スマートフォンにボタンは必要か考えてみた!

先日、CNET JAPANの「ボタンよさらば」という記事を拝読しました。内容は「iPhone」シリーズの次期モデル「iPhone 13」(仮称)がボタンレスになるのではないかというルーモアネタ(噂話)でした。ボタンレスとは音量調整ボタンやサイドボタンなどがないということです。

例年通りであれば、次期iPhoneの発表もあと1ヶ月ほどかと思われるタイミングで、しかも筐体デザインや専用ケースのリーク系の情報もちらほらと耳にし始めている中、iPhone 13がボタンレスになるのではないかという情報は流石に疑わしい部分が多くあります。しかし、それを期待したくなるのも理解できるところです。

ここ数年、iPhoneに限らずスマートフォン(スマホ)の進化は停滞気味です。カメラ機能の充実に注力する程度で革新性は低く、フォルダブルスマホなども一時話題になりましたが、価格(コスト)の問題や便利さ、優位性などをアピールできていないことから一般に普及するまでには至っていません。

そのような状況だけに、何か新しい、革新的なデザインやUIを求めたくなるのは当然のようにも感じます。スマホのボタンレスは果たして可能なのでしょうか。またボタンレス化は利便性に繋がるでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は「スマホにボタンが要らない10の理由」と題して、スマホの技術的進化やデザイン進化の可能性を探ります。

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スマホにボタンはもう要らない……?


■物理ボタンは邪魔な存在でしかない
そもそも、スマホをボタンレス化することは可能なのでしょうか。筆者は十分に可能だと考えます。むしろ、なぜ今まで音量調整ボタンやマナーボタン(着信/サイレントスイッチ)などが物理ボタンのままだったのかが疑問で仕方がないほどです。


【1】音量調整ボタンはコントロールセンターで良い
はじめに音量調整ボタンです。みなさんはスマホの音量調整を1日に何回するでしょうか。扱うコンテンツによって細かく設定し直す人は稀でしょう。

コロナ禍の今だからこそ暇潰しにスマホを利用する機会も増えていますが、2019年までのような生活スタイルであれば、尚更スマホの音量調整を行う機会は少なかったはずです。

むしろ、現在でも普段はずっとマナーモードにしているという人も多いのではないでしょうか。

例えばiPhoneの場合、本体右上から下へのフリック操作でコントロールセンターを呼び出せますが、この中に音量調整がデフォルトで設定されています。本体横に物理ボタンがあるのにコントロールセンターに音量調整を置く意味とは何だろうか、と今までは思っていましたが、実はそれは逆なのではないかと考えるようになったのです。

「コントロールセンターで済む機能を、なぜ物理ボタンで配置する必要があるのだろうか」

YouTubeなどではアプリ内でも音量調整ができますし、Siriに話しかけるだけでも音量を変更できます。iPhoneの音量調整ボタンは他にも複数の機能が設定されているものの、音量調整という点で言えば「要らない部品」になりつつあるのです。

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コントロールセンターどころか、ロック画面ですらソフトウェア的に音量調整ができる。物理ボタンの存在意義とは?


【2】マナーボタンもソフトウェア操作で良い
音量調整ボタンよりも、さらに物理ボタンが不要だと感じる機能がマナーボタンです。iPhoneの場合「着信/サイレントスイッチ」がこれに当たりますが、このボタンを操作する機会は、恐らくほとんどの人が音量調整ボタン以下でしょう。

そもそも、Android端末ではすでにソフトウェア上で切り替えている機能です。iPhoneのように本体に物理ボタンとして残しておく意味がありません。

iPhoneの場合、初代iPhone以来ずっと残されてきたスイッチだけに、もしかしたらAppleとしてもiPhoneの象徴やアイデンティティのようなものとして残しているのかも知れませんが、もっと象徴的だったホームボタンを早々になくしたのですから、このスイッチをなくしても然程問題だとは思えません。

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iPhoneの着信/サイレントスイッチ、もう不要ではないですか?


