衝撃の格安通信料金プラン「ahamo」とモバイル業界の激変について考えてみた! |
ついにNTTドコモが12月3日に動きました。既報通り、同社は「今後の料金戦略に関する発表会」を開催し、データ通信容量20GBで月額2,980円という衝撃的な価格設定の新料金プラン「ahamo(アハモ)」を発表しました。ahamoとは「未知の物事を理解するアハモーメント」や「なるほどの相槌の『Aha』」、「アハハと笑う『アハ』」、これらから取られたネーミングです。
これまでも総務省による移動体通信事業者(MNO)の料金値下げ要求を受け、KDDIやソフトバンクがそれぞれ「UQ mobile」や「Y!mobile」といったサブブランドで月間高速データ通信容量20GBで月額4,000円前後のプランを発表していましたが、NTTドコモが発表したahamoはその水準よりもさらに1,000円以上安い価格設定です。
これまで「NTTドコモの料金プランは高い」というのが一般的な印象であり、実際も各種割引施策を多用したり、利用容量を大きく絞らなければ安価な運用は困難でした。しかしながら、ahamoでは一切の割引なしに超低価格を実現しています。
なぜこれだけの低価格を実現できたのでしょうか。そして今後のモバイル業界はどう動いていくのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はahamoの詳細や料金設定を中心に、モバイル業界の今後について考察します。
■新世代の料金プラン「ahamo」
はじめに、ahamoについて簡単にまとめておきます。
■ahamoプラン
・2021年3月提供開始予定
・オンライン契約専用プラン
・20歳以上限定(親権者が契約し、20歳未満の親権対象者を利用者登録することは可能)
・月額2,980円(割引施策なし)
・データ通信容量20GB
・5G・4G通信対応
・5分以内の国内通話が何度でも無料
・データ容量超過後は1Mbpsで使い放題
・データ容量超過後は1GB/500円で高速通信を何度でも追加可能
・海外82の国および地域でも20GBのデータ通信を利用可能
・オンライン契約のみで店舗取扱いはなし
・キャリアメール(docomo.ne.jp)非対応
・月額1,000円で国内通話かけ放題オプション追加可能
・SIM(UIM)のみの契約もOK
・本プランに対応するスマートフォン(スマホ)は順次発表予定(SIMフリースマホなど)
・NTTドコモとしても本プランに対応するスマホを順次提供予定
■キャンペーン施策
・提供開始日の前日までに先行エントリーを行うとdポイント(期間・用途限定)3,000ポイントを進呈
先行エントリー受付:https://www.ahamobile.jp/
※各種料金はすべて税抜表示
※詳細は公式Webサイトにおける報道発表を参照
2019年に発表された料金プラン「ギガホ」および「ギガライト」の際にも、NTTドコモが思い切ったシンプルな料金プランを出してきたと感じましたが、今回の衝撃はその比ではありません。
総務省が指針として提示していた数字は20GB/月額4,000円前後であり、KDDIやソフトバンクもサブブランドながらそれにならう形で料金プランを提示していました。しかしながら、NTTドコモが出してきたプランはさらに1,000円安い月額2,980円です。
しかも、データ利用量超過後も1Mbps通信が使い放題である点などは上位プランとなるギガホと同等であり、さらに5分以内の国内通話無料に関しては、ギガホであれば月額700円のオプションプランとなっているものです。
毎月のデータ通信利用容量が20GB以内で、なおかつ通話も常に5分以内に済ませてしまうような人であれば、もはやこの料金プラン以外を選択するメリットがないほどです。
ahamoのメリットはこれだけではありません。
KDDIやソフトバンクがサブブランドであるUQ mobileやY!mobile向けに提供予定の新料金プランの場合、サブブランドであるために5Gが利用できませんが、ahamoはNTTドコモのブランドとなることもあって4Gに加えて5Gも利用できます。
発表会に登壇した同社 代表取締役社長の井伊 基之氏も壇上で「ドコモブランドの高品質な通信」を強くアピールしており、MNOのみならず、仮想移動体通信事業者(MVNO)も含めたモバイル通信各社へのアドバンテージとしたい考えです。
■安さの秘訣はサポートの薄さとキャリアメールなどへの非対応
では、なぜこのような衝撃的なほどに格安の料金プランを生み出せたのでしょうか。もしくは、なぜ今まで生み出せなかったのでしょうか。その答えは「徹底したコスト削減」にあります。
