Twitterの目指すべき未来について考えてみた! |
11月に入ってからSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)界隈を最も賑わせている話題と言えば、やはり短文投稿サービス「Twitter」の改革関連ではないでしょうか。
電気自動車企業「Tesla」や宇宙開発企業「Space X」などの創業者兼CEOのElon Musk(イーロン・マスク)氏(以下、マスク氏)によるTwitter買収劇は10月の買収完了によって一旦の決着を見せ、株式も11月8日(米国時間)には上場廃止となりました。
日本でもこの動きの影響を大きく受け、日本法人のTwitter Japanでは人員整理の名の下に社員が大量に解雇(厳密にはこれから交渉が行われる)されたことやTwitterの認証マークの有料化など、連日話題に事欠きません。
事実とも噂とも分からぬ虚実一体の情報が錯綜する日々ですが、今回のコラムではその真偽に焦点を当てたいわけではありません。なぜTwitterがマスク氏によって買収されたのか、なぜ人々はTwitterの動向を気にするのか、そしてTwitterが抱える問題の根源とは何なのか、Twitterが今後行うべきビジネスモデルとはどういったものなのか。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はTwitterに望む姿や健全なSNSとしての未来を考察します。
■行き過ぎた言論・表現規制も見え隠れしていたTwitter
はじめに、Twitter買収までの流れを時系列で簡単におさらいしておきます。
マスク氏によるTwitter買収劇の発端を探すことはそれほど難しくはありません。マスク氏は2009年からTwitterを利用する、いわゆる「古参ユーザー」ではありましたが、明確にTwitter買収へ動き出したのは今年の1月末からです。
マスク氏は1月から3月に掛けて徐々にTwitter株を買い増しし、4月には9.1%まで保有していることが判明して大騒動となりました。いわゆる「マスク氏によるTwitter買収」というと、この株の大量保有報告書の公開からを指すことが一般的です。
「Free speech is essential to a functioning democracy. Do you believe Twitter rigorously adheres to this principle?」(言論の自由は、民主主義が機能するために不可欠です。Twitter がこの原則を厳密に守っていると思いますか?)
米国でもSNS上での言論誘導やフェイクニュースが問題となり、そもそもSNSを運営する企業が言論統制や扇動を行ってはいないだろうか、という嫌疑が取り沙汰されている中、3月以降はこのようにフォロワーへ問うアンケートツイートを頻繁に行っていたことからも、マスク氏がそもそも「物言う株主」となるために株の購入を勧めていたことは間違いありません。
Free speech is essential to a functioning democracy.
— Elon Musk (@elonmusk) March 25, 2022
Do you believe Twitter rigorously adheres to this principle?
2021年以前からも、TwitterやSNS全般への不満をあらわにするツイートは散見されていた
その後の買収劇についてはさまざまなニュースなどで伝えられている通りです。Twitter社内との確執や反発も大きく、敵対的な買収であったことも話題性を大きくしました。
マスク氏は「リバタリアン」(個人的な自由と経済的な自由の双方を重視する完全自由主義者)であるとも言われ、言論についても基本的に自由であるべきという主張を貫いています。
それ故に、Twitterが上記のような言論統制の道具のようになっていく様に耐えられなかったのかもしれません。事実として、Twitterでは過激な表現や危険思想の発言によってアカウントの停止や、「シャドウバン」(Shadow BAN)と呼ばれるフォロワーのタイムラインに表示されなくなったり検索できなくなったりする制限が掛けられるなど、数多くの事例がありました。
マスク氏による買収後、シャドウバンが行われていたアカウントからシャドウバンが解除されたという報告をいくつも見ました。
そういったアカウントの多くは犯罪を誘発するような危険思想などではなく、単にアダルトコンテンツ的なイラストを載せているだけであったり、いわゆる「右寄り」、「左寄り」と言われている程度の発言をしていたアカウントです。
卑猥な表現のイラストなどはクリックしないと表示されない設定(センシティブな内容の設定)も行えるようになっており、敢えてシャドウバンなどというユーザーに分かりづらい隠し設定を行う理由はありません。
もしそういった表現を規制するにしても、アカウントユーザーへの通知もなく裏で勝手に「フォロワーに表示しない」という設定を行うことの正当性が見えません。
こういった経緯もあり、マスク氏による買収とその後の動きについて、Twitterユーザーからは「やっとシャドウバンから解放された」、「よくやった」と賛同する声が多く上がったのです。
■安定しない収益性と経営戦略
そしてもう1つ、マスク氏がTwitterを買収した理由があります。それは収益性です。
Twitterはかつて「万年赤字」状態でした。サービス開始から10年以上も毎年数十億~数百億円単位の赤字を垂れ流し続け、倒産や身売り話が持ち上がることすら珍しくありませんでした。
その後タイムラインへの広告表示や企業プロモーションへの活用を促す営業活動に力を入れ、ようやく黒字化を果たしましたが収益性は安定せず、黒字と赤字を行ったり来たりするような経営状態でした。
企業として、そういった不安定な経営状態が続くことは大問題です。ましてや人々のコミュニケーションインフラとして確立された地位にある巨大SNSが適当な経営と財務状態であること自体が異常事態です。
そこで、財務状況の立て直しを掲げて手を挙げたのがマスク氏だったのです。
マスク氏は手始めとして、認証マークの有料化を果たしました。
これまで認証マークは、個人や企業を特定できた場合に公認のアカウントであることを証明するものとして無料で提供されていましたが、今後は月額料金(サブスクリプション)を支払って利用するものとなる予定です。
認証マークの有料化によってなりすましが横行するのではないかといった不安の声もありますが、そこは有料化とは関係なく認証システムの問題です。
認証マークの有料化は収益性改善への第一歩であり、マスク氏自身も「Please note that Twitter will do lots of dumb things in coming months. We will keep what works & change what doesn’t.」(Twitter は今後数か月で多くのばかげたことを行うことに注意してください。機能するものは維持し、機能しないものは変更します。)と言及するように、さまざまな施策を試しながらユーザーや市場の反応を見ていくことになるでしょう。
Please note that Twitter will do lots of dumb things in coming months.
