デジタルデバイスのスケールメリットについて考えてみた!

みなさんは、世の中にあるデジタルデバイスやモバイル製品を選ぶ際、何を一番に重視するでしょうか。価格?品質?それともブランド?筆者が一番重視するのは「スケールメリット」です。汎用性と言い換えても良いかもしれません。

例えば筆者の愛用品を見てみると、クルマはトヨタ車ですし(クルマをデジタルデバイスと呼んで良いかはともかく)、パソコン(PC)はWindowsマシンで常にIntel CPUとNVIDIA製グラフィックボードの組み合わせですし、メインのスマートフォン(スマホ)はiPhone 3G以来ずっとiPhoneシリーズを買い替え続けています。

いわゆる「一番普及しているもの」ばかり選ぶため、かつて某氏に「秋吉さんってガジェットオタクというよりはただのミーハー(死語)ですよね」と、からかわれたことを今でも覚えていますが(ミーハーともちょっと違うとは思うが)、基本的に「世の中に広く普及しているもの、もしくは普及すると直感したもの」以外はメインデバイスとして常用しないのは事実です。

しかしながら、それは「みんなが使っているから」とか「流行り物だから」といったミーハー感覚とは若干異なるものであり、そういったシェアの大きな製品にこだわる理由(根拠)がちゃんとあります。それがスケールメリットです。

スケールメリットとは具体的にどういったものがあり、そしてユーザーにとっては何がメリットなのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は主にモバイルデバイスを例に挙げつつ、スケールメリットについて考えます。

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スマホメーカーがシェアを争う理由とは


■大量生産と低価格化
そもそも、スケールメリットとは一体何でしょうか。コトバンクによれば、「規模を大きくすることによって得られる効果や利益」とあります。

私たちは生活する上で、このスケールメリットを最大限に利用させてもらっていると言っても過言ではありません。例えば衣料品1つにしても、工場での大量生産によってコストダウンが図られ、量販店でも仕入れ(発注)から販売までとにかく規模の論理で大きく売り出すことで販売価格を下げ、消費者へ安価に提供しているからです。

逆に、ハンドメイドやオーダーメイド製品のようにスケールメリットをほとんど得られないものは驚くほど高くつくのも現代です。本来であればそれが正当な商品対価ということになるのかもしれませんが、利益を最大化(≒コストを最小化)することが企業の本分であると考えれば、スケールメリットの追求こそが現代社会を構成する基本要素の1つだと言って良いでしょう。

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自動車などは最たる例だ。ネジの1本まで大量生産と規格の共通化によって限界までコストダウンしつつ高品質を維持している


消費者としての最初のメリットがここにあります。大量生産品ほどコストを下げられるということは、その製品が大きなシェアを獲得するほどにコストパフォーマンスが上昇しやすくなるということです。

もちろん、どれだけシェアが大きくても独占・寡占状態では暴利を貪るばかりで価格が下がらない業界や製品もあります。また、ハイブランドとして人気を博しているものは、どれだけシェアが大きくとも価値を維持するという目的からあまり価格が下がらないこともあります。

例えば、AppleのiPhoneシリーズなどは、ハイブランド戦略を選択したスマートフォン(スマホ)の1つです。スマホ業界における世界シェアの低下が止まらない中、残った固定客へ高い品質と信頼性や安全性を売り込むためにハイブランド戦略へ舵を取り、アパレル業界などのようにブランド商品としての価格を付け始めたのです。

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考えてみれば、毎日使う日用品感覚のスマホが10万円以上もするというのは少々贅沢な話だ


それが悪いということではありませんが、この流れがスマホ業界の二極化を生み始めたのは言うまでもありません。Apple以外にもサムスン電子やソニーもハイブランド戦略を採り、ユーザーをファンとして囲い込む選択をしました。

一方で、スマホを工場生産製品として真正面から捉え、大量生産および部品の共通化というスケールメリットに全力を注いだのが中国系企業のファーウェイやOPPO、そしてXiaomiでした。

とくにXiaomiは、自社利益を常に収益の5%以下に抑えるという戦略を取り続けており、その余剰分をユーザーニーズの調査や研究開発費に当て、「これがスマホ本来の正当な価格だ」と言わんばかりに製品の品質向上とさらなる低価格化を目指し続けています。

