ネット時代のミールキット宅配サービスについて考えてみた!

筆者宅では、40年近くにわたって利用し続けているサービスがあります。それは食材(ミールキット)の宅配サービスです。

ミールキットとは、毎日の夕食や昼食に使う食材をメニューに合わせて必要分だけ毎日宅配してくれるというサービスで、共働きで忙しかった両親から「これ以上ないほど便利なサービスだ」と、よく言われたものです。

そんなミールキット宅配サービスも、今やスマートフォン(スマホ)からネット注文する時代です。市井の人々もさぞや便利に使っているのだろう……と思いながらデータを探してみれば、筆者が思うほどには活用されていない様子。こんなに便利なサービスなのに何故?と思いつつ、今日も宅配された食材で夕食を作っています。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はミールキット宅配サービスの現在とその利便性について解説します。

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今こそミールキット宅配サービスを見直す時!


■メリットしかないミールキット宅配サービス
はじめに、ミールキット宅配サービスのメリットとデメリットについて列挙しておきましょう。

メリットには以下のようなものがあります。

・毎日新鮮な食材が自宅に届く
・食材を買いに行く手間や交通費、時間コストが要らない
・食材は正しく計量されたものが必要分だけ届くため無駄がほとんどない
・無駄なく食材を使えるためスーパーマーケットなどで買うよりも結果として安上がりになる
・悪天候でも食材を届けてくれる(雨に濡れたり雪道を歩く面倒や危険がない)
・毎日の献立を考える必要がない(複数あるメニューから選択して注文するだけ)
・事前にメニューと費用が分かるため、もう1品欲しいなどの家族の要望に応えやすい
・管理栄養士が考えたメニューであるため栄養のバランスが良い
・毎日違うメニューであるため食事が偏らない
・出来合いの惣菜ではなく自宅で調理するため自分好みの味付けが可能
・出来合いの惣菜ではないため子どもの食育にも影響がない
・手間や調理時間でもメニューが選べる(※利用するサービスによる)
・レシピがついてくるので調理の仕方で迷わない
・必要な調味料なども事前に分かるため買い忘れがない
・様々なメニューを作ることになるため、自然と料理が上手くなる
・食べたことのない食材や料理を積極的に食べられるため食生活が豊かになる
・食材や料理を冷凍保存する必要がない(作り置きしないので食事のマンネリがなく常に出来立てで美味しい)


一方で、デメリットは以下のようなものが考えられます。

・1~2週間前にメニューを注文するため、突然の外出や食事を作れない日があると食材が溜まってしまう
・1人暮らしの場合、食材の届く時間に自宅にいるか、安全に受け取るための大型宅配ボックスが必要(保冷箱が入る大きさが必要)


正直、デメリットらしいデメリットがあまり思いつきません。とくに、筆者宅のように週5日も宅配サービスを利用している家庭でもない限り、食材が余るというデメリットはほぼないと言えます。

また子どものいる家庭などでは、食材が多少余ったところで翌日のメニューなどに1~2品追加する感覚で食材を使ってしまえば良いため、この場合もデメリットはほとんどないと言えるでしょう。

ちなみに筆者宅では40年近く使い続けてきた中で、ミールキットで宅配された食材が余って廃棄しなければいけない状況に陥ったことはほとんどありませんでした。

むしろ、スーパーマーケットなどで買い足した食材が余ることのほうが圧倒的に多く、ミールキットの食材だけで良かった……と後悔することは未だにしばしばあります。

フードロスの削減などが叫ばれる時代でもあり、食材を無駄なく使えるというメリットはもっと評価されて良い部分だと考えます。

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その日に食べる分だけ届くため、まったく無駄が出ない


■統計から透けて見える日本人の食事観
このようにミールキット宅配サービスはメリットだらけで、週に5日も利用しているヘビーユーザー的には使わない理由を知りたいほどですが、MMD研究所が2023年3月に公開した「日米仏3ヶ国比較:都市部消費者の食の意識・動向調査 第1弾 ~食生活編~」によると、日本におけるミールキットのネット注文・配達サービスの利用頻度は週に1~2回以上の合計が3.7%となっています。