まず、ahamoはオンライン契約専用プランであるという点です。ドコモショップなどの実店舗では一切取り扱いません。もちろん、ドコモショップが独自に取り扱うケースも出てくるかもしれませんが、少なくとも現時点においてNTTドコモとしてはオンライン契約専用プランとして扱う予定となっています。
契約にかかる人件費などのコストを徹底的に抑えるためにオンライン手続きのみとし、さらにそういったオンライン手続きを自分自身で問題なく行えるだけのモバイルリテラシーやネットリテラシーを持った消費者を対象としたプランであるということです。
例えば、実店舗では料金プランや契約内容、さらに端末の操作や利用方法についての相談やサポートを行っていますが、ahamoではそういったサポートを原則として受けられません。
店舗へ相談に来た場合は無碍に追い返したりはせず一応受け付けるとのことですが、そういった対応は特例扱いであり、標準的なサポート内容には含まれません。そのため、これまでの同社のサービスとは異なり、場合によっては有料となるケースも考えられるでしょう。
ahamoではMVNOと同じように、自分でSIMカードの交換や通信設定が行なえ、各種アプリの管理や保守も自己責任で行えるユーザーがメインターゲットとなります。NTTドコモはこれを「デジタルネイティブ世代にフィットしたプラン」と呼んでいます。
とはいえ、ユーザーサポートをまったくしないわけではありません。
ahamoでは利用状況や契約内容の照会、支払料金の確認などが行えるスマホなど向け専用アプリの提供が予定されています。これは現在、NTTドコモが提供しているスマホアプリ「My docomo」と酷似した機能や仕様となっており、そのアプリ内からオンラインにて各種サポートを受けられるようになっています。
徹底したコスト削減はキャリアメールが使えない点にも現れています。
ahamoではNTTドコモのドメイン(docomo.ne.jp)のメールアドレスの発行が行われないだけではなく、すでにNTTドコモのメールアドレスを持っていてもahamoへプラン変更をした時点で利用できなくなります(NTTドコモ広報部へ確認済み)。
前回の本連載コラムで、キャリアメールの持ち運び制度やキャリアメールの運用コストについて執筆しましたが、まさにNTTドコモはこれを大きなコストと考えたのです。
【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:メールの呪縛を解き放て!総務省が提言するキャリアメール持ち運び案の意義と現状の問題について考える【コラム】
業界動向やNTTドコモのお家事情を裏読みするならば、本来はサブブランドを新設して運用する予定であったものが、直前に武田 良太総務大臣から「新料金プランをサブブランド展開することはけしからん」と苦言を呈されてしまったことから急遽、NTTドコモのメインブランドで展開する流れとなったために仕様変更が間に合わなかったとも考えられます。
また総務省が策定した「アクション・プラン」に従い、キャリアメール持ち運び制度を活用するにしても計画では2020年度末までに「検討」を行うことが示されているのみであり、そこから持ち運びの具体的な方法(ドメイン移管なのか、それともリダイレクトなのか)の選定やシステムの構築、さらに他社との協議などを待っていたのでは、2021年3月というahamoのスタートには全く間に合いません。
いずれにしてもキャリアメールの提供と運用が大きなコストであると考えられていたことは間違いありません。
■キャリアメール利用者に用意される「もう1つの選択肢」
このキャリアメールが扱えないという点は、完全無欠に思えるahamoの唯一の弱点となりそうです。
総務省が大手MNO各社に突きつけた通信料金値下げ要求には「既存ユーザーが安さを実感できるプランを用意すること」という明確な目標があります。つまり、キャリアメールを利用している人がahamoにプラン変更できない、もしくはプラン変更するにはキャリアメールを捨てなければいけないという大きなハードルが生まれるため、総務省からまたもや苦言を呈される可能性が残ります。
NTTドコモとしてもその点は折り込み済みと考えられ、その予想は「ギガホ・ギガライトの料金改定を12月中旬に控えている」という点に集約されます。
NTTドコモはahamo発表に合わせ、「プレミア」、「ニュー」、「エコノミー」という3つのカテゴリー分けによるブランド戦略を発表しています。ahamoは「ニュー」カテゴリーに属しており、デジタルネイティブ世代が新規にモバイルライフを始めるための高コストパフォーマンスな料金ブランドとして設定されました。
