スマートホームの現状と課題について考えてみた!

筆者がスマートホームの話題を積極的に追いかけるようになり、かれこれ3年ほどになります。それ以前からもスマートフォン(スマホ)を使った自宅鍵の遠隔施錠(スマートロック)や家電品の遠隔操作などは単発的に発表されていたものの、すべてをまとめて操作したり、その仕組みを使った「さらに先」の提案ができている企業は非常に少なかったと記憶しています。

一般的にスマートホームと言えば、上記のようなスマホを活用した遠隔操作や自動制御による家電品の管理および稼働などを想像しますが、移動体通信事業者(MNO)各社が構想しているスマートホームは、もっと大きく社会全体を巻き込むような規模なのです。そしてその構想は荒唐無稽な未来のお話でもSFでもなく、現実にすぐそこまで来ています。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はスマートホームの現状と課題、そして未来について考えます。

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スマートホームが日本の未来を作る


■スマートホームとは何か
そもそも、スマートホームとは一体何でしょうか。例えばエアコンを外出先から遠隔操作で起動したり、スマホ操作で自宅の施錠を行ったりすることもスマートホーム技術の一環ですが、それ単体ではあまり大きな意味はありません。

現在のスマートホームが目指しているものは「住む人に快適で健康的な生活のサポートを行う住宅および家電製品」であると定義することができるかもしれません。

単に家電品を最新テクノロジーによって動かすだけではなく、IoT技術と組み合わせ、そこに居住する人々の行動や健康の管理を行い、積極的に人へアプローチする技術となっているのです。

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住む人を健康にする家、とは


スマートホームへのMNO各社の取り組みや方向性もまた、それぞれの企業の特色を活かした特徴的なものとなっています。

NTTドコモは横浜市が推進するIoT オープンイノベーションパートナーズ「I・TOP横浜」プロジェクトの一環として、2017年よりand factoryとともにスマートホームの実証実験を行っています。5月にも第3回実証実験の結果報告を兼ねた内覧会が開催され、実際に被験者がスマートホームに1週間滞在し、問題点の洗い出しや改善点の検討などが行われました。

NTTドコモの取り組みの特徴は社会基盤としてのスマートホームの実現です。NTTドコモが開発したIoTアクセス制御エンジン「デバイスWebAPI」を活用し、120社を超える企業とコンソーシアムを設立。各企業の製品を1つのプラットフォームで管理・制御することで、家をまるごとAIアシスタント化してしまうという非常に大きな構想です。

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実証実験に用いられたコンテナハウス。床面には感圧センサー、戸棚には開閉センサーなど、さまざまなIoTセンサーが張り巡らされている


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各機器はスマホアプリで一括制御される


過去記事:NTTドコモと横浜市、and factoryによる共同プロジェクト「未来の家プロジェクト」がスタート!AIとIoT技術で快適な暮らしをサポートする実証実験【レポート】

過去記事:NTTドコモと横浜市、and factoryによるスマートホーム実証実験「未来の家プロジェクト」が第2段階へ!IoT技術で得られた「気づき」やアイデアを写真や動画とともに紹介【レポート】


auはすでに事業としてのスマートホームをスタートさせており、今年3月にはフランスベッドとの共同開発による「睡眠モニタリング機能付き電動リクライニングマットレス」を発表しています。

この他にも「au HOMEデバイス」として睡眠モニターやスマートロック、スマート電球などを販売しており、専用のスマホアプリで一括して動作状況の確認や健康状態へのアドバイスなどを得られるようになっており、各IoT機器を「センサーでみまもりセット」、「声で家電コントロールセット」などのセット販売とすることで導入価格を抑え、それぞれのセットを一括購入した場合は月額490円(以下、全て税抜き)から利用できるようにするなど、ランニングコストの低減についても積極的なアプローチを見せています。

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フランスベッドと共同開発したマットレス。内蔵された睡眠センサーが利用者の睡眠状態を記録し、スマホアプリに送信することで健康へのアドバイスを行う


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au HOMEデバイスは、使いやすく用途に合わせてセット販売される



S-MAX:「au HOME/with HOME 説明会 2019 Spring」デモンストレーション1
動画リンク:https://youtu.be/K_sHHf6fYSI


