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キングジムの密かなヒットシリーズ「ポメラ」の最新機種「DM200」を連載レビュー!

みなさんは「pomera(ポメラ)」というモバイルデバイスを聞いたことがあるでしょうか。デジタルガジェットやモバイルデバイスに精通している人なら既に使用したことがある方も多いと思いますが、一般的には意外と認知されていない「スキマガジェット」の1つです。

ポメラとはキングジムが発売している「デジタルメモ」のブランド名です。その名の通り、紙と鉛筆ではなくディスプレイとキーボードを備えた“だけ”のメモ帳で、実際に行える作業もただ文字を打つだけです。

スマートフォン(スマホ)すら一般に広く普及しモバイル機器が万能に近いウェアラブルデバイスとなっているこの現代において、敢えて文字しか書けないポータブルデバイスに一体何の価値があるのか、実は筆者も長いこと疑問を感じていました。

しかしさまざまなデバイスに触れてレビューをしているうちに、ポメラはもしかしたら自分にとって革命的な製品なのではないかと考えるに至り、ちょうど最新機種が発売されるタイミングだったこともあってロードテストを兼ねた製品レビューを行ってみることにしました。

本レビューは数回に渡って行う予定で、今回は購入に至るまでの経緯や製品の外観解説までをお伝えしたいと思います。

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ポメラ愛好家のことをマニアの間では「ポメラニアン」と呼ぶらしい


■そもそも「ポメラ」とは一体何なのか
キングジムと言えば企業向け事務用品を手がける大手企業であり、かつて「テプラ」が大ブレイクしたことで面白いアイデア商品を生み出すメーカーとして有名になりました。その後デジタルデバイスを上手く活用した「隙間商品」を次々に発表し、ポメラもまたそのアイデア商品の1つとして発表され、2008年に初代「DM10」が発売されました。

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発売したキングジム自身が驚くほどの大ヒットとなった「DM10」。現在は生産を終了している


当時「ネットブック」と呼ばれる5万円以下の低価格ノートPCがブームとなり始めた頃で、ただメモを取ることしかできない端末に実売2万円以上も出すということ自体が一般人には理解不能に近い感覚でしたが、以後ポメラはその人気からシリーズ化し、今回発売されたDM200を含めて8機種ものバリエーションが生まれるまでになりました。

途中「DM5」のような廉価版の製品化などもありましたが、基本的にはシリーズを重ねるごとに製品性能は高度化し、2011年に発売されたDM100ではそれまで伝統的に搭載してきた折りたたみ式のキーボードを捨ててストレートキーボードを採用、今回のDM200はそのストレートキーボード採用シリーズの最新モデルでもあります。

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「DM100」。ポメラ伝統であった折りたたみキーボードを捨てたそのスタイルには愛好家からも賛否両論があった


■筆者がポメラを検討するに至った経緯
さて、ポメラの歴史の講釈はこの程度にして、筆者がポメラに行き着くまでのお話などをしたいと思います。

そもそも筆者が欲しかったものは「出先で使える仕事用のテキスト入力デバイス」でした。フリーライターという仕事柄、製品発表会や展示会などでメモを取る必要があり、どうしても軽量で長時間の入力に耐え得るデジタルデバイスが必要だったのです。

普通に考えれば当然ノートPCなのですが、遅延のない快適な入力や必要なタイミングで即使える高速な起動を考えるとある程度の性能が必要になり、5万円以下で買えるような廉価製品では要求要件を満たしません。また性能は良くとも重量の大きな機種では可搬性が悪く、フットプリントの大きさもネックとなります。

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筆者が現在サブマシンとして愛用しているソニー製の「VAIO Z(VPCZ1)」。すでに6年も前の機種で耐用年数的に限界を迎えている上、重量やバッテリー駆動時間から求める用途に適していないのがネック


「外出先で文字を入力するデバイス」という条件を満たすものとして、iPadにBluetoothキーボードを繋げてみてはどうかとか、比較的安価なタブレットPCではどうかなど、さまざまに検討し実際に店頭へ出向いてキーボードの入力感覚をチェックしてみたり、Bluetoothキーボードを購入するなどして試しましたが、いずれも筆者が求める品質には後一歩届かないもどかしさがありました。

