KDDIが2022年に予定しているCDMA 1X WINのサービス終了について考えてみた!

先週、KDDIおよび沖縄セルラー電話が移動体通信事業者(MNO)サービス「au」の第3世代移動通信システム(以下、3G)サービス「CDMA 1X WIN」(CDMA2000 1x EV-DO方式)を2022年3月末でサービス終了するとの報を目にしました。業界関係者のみならず、かつてCDMA 1X WIN対応ケータイなどを利用していた人には、少なくない衝撃と感慨を呼んだのではないでしょうか。

CDMA 1X WINはNTTドコモのFOMAとともに3Gサービスを牽引し、通信業界の発展に寄与してきた輝かしい実績を持つ通信サービスであるとともに、この規格が故にその後のauの苦戦も招いた「悩みのタネ」でもあったというのが筆者の印象です。

トップ画像に写っているケータイ(フィーチャーフォン、いわゆる「ガラケー」)の「INFOBAR 2」とスマートフォン(スマホ)の「INFOBAR A01」は、いずれもCDMA 1X WIN対応端末でした。CDMA 1X WINはこういったデザインケータイとともにあった通信サービスでもあり、通信サービス(通信規格)とデザインという2つの要素がauというサービスの「色」を決定付けてきたのだとも感じます。

そこで今回の感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載「Arcaic Singularity」では、CDMA 1X WINの歴史や思い出を振り返りつつ、auの考える通信の未来について考えます。

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ケータイやスマホをただの道具ではなく、早くからファッションとして扱ったau


■早いエリア展開と端末の高いデザイン性で成功したau
まずはCDMA 1X WINというサービスの歴史を紐解いてみましょう。auでは第2世代通信(2G)サービスとしてCDMA方式を採用し、「cdmaOne」というサービス名で1998年よりサービスを提供していました。

その後いよいよ高速通信を主体とした3Gサービスの時代へと突入する際、auはCDMA方式と互換性が高く、既存の基地局や回線を流用しやすい「CDMA2000 1x MC」という方式を採用して「CDMA 2000 1x」というサービスを2002年に開始します(その後すぐに「CDMA 1X」とサービス名を変更)。当時は各社がサービス提供エリアの広さを競っていたこともあり、如何に低コストで素早く広範囲のエリアをカバーできるかが大きな焦点だったのです。

同じく3Gサービスとして登場したNTTドコモのFOMAが、エリアの狭さや端末の大きさなどの欠点もあってスタートダッシュでつまづく中、それまで後塵を拝していたauにとっては大きな逆転のチャンスでもありました。そのため通信規格の高速性や先進性を大きく喧伝するよりも、より堅実にエリアの広さや端末のデザインで人気を集めようとしたのです。

そしてついに、上位サービスとなる「CDMA 1X WIN」が2003年に登場します(2012年にはCDMA 1Xとともに「au 3G」とサービスを改名)。CDMA方式から脈々と継がれる互換性によってエリア展開も早く(CDMAエリアでは当然ながら通信速度は遅かった)、オシャレなデザインの端末を数多くラインアップすることで大躍進を遂げたのです。これが当時「au=デザインの良いケータイ」というイメージを定着させた最大の成功でした。

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CDMA 1Xに対応するデザインケータイ「talby」。当時このファッションアイテムのようなデザイン性は携帯電話業界にはあり得なかった


■コスト&後方互換性優先の戦略が仇となった
しかし後方互換性を優先し低コストに素早くエリア展開した戦略が、その後緩いボディブローのようにじわじわとauを苦しませます。

さらに時代が進み第4世代通信(4G)サービスを導入する際、auは当初CDMA2000 1xでの成功に習い、CDMA2000 1x系の方式と親和性の高いUMB(Ultra Mobile Broadband)方式の採用を検討していました。これによって再び素早いエリア展開を行い高いアドバンテージを維持する戦略でしたが、通信モジュールの量産コストや世界シェアなど数多くの理由から、他社と同様のFDD-LTE(LTE)方式を採用します。

今度はここでauがつまづきます。NTTドコモやソフトバンクは3G方式としてW-CDMAを採用しており、LTEを用いた通信を行っている最中にもシームレスにW-CDMA方式へと接続が切り替えられ通話が可能でした。

