2020年の最新xR事情を追いかけてみた! |
筆者は1月22日、NTTドコモの通信関連技術の展示会「DOCOMO Open House 2020」を取材するため、東京ビッグサイトにいました。会場では今年春から日本でも各移動体通信事業者(MNO)によって本サービスが開始される、第5世代通信システム「5G」に関連した展示が数多く行われ、5Gを使ったB2Bソリューションや技術展示が行われる中、筆者はひたすら1つのテーマを追いかけてブースを走り回っていました。それは「xR」技術です。
本連載でも過去に取り上げたことのあるxRですが、まだまだ一般には浸透しきっていない技術分野です。xRとは、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、SR(代替現実)、そしてMR(複合現実)などを総称する際に用いられる名称です。
みなさんもARやVRあたりは聞き馴染みがあるかもしれません。例えば2016年のサービス開始以来、今でも根強い人気を誇るスマートフォン(スマホ)ゲーム「ポケモンGO」は、AR技術を使ったゲームとして空前のARアプリブームを巻き起こしました。
DOCOMO Open House 2020では、5Gの優位性をアピールするための手段としてxR技術を用いていましたが、具体的にはどういった点で5Gとの親和性があるのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はxR技術の最新情報を中心に、xRサービス実用化の可能性などについて考察します。
■人の心理的障壁を超えようとしているxRデバイス
まずはxR技術やそのデバイスについてのおさらいです。
xRに分類される技術の名称については前述の通りですが、その名前だけではなかなか技術や用途が分かりません。それぞれの技術の違いは以下のようなものになります。
■AR:拡張現実。現実世界にCGを重ね合わせて表示し、その場所にあたかもCGの物体が存在しているかのように表示する技術
■VR:仮想現実。CGや映像によって作られた完全な仮想空間を作り、その中を現実世界のように動き回れる技術
■SR:代替現実。ARに似た手法で、現実世界にCGや過去の同じ場所などを投影して表示し、その空間を「置き換え」て表示する技術
■MR:複合現実。ARやSRの発展型。現実世界にCGを重ねて表示する点はARやSRと同じ。そこからさらに、現実世界に存在する物体に対しリアルタイムにCGによる拡張情報を表示したり、看板の内容を置き換えたりして、現実とCGが合成された空間を動き回れる技術
これでもまだ想像が難しいかもしれませんが、簡単に言えば、ARやSRはスマホやタブレットでも可能な、CGのオーバーレイ(重ね合わせ表示)技術であり、VRやMRは、ゴーグル型やメガネ(グラス)型のディスプレイを用いて仮想空間に「入り込む」ことで、その空間内を動き回れる技術ということになります。
ARやSRはスマホやタブレットがあれば実現可能なため比較的手軽ですが、VRやMRではゴーグル型やグラス型のディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ=HMD)を用いることから、ARやSRよりもデバイス面でハードルが高く、なかなか普及が進んでいません。
そもそも高度な映像処理技術が必要で発展途上であることや、HMDが大型で扱いづらいという点、そして何よりも、HMDを装着している様子があまりにも異質で、人の心理的に興味や関心よりも忌避感や羞恥心を強く感じてしまうことが大きな障壁と言えます。
トップ画像に使用したのは、筆者がDOCOMO Open House 2020で装着したマジックリープ社のMRグラス「Magic Leap One」ですが、この姿を見て「凄い!私も着けてみたい!」と思う人はなかなかいないでしょう。
テクノロジーとは、本来そういった興味・関心から入るべきものなのです。しかし、そこに羞恥心などが勝ってしまうと、なかなか一般に普及しません。
かつてスマホが普及する前のiPhoneを目にした人々の反応を思い出してみてください。皆一様に「画面を触るケータイなんて」、「ボタンがなくて不便そう」、「見た目がケータイと違いすぎて恥ずかしい」と奇異の目で見ていました。
しかし、そこから「スマホの方が便利だよね」、「スマホじゃないとカッコ悪い」と感じさせることに成功したのは、21世紀のテクノロジー関連では最大のパラダイムシフト(意識変革)であったと言えます。
HMDの世界でも、1月に米ラスベガスで開催されたテクノロジー関連の展示会「CES 2020」にパナソニックが出展し、頭部を覆わないメガネ型のVRグラスを発表しています。