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iClever製の「IC-BK05」。iOS端末+Bluetoothキーボードの組み合わせは筆者の環境的に最もコストがかからない方法だったが、iOSの日本語変換機能はクセが強い上に多くの報道関係者が集まる展示会などでは無線接続が混線し途切れやすいなどの弊害があり、まったく実用的ではなかった


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最後まで検討していたASUSTeK Computer製の「Transbook 3 T303UA」。付属キーボードの品質もよく性能面でも必要十分な要件を満たしていたがコスト面で相当な妥協を強いられるのがネックだった。また膝の上でキーボードが使えないという点も大きなマイナス要因に


■そうだ、ポメラを使ってみよう
数週間にも及ぶ検討にも確実な解答を見つけられず悶々としていたところで、ふと「ポメラ」の文字をニュースサイトで見つけたのが最初の緒(いとぐち)でした。

こんな仕事をしている手前、ポメラは当然知っていましたが前述の通り「メモを取るだけ」のデバイスに興味が湧かず、これまで購入の検討すらしていませんでした。しかし今度のDM200ではストレートキーボードに加えディスプレイの大画面化や大幅に強化された日本語変換機能などが売りとなっており、すでに入手していたポメラ愛好家「ポメラニアン」の人々による評価もかなり高いようでした。

考えてみれば、自分がやりたかったことは「取材先で手書きのメモ帳よりも素早く正確にメモをとること」です。“メモしかできない”というポメラは、もしかしたら自分の用途に最も適しているのではないだろうかと考えました。そこで「もしこれで用途に合わないようであれば素直にノートPCを購入しよう」と決意しつつ、DM200を購入してみることにしたのです。

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果たしてポメラは前評判ほど「使えるマシン」なのか


■スタイリッシュな本体とクセの少ないキーボード
製品パッケージには本体と充電用のアダプターやケーブルのみが付属しておりシンプルな構成。オプションとして専用ポーチや液晶保護シートなどが発売されていますが実用性と機動性のみを重視し今回は購入しませんでした。

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外箱。シンプルで「pomera」のロゴ以外何も書いていない


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パッケージ内容。いわゆる「親指シフト」用のキーボードシールが標準添付されているあたり、いかにも「物書き専用マシン」という雰囲気で筆者の物欲をくすぐる


本体サイズは横263mm×縦120mm×厚さ18mmで、小型のモバイルキーボードといった雰囲気。前機種であるDM100では乾電池を利用していたためヒンジ部が大きく膨らみ厚みがありましたがDM200では内蔵バッテリー方式となりスッキリとしたデザインに。

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フルフラットなキーボードサイズの筐体は、かつて一世を風靡したNECのPDA「モバイルギア」シリーズやソニーのノートPC「VAIO type P」シリーズなどを思い出させる


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底面。ヒンジ部に見えるpomeraのロゴはディスプレイを開いた時にキーボード面から見えるようになっている


スッキリしすぎているのでは?と感じたのは天板で、製品ロゴすら入っていない完全なツライチ状態。DM100ではテカテカとしたクリア塗装で指紋が目立ちましたがDM200ではマットな質感へ変更されました。

しかし筐体素材が樹脂製であるため汗や皮脂汚れはそれなりに目立ち、アルマイト処理を施したアルミパネルのような耐指紋性能とまではいかないようです。

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撮影のため少し触った程度でも汗で色ムラが出ているのが分かる


本体重量は公称580gと非常に軽量。最軽量でも800g前後が限界のノートPCや1kgオーバーが基本のタブレット+キーボードの組み合わせを検討してきた筆者としては驚異的な軽さだと感じました。また本体がフルフラットである点もカバンへの収まりがよく、可搬性に優れている印象です。

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画面は7インチWSVGA(1024×600ドット)のTFT液晶。モノクロ液晶ではなさそうだがシステム的に敢えてモノトーンの発色のみになっている


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画面はこの程度まで開く。天板側がキーボードより下まで開くタイプなので丁度よい具合にキーボードに傾斜が付く


キーボードはJIS配列の日本語キーボードでアイソレーションタイプとなっており、キーピッチは横17mm、縦15.5mm。キーストロークは1.5mmと浅めです。キーはノートPCなどで一般的なパンタグラフ構造ではなく「V字ギアリンク構造」となっており、より安定した打鍵が可能としています。

実際にキーを押した感触は確かに良好で、パンタグラフ構造のキーの場合カチャカチャとうるさい印象がありますが、DM200は「ぺちぺち」という小さめの打鍵音なのであまり大きな音を立てたくない取材先や喫茶店などでの利用に向いている印象です。

