QRコード決済の現状と今後について考えてみた! |
先週、モバイル関連の大きな話題として「PayPayの手数料有料化」というものがありました。10月1日以降、PayPayの加盟店手数料を有料化し、月額2,178円の「PayPayマイストア ライトプラン」加入者は1.6%、未加入で決済システムのみを利用する場合は1.98%とするものです。
PayPayをはじめとしたQRコード決済システムは、元々中国などの海外で利用が広まりました。2018年頃より日本国内でもさまざまなQRコード決済システムが勃興し、2019年にはレッドオーシャンと呼べるほどの大戦争状態となっていました。
今回のPayPay手数料有料化はある程度予想されていたものであり、業界関係者からは予定調和的に捉えられていました。100億円還元キャンペーンや不正決済事件など、良くも悪くも話題に事欠かなかったPayPayですが、それ故に人々の認知度は高く利用も促進されていたことから、近く有料化に踏み切るだろうと言われていたのです。
今後、QRコード決済はどのような成長を遂げ、私たちの生活に溶け込んでいくのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はPayPayの手数料有料化の話題を中心に、QRコード決済の現状と今後について考察します。
■PayPayだけじゃない、各社の手数料有料化
はじめに、PayPayの手数料有料化について要点を簡単にまとめておきましょう。
冒頭でもお伝えしたように、PayPayは10月1日より手数料を有料化し、月額2,178円(税抜1,980円)の「PayPayマイストア ライトプラン」に加入することを前提に、手数料1.6%を徴収します。本プランへの加入は必須ではなく、未加入で利用する場合は手数料が1.98%になります。
この1.6%や1.98%という数字も非常によく練られたもので、QRコード決済やクレジットカード決済などの非現金決済システムは、一般的に2.5%~3.5%前後であるため、他社の決済システムよりも低コストでの導入が可能である点を強調しています。
上の画像を見て「なんだ、ドコモもauも決済手数料は有料じゃないか」と思う方もいるかと思いますが、各社ともに今年6月までは無料でした。7月以降これらが一斉に有料化もしくは有料化を発表し、PayPayの発表はその最後発だったのです。
意地悪な言い方をしてしまえば「後出しジャンケン」であり、PayPayが他社よりも有利な条件を提示できるのは当然と言えますが、他社よりも有利な条件を出してユーザーの心を掴み続けるのはソフトバンクのグループ企業の十八番(おはこ)でもあります。
またPayPayは、PayPayマイストア ライトプランへの加入申込みでPayPay決済総額の3%を最大6ヶ月間加入者へ還元(現金振り込み)する「3%振り込みますキャンペーン」を予定しているほか、最大2カ月間無料でPayPayマイストア ライトプランを利用できる「最大2ヶ月無料トライアルキャンペーン」、さらにストアページの作成で2,000円貰える「2,000円もらえるキャンペーン」なども行っており、有料化によって事業者離れを起こさないための施策を数多く打っています。
■テレビCMを征する者は市場を征す
ここで、各社のQRコード決済(≒スマホ決済)の人気度やシェアについて見てみましょう。
MMD研究所が2021年7月に調査した「スマートフォン決済(QRコード)の満足度調査」によると、PayPayが「総合満足度」、「アプリデザイン部門」、「利便性部門」、「信頼部門」の4つで1位を獲得しており、「お得部門」のみ楽天ペイが1位となっています。
かつて不正利用事件を起こしてしまったPayPayが信頼部門で1位なのは意外ですが、同じく大規模な不正利用事件を起こしてしまったNTTドコモや顧客情報を海外で管理していたことが問題視されたLINEなど、QRコード決済絡みではなくとも顧客の信頼を損なうような事件や問題を多くの企業が過去に起こしている以上、この評価は「どこも大差ない」という扱いなのかも知れません。
お得部門で楽天ペイがトップなのは理解できるところです。楽天はQRコード決済が普及する以前から自社のポイント経済圏を大きく成長させており、ポイントのユーザー還元を軸に事業規模を拡大してきた企業です。QRコード決済でもポイント還元を絡めた大規模なキャンペーンやプログラムを常に打ち続けており、その成果が現れた形です。
PayPayの圧倒的な人気を裏付けるデータは、その他のアンケート項目に数多く散見されます。
例えば「メインで利用しているQRコード決済サービスを知ったきっかけ」では「テレビCM」が1位となっており、「サービスを知ったきっかけ」ではPayPayとd払いで「テレビCM」が1位となっています。
また「サービスを使い始めた理由」のアンケート項目でも、PayPayは「キャンペーンを知って興味を持った」が1位となっており、PayPayがプロモーション活動に注力し、ユーザーの認知度向上と好感度向上を何よりも重視していたことが分かります。
