dempa01
今年も仙台市で「電波利用推進セミナー」が開催!

総務省東北総合通信局が12月8日に宮城県仙台市のホテル法華クラブ仙台ハーモニーホールにて「電波利用推進セミナー2016 ~電波利用で支える豊かな社会~」と題した講演イベントを行いました。

昨年もこのイベントを紹介しましたが、今年も産学官でそれぞれ電波の利用に携わっている3人の講師を招き、さまざまな視点から将来的な電波の利用方法についての講演がありました。

スマートフォン(スマホ)を含む携帯電話は電波を利用しているわけですが、その他にもさまざまな電波が生活や産業に利用されています。

今回は農業分野や建設業分野での電波利用についての話もありました。そこで本記事ではそれらの3つの講演の内容を紹介していきたいと思います。

◯電波政策の最新動向
dempa02総務省東北総合通信局無線通信部長星野哲雄氏

最初の講演は「電波政策の最新動向」と題し、総務省東北総合通信局無線通信部長星野哲雄氏が登壇しました。

dempa032017年度から5Gの実証実験がスタート

「電波政策2020懇談会」での検討内容の紹介ということで、レーダーやリニアセル(空港滑走路の異物検知システムに用いられる)、電波監視技術、ドローンなど様々なワイヤレスサービスの国内外への普及・海外新市場の創出についての話や新たなモバイルサービスの実現ということで、昨年も話題になった5GサービスやITS(自動運転システム)などの推進に向けた話などが紹介されました。

超高速・超低遅延・多数同時接続といった特徴のある5Gの2020年度実現に向けて当初の予定通り2017年度から実証実験に入ることや国際標準化に向けた国際連携も進めていくことが明らかにされました。その他ロボットにおける電波利用高度化に向けた話題も取り上げられました。


◯ICTとロボット技術による農業の第4次産業革命
dempa04北海道大学大学院農学研究院 野口伸教授

次に「ICTとロボット技術による農業の第4次産業革命」と題し、北海道大学大学院農学研究院野口伸教授より講演がありました。

野口教授は内閣府SIP「次世代農林水産業創造技術」プログラムディレクターを務め、日本の農業が非常に苦しい状況にある中、ICTとロボット技術により、労働力不足の解消や、生産の低コスト化などを行い、儲かる産業へと変えていきたいという試みを行っています。

そして経験と勘が頼りの農業をデータ重視に変えていく「スマート農業モデル」を提唱しています。データ化すれば就農が容易になり、営農ノウハウがデータで蓄積され、次世代へと継承できるようになります。

dempa05人が乗車しなくても作動するロボット農機

トピックとしては「ビーグルロボット」という田植え機やコンバインなどを無人ロボット化したものが紹介されました。なんと24時間作業ができ、作業精度が高いのも特長です。日本政府も2020年までの実用化を目指しています。

現在はオートステアリングシステムといって、GPSを搭載することで耕うん作業や田植え作業を手放しで運転できる農機が開発され、普及しています。これをさらに進めて無人作業システムの開発を目指しています。施肥・播種、除草、農薬散布、収穫もすべて無人・自動でできる仕組みです。省力化できるだけでなく、作業効率も人力より圧倒的に良いのも特長です。

課題は安全性なので、レーザーなどを使って障害物を検知し、人などが農機の前に飛び出したら自動的に止まるようなシステムの開発も進んでいます。農林水産省による安全性確保ガイドラインも策定されようとしています。

2020年には完全無人のロボット農業、5km程度離れたロボット管制室と圃場でデータ通信ができ、管制室から機械を止めたい時に止めたり、様々な角度から細かい部分までしっかり監視したりできる仕組みを作ろうと、現在実証実験が行われています。

dempa06一つの圃場でも複数の圃場でも使えるマルチロボット

その他マルチロボットによる協調作業システムといって、ロボットトラクタ2台とオペレーター1名による作業システムも開発されています。オペレーターはトラクターを一切運転せず、トラクターに乗ってタブレットを持ちながら作業監視を行うだけなので、高齢者や女性、未経験者でも安全に高精度の作業が可能になります。

