5Gの現在と課題について考えてみた!

……人々から5G熱が、一向に上がってきません。

KDDIおよび沖縄セルラー電話は25日、都内にて「UNLIMITED WORLD au 5G 発表会 2020Autumn」を開催し、携帯電話サービス「au」向けに5G対応スマートフォン(スマホ)6機種を発表しました。

今回発表された機種はすべて5G対応となり、auブランドによる5G推進と通信世代移行の姿勢を明確にした形です。これにより、4Gスマホは10月に統合してサブブランド化する予定の「UQ mobile」での展開を行い、差別化していくことになるということです。

KDDIに限らず、移動体通信事業者(MNO)各社は5G通信を主力に据えた戦略を推し進めていますが、その実態は非常に厳しいものです。対応端末こそハイエンドからミッドレンジまで幅広く充実してきましたが、エリア展開は遅々として進まず、利用者が「5Gは凄い」と感じられる体験があまりにも乏しいのが現状です。

サービス開始前の喧伝具合との落差が激しい昨今の5G関連の話題の少なさはどうしてなのでしょうか。また現状からの打開策はあるのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は5Gの現在と普及に向けて山積する課題について考察します。

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各社が苦慮する5G普及の「障壁」とは何か


■5Gエリアはどこにある?
はじめに、MNO各社の5Gエリア展開状況についておさらいします(楽天モバイルはまだ5Gサービスを開始していないので除外)。

NTTドコモは2020年9月現在でも、5G利用可能エリアを示すマップなどを公式に用意していません。未だに5Gの利用可能施設やスポットをリスト表示するのみで、非常に狭い「点」としての展開しか出来ていないことが伺えます。

同社のロードマップによれば、2021年3月までに全国500都市に展開し、2021年6月までに1万局、2022年3月までに2万局の基地局を設置するとしており、現在の進捗状況についても「順調」とするなど、同社としては大きな計画遅延などは起きていないとしています。

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エリアマップに表示できないほど電波の到達範囲が狭いということでもある


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5G契約者数についても普及価格帯のスマホを投入することで加速させていく予定だ


KDDIは公式サイト上で5Gのエリアマップを公開していますが、エリアと呼ぶにはあまりにもスポット的すぎて、マップを見た瞬間にどこがエリアなのか分からないほどです。

24日の発表会でもエリア展開の進捗状況について説明があり、「ずっと、もっと、つなぐぞ。au」をキャッチコピーに、2021年3月末までに1万局、2022年3月末までに5万局を整備する予定であると改めて告知しました。

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オレンジ色の部分は5Gエリアではない。山手線エリアを中心に、わずかに見えるいくつかの赤い点が5Gスポットになる


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かつて3Gサービス開始時はエリア展開の速さでNTTドコモに勝利したKDDIだけに、5Gでもエリア展開の速さに重点を置いている


ソフトバンクもKDDI同様にエリアマップを公開していますが、やはりエリアは非常に狭い印象です。

基地局展開については2020年度末(2021年3月末)までに全国47都道府県で1万局超、2021年度末(2022年3月末)までに5万局超を整備し、人口カバー率90%超を達成するとしています。

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ソフトバンクが最も具体的なエリアマップとなっているが、やはりエリアはまだまだ狭い


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ソフトバンクはワイモバイルが保有する全国約23万のPHS基地局資産(現在使われていない箇所含む)を活かし、5Gエリアを一気に広げていく計画だ


このように、いずれのMNOも5Gサービス開始から半年ほどが経過した現在ですら、ほとんどエリア展開が進んでいないと言って良い状況であることが分かります。

基地局整備の現状は元々想定されていたものであり「ほぼ計画通り」の内容です。各社の整備計画に何らかの問題が発生して大きな遅延が生じているわけではありません。

しかし人々の感覚にしてみれば「どこがエリアなのか分からない」、「5Gってやってるの?」といった状況は続いているわけで、真っ先に最先端技術に飛びつくアーリーアダプター層の人々でさえ、盛り上がるきっかけすら見つけられずにいます。

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そうは言っても現在の5Gはまだまだつながらない


■5G普及に必要な「3つの要素」
5Gが盛り上がらず普及の兆しすら見せない現状を打破するためには、3つの要素が不可欠であると筆者は考えます。それは、「エリア」、「端末」、そして「コンテンツ」です。

エリアは何よりも基礎・基盤となるものでしょう。現状それが未整備もしくは整備途中であっては、人々が食いつく要素がありません。

5G対応端末に関してはAndroidスマホでハイエンドからローエンドまで幅広く揃い始めてきた印象があり、また今秋~今冬には最新型のiPhoneが5G対応で登場するとの予想もあるため、十分な準備が整っていると考えられますが、それらも結局は電波が使えなければ何の意味もありません。

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auブランドの最新スマホはすべて5G対応になり、端末側の準備は整った(画像はサムスン製「Galaxy Note20 Ultra 5G」)


