オンラインサービスの「ダークパターン」について考えてみた! |
先日、仕事でPDFに署名する必要があったため、AdobeのAcrobat Reader DCをダウンロードしました。検索でダウンロードサイトはすぐに見つけられたものの、ダウンロードボタンを押してからミスに気が付き慌ててキャンセルし、改めてダウンロードし直す羽目になったのです。
理由はオプションのチェックボックス。セキュリティオプションやGoogle Chrome用の拡張機能などをインストールするためのチェックボックスが入れられた状態で表示されており、危うくそのままインストールしてしまうところだったのです。筆者は普段別のセキュリティアプリを利用していますし、Chromeもメインブラウザではないため、これらは不要でした。
こういった、一見すると「安全や利便性のためにチェックしておきましたよ」的なお節介UIは様々な企業で目にしますが、この手の手法は「ダークパターン」と呼ばれ、ショッピングサイトやオンラインサービスではしばしば問題視されてきました。
それでも、企業はダークパターンをやめようとしません。むしろ積極的にユーザーを騙そうとしているのではないかと思うほどに手法は常態化し、年々巧妙になっています。
企業はなぜダークパターンをやめないのでしょうか。そして私たちはダークパターンにどう対処すれば良いのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は消費行動に潜む巧妙なダークパターンや、各サービスを利用する際の注意点などについて解説します。
■誰もが経験しているダークパターンの数々
商品販売やサービスの提供において、ダークパターンという言葉が用いられ始めたのは、今から10年ほど前です。
Wikipediaによれば「ユーザーを騙すために慎重に作られたユーザインタフェースのことである」と説明されていますが、分かりやすい例を挙げるなら以下のようなものがあります。
・オンラインサービスを契約したが、退会の方法が分かりづらい。もしくは電話でしか退会できないのに電話がなかなか繋がらない。
・通販サイトで商品を購入する際、デフォルトで定期購入やメールマガジンのチェックボックスが入った状態になっている。
・期限の定められていない期間限定セールや、「残りあと1個」などの残数表示で購買を煽る。
・「○○人が購入しています」、「この商品を購入した人はこちらも購入しています」などの誘導を行う。
・決済画面で初めてオプション料金や手数料などが表示され、自動的に加算されている。
・実際には品切れであるのに少量在庫があるように見せかけて会員登録などを促し、後日別の商品へ誘導する。
・実際には会員登録しなくても購入できるのに、会員登録が必要であるかのように誤認させる。
これだけを見れば、「え!その程度ならどこのショッピングサイトでも普通にやっているような……」と驚く人もいるでしょう。しかし、これらは全てダークパターンと呼ばれる手法です。
そしてお気づきかもしれませんが、このような商売は少なくとも日本において、10年前どころか何十年も続けられてきたものです。
あまりにも常態化しすぎてしまい、人々はそれがおかしいことだと気が付きにくくなってしまっているだけです。
■根の深い通信業界のダークパターン
そしてこのダークパターンは通信業界でも問題視されてきました。むしろ、通信業界はその「発展の歴史=ダークパターンの歴史」と言っても過言ではないほどです。
例えば、通信料金プランの発表会や店頭告知において、最大割引時の料金を大きく掲げて割引前料金を表示していなかったり、非常に小さく表示しているケースがダークパターンに該当します。
ダークパターンの多くは法的に問題があるわけではなく、単に「商慣習やマナーの範疇において問題がある」というものであるからこそ、規制や指導が非常に難しいのです。
こういったダークパターンは主に消費者庁によって監視されていますが、よほど悪質でもない限りは指導されたり規制が入ることはほとんどありません。
通信業界の場合、総務省直々に強引とも呼べる指導を行った結果(実際かなり強引だった)、NTTドコモの「ahamo」、KDDIの「povo」、ソフトバンクの「LINEMO」のように、消費者が誤認する可能性の低いシンプルな料金プランが誕生しました。
しかし、こういった流れは非常に珍しく、また上記にもあるように強引な指導方法は市場的には諸手を上げて喜べるやり方でもありません。やりすぎれば政府による市場介入と取られかねないからです。
企業側にしてみれば、このようなダークパターンは「顧客の利便性を追求したものだ」、「ユーザーの利用実態に合わせて最適化しただけだ」などと平然と言うことでしょう。
確かに、大量に類似品が並んでいるショッピングサイトでどれが人気の商品なのかが分かるのはとても便利ですし、会員登録やメールマガジンの登録という「顧客情報」との引き換えだからこそ、限定品の販売や割引特典を行いやすくなるのも事実です。
しかしながら、売上を少しでも上げようとユーザーを騙すかのようにオプション料金を標準で加えていたり、会員からの退会画面が検索から見つからないようにするなどのやり方は一線を越えています。