S-MAX:「au HOME/with HOME 説明会 2019 Spring」デモンストレーション2
動画リンク:https://youtu.be/LEK6h30y-g0


S-MAX:「au HOME/with HOME 説明会 2019 Spring」デモンストレーション3
動画リンク:https://youtu.be/ZJOEca9mH7I

ソフトバンクの取り組みは、さらに実用主義に徹しています。

家全体のスマートホーム化やスマートホーム家電のセット販売によるサブスクリプションモデルの場合、導入への敷居が高いことがネックとなりますが、ソフトバンク(ソフトバンク コマース&サービス)ではスマートスピーカーによる家電制御を中心に「+Style」ブランドとして展開・販売しており、より導入しやすくユーザーの好みに応じて手軽に機器の追加が行えるスタイルでアプローチしています。

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主に中国などから品質が良く低価格なIoT製品(スマート家電)を輸入し販売を行っている


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スマート家電はGoogle HomeやEchoなどで音声操作する


過去記事:ソフトバンク コマース&サービスの「+Style」にスマート家電が多数ラインナップ!AmazonアレクサやGoogle Homeで音声操作&連携。発売記念セールも開催【レポート】


■データが視覚化されることのメリット
ここ1~2年の取材の中で、1つの気づきを得たことがあります。それは「スマートホームが人々に問題点を視覚化してくれることのメリット」です。

例えば大ヒットとなったiRobotのロボット掃除機「ルンバ」の最新型では、「スマートマッピング」と呼ばれる技術によって、掃除をした場所や時間の情報記録され、利用者のスマホアプリへと転送されます。

利用者はそれによって、ルンバがいつ・どこを掃除したのかを視覚的に理解することができます。

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掃除箇所が視覚化されることで、掃除をやり残した場所の把握ができるようになった


スマートホームでも「データの視覚化」は積極的に活用されており、NTTドコモは実証実験の中で血圧や体重、食事メニューのカロリーデータなどを、スマホアプリだけではなく洗面所に設置されたミラーディスプレイへ表示することで、毎朝の支度の際に利用者が簡単にチェックできる仕組みなどを提案しています。

こういったデータの視覚化が利用者に与えるものは「気づき」です。普段であれば何気なく過ごしてしまう日々の食生活や運動不足も、メニューのカロリー表示とともに食事内容へのアドバイスを読んだり、ミラーディスプレイなどに積極的に表示されることで否応にも知ることとなり、「これはまずい。もっとカロリーを抑えないと」、「運動もちゃんとしなければ」と、利用者へ気づきを与えてくれるのです。

そしてそれは、スマートホームが目指す最大の目的でもあります。

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漫然と口にしている日々の食事も、このようなアドバイスをもらえたなら誰でも気づきを得られるだろう


スマートホームによるデータの視覚化とアドバイスが人々に与えた気づきは、次に人々の「意識」を変えていきます。

NTTドコモの実証実験ではこれまでに20名の被験者がスマートホームで生活をしましたが、そのアンケート結果によれば、約75%の被験者に健康への意識向上が見られ、さらに「積極的に階段を使うようになった」などの行動変容まで至ったケースもありました。

運動不足や偏った食生活を視覚化されて、平然としていられる人は少ないでしょう。気づきを得れば行動に移しやすいのも人間です。ましてや改善についての簡単なアドバイスとともに提案されているなら尚更です。

スマートホームが巨大なAIアシスタントとして機能し、人々の生活をより健康的なものへと改善するサポートを行うのです。

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洗面所のような毎日使う場所に表示することによる「気づきの喚起能力」は絶大だ


■解決すべき課題も多い
一方で、スマートホームが生み出す弊害や今後の課題もすでに予想されています。1つはデータの視覚化が生み出す「わずらわしさ」です。

NTTドコモの実証実験で被験者にインタビューした際、その便利さや健康への気づきを与えてくれることへの感謝とともに聞かれたのが、「奥さんの小言みたいだ」という苦笑いでした。

視覚化されたデータは洗面所などで常に表示され、スマホアプリでも確認することができるのはメリットであると同時に、その事実から目を逸らせなくなるという強迫性も併せ持つことになります。