ところがauの採用するCDMA2000 1x方式ではLTEとの相性が悪く、4G通信から3G通信へとシームレスな切り替えができず、通話中にデータ通信でオンラインマップを確認したり、メール受信して内容を確認するといった使い方ができませんでした。

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実利用で不都合が出るほどではなかったが、他社より扱いづらいという印象は拭えなかった


この弱点を克服するため、auは音声通話もLTE回線を利用する「VoLTE」の導入とエリア展開を急ぎます。VoLTEは高品質な音声通話が最大のメリットですが、通話中などにLTE回線のままデータ通信が行なえる点も、モバイルインターネット全盛となった今は大きなメリットとなります。

auはフィーチャーフォンでも早々にVoLTE対応を進め、3G回線からの早期撤収を図っていました。そのため2022年でのサービス終了という流れは、むしろ「結構猶予を持たせたな」という印象すらあります。

auから発売されている端末自体は2015年後半~2016年頃よりほぼ全てがVoLTE対応となっているため、それから6~7年後となる2022年まで猶予期間を設ける理由があるとすれば、恐らく端末よりも基地局側のエリア対応が万全となるまでの時期を見越したものと思われます。

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2015年に発売された同社初のVoLTE対応フィーチャーフォン「AQUOS K SHF32」


■「有限資源」を最大限に活用するための「一旦の閉幕」
cdmaOneでは下り最大64kbpsを実現し、CDMA 1Xでは下り最大144kbps、CDMA 1X WINでは最終的に「WIN HIGH SPEED」(CDMA2000 1xEV-DO Rev.A+)まで拡張し、下り最大9.3Mbpsまで向上させました。この規格拡張の際も通信モジュールのコストとの兼ね合いから、さらに高速な「Rev.B」という方式の採用を見送った経緯があります。auの通信回線は常にコストとの戦いだったと言っても良いでしょう。

【2018年11月29日 訂正とお詫び】
記事公開時、WIN HIGH SPEEDの通信速度について下り最大3.1Mbpsと表記していましたが、正しくは下り最大9.3Mbpsの誤りです。訂正しお詫び致します。


2022年と言えば、同社としてはすでに第5世代通信(5G)サービスを正式に開始して2年が経つ頃です。10Mbpsどころか100Mbpsでも遅いと呼ばれるような時代に、もはやCDMA方式の居場所はありません。

とくに一連の3Gサービスで同社が利用してきた電波の周波数帯域の一部は、一般的に「プラチナバンド」や「ゴールデンバンド」と呼称される800MHz帯です。電波の回折特性や屋内浸透性、小型機器へのアンテナ実装の容易さなどから希少価値の高い周波数帯域としてそのような呼び方をしますが、まさにそのプラチナバンドこそ5G時代に有効活用したい帯域なのです。

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auは「通信とライフデザインの融合」を掲げ、5G時代へ邁進する


一般にあまり理解されていませんが、電波は「有限資源」です。1つの周波数帯域に収容できる通信規格や通信容量は限られており、さらに端末の接続数も有限です。モバイル端末によって人々が常時繋がり続けていることが当たり前となった今、この有限資源をどこまで効率的に利用するのかが大きな課題です。

CDMA 1X WINで利用していたプラチナバンドを回収し、同社の4Gサービスである「au 4G LTE」の主力回線として最大限に活用するのが同社の戦略です。4Gは5Gに淘汰されるものではなく、並列して利用されていく技術だからです。

一般的なモバイルエンターテインメントと通話サービスは4Gで、ハイクオリティと先進性が要求されるコンテンツは5Gで。周波数帯の利用法1つからも、通信キャリアの考える未来のサービス戦略が透けて見えます。

かつて筆者は、カシオ製の「W51CA」という端末を愛用していました。大ヒットした名機「W41CA」をさらにスリムにブラッシュアップしたオシャレな端末で、マスコットキャラクターのアデリーペンギンが可愛かったのを覚えています。そのW51CAの背面にワンポイント的に添えられた金属プレートには「WIN」の文字が刻まれており、サービス名を表すとともに、同サービスの「勝利」を示す堂々たるダブルミーニングだと強く感じたものです。

もう手元にないその端末と数年後に終わるサービスへ思いを馳せつつ、本コラムの締めとさせていただきます。

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携帯電話は時を超え、時代を語る


記事執筆:秋吉 健


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