「100億円あげちゃうキャンペーン」(100億円還元キャンペーン)に代表される、非常にセンセーショナルでインパクトのあるキャンペーンをいち早く打ち出したことも、こういったプロモーション活動を重視していた証拠でしょう。
■「収穫」を始めたQRコード決済
これまで「種まきの期間」として手数料無料で利用店舗と利用者を広げてきたQRコード決済は、いよいよ「収穫期」へ入ります。
各社ともに決算会見の度に「いつ頃から収益化するのか」と何度も質問されてきたように、これまでのQRコード決済は赤字垂れ流しのユーザー獲得期間でした。しかし足掛け3年近くのプロモーションによってQRコード決済は人々の生活に溶け込み、当たり前の決済手段として定着しました。
今後、QRコード決済が人々に利用され続けるためのポイントとは何でしょうか。そのヒントもまたアンケートの中にありそうです。
「QRコード決済サービスで最も重要だと思う点」という項目では、1位が「お得さ」で41.9%となっており、2位以下の「使い勝手の良さ」、「安心感」、「デザイン」などの項目より頭1つ抜き出たポイントとなっています。
結局人々は「お得だから」QRコード決済を使っているのです。現金決済やクレジットカード決済よりもポイントが多く、実質的な割引として利用できる点を魅力としている以上、今後もポイント還元キャンペーンなどは定期的に打つ必要があるでしょう。
また、当然ながら利用可能なチャネルの豊富さも重要です。この点に関しては各社すでに巨大な経済圏を確立しており、どのコンビニでもレストランでもほとんど支障なく利用できるほどに利便性が上がっているため、今後の事業拡大のネックとなることはほぼないでしょう。
忘れてはいけないのは事業者側の負担についてです。大手各社が一斉に手数料有料化に踏み切ったことで「手数料無料のQRコード決済に切り替える」といったことが事実上不可能となり、事業者としては単にコストが増えたに過ぎません。
それでも事業者がQRコード決済を辞められない理由があります。クレジットカード決済などよりも手数料が若干安い上に、導入コストが低く移動店舗や無人販売店のような事業形態でも導入しやすいといった複数のメリットがあるからです。
何より、ユーザーが「お得だから」利用すると言っている以上、QRコード決済を辞めた場合に顧客離れを起こす可能性があります。QRコード決済を使える店と使えない店があった場合、今までQRコード決済を使っていた顧客は確実にQRコード決済を使える店に流れてしまいます。
手数料有料化によって損をするのは店舗であり、ユーザーではありません。このこともまたQRコード決済を運営する企業が強みと考える点です。エンドユーザーの支持を得続ける限り強気の戦略を取り続けられます。
NTTドコモやKDDI、ソフトバンクは通信事業での収益力増強に限界が来ていることを悟り、4~5年前からひたすらにポイント経済圏の強化を図ってきました。楽天(楽天モバイル)に至っては、そもそもがポイント経済圏で育ってきた企業です。
QRコード決済とは、そんな経済圏強化を急ぐ各社にとって絶好の材料でした。一度導入した店舗は二度と辞めることができない。一度利用した顧客は二度とその魅力から離れられない。……そんな麻薬のような危険性すらはらんだシステムがQRコード決済だったのです。
■便利でオトクな「理由」を知っておこう
ユーザーに表立ったデメリットがない限り、QRコード決済が手数料有料化によって下火になることはほぼないと考えます。むしろ手数料を払ってでも導入したいと思う事業者は今後さらに増えていくはずです。
2018年~2019年初頭当時、世間の認識の多くは「QRコード決済なんて時間がかかって面倒なだけ」、「現金で十分」、「クレカじゃダメなの?」といったものだったと記憶しています。
しかし3年経った今、そのような声はあまり聞かれません。むしろ「まだ現金使ってるの?」、「クレカはクレカで便利だけどコンビニはQRコード決済だよね」といった意見に変わってきたことは間違いないでしょう。
人々の認識の変化が手数料有料化を後押ししたこともまた確実です。そしてその認識の変化を生み出したものこそがプロモーションやキャンペーンであり、テレビCMでした。
ユーザーとして唯一注意すべきは、各社による個人情報の取り扱い方です。
昨今は個人情報の取り扱いに対する強化が叫ばれていますが、QRコード決済システムもまた個人情報の塊です。不正利用だけではなく企業による宣伝・広告への濫用もまた厳格に監視しなければなりません。
企業が対価を払ってでも欲しがるほどの個人情報と紐付いているからこそ便利でオトクなサービスとして利用できていることを、ユーザーも正しく理解しておく必要があります。
1つのシステムを過信することなく、また利用すべき場所や敢えて利用しない場所を作るなど、上手に使い分けていきましょう。
記事執筆:秋吉 健
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