![]() |
2020年のスマホゲームについて振り返ってみた! |
みなさんは今年、スマートフォン(スマホ)ゲームを遊ぶ機会が増えたのではないでしょうか。
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の問題(以下、コロナ禍)が発生してから私たちの仕事や生活はその根本から変わってしまい、テレワークやオンライン授業の導入によって自宅で過ごす時間が増えました。
それによって得られたものは「暇な時間」です。通勤通学やその支度に使う時間が削減され、時間配分も自分の自由が効くようになり、その余った時間を趣味や娯楽に利用できるようになったのです。災い転じて福となす……とまでは言えませんが、見方によっては良い流れとも言えます。
そのような背景から、2020年はスマホゲームが最も手軽でちょうど良い暇つぶしとして大きく需要が伸びました(もちろん家庭用ゲームの需要も大きく成長しました)。しかしながら、その需要増の裏側や現在のスマホ事情を見てみると、手放しに喜べる内容ではないことが見えてきます。
スマホゲームの「今」はどうなっていて、何が問題なのでしょうか。また、2021年以降のスマホゲーム市場はどのようになっていくのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はスマホゲームの現在と近い未来について考察します。
■モバイルマーケットごとの色が出た2020年
はじめに、世界のスマホゲーム市場を見ていきましょう。
米国のモバイルアプリ調査会社「Sensor Tower」が2020年7月に公開したデータによると、世界における2020年上半期のモバイルゲームの売上高は366億ドル(約3兆8,000億円)にも達し、前年同期比で21.2%増と大きく伸びました。
内訳を見てみると、AppleのApp Storeは22億ドル(約2兆3,000億円)で前年同期比22.7%増、GoogleのGoogle Playで144億ドル(約1兆5,000億円)で前年同期比19.0%増となっており、モバイルマーケットの大きさやユーザー層、地域などに限らず平均的に利用増となっていることが分かります。
ただし、ゲームに限らないアプリ全体でのダウンロード数や売上では、モバイルマーケットによる明らかな差異が見られます。
アプリのダウンロード数ではApp Storeが183億回で前年同期比22.8%増、Google Playが532億回で前年同期比27.3%増となっており、Google Playのほうが約2.9倍も多いことが分かります。
ダウンロード数の比率からAndroidのユーザーが非常に多くのアプリをダウンロードしたように思われがちですが、世界でのOSごとの市場規模を考えると、どちらのモバイルマーケットでも利用数には大きな差はないと考えられます。
一方、モバイルマーケットごとの支出額を見ると、App Storeが328億ドル(約3兆4,000億円)で前年同期比24.7%、Google Playが173億ドル(約1兆8,000億円)で前年同期比21.0%となって大きく逆転します。
これらのことから、App StoreユーザーはGoogle Playユーザーよりも1つのアプリに対する支出額が多いことが分かります。
■新作ゲームが売れない日本のモバイルゲーム市場
それでは、日本ではどうでしょうか。
集計期間や集計内容が若干異なりますが、Sensor Towerの中国語版によれば、2020年第3四半期における日本のモバイルゲーム市場の売上高は50.1億ドル(約5,200億円)前年同期比32.2%となっており、世界と同様もしくはそれ以上に、モバイルゲームの需要が増加していることが分かります。
ところが、アプリのダウンロード数を見ると興味深い傾向が見えてきます。ゲームアプリのダウンロード数は1.8億回で、前年同期比では14.3%もの大幅な減少となっているのです。
売上高は大幅に増加していることから、2019年以前からスマホユーザーが遊び続けているゲームに多くの課金が行われたことが推測されます。
古参ゲームの息が長く新作ゲームがヒットしない、という状況は他のデータからも分かります。
以前に本連載コラムでも引用した、MMD研究所が2020年11月に公開した「スマートフォンゲームアプリの利用と交流に関する実態調査」には、「スマートフォンゲームアプリで1年以内にハマったアプリ」という調査項目があります。
