楽天モバイルの新料金プランについて考えてみた!

3年ぶりに緊急事態宣言のない楽しいゴールデンウィークが終わり、人々が緊急事態宣言を受けたかのように沈む表情で会社に向かっていた先週、通信業界では各社の新サービス・新製品発表会や決算発表が大量に重なり、戦争のような忙しさとなっていました。

そんな中でもひときわインパクトのある話題となっていたのが楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII(ラクテン・アンリミット・セブン)」の発表でしょう。同社が5月13日に発表したこの新料金プランは月額1,078円(以下、すべて税込)から始まる従量制となり、2022年7月1日(金)より提供開始が予定されています。

既報通り、これまでの料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI(ラクテン・アンリミット・シックス)」を置き換えるもので、既存利用者も7月1日には1回線目なら0円スタートが廃止されるRakuten UN-LIMIT VIIへ自動移行されるということもあり、SNSなどでは「騙された」や「自動移行はやりすぎだ」といった厳しい声も散見されました。

楽天モバイルはなぜ0円スタートの料金プランを廃止するのでしょうか。またそこにある勝算とは一体何でしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」について考察します。

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なぜ「今」なのか


■決して改悪ばかりではない新料金プラン
はじめにRakuten UN-LIMIT VIIについてプラン内容のおさらいをしておきます。

本プランは冒頭でもお伝えしたように現在の料金プランであるRakuten UN-LIMIT VIの置き換えプランとして用意され、月間高速データ通信容量3GBまでが月額1,078円、3~20GBが月額2,178円、30GBを越えた分は月額3,278円で無制限に利用できます(ローミングエリアを除く)。

質疑応答では「両プランの併設ではなく、なぜ新料金プランへの統一なのか」、「既存ユーザーからの反発は想定しなかったのか」といった質問が相次ぎましたが、理由として楽天モバイルでは「電気通信事業法に抵触する可能性があるため」と回答しています。

それならば料金プランを改定せずに据え置きでも良かったのではないかと考えるところですが、楽天モバイルには新料金プランへ移行しなければいけなかった理由が存在するのです。

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1GB以下の0円運用を目的としていた人には大打撃だ


データ通信量1GB未満までの料金を見れば純粋な値上げであり、料金プラン全体としても一切安くなっていません。

その代わりに楽天モバイルでは以下のような付帯サービスのアップグレードやキャンペーンを用意しました。

・Rakuten Link未使用時の「通話かけ放題」オプションを料金据え置き(月額1,100円)で1回10分から15分へ延長
・同「通話掛け放題」オプションを初回申込時から3ヶ月間無料
・楽天ポイントの付与倍率を最大4倍から最大6倍へ増強
・楽天マガジン、Rakuten Music、NBA Rakuten、パ・リーグSpecialにそれぞれ無料期間を設定し、さらに無料期間以降も割引やポイント還元を適用
・YouTube Premiumが初回申込時より3ヶ月無料
・新規契約で3000円相当のポイント還元
・7月1日から8月31日までは1GBまで無料
・9月1日から10月31日までは1GBまでのプラン料金相当分の楽天ポイントを付与


※それぞれ適用条件あり。詳しくは公式Webページ『2022年7月1日スタート予定!Rakuten UN-LIMIT VII(料金プラン) | 楽天モバイル』を参照のこと

スマートフォン(スマホ)の主回線として利用していた人であれば、基本的に1GB以下での運用というのは非常に珍しいケースだったとも考えられるため、実質的にはポイント還元や各種サービスの無料キャンペーンおよび割引施策を純粋に恩恵として受けられるユーザーのほうが多いと予想されます。

特に楽天ポイント目当てで契約している人であれば純粋にメリットだけを得られるアップグレードということになります。

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楽天サービスのヘビーユーザーほど恩恵は大きい


■全ユーザー課金化の目論見
楽天モバイルが0円スタートの料金プランを改定し、全ユーザーを課金対象へ誘導する施策へ移行することは以前から業界内外よりある程度予想されてはいました。しかしながら、その時期がこれほど早くなると予想した人は少なかったのではないでしょうか。

かく言う筆者も「移動体通信事業者(MNO)のユーザー数(契約数)1000万が戦略移行のタイミングではないか」と考えていました。

同日に行われた「楽天グループ 2022年度 第1四半期決算説明会」の資料によると、2022年3月時点でのMNO契約数は491万、さらに4月時点では500万を突破したと書かれています。

無料キャンペーンや格安の料金によってユーザーを呼び込み、ある程度ユーザーを集めたところで料金の値上げを行うことを、俗に「投資回収フェイズ」などと呼ぶことがありますが、携帯電話契約数が約2億にものぼる日本のモバイル市場の大きさを鑑みると、楽天モバイルがその投資回収フェイズに入るには少々早いようにも感じられます。

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楽天モバイルは仮想移動体通信事業者(MVNO)契約者をスムーズにMNOへ移行させつつ、さらに新規ユーザーも獲得して順調にMNOユーザー数を伸ばしてきた


