docomoの新料金プランは高いのか、安いのか?実際のケースを想定して考えてみた

既報通り、NTTドコモが15日、突然新料金プラン「ギガホ」および「ギガライト」を発表しました。“突然”というのは比喩でもなんでもなく、筆者の下へ取材案内が編集部を通じて飛んできたのは当日の発表数時間前。

通常であれば各種発表会や記者説明会は2週間以上も前に通知されることが多いため、珍しく編集部に参加を促す電話連絡もあったようで同社としては異例中の異例と呼べる緊急発表でした。

大慌てで支度をして会場へ向かいましたが、そこで発表された新料金プランは、同社が2018年10月31日に開催した決算説明会にて、

「大胆な料金プランの見直し」
「2019年4~6月を目処に同社料金プランをよりシンプルで分かりやすいものへ改定」
「月額料金についても2割~4割程度下げる予定」


と語っていたものでした。

新料金プランの具体的な内容についてはこちらの記事を参照していただきたいと思いますが、新料金プラン発表からこのコラムを執筆するまでの数日間で筆者が最も困惑したのは、その内容よりも各メディアの報道の仕方と既存ユーザーおよび一般消費者の人々の反応でした。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はNTTドコモの新料金プランについての評価や報道のあり方、そして一般消費者にとってそのプランがどのような価値を持つのかについて考察します。

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そもそも通信料金の「安さ」ってなんだ?


■新料金プランが注力したのは値下げよりもシンプル化
最も違和感を覚えたのは、新料金プランについて「全然安くない」あるいは「むしろ高くなる。改悪だ」という声でした。これが一般消費者の感覚的な声であれば「精査していないなら当然そう感じるかもしれない」と考えられましたが、こういった声は報道関係者や著名なモバイル系ジャーナリストの人々からも聞かれ、質疑応答でも質問が飛び交っていたのです。

もちろん、そういった声による質疑があったおかげでNTTドコモ側より、

「月々サポートを利用中のお客様は月々サポート終了後にプラン変更したほうが安くなる場合が多い」
「月々サポート終了までは現状のプランをお使いいただいたほうが良い」

といった回答を得られたわけで、すべてが悪いとは考えませんが、質問の仕方が適切であったのかはいまだに思案しています(NTTドコモ側の説明が悪すぎたとも言えますが)。

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発表会の設定から発表内容まで、同社らしからぬ準備不足を感じた


まず、今回のNTTドコモの新料金プランの大きなポイントは、

・複雑な選択が必要だった料金体系がたった2つにシンプル化された
・永続的な割引条件もシンプル化し、家族(3親等内)の「みんなドコモ割」への加入数のみに

 (キャンペーンなどによる追加割引策は別途用意される)

という、本当に簡単なプランにまとまった点だと筆者は考えます。

NTTドコモに限らず、現在の移動体通信事業者の料金体系は非常に複雑で、積極的に勉強して裏技的な運用を行う人でもない限り、ほぼ理解されていないというのが実態です。実際に、自分がどのような料金プランに、どのような割引条件で加入しているのか正しく説明できる人が、どれだけいるでしょうか。

業界最大手でもあり、情報通信リテラシーの低い契約者も多数存在している同社だからこそ、契約時に分かりやすく選びやすいプランを、というのが何よりも大前提であったことは間違いないでしょう。

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プレゼン冒頭でこのように示していたが、プランのシンプル化よりも値下げ幅にばかり注目が集まってしまったのは誤算だったかもしれない


■多くの人が新料金プランで安さを実感できるのは数年後から
その上で料金体系を精査してみると、今回の新プランは「通信料金部分のみでは現行プランよりも多くの場合で若干安くなるが、今後の端末購入補助施策が不明であるため、トータルとして高くなるのでは、と不安を感じている人が多い」と、まとめることができます。

例えば現行のプランであれば、端末購入価格の割引(購入サポート)を目的とした月々サポートやdocomo withといった手段が使えたため、通信料金と端末代金の合計として割安感を得られましたが、総務省による「通信料金と端末販売価格の完全分離」の提言および指導に基づくと思われる新料金体系によってこれらの恩恵はなくなり、「見かけ上の支払料金」が値上げされたように感じられるのは仕方がないことです。

この点についてはNTTドコモの失策とも感じられます。なぜ唐突に通信料金体系のみを発表したのでしょうか。同時に端末割引や購入サポートに関連する新プランなどを発表しない限り、消費者から「通信料金は少し安くなるかもしれないけど端末が高くなるのでは結局値上げじゃないか」と思われて当然です。