「半角/全角」キーが「1」キーの左ではなくファンクションキーの列の「ESC」キーの右側にある点や、右「Alt」キーが省略されている点など、一部のキー配置に多少のクセがありますが、概ね良好な配置ではないでしょうか。

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キーボード面。特殊なサイズのキーが少なく打鍵しやすい


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かなり変則的な位置にある「半角/全角」キー。あまり多用するキーではないが慣れるまではタイプミスがありそうだ


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方向キー周りも若干特殊。筆者は右Shiftや右Altを使用しないため影響はないが、使用している人は要注意かもしれない


電源は基本的に天板(ディスプレイ面)を開くか充電が始まると自動的にONになり、天板を閉じるだけでOFFになるので電源キーを利用することはほとんどありません(電源キー長押しでもON/OFFできる)。天板を開いてから文字入力が可能になるまでに5秒程度かかりますが、PCなどと比較すると圧倒的に早く実際の利用でも5秒が致命的になる状況はあまりないと考えられます。

充電はmicroUSB端子から行います。充電時間は5時間で連続使用可能時間は18時間です。従来機のような乾電池式ではないため数日間充電無しで利用するといったような使い方には不向きですが、1日持ち歩いて不安になることはないでしょう。

また5V/1.5Aの出力に対応したモバイルバッテリーなどからも充電が可能であるため、長期間の利用を想定している場合はモバイルバッテリーを併用すると良いでしょう。

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本体左側面にmicroUSB端子とSDカードスロットが並ぶ


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充電状態やバッテリー残量などは画面右下のアイコンで確認する。アイコンが小さい上に本体を閉じていると充電状態が確認できないのが若干不便かもしれない


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SDカードスロットはSDHCに対応し最大32GBまでのカードが使用できる


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SDカードは挿入するとほぼ完全に収納され出っ張りが1mm程度しかなくなるため、本体に挿しっぱなしでの利用も十分可能だ


■入力デバイスとしての完成度の高さ+単一機能がもたらす「強制力」
DM200は2016年12月現在、市場価格40,000円~45,000円程度で同シリーズの中でも最も高額な製品となっています。ポメラ愛好家からはその価格の高さが唯一のネックとされていることが多いようで、筆者も「ただのメモ帳なのに4万円台は妥当なのか?」と何度も自問しました。

しかし実際に本製品を手に取りメモを書いてみた瞬間、それらの不安はすべて一気に消し飛んでしまいました。軽快で打ちやすいキーボードと非常に変換精度の高い日本語入力ソフト「ATOK for pomera [Professional]」、そして何より「メモしかできない」という単一機能であるがゆえの「没頭感」が作業をひたすらに快適にしているのです。

例えばノートPCなどで作業をしようとすると、どうしてもWebブラウザーを起動してついついニュースサイトを見てしまったり、メールやTwitterを確認したりと、作業以外のことに気を取られがちです。時にはそこから気になる情報を見つけてしまい、さらに検索をしたり情報収集などを行い始め、いつの間にか本来行うべき作業を忘れてしまったり作業へのモチベーションを失ってしまうといったことは、みなさんも経験があるのではないでしょうか。

ところがDM200ではそういった心配が一切ありません。なにしろこの端末でできることは「文字を書く」ことだけです。端末を開き画面と向かい合った瞬間、必然的に作業に没頭せざるを得ないのです。この「作業に没頭せざるを得なくなる」という強制力こそが、ポメラの最大の武器なのではないかと気が付いたのです。

人は誘惑に弱い生き物です。かくいう筆者は自他ともに認める「誘惑に弱い男」なので、いつも仕事へ取り掛かるまでに多くの時間を浪費してしまいます。そんな自制心の弱い人間にこそ、ポメラのような単一機能の端末は必要なのだと思います。

これらの点から、筆者はこの端末の価格は「安い」と判断しました。作業を徹底的に効率化させ、ひたすらに「書く」ことへ集中させるためのマシン。それは留まることなく多機能化・万能化していく昨今のモバイルデバイスに対するアンチテーゼのようにすら感じます。

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キーボードに手を置き、画面を前にしてできることは「書く」のみ。さあ書け


次回はDM200のメニューや機能の解説、実際の使用感などについてレビューしたいと思います。





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