次世代ワイヤレス充電規格「Qi2」について考えてみた!

ワイヤレス充電規格「Qi(チー)」を策定した標準化団体「Wireless Power Consortium」(WPC)は3日、次世代のワイヤレス充電規格となる「Qi2(チーツー)」を発表しました。

みなさんはスマートフォン(スマホ)でワイヤレス充電を利用したことがあるでしょうか。現在発売されているiPhoneシリーズには標準搭載された機能であり、Androidスマホも各社ともにハイエンドモデルを中心に搭載が進んでいます。

しかしながら、その利用はあまり普及していないようにも感じます。なぜワイヤレス充電は普及しないのでしょうか。またQi2はワイヤレス充電の普及を後押しすることができるのでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は次世代ワイヤレス充電規格「Qi2」の話題を中心に、普及への道筋を探ります。

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ワイヤレス充電は普及するのか


■なかなか普及しないワイヤレス充電
スマホのワイヤレス充電については、本コラムでも2018年に一度執筆したことがあります。

当時はまだワイヤレス充電自体の認知度が低く、対応充電器もようやく価格が下がり始めた頃でした。当然iPhoneシリーズでも採用が始まったばかりで、ワイヤレス充電器を利用している人はほとんどいない状況だったと記憶しています。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:今こそ検討したいワイヤレス充電。対応端末の確認から充電方式の違い、充電器の選び方と注意点まで重要なポイントをお教えします【コラム】

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あれから5年。ワイヤレス充電を巡る環境はどう変わったのか


少し古いデータになりますが、MMD研究所が2021年9月に発表した「スマートフォンアクセサリーに関する調査」によると、「所有しているスマートフォンアクセサリー」の項目では、ワイヤレス充電器の所有率はiPhoneユーザーで26.6%、Androidユーザーで13.6%、全体では20.9%となっています。

モバイルバッテリーやワイヤレスイヤホンといった周辺機器と比べると圧倒的に所有率が低く、とくにAndroidスマホのユーザーは1割強しか利用していません。

シリーズモデルがすべてワイヤレス充電に対応しているiPhoneのユーザーと比較すると2倍近くも差があり、まだまだ認知も理解も進んでいない様子が分かります。

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何故こんなに普及しないのか


ワイヤレス充電が普及しない理由については、ワイヤレス充電を勝手に布教(?)している筆者としては心当たりがいくつもあります。

例えば使い勝手の悪さです。ワイヤレス充電でもQiのような近接充電方式の場合、充電台や充電パッドに置く位置がほんの1~2cmズレただけでも充電ができなくなることがあります。充電台とスマホとの距離に至っては、5~6mm浮いただけで充電が止まってしまうことすらあります。

また、充電しながらスマホを利用しづらいという点も、一般ユーザーには受けの悪い点でした。

ケーブル接続などで充電しながらスマホを利用するのは、バッテリーの劣化を早める可能性が高く推奨できるものではありませんが、スマホのバッテリー容量があまり大きくなく長時間の利用が難しかった時代には、そういった使い方が定常化していたのも事実です。

そこで生まれたのがAppleのMagSafeでした。MagSafeはワイヤレス充電部分にマグネットを内蔵し、磁力によって装着・固定する方式としたことで、充電ポイントが絶対にズレない上に、緊急時にはワイヤレス方式でありながら充電器を装着したまま持ち歩いたり利用できるようにしたのです。

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MagSafeは近年のスマホ技術の中では地味ながらもかなり画期的だった


ほかにもワイヤレス充電には充電速度がケーブル接続よりも遅いといったデメリットがありますが、Androidスマホでワイヤレス充電が普及しない理由の1つには、間違いなくこのMagSafeのような「ワイヤレスでもケーブル接続のように装着・固定ができる」という機能がなかったことが挙げられます。

そして、その機能性をAndroidスマホにももたらしてくれるのがQi2なのです。

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MagSafeがAndroidスマホでも使えるようになる?


■スマホの進化がワイヤレス充電に追いついた
WPCはQi2の規格策定において、AppleからMagSafeに関する仕様や認証機能の技術提供を受けており、MagSafeと一定の互換性がある規格となることが判明しています。

米国・ラスベガスで開催中された展示会「CES2023」に展示されたQi2の試作機では、従来のQiに対応したAndroidスマホや、MagSafe対応のiPhoneが充電できたとの報告がありますが、まだ仕様策定の段階であり、今後仕様の変更やさらなる仕様が追加される可能性もあります。

対応製品の登場は2023年後半からとされていますが、この点については現在の策定状況などから若干流動的だと感じています。

しかしながら、現行のQiとの互換性を持ち、iPhoneシリーズも充電できるマグネット固定方式のサードパーティ製Qi2対応充電器が今後1~2年以内に大量に登場することは間違いなく、ワイヤレス充電の普及にも大きく貢献することでしょう。

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Qi2のプレスリリースより。「何百万人もの消費者により良いユーザー体験を提供することになる」としている


昨今のスマホは以前のコラムを書いた5年前とは違い、バッテリー容量も大きく、モバイルバッテリーを持ち歩く必要すらなくなりつつあります。

「充電しながらスマホを手に持って利用する」といったシーンが減ったことで、ワイヤレス充電はより利用しやすい環境になりつつあると言えます。

マグネット固定方式が一般化することで、より手軽且つ確実に充電が行え、しかもケーブルを接続するような手間も要らず、ただ充電台に置くだけで良いというメリットが強化されるのです。

筆者は現在、ほとんどMagSafeやQi対応のワイヤレス充電器しか使っていません。2022年の1年間を振り返っても、iPhoneに充電ケーブルを接続して充電したのは僅かに2回のみでした。

ワイヤレス充電は、使い慣れるとケーブル接続が煩わしく感じるほどに使いやすく便利なものです。その対応機器がiPhoneでもAndroidスマホでも機種を選ばず充電できるようになれば、ますます便利になります。

Qi2の登場こそが、真のワイヤレス充電普及期の始まりとなるかもしれません。

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すべての人とスマホにワイヤレス充電を!


記事執筆:秋吉 健


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