製品を限界まで安価に販売し、それによってシェアを獲得し、大量生産によるスケールメリットによってさらにコストを下げ、次の製品のコストダウンや品質向上に繋げる。企業として最善とも言える手法と論理であり、消費者としても非常に歓迎すべき戦略です。

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Xiaomiはいつも製品発表会で価格を一際大きく表示し自信のほどを表現する。実際その価格は驚くほど安く、価格以上の品質価値が感じられる


■「市場」としてのスケールメリット
そして忘れてはいけないのは「市場」の存在です。スケールメリットとは、その製品(商品)を生産する企業や販売する企業にのみ利益をもたらすものではありません。そして筆者がモバイルデバイスを購入する際に最も重視するのも、この市場としてのスケールメリットです。

最近では汎用的な周辺機器が増えましたが、スマホケースや画面保護フィルムなど、未だに「その端末専用」で作られているものは多数あります。こういった周辺機器やサプライ商品は基本的に市場シェアが大きな製品や人気の製品に集中して作られる傾向があります。

その理由は当然スケールメリットです。シェアの小さな製品や人気のない商品では、その周辺機器を作っても高い売れ行きは期待できません。そのため、周辺機器メーカーとしては「最も売れている端末」の周辺機器のみを作りたいというのが本音です。

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ネット通販サイトでiPhone 12用のガラスフィルムを検索すれば、どれを選ぶべきか分からなくなるほど大量にヒットする


周辺機器の豊富さは本体製品自体の売れ行きすらも左右します。ゲオが2019年9月に行った「スマートフォンに関するアンケート」によると、「iPhoneを選んだ理由」として「アクセサリーが豊富」と答えた人が6.1%程度存在します。

あまり大きくない数字とは言え、アクセサリーを選びやすいという点はメリットこそあれデメリットとなることはないでしょう。

いくらアクセサリーの豊富さなんて気にしないという人であっても、画面保護フィルムすら探すのに苦労するようなスマホを選ぶかと尋ねられたら、流石にNOと言うのではないでしょうか。

また、「アップル製品同士の連動機能が便利 」、「周りがもっているから」といった、スケールメリットに関連する回答も比較的多くありますが、周囲が同じ端末を使用していることで話題の共通性が生まれたり、便利な使い方を教えてもらいやすいといったメリットも生まれます。

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スケールメリットは人が商品を選択する際、常に潜在的に影響を与えている


さらに、シェアの大きなスマホなどの場合、便利な使い方やレビュー記事を掲載するWebメディア(弊サイトもそういったWebメディアの1つ)が多く、情報が豊富に存在するというのもスケールメリットの1つでしょう。

手前味噌で下世話な話ではありますが、Webメディアもまたページビュー(PV)に比例する広告収入が収益の主体です。そのため、より多くのシェアを持ち、多くのユーザーが注目するスマホやモバイル製品についての記事を数多く掲載したほうがPVが稼げます。

大きな市場シェア(≒ユーザー)を持つ企業と製品にサプライメーカーが集まり、アクセサリーが豊富になるとユーザーはさらに利便性を感じ、Webメディアは製品本体だけではなくアクセサリーについても紹介したり便利な使い方をハウツーとして掲載し、人々の注目度はさらに高まり、市場シェアはさらに拡大していく、という構図です。

スケールメリットが生み出す好循環は、市場経済そのものを構築しているのです。

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弊サイトにはタグクラウドがあるが、これはPV数や記事数、コメント数などから人々の注目度が高いキーワード(タグ)ほど大きな文字で表示され、さらに多くの関連記事を読んでもらうことを目的としている


■マイナー製品・マイナージャンルの悲哀と奮闘
市場競争に勝者がいるなら、当然敗者もいます。話題性や認知度の獲得に失敗した製品やサービスがスケールメリットを得られないまま沈んでいく様子を筆者は何度も見てきました。そしてそれは製品の良し悪しに関係なく起こり得ます。

スマホ市場で言えば、2013年のNEC撤退を皮切りに、その後各社で事業規模の縮小や部門の売却が相次ぎました。直接の原因は当然「スマホが売れなかったから」ですが、売れないスマホのアクセサリーは作られず、ユーザーコミュニティも形成されず、Webメディアでも取り上げられる機会は減り、それらの動きがさらにユーザーから興味を失わせ、シェアの縮小が止まらなくなるという、負のスパイラルへと突入してしまったのです。