また小区画圃場でも大区画圃場でも使える小型・軽量のロボット農機を開発し、農業の規模を拡大しようとする際、農機を大型化するのではなく、農機の台数を増やすだけで良いため、投資が少なくて済む(農機の買い替えではなく買い増しになるから)などのメリットがあります。

課題としてはロボットの運搬方法。農機置き場から圃場まで自動で運転はできるのですが、道路交通法の関係で公道を無人運転できないため、法改正が必要になります。また高精度GPSはいつでもどこでも使用できないため、日本版の準天頂衛星システムの開発も進んでいます。

dempa07農家の経験と勘をビッグデータ化

もう一つのトピックは「G空間情報を活用したICT農業」。ビッグデータを作成し、地域の営農支援情報を提供するシステムです。気象情報やフィールド空間情報(地形、土壌肥沃度、窒素ストレス、土壌水分、小麦などの倒伏といった情報をドローンによりデータ収集したもの)をビッグデータ化して、農家が経験と勘で積み上げた営農ノウハウをデータ化して蓄積し、保全・継承するというものです。

大規模農家だけでなく、小規模な農家でも儲かるように、ロボット技術やICT技術を使って効率化・省力化する仕組みの開発が非常に進んでいることが分かりました。今後の農業は画像・映像データの遠隔送信なども盛んになってくると思われ、電波の利用がますます活発化しそうです。


◯IoTによる建設現場の生産性向上への取り組み
dempa08株式会社小松製作所執行役員スマートコンストラクション推進本部本部長 四家千佳史氏

最後に「IoTによる建設現場の生産性向上への取り組み」と題し、株式会社小松製作所執行役員スマートコンストラクション推進本部本部長四家千佳史氏が登壇しました。

dempa09ICT建機を作っただけでは生産性は向上しなかった

建設業界は深刻な労働力不足が予想されています。大手だけでなく、中小の事業者も労働生産性を上げていかねばなりません。そこで小松製作所は通信モジュールを搭載したICT建機を開発し、市場に導入しています。

ところが、ICT建機の開発だけでは生産性向上を実現できないという事象が発生しました。小松製作所のICT建機を使うのは施工の中でわずかな工程のみだったので、施工全体でICT建機によって効率化できる部分がわずかであったという問題が明確化しました。

dempa10施工プロセスすべてをICT化し効率化を実現

建機だけをICT化しても効果が薄いため、スマートコンストラクションという建設生産のすべてのプロセスを3次元データでつなぐソリューションを提供しました。

ドローンで建設現場の3Dデータを取って施工計画のシミュレーションをしたり、ICT建機にステレオカメラを付けて、ICT建機以外が施工する場所も撮影し、撮影場所の3次元データをクラウドに送ったりといった仕組みを開発しています。ICTに不安を抱く事業者にも安心してもらうため、遠隔で様々なサポートを行うサポートセンターも整備しました。

dempa11小松製作所の施工経験ゼロの女性事務職員が道路を作るビデオ

こうした仕組みの開発により、女性や未経験の若い技術者でも高精度の工事が可能になります。講演内では5人の女性事務職社員が3日で道路を作ったり、経験の乏しい若手社員の多い小規模建設業者でも簡単に施工現場の現況把握ができたりといったビデオが紹介されました。

四家氏は福島県出身で、ICT建機も福島県の工場で開発されているとのこと。今後は施工現場の見える化から最適化、施工会社のトータルサポートへと進化させたいとのことでした。国土交通省もi-Constructionといった形で3次元データを使った施工を推進しており、さらなる進化が期待されています。

今回は電波の利用により、農業や建設といった分野が大きく変わることが分かるセミナーとなりました。人口減少による労働力不足が深刻になる分野で、ICTの活用は今後非常に大事になってくることでしょう。

記事執筆:こば


■関連リンク
エスマックス(S-MAX)
エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter
S-MAX - Facebookページ
総務省 関連記事一覧 - S-MAX