同じ項目をアメリカやフランスと比較すると、アメリカでは24.9%、フランスでは15.8%となっているため、これが如何に低い水準であるのかが分かります。

さらには月1回以上の利用まで比較データを拡大すると、日本は10.2%、アメリカは44.9%、フランスは32.2%となり、さらにその差は拡がります。

この調査では「ネット注文」に焦点を当てているためミールキット市場全体での数値ではない点を考慮する必要がありますが、それでもこの差は圧倒的です。

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日本の「週に3回以上」のデータに数値の記載がないが、これは1%未満であるために省略されてしまっている。実際は0.7%程度だ


では、レシピも付いてくるミールキットではなく、食材のみを届けてくれる「食材宅配」のサービスなら利用頻度が高いのかと思えば、これもまた非常に低い数値です。

食材のネット注文・配達サービスを月に1回以上利用している人は、日本では25.2%であるのに対し、アメリカでは58.4%、フランスでは52.4%と、ここでも圧倒的に日本での普及率が低いことが分かります。

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食材のみの宅配サービスは食材価格が比較的安い代わりに食材の無駄が出やすく、レシピを自分で考えなければいけないためにメリットがかなり少なくなる


一方で、欧米とあまり差がない調査データも存在します。それは「外食の利用頻度」です。月1回以上外食を利用する人の割合は、日本では71.4%、アメリカでは66.5%、フランスでは72.7%となっています。

国土の広さやスーパーマーケットなどの店舗までの距離、物価、料理の手間(調理方法の違い)など、国によって条件が大きく異なるために断定的な結論は出せませんが、ミールキットや食材のみの宅配が普及せず、外食だけが広く普及している日本の特徴というものはハッキリと見えています。

雑に言ってしまえば「ズボラな国民性」とも言えますが、裏を返せばそれだけ料理に手間を掛けたがる(味にうるさい)国民性であったり、食事よりも仕事を優先してしまう社会的な風潮があるのかもしれません。

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デフレ景気が長く続き、外食産業の低コスト化と低価格化が激しく外食が便利になりすぎたというのもあるだろう


■忙しい毎日にミールキットで豊かな食生活を
では、ミールキットの宅配サービスを注文・利用するのは手間が掛かるのでしょうか。

例えばNTTドコモが提供している「dミールキット」などは、Androidアプリとして提供されており、スマホ1つで簡単に注文ができます。

また生協のパルシステムやヨシケイなどはiOSアプリとAndroidアプリの両方が用意されており、iPhoneユーザーも安心して利用できます。

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スマホだけで注文が完了するだけではなく、レシピなどもスマホで確認できるのが便利だ


他にも、専用アプリはなくともネット注文可能なミールキット宅配サービスは多数あり、住んでいる地域やミールキットの内容(ほぼレトルト仕様なのか、食材の下ごしらえから必要なのかなど)によって、かなり自由に選択することができます。

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スマホアプリはないが、食材の安全性や調理の手軽さを重視した「生活クラブ」


「衣食住」という言葉がある通り、食は生活の基礎・基盤です。便利で豊かな食文化を誇る現代日本だからこそ、食へのアプローチ方法にも革新が必要です。

毎日同じものばかり食べる、冷凍食品に頼りっきり、レシピを考えるのが面倒で惣菜で済ませる……そんな生活を続けていては食事が楽しくなくなります。家族とともに暮らしている人であれば、料理と食事の時間を大切にすることの重要さは理解できるはずです。

日々時間に追われて生活している中で、どのように豊かな食生活を維持し、楽しい団欒の時間を確保するのか。日本人はもっと真剣に考えて良い気がします。

ミールキット、良いですよ。ズボラを自称する筆者のオススメです。

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ミールキットに感謝しつつ、今夜は鶏鍋だ


記事執筆:秋吉 健


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