そのランキングの上位を見ると、ディズニー ツムツムやポケモンGO、パズル&ドラゴンズ、LINEポコポコなど、4~5年以上ものロングヒットを飛ばしている作品ばかりがずらりと並びます。
つまり、コロナ禍を受けて売上額は大きく増加したものの、市場全体としてはむしろ縮小傾向にあるのです。
■過度なガチャ文化と高性能スマホの販売不振が引き起こした悪循環
世界でのゲームアプリに限定したダウンロード数の推移が分からないので単純な比較は避けますが、日本のモバイルゲーム市場で新作ゲームが売れない傾向となっている大きな理由はゲーム内課金によるルートボックス(いわゆる「ガチャ」)の常習化の影響が大きいと筆者は考えます。
欧米を中心とした海外ではルートボックス規制が強く、ゲーム内課金のギャンブル的要素は大きく制限されているため、「これだけ課金したのだから今更やめられない」といった、1つのゲームへの執着度や依存度が低くなります。
しかし日本のスマホゲームのようにゲーム内課金方式に大きく依存している場合、一般的な家庭用ゲームよりもトータルで大きな出費となる場合が多く、前述のような依存性に加え「こちらのゲームに課金してしまったからこちらには課金できない」といった状況も生まれやすくなります。
コロナ禍によってゲームを遊ぶ時間が増えても収入が増えるわけではありません。むしろ減った人のほうが多いでしょう。そのような中で、新しいゲームへ新たに課金しようという人が少なかったことは間違いありません。
高性能な新型スマホが売れなくなったことも、新作ゲームがヒットしなくなった理由の1つかもしれません。
移動体通信事業者(MNO)に対するスマホなどの製品代金と通信料金の完全分離化や値引き額の2万円制限などによって高性能な高級スマホが売れなくなり、ゲーム性能などがあまり高くないミッドレンジ~エントリークラスのスマホに人気が集中するようになりました。
iPhoneやXperiaなどのハイエンドスマホのシリーズでは常にゲーム性能の高さが謳い文句にされてきましたが、そういった突き抜けた最新のゲーム性能を必要としない古いゲームで満足している(もしくは妥協している)ユーザーが多いという証拠でもあります。
ゲーム開発においても、
・ゲームがヒットしない
↓
・開発資金が得られない
↓
・高度な開発環境と開発体制によるゲーム制作ができない
↓
・旧来からの使い古された安易なゲーム開発で資金集めに走る
↓
・ゲームがつまらないためヒットしない
という悪循環に陥っており、スマホゲームの開発技術や開発環境では中国などの海外メーカーに大差を付けられているというデータもあるほどです。
「ユーザーからお金を搾取するだけのゲーム」などと揶揄されるようなゲームばかりが乱立してしまった結果、ユーザーが本当に面白いと感じられるゲーム以外には、課金どころか手も出さないという状況が生まれてしまったのです。
■先の見えない日本のモバイルゲーム市場の未来
これらのことから、2021年のスマホゲーム市場(とくに日本)は非常に厳しい状況が予想されます。
現在ロングヒットしているゲーム単体の課金額は維持されるかもしれませんが、市場規模はさらに縮小していく可能性があります。市場規模の縮小と高性能スマホの販売縮小は開発者の減少や技術力の低下を引き起こし、ひいてはゲーム市場全体の損失となりかねません。
そもそも、コロナ禍によるゲーム市場の活況は一時的なものであり、これによって何かが大きく進展するわけではありません。たまたま暇ができて、たまたまスマホがそこにあったから、なんとなく以前から遊んでいるゲームへ久々に課金してみただけ、という状況が目に浮かびます。
2020年に花開くはずだったモバイルeスポーツ文化も、コロナ禍によって大きく後退してしまいました。いくらオンライン対応のゲームであっても、その大会をオフラインで開催できなければ話題性も注目も集められません。オンラインイベントだけでは興行として成り立たないのです。
果たしてこの先、人々に「このゲームを遊びたいからスマホを買い替えたい」と思わせるような時代は来るのでしょうか。スマホゲーム愛好者の1人として、現在のスマホゲーム市場を覆う暗鬱とした空気に、景気の良い売上高の数字だけでは素直に喜べない2020年でした。
記事執筆:秋吉 健
■関連リンク
・エスマックス(S-MAX)
・エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter
・S-MAX - Facebookページ
・連載「秋吉 健のArcaic Singularity」記事一覧 - S-MAX