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2018年に書いたコラムから1年を振り返ってみた! |
このコラムが掲載される(と思われる)今日は晦日。2018年もあと2日となりました。みなさん年越しの準備はお済みでしょうか。筆者もこのコラムで書き納めとする予定ですが(予定は未定)、振り返ってみれば今年は見事にコラム完投、52週を一度も休まずに書ききりました。
コラムを1年分振り返ってみると、2018年の通信業界も大激動の年であったことを強く感じます。新しい技術、新しいサービス、そして新しい端末。さまざまな話題を散りばめ、できる限り幅の広い話題を提供しようと東奔西走した1年でした。
そこで今回の「Arcaic Singularity」では、2018年に書き綴った51週分のコラムから筆者が注目したテーマ3つをピックアップし、内容を振り返りながら2019年の通信業界を占ってみたいと思います。
■「料金」……MNO各社は経済圏争いへ
2018年の通信業界の話題の中でも多くの人々の関心を引いたのは、恐らく「料金」や「価格」に関する話題ではないでしょうか。
2017年に大ブームを巻き起こした仮想移動体通信事業者(MVNO)市場が一定の認知度を得て定着する一方で、リテラシーの低い人々もMVNOを利用するようになりトラブルが増加しました。
対する移動体通信事業者(MNO)はMVNOに対抗する形で低廉な料金プランを用意したり、大容量のデータ通信が可能な料金プランを打ち出してお得感をアピールするなど、それぞれの強みを活かした料金戦略が飛び交いました。
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また、総務省や公正取引委員会とMNO各社による激しい通信料金論争も繰り広げられていました。7月には公正取引委員会による「4年縛り」問題への報告と指摘があり、各社はその対応に追われました。
8月の菅官房長官による「4割下げる余地がある」発言もまた大きな衝撃を与え、10月末にはNTTドコモが2019年4~6月を目処に総額4000億円程度となる値下げを行うと発表するなど、その発言の影響は来年に持ち越す勢いです。
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営利企業であるMNO各社が自らの利益を単純に削るような施策を行うはずもありません。値下げの裏では必ず別の収入源を確保します。
現在のMNO各社が力を入れているのは自社経済圏の確立と社会インフラへの浸透であり、音声通話やデータ通信といった通信そのものからの収益だけに頼らない、プラットフォーム事業としての収益力の向上を目指しているのです。
各社による自社経済圏拡大の動きは、2019年以降も継続されると予想されます。
とくに2020年に各社から正式なサービス開始が予定されている第5世代通信方式(5G)は社会インフラの根幹から革新を与える技術として期待されており、通信技術が単なる情報伝達の手段というだけではない、社会を構築する最重要インフラシステムとなることを意味しています。
■「災害」……人知れず戦い続ける通信会社
2018年は「今年の漢字」に縁起の悪い「災」が選ばれてしまうほどに、巨大な自然災害が次々と日本列島を襲った年でした。5月の集中豪雨や6月の大阪北部地震、7月の西日本豪雨、9月の北海道胆振東部地震など、通信業界にとっても試練と呼べるほどの大災害が毎月のように発生しました。
とくに北海道胆振東部地震ではブラックアウトと呼ばれる大停電が発生し、NTTドコモ史上初となる大ゾーン基地局が可動するなど、通信インフラが崩壊するギリギリの局面が起きています。
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通信会社はこういった大災害が発生した時のみ対応しているわけではありません。平時より「万が一」に備えて通信状況を監視し、緊急用の移動基地局車両を配備し、回線トラブルに強い冗長性のある通信システムの構築を行っています。
これらの施策が一般の目に留まるニュースとして表に出てくることは滅多になく、また出ないことこそが平穏の証でもあるため、なかなかその存在意義や価値について論ぜられることがありません。しかし地道な保守業務こそが社会インフラとしての通信を支えているのであり、それを痛感させられる出来事が多かった1年でもありました。
■「教育」……平成の次の時代を担う子どもたちへ
通信業界やデバイスベンダーの発表会を取材していて多く見かけた言葉が「プログラミング教育」でした。正確にはPCによるプログラミング技術そのものを養成するものではなく、プログラミングに必要な論理的思考を養うための教育ですが、ここが商機とばかりにPCベンダーやソフトウェアベンダーが自社製品を売り込んでいました。
これからの時代、PC技能やそこで活用される論理的思考力が日本の国際競争力を支える原動力となることは自明です。ハードウェアでもソフトウェアでも海外の技術に遅れを取り始めた日本企業は、発想が柔軟で学習能力の高い小学校低学年やそれ以前からプログラミング教育を行い、未来の財産を育てていくことが何よりも重要であることを痛感しているのです。
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例えばソフトバンクは全国の小学校や中学校などの教育機関を対象として、人型ロボット「Pepper」を使った社会貢献プログラムやプログラミングコンテストを開催し、2月には成果発表会や表彰式を行っています。本プログラムは現在第2弾が継続されており、一般的なプログラミング教育とは違う、競技的な要素を備えたソフトバンクらしい積極性を見せています。
一方で、教育現場における教員側のITリテラシーの不足やデバイスに関する知識不足も指摘されており、デジタルディバイドの深刻さが浮き彫りになった形です。生まれたときからPCやスマホと慣れ親しんでいる世代に、誰がどのように道具としての使い方を教えていくのか、そこから考えなければいけません。
■2019年に思いを馳せて
2018年に筆者が見つけたキーワード、「料金、災害、教育」は、いずれも一過性のものではありません。通信料金の問題はほぼ全てが2019年以降に先送りされており、少なくとも現在各社が抱えている問題については2019年春~夏頃まで回答を待つことになりそうです。
災害対策は半永久的に続くものです。日本における酷暑や豪雨被害は地球温暖化の影響なども示唆される中で年々厳しさを増しており、地震災害以上に頻繁に起こり得る巨大災害として常に備えておかなければいけない問題となっています。私たちの家庭でもモバイルバッテリーを常備したり、場合によっては通信回線を複数キャリア用意しておくくらいの用心深さも必要かもしれません。
プログラミング教育もまた、これからが本番です。2020年から始まる義務教育での必修化に備え、通信各社やデバイスベンダーから教育用端末やソリューションの発売が相次ぐでしょう。
2020年の日本では東京オリンピックが開催され、5Gサービスが正式にスタートします。2019年の通信業界は、そんな2020年までの「踊り場」、もしくは「夜明け前」的な印象があります。
5Gサービスがスタートした時、日本は見事な初日の出を拝めるのか。それとも暗雲垂れ込める陰鬱とした夜明けとなるのか。前者となるためにも、2019年の1年間は大きな勝負どころと言えそうです。
記事執筆:秋吉 健
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