【3】iPhoneのサイドボタンは指紋センサーで良い
本体の再起動や万が一の際のリカバリーに用いるため、一番ソフトウェア化しづらいのは電源ボタン(iPhoneならサイドボタン)だと思いますが、極論、これも機能を分散することで削除できるのではないかと考えるところです。

たとえばiPhoneのサイドボタンの操作を考えた場合、

・画面を点灯・消灯させる
・電子決済の確認を行う
・スクリーンショットを撮る(音量調整ボタンを併用)

こういった用途がありますが、これらは全て指紋センサー(タッチセンサー)で置き換えることができます。画面の点灯・消灯程度であれば、現在でも用いられているように加速度センサーによるものでも十分でしょう。

そもそも、iPhone 7の時点でホームボタンは物理的に押下するボタンから、擬似的に押した感覚をユーザーに与える指紋センサー+Taptic Engineへと変更され、現在も第2世代iPhone SEなどでその仕様は継続されています。

同様に、ハイエンドシリーズでも指紋センサーを復活させることで、サイドボタンの多くの機能を代替することができます。むしろ、指紋センサーにしたほうが電子決済時に「顔認証+指紋認証」という2つの生体認証を用いることができるようになり、セキュリティレベルは大きく向上するでしょう。

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指紋認証は顔認証よりもセキュリティレベルが低いと言われるが、顔認証と併用することのデメリットはほとんどないはずだ


【4】指紋センサーなら誤操作は減らせる
誤操作防止に関しても、指紋センサーが一役買うことになります。

物理ボタンの良い点の1つとして、フィンガーレストが可能というものがあります。フィンガーレストとは、ボタンの上に指を置いた状態のことで、ボタンを正確に押しやすい点や、指を常に浮かした状態にしておくよりも疲れないといったメリットがあります。

仮にサイド部分にただのタッチセンサーを置いてしまった場合、フィンガーレストができなくなってスマホ本体のホールド感が悪くなったり、間違って触れて誤操作してしまう可能性が増えます。

しかし、指紋センサーにして登録した指紋以外に反応しないようにすれば誤操作は少なくなり、登録している指以外で触れたり握っても問題なくなります。もちろん、他社製スマホのように、画面内指紋認証を用いる方法も有効でしょう。

物理ボタンであっても何かにぶつかったりポケットの中で押されて誤作動することがあることを考えれば、誤操作や誤作動に関するメリットとデメリットは一長一短と言えます。それならば、敢えて物理ボタンにこだわる必要もないと感じるのです。

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指紋センサーなら、指以外が触れてもぶつかっても動作しない


【5】ウィズコロナの時代にこそ指紋センサーは必要
何より、現在iPhone 12シリーズがスマホとして残念に思われている最大の理由が「生体認証として顔認証しか対応していない」点ではないでしょうか。

コロナ禍によってマスク着用が当たり前となった今、マスク越しに顔認証が通らない残念さはユーザーなら身に沁みて感じていることです(裏技的に設定する方法も出回っているが確実ではない)。次期iPhoneではマスク越しにも顔認証が通るようになるとの噂もありますが、噂レベルでは信用に値しません。

ディスプレイ品質を保てないなどの理由から画面内指紋認証が難しいなら、サイド部分への搭載でも問題はないはずです。上記のようにボタンの代替部品として指紋センサーが非常に有用であることは間違いなく、それならばサイドなり画面内なりに搭載し、顔認証とともに画面ロック解除や決済認証の補助機能として利用するというのも有効な手段であると考えるところです。

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マスク越しに顔認証ができないからiPhone 12シリーズは買わない、という人すらいる


【6】デザインの自由度が格段に向上する
個人的に大きなメリットであると感じるのはデザイン面での自由度の向上です。

スマホはホームボタンをなくすことで、デザイン的にも大きな進化を見せました。ディスプレイを単に大型化できただけではなく縦方向へ無理なく伸ばせるようになったことで16:9というアスペクト比の「呪縛」から開放され、映画の視聴や2画面分割でのマルチタスク動作を大いに快適にしました。

同様に、サイドからボタンがなくなることは大きなメリットであると感じるのです。シンメトリー且つプリミティブなデザインにできるだけでなく、「ボタン操作の邪魔になる」と避けられてきた保護ケースやホルダーなどの設計で障害が取り払われます。

そもそも、手でホールドすべき左右側面にボタンが配置されているということ自体が不便の象徴であったようにも感じられます。

以前、日本のスマホメーカーの間でやたらと物理ボタンにこだわっていた時期がありました。

「シャッターボタンを付けてみました」、「好きなアプリを登録できるカスタムボタンを付けてみました」、果てはホームボタンがあるにも関わらず「Googleアシスタント専用ボタンを付けてみました」というスマホまでありました。

確かにそれらのボタンがあることで使いやすさを感じる人もいたかもしれませんが、本来ほかの手段があるものをわざわざ付ける、という点は、デザイン面だけで言えば「最悪」の一言です。例えるならテレビのリモコンを見ているような気分です。

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忌憚なく言わせてもらうなら、これはデザインとして醜悪の極みである


