KDDIが4G回線による「スマートドローン山岳救助支援システム」実証実験を実施!

KDDIは11月15日、都内にて「スマートドローン山岳救助支援システム 富士山実証実験」に関する記者説明会を実施。4GLTEのモバイル通信ネットワークを活用した自立飛行する山岳ドローンと、位置情報通知・監視サービスや高精細気象予測システムを活用した、ドローン山岳救助支援システムの実証実験に成功しました。

これに伴いKDDIは静岡県御殿場市と地域活性化を目的とした包括連携協定を締結し、2019年より富士山開山期間に本システムの実運用を目指して取り組んでいくことを発表しました。

ドローンを活用した災害対策などはNTTドコモなども取り組んでいますが、パートナー企業と協業での山岳救助での活用は国内ではKDDIが初となります。記者説明会の模様ととともに本システムとその展望について解説します。

kddi-smartdrone-002
実証実験に使用されたスマートドローン


■スマートドローンで山岳救助における初動を迅速化
これまでの山岳救助の現場では、山岳救助隊による登山や救助ヘリによる遭難者の捜索や位置確認を基本としていましたが、本システムはモバイル通信ネットワークを用いたスマートドローンによって、その初動を迅速化させようというものです。

スマートドローンはその仕組み上、ドローンとコントローラーを直接無線で接続するよりも遥かに遠方まで操縦もしくは自立飛行させることが可能な点が大きな特徴です。

スマートドローンは人が抱えて持てる程度の大きさで、現状では約20分間の飛行が可能としており、片道5分程度、半径約5km程度での活動を予定しているとのことです。

例えば富士山の場合、5合目から頂上までは道のりで7~8km程度となっているため、捜索しながらの飛行でも5合目付近からであれば頂上までの半分程度の距離をカバーできるとのことです。

kddi-smartdrone-003
ドローンに搭載された高精細カメラで遭難者を捜索


kddi-smartdrone-004
近年の登山ブームやインバウンド(訪日外国人観光客)の増加に伴い山岳遭難者数も急増


kddi-smartdrone-005
遭難者の早期発見が救助成功への最大の近道となる


■パートナー企業との協業によって生まれたシステム
本システムの実証実験成功の背景には、パートナー企業が持つ高い技術や長年のノウハウがあります。遭難者の位置情報の特定には、ヤマップの山岳アプリ「YAMAP」が活用されました。

登山者が携帯するスマートフォン(スマホ)でYAMAPを利用すると、GPSや通信基地局による位置情報から登山者のおおよその現在地点が外部のPCのやスマホから確認できます。

この機能を使い、登山者から連絡が途絶えたり、何時間も登山者が同じ位置から動いていないと判断された場合に救助連絡を入れる判断材料として利用できます。

また、電波が届かない場所でもYAMAPを入れているスマホ同士でBluetoothによるすれちがい通信を行い、登山者同士で情報を共有することで位置情報を送信するシステムも現在開発中です。

kddi-smartdrone-006
YAMAPによる地図情報


kddi-smartdrone-007
YAMAPで取得した位置情報は外部のPCなどから確認できる


kddi-smartdrone-008
YAMAPの地図情報は非常に緻密で正確


kddi-smartdrone-009
YAMAPのユーザーは100万人を超えている


気象予測システムにはウェザーニューズのシステムが活用されました。ウェザーニューズは既に日本国内で33年の営業実績があり、今回採用された高精細気象予測システムにも同社の長年のノウハウが生かされています。

一般的な気象予測システムの場合、その予測範囲(メッシュ)の解像度は1km四方や2km四方といったものが多くありますが、今回の実証実験では250m四方という非常に小さなメッシュを実現。さらに高度による予測も10m単位と細かく行うことで、変わりやすい山の天気や風速などをより正確に把握できるようになりました。

また最小予報単位も10分後からとなっており、9時間後までの長時間予報にも対応している点も特徴の1つです。

kddi-smartdrone-010
標高情報や河川の地形などにも対応する


kddi-smartdrone-011
高精細気象予測システムは全国で利用可能。その用例は多岐にわたる


■メリットの多いドローン活用だが課題もあり
このように、遭難者が最後に発信したGPS情報や気象予測を基に、捜索飛行が可能で、なおかつ安全な地点までスマートドローンを運び、救助ヘリや救助隊を向かわせる前にスマートドローンによって遭難者を確認するという仕組みは非常に有用ですが、一方で解決しなければいけない課題もいくつかあります。

例えば、4G回線の電波の届かない場所では当然ながら運用が行えません。富士山のように基地局が完備され、遭難の可能性がある範囲までドローンの自立飛行が可能な山はそれほど多くありません。また山によっては樹木が生い茂り、上空から遭難者を確認できない場合もあります。

さらに山岳地帯特有の突風や突然の天候変化への対応状況や、そういった状況で緊急避難させたドローンを再び稼働させる方法なども検討課題として残っています。

2019年のスタートを予定している富士山での実運用は、そういった課題のチェックや洗い出しにも活用していくとしており、説明会ではKDDIと御殿場市による包括連携に関する協定締結式も行われました。

kddi-smartdrone-012
協定締結式を行う、静岡県御殿場市市長 若林洋平氏(左)と、KDDI理事 中部総支社長 渡辺道治氏(右)


KDDIでは今回の実証実験や実運用について「遭難者の状況を判定することが目的ではなく、飽くまでも早期発見のための運行・運用のテスト」であるとしており、かかるコストや料金などは試算中とのことでした。

日本におけるドローンの運用はまだまだ法整備が進んでおらず、山林・河川・海水域などでの災害救助や無人地帯での目視外飛行(いわゆるレベル3運用)については今年ようやく認可が下り始めたばかりで、特区などの例外を除き、有人地帯(第三者上空)での目視外飛行の認可は2020年代前半まで待つ必要があります。

KDDIが敢えて山岳遭難者救助という運用の難しい条件での実証実験へ踏み切った背景には、こういった日本でのドローン関連の法整備の遅れなども関係していると見られ、認可が早く下りる部分からできる限り実証実験を繰り返し、将来のドローンサービスへの地盤固めとノウハウの研鑽をしたいという狙いがあるものと思われます。

kddi-smartdrone-013
将来の本格的なドローン運用に向けた足がかりとなれるか




記事執筆:秋吉 健


■関連リンク
エスマックス(S-MAX)
エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter
S-MAX - Facebookページ