そして筆者が何より危惧するのは、「5Gだからこそ」という魅力的なコンテンツが非常に少ないことです。

これまで通信の世代が2G→3G→4Gと進化してくる中で、私たちはコンテンツのリッチ化を肌で体感してきました。2Gから3Gになって音楽配信が身近なものになり、4G世代では動画を当たり前のように電車の中で観る時代になりました。

では5Gで何が変わるのでしょうか。動画の画質が良くなる!と宣伝されても、所詮は6インチ前後で指紋だらけのスマホの画面です。なかなかその魅力が理解されることはありません。

そこでMNO各社は、より大容量を必要とするマルチアングルカメラによる自由視点映像や、データ容量の大きなxRコンテンツなどをアピールしてきましたが、これらは人々が体験したことがない(もしくは体験した人が少ない)技術およびコンテンツであるため、未だにその魅力を伝えきれていないのです。

仮に5Gエリアと端末の条件が揃ったとしても、そこで得られるコンテンツ体験に大きな変化を感じられなければ、人々は「5Gって動画のダウンロードがちょっと早くなるだけなんだね」という感想だけで終わってしまう可能性すらあります。

その程度の体験で終わってしまった場合、最も困るのは料金プランです。MNO各社は現在のところ5G料金を据え置く形で普及に注力していますが、契約期間によって段階的に引き上げたり、キャンペーン終了とともに料金の値上げを画策しているだけに、ユーザーが十分な5G体験を得られなかった場合、「これなら4Gで十分」、「わざわざ高額を払うほどではない」と感じられてしまうことを最も懸念しているのです。

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例えばソフトバンクは5G基本料を1年据え置くキャンペーンを展開しているが、その1年で感動体験を得られなかったユーザーは料金引き上げに納得しないだろう


奇しくも政治の世界では、2018年8月に「(携帯電話料金は)4割下げる余地がある」発言をした菅義偉氏が内閣総理大臣に任命され、その就任直後の会見でも「(携帯電話料金は)1割程度の引き下げでは改革にならない」と発言するなど、携帯電話料金の値下げを断行する姿勢を崩していません。

そのような中で、「5Gだから」という理由で政府の意向とは真逆の値上げに踏み切ることはなかなか難しい状況となっていることもまた、MNOへの強い逆風となって吹き付けています。

■未知の体験価値をどう伝えるか
そもそも4G(LTE)が順調に普及した背景には、端末の世代交代も大きな要因として存在していました。

通信技術が3Gから4Gへと変わろうとしている時、ちょうど端末の世界ではiPhone(スマートフォン)という黒船が日本にやってきました。それまでの携帯電話とは一線を画す異質なエンターテインメントデバイスは、当初日本の人々からも奇異の目で見られました。

しかし4Gサービスが登場する頃には、マルチメディア端末としての楽しさや大画面での新しい映像体験などが人々を魅了し始めており、その体験価値は決定的となったのです。

5Gでは、そういったデバイスの変革によるパラダイムソフトが起きていません。5G世代でも人々は4G世代と同じようにスマホを使っています。

道具の変化は人々の意識を非常に変革しやすい「条件」の1つですが、そういったアクションが起こっていない以上、人々が能動的に変化していく土壌が育ちません。

デバイスが変わらず使い方も大きく変わらない中で、目に見えない通信速度だけが向上しても、人々がそこに大きな体験価値を得ることは少ないように思われます。

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iPhoneシリーズは5からLTEに対応し、ここから大画面化が加速し始める。Androidスマホの世界でも同様に動画視聴端末として大画面化が一気に進んだ


24日に行われたKDDIの発表会では、5G対応スマホのほかに、5G通信を利用したサービスや先端テクノロジーを体験できるコンセプトショップ「GINZA 456」のオープン発表も行われました。

5Gアピールのために「コンテンツ」の感動体験が必要であることは、誰よりもMNO各社が一番よく分かっています。だからこそスポーツイベントやライブ会場などでの5G体験イベントを開催してきたわけですが、2020年以降のイベント計画の多くが新型コロナウイルス感染症問題によって中止や延期を余儀なくされてしまいました。

完全に出鼻をくじかれた5Gサービスですが、このまま低空飛行を続けるわけにも、ましてやサービスを終了するわけにも行きません。本来そこで体験できる創造的な価値は非常に大きなものです。しかしそれらは音楽や映画のような人々すでに知っている楽しさではなく、全く未知の体験なのです。

人々に、どのようにして5Gの「真の魅力」を伝えていくのか。5Gエリアの拡大は当然急がねばなりませんが、エリアが広がった時、人々に「早く5Gを使いたい」と感じさせるだけの体験価値が伝わっていることを願うところです。

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静止画では全く伝わらないこの新しい楽しさを、どう伝えれば良いだろうか


記事執筆:秋吉 健


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