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長い間端末とのセット販売を推奨しておきながら、端末の割引施策を発表せずに通信料金分だけで比較するのはあまりにもナンセンスだ


この点について、NTTドコモは質疑応答や囲み取材の場で、

「端末購入補助については、今後まったくないというのはお客様的に難しい。現在アイデアを検討中」
「フラッグシップ端末については正価で、となると負担が重くなるため、何らかのお求めやすくなる工夫を検討している」
「(料金区分を)分離したから端末値引はゼロ、などということはない」

と何度も答えていますが、それならばなおさらに端末の割引施策と同時に発表できるまで通信料金体系も発表すべきではなかったのではないか、と考えるところです。

今後は「通信料金は通信料金として、端末代金は端末代金として請求する」という仕組みになるため、前述のように月々サポートやdocomo withなどを利用している場合、それらが満了してから新料金プランへ変更するか、もしくはそのプランを永続的に使い続けるほうが安くなる場合があるのは理解できます。

そのため、NTTドコモ側も

「月々サポートが終了するタイミングで切り替えていただければ問題ない」
「多くのお客様に新プランの安さを実感して頂けるようになるには数年かかる。2年や3年ではない」

と明言しています。新プランが導入されたからと言って、すぐに切り替えれば安くなるというものではないのです。この点について正しく報道しているメディアが少なすぎるため、人々に誤解と不信感を生んでいるのです。

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プレゼン内で説明がなく、質疑応答でようやく新料金プランで「おトクになる」顧客層や時期が明らかになるのはあまり良い発表方法とは言えない


また「4割安くなるのは一部の人だけじゃないか」と憤慨する人々もネット上では少なからず散見されますが(驚くべきことに取材記者の中にもいた)、NTTドコモはそもそも「新料金プランで4割安くなる」とは、過去に一度も公式には発言していません。前述したように、2018年10月の決算の場で「2割~4割程度下げる予定」があると述べたのみです。

顧客全体が平均的に4割安くなるとも、各種割引条件を付帯せずに4割安くなるとも述べていません。これに関しては完全にメディア・リテラシーと報道姿勢の問題であり、発言の一部を切り取って大々的に報じたことで、消費者に誤解とあらぬ期待が拡がってしまったのです。

筆者としてはむしろ「付帯条件はあるにしても、本当に2割から4割程度下がるプランを一部の特殊な条件の人々向けではなく、同社がメインターゲットとする主要顧客層に向けて用意してきた」ことを素直に評価したいところです。

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ギガライトの1GB未満で4割安くなる条件が適用できるユーザーの割合は、NTTドコモのスマートフォン(スマホ)向け通信プラン契約者の約4割にのぼる


さらに、ネット上で「新料金プランで高くなる」と言っている人々の契約形態を調べてみると、1人でシェアパックを複数台契約して1契約あたりの平均支払い単価を下げている人や、一括0円や一括1円などの格安でスマホの購入をdocomo withで契約し、そのSIMカードを別のSIMフリースマホで運用するなど(その2つを併用する方法もあり)、特殊な運用をしている人々が多いことが分かります。

いずれのケースも端末代金の原資を他者の通信料金で賄っていた、これまでのビジネスモデルを利用した「裏技運用」に近く、完全分離プランである新料金プランでそれらが不可能になるのは仕方のないことです。

料金の完全分離と全体的な通信料金の値下げによる減収のしわ寄せが、こういった特殊な運用および契約の排除に向かうことは必然であり、不可避であったと言えます。

端的に言ってしまえば、さまざまな割引や複合契約を駆使して「この端末は実質0円運用だ」と誇ることが健全な契約や健全な通信インフラの利用方法と言えるのか、ということです。

総務省が是正したかった部分こそがここであり、端末と通信インフラの双方で「利用者が利用分の対価を正しく支払う」という姿に健全化したかったのではないでしょうか。

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プレゼンでも「家族の誰がどれだけ通信を利用したか」を明確化する点を強調していた


とはいえ、新料金プランが導入されたとしても過去に契約したプランが強制的に解除されたり新料金プランへ移行されるものではないため、シェアパックやdocomo withを活用して安価に利用していた人は、そのまま使い続けるのが正解でしょう。

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新旧プランを比較精査し、自分の使い方で安くなる方を選択しよう


■果たして現在のMNOは高いのか
次に少々視点を変えて、根本的な問題である「移動体通信事業者(MNO)サービスは料金が高い」という認識について考えてみたいと思います。何を当たり前なことを、と思われるかもしれませんが、その認識は本当に正しいのでしょうか。

NTTドコモも完全分離プランを発表し、いよいよMNO 3社が横並びに近い価格へと落ち着きました。この動きを批判する流れもありますが、数年前までのように高止まりした料金体系の中であるならともかく、現在およびこれからの料金体系で同じように批判し続けるのは少々的外れかもしれません。

MNO各社は、月額3,000円程度(各種割引込みで月額2,000円程度)から始まる従量制プランと、月額7,000~8,000円程度(各種割引込みで月額5,000~6,000円程度)となる定額制プランを用意していますが、これらの料金は果たして本当に高いのでしょうか。

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その料金を「高い」と感じる理由は……?


