モバイル通信の料金プランが未だに抱える問題について考えてみた! |
都内で5年ぶりに仮想移動体通信事業者(MVNO)に関するディスカッションイベント「第8回MVNO勉強会」(主催:MMD研究所)が4月6日に開催されました。勉強会ではイオンモバイルやmineo、NUROモバイルといったMVNO大手各社の代表が集い、MVNOの現状と今後についての熱い議論が交わされました。
ディスカッションの内容はとても熱く、各社の取り組みや現在のMVNOが抱えている問題点などを語り合う場となっていましたが、筆者の興味を最も引いたのはその議論の中心からは少し逸れた「契約している通信料金プランと実際に利用しているデータ容量」についての統計データでした。
統計データは人々の何を映していたのでしょうか。またそこから得られる知見とは一体どのようなものなのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は通信料金とデータ容量から見える「これからのモバイル通信業界が解決すべき課題」について考察します。
■勉強会の裏側で衝撃を受けた統計データ
筆者が勉強会で興味を惹かれた統計データとは、それぞれの通信キャリアが提供する通信料金プランとそのデータ容量についての統計です。契約している容量(契約容量)と実際にユーザーが利用している容量(利用容量)が細かく容量別で比率集計されたものでした。
例えばイオンモバイルやmineoといった仮想移動体通信事業者(MVNO)や、KDDIやソフトバンクといった移動体通信事業者(MNO)が提供するUQ mobileやY!mobileといったサブブランドMNOが提供する料金プランの場合、1~5GB程度の低容量プランでの契約が多く、実際に利用されている容量もその容量帯に収まっているというデータでした。
これは非常に納得感が強く、とくに不思議はありません。
同様に、MNOが提供するahamoやpovo2.0のようなオンライン専用プランの場合も契約容量が20GBであるのに対して利用容量も20GBまできっちり使い切っている人の割合が多く、契約プランに対して比較的無駄なく利用されている印象があります。
一方で、MNOの大容量プランを契約している人々の利用容量を見てみると、やはり1~5GB程度しか利用していない人が非常に多く、とくに毎月50GB以上も利用している人は5%前後しかいません。
これが、そもそも料金プランが1つしかなく3,000円前後に収まる楽天モバイルなどであれば理解もできる話ですが、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどは、オンライン専用プランからサブブランドMNO、さらには従量制プランまで、さまざまに選択が可能なはずです。
それにも拘わらず、多くの人々は月額5,000円前後もする大容量プランを契約し続け、毎月5GB以下しか利用していないのです。
■厳然と横たわるモバイルリテラシー格差
あまりにも顕著な「モバイルリテラシー格差」を感じ取れるこのデータに、筆者は衝撃を受けるとともに、以前にも同様のデータを見た時のことを思い出しつつ「まだまだ啓蒙と啓発が足りてなさ過ぎる」と、モバイルライターとしての無力感すら覚えました。
現在のモバイル通信業界におけるMNOのメインブランドと、サブブランドMNOおよびMVNO、オンライン専用プランといった「それ以外」の格安料金プランのシェア比率は、約6:4といったところです。
もちろんMNOでも従量制プランを契約している人々がいるため、すべてのMNO契約者が高額な大容量プランだとは言いませんが、しかしながらMNOの大容量プラン契約者に対して、「このご時世に未だに大容量プランを契約しているのだから、余程のヘビーユーザーなのだろう」と考えるのは間違いです。
むしろオンライン専用プランなどと比較しても中~大容量利用者は圧倒的に少なく、大容量プランを契約している人々こそMVNOやサブブランドMNOを利用すべきなのではないか、とすら感じるデータだったのです。
ここでハッキリと分かることがあります。モバイル通信にそれなりの興味があり、それなりの知識を持つ人々(あるいは知識がなくとも各社のサポートや知り合いに尋ねて内容を理解できる人々)は、すでに格安料金プランへ移行しており、未だに大容量プランを継続して契約し続けている人々の多くは、明らかにモバイルリテラシーの低い人々である、ということです。
Twitterなどでは「大容量プランなんて情弱専用だろ」といった心無い言葉すらも見かけたことがあります。しかしながら、その言葉のすべてまでは否定できない自分がいます。
モバイル通信について興味や関心が低い人々は、通信料金について誰かに尋ねようにも尋ねるために必要な最低限の知識もないため、非常に無駄の多い料金を毎月支払っているという自覚すらないのです。
「自分が何を知らないのかすらも知らない」。まさに無知の知ならぬ「無知の無知」状態です。それが今の大容量プランを契約する大半の人々なのです。
話は若干逸れますが、筆者が最近痛切に感じていることがあります。
友人や知人から通信料金や通信回線についての相談を受けた際、なるべく分かりやすく、尚且つその人に合わせた提案だけをシンプルに伝えようと努力するのですが、「言っている言葉の意味が分からない」と、苦笑気味に返されてしまうことが少なからずあるのです。
もちろん筆者の伝え方が悪いだけかもしれません。しかしながら、その理由を聞いてみると「SIMとかSSIDとか専門用語が多すぎて理解できない」、「ワイファイってなに?ルーターってなに?」、「4Gと5Gって何が違うの?別々に契約が必要なの?」といった、モバイル通信にそれなりに精通した人々であれば基礎中の基礎であるような用語の理解の段階で詰まっていたのです。
そして、そういった人々が契約している料金プランは、当然ながらMNOの大容量プランです。そして「よく分からないから店員さんに勧められたプランのまま使っている」といった理由が大半です。
この状況について、大容量プランを勧めたとされるキャリアショップや販売代理店の店員を一方的に責めることは、筆者にはできません。
仮に「普段2~3GBしか利用されていないのでしたら……」などと気を利かせたつもりになり、サブブランドMNOなどを勧めようものなら、今度は「設定の仕方が分からない」、「お昼に遅くて使えない」と、本来説明して理解してもらったはずの内容でクレームをもらうことになります。
店舗にしてみればそういったクレーム対応やサポートに人員を割くこと自体が大きな負担であり、結果的に「全部入り」で最も手間が掛からない大容量プランをお勧めしてしまうのは仕方がないとすら感じます(もちろん、営業的に大容量プランをお勧めしたいという思惑もあるだろう)。
■単なる低価格化ではない「次の企業努力」が求められている
通信キャリアの施策や総務省の指導が正しく行われない限り、こういったモバイルリテラシー格差は今後も続いていく可能性があります。
筆者が考える現時点での最適解は「キャリアショップでもMNOの回線品質で契約できる1~7GB程度の低容量・低料金プランを充実・普及させること」です。そして現実的には各社が用意する従量制プランへの移行を促すことです。
NTTドコモであればギガライト(5Gギガライト)があり、auであればスマホミニプラン 5G/4Gがあり、ソフトバンクであればミニフィットプラン+があります。しかしそれらが正しく必要な層に届くには、もう一歩進んだアピールとアプローチが必要だと感じます。
2020年12月の「アハモショック」以来モバイル通信料金は劇的に下がりましたが、それは「自ら動いた層」だけが享受できる安さです。「通信料金が高いけどよく分からないし面倒」という「自分からは動かない層」や「何も分からず動けない層」をどのように動かせば良いのか、その施策が問われています。
すべての人々に分かりやすく安価なモバイルライフを。モバイルリテラシー格差を「仕方ない」と諦めることのない世界が来ることを願っています。
記事執筆:秋吉 健
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