こちらもまた心理的な障壁を下げるための進化であり、アニメの世界で言えば、ドラゴンボールのスカウターや電脳コイルの電脳メガネなどが、その理想の姿ということになるのかもしれません。
■5Gとの融和性
このような発展途上にあるxR技術とそのデバイスですが、その普及へのさらなる後押しとして5Gが活用されることになりそうです。
xR(とくにVRやMR)は、デバイス単体での動作というよりも、現実の映像やCG映像によって空間を作り、その空間を誰かと共有しながら利用することでメリット(サービス)を生み出すものであるため、外部との通信品質が重要になります。
例えばVRの活用例として、VRライブなどがあります。先日、ソフトバンクはAKB48 グループの劇場ライブを、同社のVRライブ配信サービス「LiVR」にて楽しめるコンテンツを発表しましたが、CGによって生成された空間だけではなく、「現実のライブ配信映像を仮想空間として楽しむ」のもまた、VR技術のメリットと言えます。
そういった使い方になると、当然ながら映像の品質が大きな問題になります。前述したパナソニック製VRグラスでも4Kを超える高画質とHDR対応が大きくアピールされていますが、そういった高品質な映像コンテンツの配信となると、大容量の通信回線が必要になります。
これまではPCなどにHMDをつなぎ、自宅の光回線などから有線で映像を受け取っていましたが、将来的なHMDの理想はスタンドアローンでの完全動作であり、そうなった場合には配信映像も無線で受けなければいけません。
そこで大きなメリットとなるのが5Gです。超大容量のデータ通信が可能な5Gであれば、有線接続とほぼ変わらない品質で動画配信をどこでも受け取れます。それこそ4K超/HDR映像の配信などは、現在の4G回線ではほぼ不可能です。5G回線だからこそ実現できる世界なのです。
またMRでは、現実世界をCGによる追加情報で拡張していくというコンセプトから、映像をリアルタイムに解析し瞬時に情報を重ね合わせるという技術が必要ですが、ここでも5Gの「超低遅延」という性質が活きてきます。
MRデバイス自体は前述したような心理的障壁を取り払うため、これからもますます小型化・軽量化されていきますが、その小型化や軽量化と処理性能は相反するものです。そこで処理性能を補う技術が「エッジコンピューティング」です。
早い話が、デバイスの外で処理を行って、その処理結果のみをデータとして受け取るのです。例えばMRデバイスで撮影された映像を一旦外部へ送信し、そこで映像解析と情報処理が行われたデータのみを再び受け取り、MRデバイス内の元映像に重ね合わせる、といった具合です。
MRデバイスでは現実空間を見ながら動くことが前提となるため、その処理にかかる遅延は出来る限り減らさなければいけません。現在は端末内ですべての処理を行っているために、映像の解像度を下げたり処理を行う情報を減らすなどの工夫によって実現していますが、5G活用によって、より高精細で情報量の多いMRが実現するかもしれません。
ARやSRで用いられるスマホやタブレットも、誰もが最新の高性能端末を所有しているとは限りません。端末の処理性能に左右されにくく、大きく普及するカギを握っているのが、端末の外部で処理し、その処理データを端末へ送り返すエッジコンピューティングであり、そのための5Gによる低遅延通信なのです。
KDDIが1月24日~25日に渋谷区とともに行ったAR(SR)イベント。5Gスマホで撮影されたハチ公前広場が、そのまま1964年当時の広場を再現したCG映像で置き換えられた。膨大なアプリデータも5Gで高速にダウンロードされていた
■xRは5Gで再び羽ばたく
ポケモンGOが大ブームとなった2016年はAR元年やVR元年と呼ばれて持て囃され、家庭用ゲーム機でもPlayStation VR(PSVR)が発売されるなど、確実な手応えとともに世間へ受け入れられたかのように感じられました。
しかし、あれから4年。残念ながら世間にxR技術が浸透した気配はまだありません。PSVRもすっかり忘れ去られてしまった感があります。
かつて本コラムでxR技術について執筆した際、「今はまだその用途すら手探り状態で、この技術を何にどう活かしていくのかという議論と模索がようやく始まったばかり」と書きましたが、2年経った今、xRはようやく5Gという技術を手に入れ、その活用の道筋にも具体的な目処が立ち始めたようにも思えます。
HMDとしても小型化や高性能化が進み、4年前や2年前とは比べ物にならないほどに実用的になっています。この先さらに2年、4年と進化していけば、5Gの普及とともに活用の幅は広がっていくことでしょう。
xRの挑戦は、まだまだこれからなのです。
記事執筆:秋吉 健
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