例えばNTTドコモのギガライトの場合、割引なしで長期契約の場合は月額2,980円(税別)から利用できます。一方、低価格な通信回線と言えば、仮想移動体通信事業者(MVNO)のサービスが真っ先に挙げられますが、MVNOの低容量プランは各種割引無しで月額1,500円前後が標準的です(音声通話付きプランの場合)。

さらにMVNOでは1,500円前後で3GB程度利用できるのに対し、同容量程度のギガライトプランでは月額3,980円となります。なんだ、やっぱり2倍以上も高いじゃないか、と思われるかもしれませんが、回線品質は段違いです。

MNOの場合、通勤ラッシュタイムやお昼時、夜のゴールデンタイムなどでも通信速度を気にすることは皆無ですが、MVNOではそうはいきません。混雑時に下り速度が1Mbpsを下回るのは当たり前であり、時には0.5Mbps(500kbps)以下になることもしばしばあります。

しかもその0.5MbpsとはMVNO側で意図的に制限をかけているのではなく、通信トラフィックの逼迫による速度低下であるため、示された数字以上に通信環境は劣悪です。

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平日12時台のJR品川駅前。この速度で快適なブラウジングや地図検索が行えるはずもない


MVNOを利用し、混雑時の速度低下を経験したことがある人であれば理解できる話ではありますが、その通信状況は本当に厳しいものです。Twitterを開いても画像はなかなか表示されず、Googleマップを開いても現在地の表示すら数分待たされるほどです。アプリによっては通信途絶によるタイムアウトで通信状況がリセットされ、全く使えないということすら当たり前のようにあります。

この状況にどれだけの人が耐えられるのか、その心配や苛立ちを全く気にせず使える環境に+1,500円~2,500円の価値があるのか、ということです。

お昼時に誰かと待ち合わせたり初めて訪問する企業へ向かう時、GoogleマップやSNSが使えなかったらどうでしょうか。その場で支払えるものなら1,000円を支払ってでも安定した通信環境が欲しいと感じるかもしれません。

現状のMVNOが抱えている最大の問題は、「人々の利用の不便にならない最低ラインの速度をかなり下回る時間帯が日々頻繁にある」という点です。通信環境はどんなに安価であっても不便なく利用できることが第一条件であるべきなのに、不便を我慢(もしくは許容、妥協)することで安価であることに納得する、という本末転倒な状態へ陥っているのです。

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MVNOは、混雑時間帯を避けて利用できる人であれば、間違いなく安くて便利な回線なのだが……


しかも、これらのMVNOを運営する多くの企業が事業単体では赤字です。各社が事業としての採算性を度外視してでも低価格でMVNOを提供している理由は、自社サービスや提携企業のコンテンツへの顧客の導入口としてMVNOを利用したり、自社経済圏への囲い込み策としてMVNOを活用しているからです。

事業単体としては赤字でも良い、というスタンスであるなら、どんな商売であろうと低価格にはできるでしょう。しかし通信設備を維持・管理し、常に最新設備へと更新していかなければいけないMNOは、そのようなスタンスは取れません。少なくとも赤字経営の中で最先端技術を日々研究し、世界トップクラスのインフラを構築・維持し続けることは不可能でしょう。

ましてや現在の通信業界は、次世代通信規格「5G」の導入準備の真っ只中です。世界を見ればすでに米国や韓国で5Gサービスがスタートしており、日本は後発となります。技術的先進性を失ったり追わなくなった時点でテクノロジー企業が凋落の一途を辿ることになるのは、日本の電子機器メーカーの衰退ぶりを見れば一目瞭然ではないでしょうか。

そう考えた時、果たしてMNOの従量制プランで割引込み月額2,000円からという価格や、30GBなどの超大容量で月額5,000円前後という価格は本当に高いのか、ということです。

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通信設備の故障対応や災害対策などを行う拠点であるNTTドコモのネットワークオペレーションセンター。通信設備の保守・管理には毎年数十億~100億円近い経費がかけられているが、それでも「ギリギリの必要最小限」だと関係者は語る