— Elon Musk (@elonmusk) November 9, 2022
We will keep what works & change what doesn’t.
失敗を恐れずチャレンジしていく姿はマスク氏の真骨頂でもある
Twitterは現在、海外で「Twitter Blue」と呼ばれる有料サービスもテストしてます。Twitter Blueでは無料版よりも詳細なアカウント操作や設定が可能になるほか、専用サポートなどが用意されていますが、今後さらに機能は追加していくことが言及されています。
Twitter Blueの登場によって無料版のTwitterがなくなるわけではなく、いわゆる有料オプションとしての位置付けです。前述の認証マークはTwitter Blueを利用することでも取得可能です(現在のところ、Twitterによる認定で取得した認証マークとは説明文が異なるが見た目はまったく同じ)。
面白いのは、有料版であるTwitter Blueを契約しても「広告なしにはならない」とハッキリ明言している点です。
例えばYouTubeにおける「YouTube Premium」のように、月額利用料を支払うことで広告が非表示になるといったことはなく、飽くまでもTwitterを利用する上で充実したサポートを受けられる、という点にフォーカスしています。
収益力を広告のみに頼るのではなく有料ユーザーを増やすことで、Twitter側は安定且つ長期的な戦略を取りやすい収益源を確保し、ユーザーはより高い品質のサポートを得られるようになります。
■Twitterが目指す未来、ユーザーが期待する未来
日本でもTwitter Blueが導入されるのであれば、ツイ廃(Twitter廃人)を自称する筆者はぜひとも利用してみたいと思っています。
海外での月額利用料金は「米国での価格$4.99をベースに地域ごとに異なります」としており、日本では月額700~1000円程度ではないかと言われていますが、その程度であれば特別高い料金ではないでしょう。
認証マークは大安売り状態になってしまいますが、今後は「Twitter Blueの契約者を示すマーク」程度の扱いになるのかもしれません。
筆者がTwitter Blueに望む機能としては、ツイート内容の編集機能があります。今年4月にもマスク氏自身が「Do you want an edit button?」(編集ボタンは欲しいですか?)というツイートを投稿しており、投稿したツイートを後から編集できる機能が追加される可能性は大いにあります(無料版でも可能になる可能性はある)。
その後のTwitter社やマスク氏のツイートから、編集可能な回数に制限を設けたり編集履歴を閲覧できるようにする(編集前の文章を読める)ことなども検討されていることから、情報の改ざんやフェイクニュースへの安全性も十分考慮して検討されていることが伺えます。
Twitterがコミュニケーションツールとしてより大きく成長するためにも、ツイート編集機能は必須であると感じます。
この他にもツイート可能な文字数を増やすことなど、単なる思いつきではないかと思うようなこともマスク氏は頻繁にツイートしています。
しかしながら、この「思いつきを即実行し、ダメならすぐに次を考える」というトライ&エラーの速さと行動力こそが、10年間も赤字を続け、その後もずっと収益性を改善できずに低迷していたTwitterに求められていたことのようにも思います。
Twitterは日本でこそSNSとして大きなシェアを獲得していますが、海外ではFaceBookやTiktok、WeChatなどにユーザー数で大きく離されています。
Twitterが単なるニュースソースやニュースツールではなく、人々が能動的に情報を発信するコミュニケーションツールとして復権するためにも、人々に信用され快適に利用できるコミュニケーションツールへと立ち返る必要があります。
「言論に自由を」と鼻息荒く乗り込んできたマスク氏による改革が果たして成功するのか、そしてその改革を人々が快く受け入れるのか、これからが本番です。
マスク氏同様にリバタリアン思想が強い筆者としては、その成功に期待せざるを得ません。
記事執筆:秋吉 健
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