例えば今年1月、NTTドコモとKDDIは、通信契約の解約手続きページを検索システムから見えなくする(検索してもヒットしなくなる)「noindex」タグをサイトに埋め込んでいたとして、総務省より指摘を受けました(より強制力のある指導や要請ではない)。
2社はこの指摘を受けてそれぞれにタグの削除を行いましたが、これこそが典型的なダークパターンです。「解約手続き」で検索しても解約案内のページにヒットしなければ、「解約できない」、「見つからないからまた今度にしよう」と諦める人が出てくるのは必然です。
かつては携帯電話向けサイトなどでも、「退会ページが見つからない」、「退会するまでに時間が掛かり過ぎる」といったクレームは数多く存在しました。もはや通信業界の悪しき慣習と呼んでも差し支えがないほどに闇の深い歴史があります。
モバイル通信やオンラインサービスがより便利になり、私たちの生活に必須となった今だからこそ、こういった悪しき慣習を見直す時期が来ていると痛切に感じるのです。
■欧米でも問題視され始めた「Amazon商法」
再びオンラインサービス全般へと目を向けてみれば、今年1月にはノルウェーでAmazonが「Amazonプライムの解約手続きが困難である」として消費者利益を阻害すると指摘され、その後米国やフランス、ドイツなどの欧米各国の消費者団体が一斉に各国の担当省庁へ指摘や調査を依頼するという流れがありました。
Amazonプライムに関して言えば各国の法律には抵触しておらず、飽くまでも問題点の提起や指摘という段階です。国によっては消費者保護法やプライバシー保護法などの適用によって違法性を問えるか検討しているようですが、いずれにしても法整備は間に合っていない状況です。
上記の日本の通信業界の例を見ても、明らかにダークパターンと考えられるサービス運用や消費者誘導は枚挙に暇がなく、オンラインサービス全盛となった現在、消費者保護の観点からも一定の線引が必要な時期であることは明白です。
Amazonの場合、プライムサービスの無料お試し期間が終わると自動的に有料会員へと昇格されるという仕組みがダークパターンではないかという指摘もあります。
非常に肯定的に考えるのならば、ユーザーが手動で切り替える手間を省いているとも言えますが、実際は無料体験を申し込んでいたことを忘れていたユーザーが、自動で有料会員として料金を支払い始めるのを待つ「罠」のような扱いになっています。
例えば無料期間が切れた際は自動継続をせず、商品を購入する時にプライム会員を有料で継続するかどうかの画面を出すようにするだけでもユーザー保護は十分と言えます。ユーザーからの利便性もそれほど落ちることはないでしょう。
一方的な企業論理や企業利益に走るのではなく、飽くまでもユーザーが誤解なく、気持ちよく利用できるサービスであることを目指してもらいたいものです。
■消費行動を躊躇するのではなく、正しく利用する「コツ」を覚えよう
では、消費者としての私たちは何に注意してオンラインサービスや通信の契約を行えば良いのでしょうか。
最も重要なことは、サービス利用前に解約や退会の手順、利用の際の注意点などをあらかじめ調べておくことです。一番良いのは紛らわしい契約条件や分かりづらいサービスを利用しないことですが、実際はそうもいきません。そのサービスをどうしても利用しなければいけない状況は多々あります。
そこで、その契約はすぐに解除できるものなのか、解除する手順は複雑ではないか、あらかじめ調べておくのです。大手のサービスであれば、大抵は「○○ 解約」とか、「×× 退会」のように検索すればすぐに見つかります。もしくは、直接公式サイトで調べてみても良いでしょう。
検索結果に「退会が分かりづらい」、「解約が面倒なので注意」などの文字が並ぶようであれば、しっかりと調べておく必要があります。また、公式サイトを見に行ってもそれらの手順がなかなか見つからないようであれば、サービスの利用を決める前に改めて調べ直す必要があります。
商品購入の際も、画面の情報を適当に流し読みせず、とくにチェックボックスなどが表示されていたら、1つ1つ指差し確認するくらいの気持ちで読むことをオススメします。
実際、筆者は冒頭で書いたようにAdobe Acrobat Reader DCをダウンロードする際、不要なオプションを大量に付けたままダウンロードしてしまいました。今回は無料のサービスであったこととインストール前であったから実害はありませんでしたが、気が付かずにインストールしていれば、その後このアプリが原因で不具合が起きた場合に、原因の究明が大幅に遅れていたことでしょう。
企業が提供しているものを安易に信用するな、ということではありません。商品やサービスを正しく知り、安全に利用するためにも購入条件や利用規約の把握はとても大切なのです。サービスも商品も、正しく利用してこそ便利で素晴らしいものとなるからです。
違法ではないけれどもユーザーに不利益を与えかねないダークパターンは、常に私たちの周りのサービスにあります。むしろダークパターンに該当する商法を利用していないサービスなど探すほうが難しい状況です。
だからこそ、正しく理解して快適に利用できるように知識を付けておきたいものです。損をするのは誰だってイヤですからね。
記事執筆:秋吉 健
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