市場の寡占化とはこのようにして始まりますが、そこに悪者がいるかと言えば、誰も悪くないのです。ユーザーは友人が使い方を教えてくれてアクセサリーが豊富で価格も安い「みんなと一緒のスマホ」が欲しいだけですし、サプライメーカーも売れるアクセサリーを作りたいだけですし、部品メーカーも大量発注してくれる企業と仕事がしたいですし、WebメディアもPVが取れる製品を紹介したいだけだからです。

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人は自らの利益を最大化するために経済活動を行っている


世の中には、敢えてマイナージャンルやニッチ市場をターゲットとした商品も存在します。スマホの世界でもそういったものがあります。しかしそれらの製品やメーカーは決してスケールメリットを獲得しようとは動きません。そのように動き始めた途端に製品に価値がなくなることを知っているからです。

ニッチな商品であるからこその希少価値や、大手メーカーが採算性を理由に製品を供給しない隙間需要だからこそ商売が成り立つのであり、それが大々的にブームとなってしまえば、コスト面でスケールメリットを最大限に活用できる大手メーカーに太刀打ちできなくなります。

逆に言えば、スケールメリットを活かせなかった企業が生き残る道こそがマイナージャンルとも呼べますが、元々大手として活動していた企業がその小さなパイで企業経営を維持できることは稀です。そのため、こういったマイナージャンルは元々企業規模が小さいベンチャー企業の役割として考えられることが一般的です。

スケールメリットを生かした市場とは関係のない場所で一旗揚げ、企業としての認知度や支持を獲得して成長しつつ、力をつけてからいよいよ大手メーカーが闊歩する舞台で戦う。それがビジネスにおける慣例や正攻法として定着しています。

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中国のスマホメーカーUnihertzのように、実用性からかけ離れた超小型スマホばかりを製品化して支持を集めた企業もある


■スケールメリットを得るということは、安定運用を行うということ
最後にもう1つ、筆者がスケールメリットにこだわる理由を挙げておきましょう。それは長期的な安定運用がしやすいという点です。

iPhoneシリーズを見れば分かるように、巨大なスケールメリットを獲得した企業と製品はシリーズ寿命が非常に長く、そして製品供給やアフターサポートが非常に安定しています。PCで言えばWindowsマシンはパーツも豊富で自分で修理が容易に行え、そのアプリケーションも無料で何でも入手可能です。

製品とは、その製品単体で便利に使えるだけでは真の意味で人生を豊かにする道具とは言えません。何年も継代で利用可能で、リプレース(買い替え)しても大きく使い勝手が変わらず、それでいて常に進化し続けていることが非常に重要です。

筆者はコアゲーマーで、その周辺機器にも強いこだわりがありますが、以前特殊なコントロールデバイスを利用していた際、その性能と使いやすさには非常に満足していたものの、わずか数年で生産が終了してしまい、後継機種もなく途方に暮れた経験があります。

ニッチな需要を満たす特殊な製品は、製品単体で愛用する分には素晴らしいものが多くありますが、長期に渡って常用するデバイスとしては不安があるのです。いつでもどのような環境でも変わりなく普遍的に利用し続けられる、ということを重視するなら、スケールメリットは忘れてはならない要素なのです。

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単なるゲームパッドでさえ、使い慣れた製品が生産終了してしまうと結構困る


筆者もかつては俗にキワモノと呼ばれるような珍しいモバイルデバイスや珍しい規格の製品を好んで購入していましたが、それらの製品は生産が終了してしまったり後継機種がなかったり、果ては規格ごと市場から忘れ去られてしまうなど、散々な目に何度も遭ってきました。

そういった経験から、日常的に使用するものや仕事上メインで使用する機材などは、常に最もメジャーなものやメジャーなメーカーを選択するようになったのです。安物買いの銭失いならぬ、キワモノ買いの銭失いを経験しすぎた結果と言えます。

それを保守的になったと考えるか、それとも堅実になったと考えるのかは人ぞれぞれですが、少なくとも筆者は「トラブルのない安定したデバイス運用ができる環境が欲しい」と考え続けた結果がスケールメリットの追求でした。

今日もまた、汎用性って大事だよね、と考えながら、愛車やPCのパーツをいじっていたりします。例えミーハーだとからかわれようと、メジャーなものにしか手を出さない保守派だと言われようと、長期安定運用を目的としている以上、スケールメリットは何よりも大事なのです。

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デジタルデバイスを酷使する日々だからこそ、製品単体の信頼性とともに汎用性も重視したい


記事執筆:秋吉 健


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