。しかしそれが「ゲームを楽しませるための課金」ではなく「ガチャを回させるための課金」となってしまった現状が歪んでいると感じるのです。
海外においても今年に入ってから課金ガチャ(ルートボックス)を規制する動きが活発化し、大手ゲームメーカーが制作するいわゆるAAAタイトルからも課金ガチャの仕様が削除されたり縮小するといった流れが加速しています。インディーゲームメーカーによる努力のみならず、こういった仕組みづくりからも過度なゲーム内課金方式からの脱却を図るべき時期なのかもしれません。
インディーゲームについて知っていた方も知らなかった方も、気分転換と連休の暇つぶしにスマホのアプリストアを覗いてみてはいかがでしょうか。名前も知らないゲームアプリのレビューが意外と高評価だったりすることは多々あります。10連ガチャに3,000円を投入するのも悪くないですが、1回数百円のゲームアプリガチャをしてみるのも面白いかもしれません。
記事執筆:秋吉 健
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