それでも楽天モバイルが今回の料金プラン改定へ踏み切った背景には、

・楽天エコシステムを利用しない0円運用のユーザーを切り捨て優良顧客にターゲット層を絞りたい
・0円運用のユーザーに楽天エコシステムの利用を促したい
・楽天エコシステムを回すためのエンジンとしての楽天モバイルに一定の目処がついた

といった理由が挙げられるように感じます。

事実、楽天グループの三木谷浩史社長は決算説明会の質疑応答の中で、

「(楽天モバイルの料金は)楽天市場でちょちょんと買い物すれば楽天モバイルがただで使えることになる」

「今まで他社で無駄に支払っていたものを(楽天ポイントで)効率よく利用できるようにしたい」

というように話しており、楽天モバイルの契約を楽天エコシステムへの入り口とするだけではなく、楽天モバイルと楽天ポイントとの連携を強化することで、現在まだ楽天モバイルを契約していない大多数の楽天サービスユーザーを楽天モバイルへ誘導し、相乗効果による利益確保(囲い込み)を早期に完成させたいという戦略を示唆しています。

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楽天サービスユーザーの実に9割近くがまだ楽天モバイルを契約していない


楽天モバイルは料金プラン改定によって課金ユーザーが増加し、1GBまで無料キャンペーンやポイント還元による1GB実質無料キャンペーンが終了する今年11月には全ユーザーの課金化が完了するとしています。

楽天モバイルの業績は純粋な運用コスト以外に基地局の建設コストやユーザー獲得コストやKDDIへのローミング利用料の支払いがかさみ、2022年第1四半期の時点で1,350億円もの赤字を計上していますが、同社は「ここがピーク」としており、今後は赤字を解消していく戦略です。

サービス開始当初から長い間懸念されていたエリア問題も急速に解消しており、KDDIとのローミングもさらに縮小させていく方針です。

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ここまでの楽天グループおよび楽天モバイルの戦略は驚くほど順調だ


■0円ユーザー切り捨ての「英断」
楽天モバイルが0円スタートを終了して完全課金化へと舵を切った背景にはユーザー層の割合や他社の動向も少なからず影響しているものと考えられます。

例えば、ユーザー層では前述のように0円運用を行っている層が非常に少なく、経営やユーザー獲得においてメリットにならないと判断されたのは間違いありません。

Rakuten UN-LIMIT VIIと同じように0円からの契約が可能なMNOの料金プランにはKDDIの「povo2.0」がありますが、こちらはデータ通信が完全オプション化されており、僅かにでも利用するためには最低でも330円以上を支払う必要があるため、1GBまでのデータ通信の0円運用は不可能で、長期間支払いがない場合は自動解約されるため、完全な0円保持もできません。

また格安プランを武器とするMVNO各社でも大抵は通常の利用方法なら500円~1,000円程度は支払う必要があり、仮に容量単価で楽天モバイルが劣勢だったとしても回線品質やサポート体制の面で勝てるという勝算があったのかもしれません。

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KDDIの高橋誠社長は「(povo2.0の基本料金0円を)今のところやめるつもりはない」と強気の姿勢だ(KDDI 2022年3月期 決算会見より引用)


いずれにしても、楽天モバイルが0円プランを終了すると宣言したところで、多くのユーザーが「それなら楽天モバイルを解約する」とまではいかないことは事実です。

楽天ポイントを中心とした多くのメリットを捨ててまで解約してMNPで乗り換えるほど他社は安くありません。そもそも現状で楽天モバイルを選択しているユーザーは通信品質やエリアの広さよりも料金メリットを最も重視している場合が多く、その点からも他社に乗り換えるメリットが希薄です。

料金メリットを最も重視するユーザーの取り込みが一段落したと判断したとも捉えられます。今後は料金プランの安さだけではなく、付随するサービスの充実度や楽天エコシステムとのシナジーを武器として新規顧客を取り込んでいく戦略へと切り替わっていくでしょう。

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20GBまでの利用でも楽天もモバイルは十分に安いが、20GBを超える利用ではさらにコストアドバンテージが広がる


■通信業界を駆け上がる楽天モバイルのスピード感
NTTドコモやKDDI、ソフトバンクなど他社MNOは通信単体での収益を常にめざしてきました。しかしながら、楽天モバイルの場合はそのスタートポジションから大きく異なります。

楽天グループにとって楽天モバイルとは楽天エコシステムに誘導するための道具であり、楽天エコシステムを利用する人々がさらに得するための道具なのです。

だからこそ赤字垂れ流しのユーザー獲得戦略でも何ら問題がなかったわけですが、当然ながらその赤字幅が縮小し、さらに黒字へと転じることができるなら何よりの成功です(そもそも上場企業としてはそこをめざさなければならない)。

今回の料金プラン改定はまさにその成功への戦略の新たなスタートとなります。これまで遅々として進まないMNO各社の料金施策を長く見すぎた筆者にはあまりにも早い決断のように感じられてしまいましたが、この圧倒的なスピード感こそが楽天グループが常勝し成長し続けてきた理由なのかも知れません。

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このスピード感に、他社はついてこられるか




記事執筆:秋吉 健


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