生活空間へのロボットの進出と日本の未来について考えてみた!

ソフトバンクロボティクスが都内にて記者発表会を4月10日に開催し、同社のAI清掃ロボット「Whiz(ウィズ)」の本サービスを5月より開始すると発表しました。Whizは業務用の清掃ロボットとして昨年11月に発表され、これまでのテスト運用の期間を経て今回の本格運用に至りました。

同社は本サービス開始に合わせて大塚商会やAKTIO、CxS、SoftBank、DUSKIN、DeeCorp、RICOH、リ・プロダクツの8社とアライアンスパートナーとして提携し、清掃業界のみならず、OA機器業界や通信業界など、さまざまな視点によるサービス展開とともにWhizを広めていく戦略を掲げています。

ほんの数年前まで“ロボット”と言えば、製造業の組立工程や設計などで活躍する産業用ロボットが主であり、いわゆるオフィスやサービス産業など、専門知識のない一般人が関わる場所でのロボット運用はあまり行われてきませんでした。

そこには技術的なハードルとともに、人々の心理的なハードルもあったように思われます。しかし今、ロボットは着実に私たちの生活の場へと浸透しつつあります。なぜ今、ロボットの技術開発や市場展開が注目を集めるのでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はWhizの評価や概要とともに、人々の生活圏へ進出するロボット産業とその意義について考察します。

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AI清掃ロボット「Whiz」。まずは企業向けのリースサービスとして運用が開始される

■日本のオフィス環境に合わせて作られたAI清掃ロボット
日本の通信会社の中でも、ソフトバンクグループはとくにロボット技術の開発や市場投入に積極的な企業です。AIやIoTとともにロボットを日本の発展に寄与する中核技術ととらえ、人型ロボット「Pepper」を足がかりに、人の生活に携わるロボットの開発と普及に注力しています。

Whizは同社と米国ブレイン・コープによる共同開発で、ブレイン・コープが開発しすでに販売を開始している業務用AI清掃ロボット「RS26」で培われたノウハウやAI技術に、ソフトバンクロボティクスが日本の風土やオフィス環境に合わせたカスタマイズやアイデアを組み合わせて作られました。

具体的には、搭乗型のスクラバー清掃マシンであるRS26では日本の狭いオフィス環境に合わず、またカーペットなどの床面が多いことから、スクラバータイプではなく家庭用掃除機のようなバキュームタイプが好まれる傾向もあり、Whizでは手押し型の小型清掃機のスタイルが採用されました。

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海外の高い技術を持つ企業と提携し、日本の風土に合わせた形で導入するのはソフトバンクグループが最も得意とする手法だ


ソフトバンクロボティクスグループ 代表取締役社長 兼 CEOを務める冨澤 文秀氏は、Whizの試験導入の結果について「想像以上に好評だった」と語り、試験導入を行った十数社すべてから継続契約を獲得したことを壇上で発表しました。

継続契約に至った背景には、当然運用コストが安価である点や運用の容易さもありますが、注目すべきは「人間が清掃するよりも綺麗になった」と語っている企業が多数存在したことです。

人の手による清掃作業は「汚れている場所を見つけて清掃をする」、言わば差分清掃に近いものですが、Whizは指定されたフロア(清掃ルート)を確実にすべて清掃するため、結果としてフロアの清掃状況が大きく改善されたのです。

もちろん、細かな場所や障害物によって清掃ルートが回避される場合もあるため、人間の目によるチェックや差分清掃(重点清掃)も必要です。この点について冨澤氏は、「すべての清掃業務をWhizがやるわけではない。飽くまでも人の手による清掃作業の補完や補助として大きく役に立つ」と語っています。

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小さく小回りの利くボディで狭いオフィスもスムーズに清掃する


■労働力としてのロボット
同社やソフトバンクグループがロボット技術に注力する大きな理由として、日本における労働者人口の急速な減少があります。

内閣府が公表している「平成30年版高齢社会白書」によれば、日本の労働者人口(15歳~64歳)は2017年(平成29年)で7596万人であり、2020年には7406万人、2030年には6875万人と、毎年50万~60万人もの大幅な減少を推計しています。