健康に不安のない人であれば、より健康的な生活を目指すための良い指針になりますが、肥満や高血圧、そのほか何かしらの健康問題を抱えている人にとっては「見たくない情報」でもあります。その情報を常に「強制的に見せられる」ことは、精神衛生上あまりよろしくない状況にもなりかねません。

例えば単なる睡眠不足であっても、数値として毎日見せられたとしたらどうでしょうか。仕事が忙しく寝たくてもなかなか寝られない、睡眠が浅いことを常に指摘されることで余計不安になりさらに眠れなくなる、などといったことも十分に想定されることです。

誰もが前向きにデータを読み取れるとは限らないのです。

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データの視覚化を「奥さんの小言」と比喩した被験者の方の感性が素晴らしい


長期的な視点では、各種IoT機器のリプレースも大きな問題点です。

家屋や家電品は十年単位での利用が想定されるものであり、家具などを設置した後では容易に交換や敷設ができるものではありません。またテクノロジー製品の常として、その製品寿命が非常に短い点も挙げられます。それは電化製品としての寿命だけではなく、サービスとして何年利用できるのかといったプラットフォーム寿命の問題でもあります。

NTTドコモなどは、はじめから家屋へスマートホーム機能を実装して建築することも想定していますが、その場合スマートホームサービスもまた20年や30年といった単位で運用することが前提となります。

30年前(1989年)のテクノロジーレベルを思い出せば、現在の技術が30年後に残っているのか、もしくはまだ利用できる状況にあるのかを想定することが如何に難しいことであるのか、よく分かるのではないでしょうか。

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30年前と言えば、ようやく世の中に携帯電話と呼ばれるものが登場し始めた頃だ


このほか、各種機器の導入コストやランニングコストも地味ながら最もストレートに人々の生活へ影響する問題です。

au HOMEデバイスの場合、モーションセンサーやマルチセンサーがセットになった「センサーでみまもりセット」の一括購入価格が12,250円、ネットワークカメラや赤外線リモコンなどがセットになった「みまもり&家電コントロールセット」の一括購入価格が24,010円となっており、これに月額490円がランニングコストとして計上されます。

健康への気づきや安全のための支出として、それを安いと見るか高いと見るかの問題ですが、通信料金の値下げが大きな問題として取り上げられるような時代にあって、人々に新たな提案としてのスマートホームが理解されるかどうかは非常に不透明です。

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センサー内蔵IoTマットレスに至っては、価格が16万8000円+月額790円となる。決して安い金額ではない


■それでもスマートホームは前進する
様々な課題はあるものの、MNO各社はスマートホーム構想をやめようとはしません。むしろこれからの時代を推し進める重要な技術として位置付けています。なぜならスマートホームこそがこれからの日本社会を支える重要な技術だからです。

日本は深刻な少子高齢化社会を迎え、労働者人口は今後30年以上にわたり毎年50万~60万人規模で減り続けると試算されています。核家族化や高齢者の1人暮らしはさらに深刻になることは間違いなく、不足する労働力の補完と男女平等な社会の実現を目指して共働き世帯は増え、子どもの留守番の見守りや忙しい時代ゆえの健康意識への希薄化などが問題として指摘されることでしょう。

近い将来に起こり得る、暮らしに関する様々な問題がスマートホームの実現を求めているのです。どこにいても子どもや高齢者の見守りが行え、家に帰ればホームオートメーションによって生活がしやすく、日々の食習慣や運動へのアドバイスも的確に行ってくれる。「不安を感じる前の気づき」の一手として、大きな期待が持たれているのです。

筆者も数年前、いつの間にか飛び出し始めた自分のおなかを見て衝撃を受け筋トレを習慣化しましたが、そういった気づきから行動に起こすのはとても大変で気の重いことです。また傍目にも分かるほどおなかが飛び出してしまってからでは元に戻すのが非常に大変であることも、その後身を持って知りました。

人が自覚するよりも前に気づきを与え、積極的に健康維持をサポートしてくれる家があるとしたら、皆さんは利用したいと思うでしょうか。筆者なら喜んで利用したいところです。

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奥さんの小言と思う前に、自分のためだと前向きに捉えたい


記事執筆:秋吉 健


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