これまでのギガホおよびギガライトは「プレミア」カテゴリーであり、その名の通り実店舗も含めた高品位で手厚いサポート体制が特徴となります。その分料金もahamoほど安くはなりませんが、NTTドコモは「使った分だけ料金を払ってもらう形で、納得感のある料金の在り方を考えていく」として、ギガホおよびギガライトの値下げにも言及しています。
発表会ではユーザーの利用実態について触れる場面があり、若者が社会人になって一人暮らしを始めた際、その約5割が契約内容を保護者支払いから自分支払いへと切り替えている点が解説されました。
「これまでは家族でメリットが最大化していた」、「これからは“個”にぴったりなプランを」と述べていたように、ahamoが個人を対象としたプランである一方、これまで家族単位でのメリットであった「ファミリー割引(みんなドコモ割)」をアピールしてきたギガホおよびギガライトでは、家族が減ることによって割引率が下がり、現状のままでは実質的な料金値上げとなってしまいます。
そのため、NTTドコモはギガホ・ギガライトの値下げに言及したのですが、ファミリー割引の撤廃もしくは大幅な割引率の削減を行い、代わりにこれまでファミリー割引を最大適用していた程度まで基本料金を下げてくるのではないかと筆者は予想しています。
仮にそのような料金体系となった場合、ギガホで月額5,980円、ギガライトで月額1,980円からという料金が基準となるため、十分にお得感のある価格設定となります(さらに利用できるデータ通信容量を増やしてくる可能性も大いにある)。
この水準の料金設定が行えるなら、ユーザーからも総務省からも妥協と納得が得られるものではないかと考えるところです。
■MNOの低料金化がもたらすモバイル市場の大混乱
そして何より気になるのは、他のMNOやMVNOの動向と戦略です。
当然ながらKDDIやソフトバンクは心中穏やかではないでしょう。武田総務大臣からも「羊頭狗肉」と散々に批判されてしまったサブブランドによる料金プランは、5Gも利用できない上に価格面でもNTTドコモに惨敗しました。
今後ほぼ間違いなくこれらの戦略は見直され、メインブランド展開に変更されるか、サブブランドでも5G通信が利用できてMNPに関連する各種手数料も全て無料の改定案が提示されるものと思われます。
今後はこの「20GB/月額2,980円」という価格が基準となって各社が競い合うことになるわけですが、それによってモバイル業界は大激変の時代を迎えることとなります。
最も甚大な影響を被るのは各MVNOです。これまで3GB/月額1,600円などのプランを中心に低価格層へアピールしてきましたが、ahamoの登場によって月額3,000円以上の料金プランをすべて潰されてしまいました。
MVNOで月額3,000円以上の料金プランを契約する人は少ないとは言え、利益率の高いプランを完全に潰されては事業が成り立ちません。今後はより低価格な月額980円などのプランで耐え凌ぐか、20GB/月額1,980円といった、さらに容量単価の安いプランを用意して勝負を掛けざるを得なくなります。
事実、12月4日にはMVNOを運営する日本通信が、16GB/月額1,980円となる「SSDプラン(仮)」を発表し、さっそく壮絶なレッドオーシャンの様相を見せています(ahamo開始後に自動的に20GBへ増量予定)。
日本通信はプレスリリースの冒頭で「ドコモが発表した新料金への対抗プランを新発売する」と明言しており、料金比較表を用いて明らかな競争姿勢を見せています。
今後こういった流れは各MVNOに広がっていくものと思われ、安いばかりで利益のでない、過当競争に近い「勝者のいない戦い」に発展する恐れすらあります。
MNOにしても新規プレイヤーである楽天モバイルは窮地に立たされることになります。
楽天モバイルは5G対応のデータ通信容量無制限/月額2,980円のプランで契約者獲得を急いでおり、11月現在で約160万契約を達成しているとのことですが、データ通信容量が無制限となるのは自社網のみであり、ローミングエリアとして契約しているau回線を利用した場合、上限は5GBまでとなります。
ahamoは楽天モバイルが武器としてきた圧倒的低価格というメリットの一部を削ぎ取るには十分すぎるほどに魅力的な料金プランであり、これにKDDIやソフトバンクといった他MNOも追従した場合、楽天モバイルのアドバンテージは大きく後退します。
■通信料金の「選択」をしよう
総務省が本来めざしていたものは「モバイル通信市場の自由で活発な市場競争」だったはずです。
しかし、現状の総務省の提言や指針を見る限り、大手MNOの低料金化ばかりが先行し、結果として消費者が大手MNOとそのグループ企業へと集約され、ユーザーがMNOのエコシステム(経済圏)から動かなくなる寡占化が起こりかねない状況にあります。