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もはや人口減少は止めることのできない未来となった


冨澤氏も壇上で「日本の労働者人口は毎月5万人減少している。これはソフトバンクグループが毎月まるごと消えるほどの規模」と語り、大きな危機感を持っていることを強く主張しています。

労働者人口が減る中で、最も大きな打撃を受けるのが、いわゆる「3K(きつい、きたない、きけん)」産業です。政府はこういった産業での労働力確保の戦略として外国人労働者の受け入れを検討していますが、それだけで解決できる問題ではありません。

例えば、厳重なセキュリティを必要とするオフィスビルの清掃やメンテナンスに携わることができる人材をどう確保するのか。そこに踏み込んでいくのがロボット技術なのです。

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清掃業界の人材不足と高齢化はとくに深刻だ


Whizは単体で完全な無人稼働を可能としていますが、その運用は前述のように無人を想定したものではありません。例えば、オフィスビルの清掃は数名の清掃員がチームを組んで担当しますが、そのうちの1人をWhizで置き換える、といった運用が望ましいと同社は説明しています。

世間一般では、AIやロボットの導入によって人の仕事が奪われるのではないか、という懸念を少なからず耳にしますが、同社が目指す先はそこではありません。人がロボットとともに働き、ロボットへ簡易な指示を出しながらオペレーティングしていく未来を想像しているのです。

そしてそれは恐らく、人とAIやロボットが目指すべき正しい関係性だと考えます。


S-MAX:AI清掃ロボット「Whiz」デモンストレーション

動画リンク:https://youtu.be/O75mLGTpvx8

■人とロボットのあるべき関係性
このWhizの他にも、日本ではさまざまな分野でAIやロボットが活躍する可能性があります。例えばコンビニ業界では、ローソンやファミリーマートがこの春から相次いで無人レジを導入した店舗の実証実験や導入計画を発表しています。

こういった店舗の無人レジ化もまた、形を変えたAIおよびロボット技術の1つと言えます。ロボットと言うと人の形や動き回るものばかりを想像しがちですが、店舗自体がロボット化する未来はもうそこまで来ているのです。

しかし、それでも防犯やサポート要員としての人間は必要です。またコンビニであれば、今のところ品出しや廃棄処理などは人の手が必要でしょう。ロボットが人の仕事を奪うのではなく、人が行う仕事の役割と負担率が変わるのです。

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KDDIなども独自で画像認識技術を使った無人レジの研究を行っている


ロボットを用いた店舗営業のあり方で、非常に興味深いエピソードが1つあります。某アイスクリームショップで販促用の割引チケットを配布する際、店員が店舗前で配布すると通常は数十人程度しか利用がないのに、Pepperでチケットを配布したところ数千人もの利用があったというのです。

これはロボットによる販促という状況に人々が慣れた結果ではなく、逆に「人間による手渡し」という販促行為への心理的障壁がロボットによって取り払われたことを意味します。

皆さんも街頭でのビラ配りを煩わしく感じたり、服飾店で服を選んでいる最中に店員が話しかけてくることへ抵抗感を持った経験があるのではないでしょうか。ロボットは、そういった人間とのコンタクトを避けたいと感じるシチュエーションでも大きく貢献できるのです。

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人間の店員には話しかけづらくとも、ロボットであれば気軽に利用できる、という人は多いかも知れない


ソフトバンクロボティクスはWhizの本格サービス開始キャンペーンとして、現在合計3,000施設での最大1ヶ月無料清掃を実施しています。同社自身が「これほど好評だとは思わなかった」と語るように、AI清掃ロボットの需要とその評価は非常に高く、これからのロボット事業拡大にも大きな手応えを感じ取っていたようです。

同社はWhizの発表に際し、2019年を「AIクリーン元年」と名付けて同事業に弾みを付ける考えです。ロボットによる仕事の代替から、仕事の分担へ。折しも時代は平成が終わり令和を迎えましたが、AIロボットと人との関わり方もまた、新たな段階へと突入したのかも知れません。

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人が減っていく令和の時代。ロボットは人をどこまで支えてくれるだろうか


記事執筆:秋吉 健


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