これらに加え、サポート体制の問題もあります。

当然ながらMVNOはサービス体制やサポート体制を必要最小限とすることで低価格を実現していますが、MNOが同等の低価格での提供を行った場合、サポート店舗の削減やサポート体制の縮小は免れません。その時本当に困るのは一般消費者自身です。

現在でさえ街のキャリアショップには人々が殺到し、長蛇の列を作ってスタッフのサポートを待っている状態だと言うのに、これ以上のコストカットが店舗の混雑解消に何かの解決や打開策を生み出すとは到底考えられません。

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MNOユーザーであれば、キャリアショップの混雑は誰でも経験したことがあるだろう


■通信会社を「積極的に選ぶ」時代へ
まだ日本でMVNOが浸透しておらず、MNO 3社が頑なにデータ通信量の上限を7GBに抑えていた時代を思い出してください。当時の皆さんの通信料金は果たしていくらだったでしょうか。それほど古い話ではありません。わずか数年前、現在と同じ4G世代のお話です。

2016年頃からMVNOが流行しはじめ、認知度の向上によってシェアが拡がるにつれ、MNO各社は対抗として「料金は下げずに最大通信容量を増やす」策を打ちました。

しかしそれでも顧客の流出は止まらず、むしろMVNOの価格に慣れ始めた消費者から低価格プランへの要求が強まったことで、様々な割引を駆使すれば低料金で運用できる料金体系を苦肉の策として打ち出してきたのです。

そして今回の総務省による完全分離プランの提言および指導です。もはやまどろっこしい忖度や裏技は一切なし、一部の儲からない顧客を切り捨て、収益を減らしてでも中心顧客を囲い込む、という本気の現れこそが、今回のNTTドコモの新料金プランであったように思われます。同社の言う「総額4,000億円分の還元(減収)」とは、一言でまとめられるほど簡単な数字ではないのです。

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新料金プランは家族契約を主体としたプランであり、個人契約や特殊な契約形態を切り捨てた「決意のプラン」とも考えられる


最後に筆者からの提言として、MNOの料金が高いのか安いのかを判断する前に、ぜひともMVNOやサブブランドキャリアの通信品質を体験していただきたいというのがあります。例えばmineoでは「mineoプチ体験」として、最大2週間無料でmineoの回線を利用できる「mineo無料レンタル」や、買い切り200円のプリペイドSIMを販売しています。

こういったMVNO各社のキャンペーンやサービスを利用し、自分の生活時間の中でMVNOの品質は十分なのか、それとも不満を感じるのかを調べてみることを強くお勧めします。もはや通信会社にこだわる時代ではないのです。少なくとも、通信料金に不満があるのであれば通信会社にこだわっている場合ではないのです。

ワイモバイルのようにMNOでありながらMVNO並みの低価格を実現している通信会社もあります。またUQモバイルのようにMVNOでありながら比較的安定した通信品質を保っている通信会社もあります。現在の日本には、いくらでも料金プランと通信品質の選択肢が揃っています。

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自分の使い方に合っているのか、まずは試してみよう


逆に言えば、消費者が動かないからこそMNOはかつて高い料金と少ない通信容量で胡座をかいてきたのですし、消費者が動き始めたからこそ低価格プランの導入にも踏み切ったのです。

「料金が高い!」と文句を言いつつも毎月しっかりと支払ってくれる顧客に対し、わざわざ利益を削ってまで自発的に価格を下げる企業がどれだけあるでしょうか。仮に自分が商売をしていたとして、そのような経営をするでしょうか。

結局は、消費者が自ら動く以外にないのです。価格メリットを重視するのであれば、まずは動きましょう。契約形態上すぐにMNPなどで移行できずとも、MVNOであれば月額数百円のプランや上記のようなプリペイドSIMを新規で契約することはできます。消費者にできることはたくさんあります。

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動くためには知識も必要だ。情報通信リテラシーを身につける勉強も大切だろう


ちなみに筆者は、今回のプラン発表を受けて数年ぶりにNTTドコモを契約してみようかと検討中です。「みんなでドコモ割」の適用状況次第(家族との相談次第)では月額2,000円程度での運用も可能になるため、通信品質に対して十分に安いとの判断からです。

何事も試してみることが重要です。本当にその価格は妥当なのか、そのサービスは品質として問題がないのか。モバイル系フリーランスライターである以前に、一消費者として体験してみたいと思います。

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時代は変わる。通信料金も変わる。あなたは変われているか




記事執筆:秋吉 健


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