【7】人は慣れる
そしてボタンレス化のために最も重要であろうと考えるのは、「人は慣れる」ということです。

かつて、ホームボタンが撤廃された時も、Androidのナビゲーションボタンがソフトウェア化された時も、イヤホンジャックがなくなった時も、多くの人が「なぜそんな不便なことをするんだ」と強く批判していたのを覚えています。

それどころか、フィーチャーフォン(ガラケー)からスマホへと移行する際ですら「画面を指で触って操作するなんて汚い」「テンキーがないなんて使いづらいに決まっている」と、多くの人々がレッテルを貼って拒絶していたこともありました。

しかしどうでしょうか。現在のスマホの隆盛や販売シェアを見る限り、画面を指で操作するスマホが売れなかったり、ホームボタンのないiPhoneが忌避されたり、Androidに物理ボタンのナビゲーション領域が復活した気配はありません。皆、新しいUIにすぐに慣れ、便利に使いこなしています。

音量調整ボタンやマナーボタンがなくなったところで、恐らく多くの人はあっという間にソフトウェア操作に慣れるでしょう。サイドボタンや電源ボタンですら、なくなったところで新しい作法にすぐに慣れると考えるところです。

今どのように使っているのかではなく、もっと純粋に「この機能や部品は必要なのか」を俯瞰して考えると、限界まで無駄を削ぎ落としたような現在のスマホでさえ、意外と不要なものが数多くあることに気付かされます。

筆者としてはLightning端子やUSB Type-C端子といった外部接続端子ですらもはや不要だと考えているほどですが、それはまた別の機会に書くこととしましょう。

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人の適応力を侮ってはいけない


■人々に「提案」できるスマートフォンへの期待
恐らくボタンレス化にあたって最も頭を悩ませるのは、スマホの再起動やリカバリーを行うための物理操作をどのようにするのか、といったものですが、そもそもみなさん電源の再起動をどの程度利用しているでしょうか。以前スマホを再起動したのが何日前だったのか覚えていますか?

ほとんど使用しない機能であれば、いつも触れる部分に配置する意味はまったくありません。SIMトレーの引き出し手順のように、ピンを差し込んで再起動するといった仕様で十分です。

iPhoneの生みの親であるスティーブ・ジョブズは、2007年に開催されたiPhone発表会で、従来型の物理QWERTYキーボードを搭載したスマートフォンをスクリーンに映し出してこのように言いました。

「これらのスマートフォンが抱える問題は『下半分』にあります」
「プラスチックで固定されたキーボードがあり、どのアプリでもそれを使う。アプリによって最適なボタン配置は異なるにもかかわらず、です」

ジョブズはそれまでの慣習や「ボタンはあって当然」という既成概念ではなく、「本当にそれは必要なのか」という部分から切り込んだからこそ、フルスクリーン&マルチタッチセンサーのiPhoneを生み出し、アプリによって自由にUIを構成するという、今では当たり前の概念をモバイルデバイスへ投入できたのです。

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ジョブズは端末下半分のQWERTYキーボードを指差し「これではダメだ」とバッサリ切り捨てた


現在のスマホの周囲に点在する物理ボタンもまた、レガシー機能として切り捨てるべき時代が来たのかも知れません。少なくともそのために必要な技術と移行準備はすでに整っています。

音量調整やマナーモードはソフトウェア操作で十分です。普段使用しない電源ボタンは見えないように隠してしまいましょう。

筆者の理想は、物理ボタンも端子もSIMスロットも存在せず、完全に1枚の板のようなスマートフォンです。極端すぎるかも知れませんが、究極のデザインです。

以下はユーザーメリットというより製造上のメリットである上に、理由を解説する必要もないため上の項では紹介しませんでしたが、

【8】部品点数を削減しコストダウンを図れる
【9】部品点数の削減によって物理的な故障リスクを低減できる
【10】サイドパーツの一体化によって筐体強度を向上させられる


こういったメリットも挙げられます。事実、かつてiPhone 6が発売された際、音量調整ボタン付近の筐体強度が足りず、折れ曲がりやすいといった問題が話題となったことがありました。

皆さんはボタンレスのスマホを欲しいと感じるでしょうか。それともやはりボタンは必要と考えるでしょうか。

スマホメーカーにはユーザーニーズを汲み取る力も必要かもしれませんが、そういった「これからのスマホはこうあるべきだ」という強い主張や、確固とした根拠のある提案が欲しいようにも感じます。

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人々が欲しいと思う機能を並べるだけでは、真の革新は生まれない


記事執筆:秋吉 健


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