本来であれば、MVNOへの回線卸価格の値下げとMNP関連手数料の無料化、長期契約の撤廃、キャリアメール持ち運び制度の導入、新規プレイヤーの優遇策などを先行させ、消費者流動性を確保した上で2~3年その動向を確かめてから、改めてMNOの料金施策について議論すべきでした。
しかしながら、総務省は性急にもMNOの低料金化を先行させてしまったために、数多くの歪みと市場の混乱を生んでしまったのです。
総務省のアクション・プランには「モバイル市場の公正な競争環境の整備」と大きく掲げられていますが、総務省が強引に推し進めた低料金化は公正な整備と言えるのでしょうか。少なくとも公正な市場競争の結果ではありません。
かつてMNO各社は、激しい市場競争を繰り広げつつも不毛な過当競争を回避し利益を追求すべく各々が牽制し合い、結果としてほぼ横並びの料金プランとなるという、ある意味市場競争原理の当然の結果によって成り立っていた時代がありました。
これを談合だと揶揄する人々もいましたが、もしそれが談合であるならば、現在の状況は官製談合もしくは過剰介入による市場統制と呼んでも差し支えがない状況です。
ものの価格(料金)とは市場競争による需要と供給のバランスによって成立するものであり、総務省が「料金を4割下げなさい」、「海外では20GBで4,000円前後なのだからそれに合わせなさい」といった指導や要請(実質的な強制)を行うこと自体が間違っているのです。
筆者は決して通信料金が値下げされること自体を批判しているのではありません。むしろ個人としては大歓迎ですし、すでにahamoの事前登録は済ませています。しかし、それと総務省のやり方が正しいかどうかはまったく別の話です。
事実として総務省は過去に、モバイル市場の拡大と消費者流動性を目的としたMVNOの普及促進策を打ち出し、それによって全国に600以上のMVNOが誕生しました。
数多くの人々がMVNOへと移動した結果、MNO各社はユーザーの流出を食い止めるためにデータ通信容量の大容量化を一気に進め、低容量・低料金のMVNO、大容量・高料金のMNOという図式が形成されたのです。
そのMVNOの中からも、ユニークなアイデアや企業体力を活かした販売戦略によって競争に勝利し多くのユーザーを獲得するサービスが台頭しはじめ、mineoのように独自コミュニティーを得るまでに成長したサービスもあれば、楽天モバイルのようにMVNOの枠に収まらず、さらにMNOへとチャレンジする企業も現れたのです。
それらの動きは完全に市場原理に即したものであり、実に健全な競争の結果に起こった市場の広がりであったと記憶しています。もちろん、それらを主導した根本は総務省による施策であり、その点は大いに評価したいところです。
それがなぜ、2018年から突然ここまで歪み続けてしまったのか、筆者には理解しがたい部分が数多くあります。ここから新たなスタンダードが生まれ、新たな市場原理が構築されることは間違いありませんが、これまでに築き上げてきた市場バランスと競争環境は一気に崩壊するでしょう。
そもそも総務省はMNOの通信料金を強引に値下げし、何を得たかったのでしょうか。その性急な動きには国民への政府の人気取りの影がちらつくほどです。
逆に言えば、これだけ強引に値下げを断行したのですから、もはや消費者は「通信料金が高い」とは言えない状況になるでしょう。この先、通信料金が高いと言おうものなら、「選択しなかったあなたが悪い」、もしくは「あなたの利用方法ならその料金は妥当」と言われるだけです。
そこに安い料金プランがあり、お膳立てまでしてもらっているのに動かないなら、それはもはや個人の明確な意志です。人の行動原理は「面倒かどうか」だというのが筆者の持論ですが、面倒を負ってでも動いたほうが得だと感じるなら誰でも動きますし、面倒を負ってまで動くほどの得を感じないなら動かないだけの話です。
例えば、現在キャリアメールを利用している人であれば、キャリアメールからフリーメールに変更する面倒や苦労を負ってまで動くメリットはないと感じる人も多いでしょう。それもまた1つの選択です。
みなさんにとって、ahamoは「動くに値する面倒」にあたるでしょうか。少なくとも筆者にとっては「動かなければ大損する」とすら感じられるだけの大きな得でしたので動きました。
現在、auやソフトバンクを利用しているユーザーであれば、それぞれの通信キャリアが対抗プランを出してくるまで待ってみるのもアリかもしれません。
理由や根拠はどうであれ、モバイル業界での生き残りをかけた通信各社の新たなサバイバルレースは始まりました。みなさんも「選択」の準備をしましょう。
記事執筆:秋吉 健
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