スマホケースの歴史と魅力を追いかけてみた!

みなさんはスマートフォン(スマホ)用の保護ケース、いわゆる「スマホケース」を利用しているでしょうか。筆者は以前からポリカーボネートやそれに準じた樹脂製の薄いクリアケースを愛用しています。透明度が高く経年劣化や衝撃に強いため、スマホのデザインを活かしつつ長期間しっかりと衝撃やキズから守ってくれるからです。

現在ではおしゃれな手帳型ケースから耐衝撃性を高めたバンパータイプの保護ケースまで、さまざまなものが販売されています。恐らくみなさんも新しいスマホを買うたびに「今度のスマホケースは何にしようか」と悩むのではないでしょうか。

スマホケースはどのように選ばれ、どのように進化してきたのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はスマホケースの歴史を紐解きつつ、その魅力や進化と変遷をつらつらと書き綴ります。

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ただ保護するだけじゃない、スマホケースの魅力とは


■「裸利用」が基本だった携帯電話
まずはスマホケースが生まれる以前の歴史から紐解いてみましょう。

そもそも、携帯端末に保護ケースを付ける、という文化が生まれたのはスマホが初めてでした。それまでの携帯電話(フィーチャーフォン)では、デコレーションシールやストラップ、光るアンテナなどで飾る文化はありましたが、保護ケースを付ける、という発想には何故か至らなかったのです。それはノートパソコン(ノートPC)やPDAなどでも同様でした。

携帯電話の場合、保護ケースを付けにくい機構的な問題がありました。2000年代に主流だった携帯電話は、「二つ折り型」、「折りたたみ型」などと呼ばれるクラムシェル方式や、キーボード部がディスプレイ背面部からせり出してくるスライド方式、更には回転二軸ヒンジなどを採用した特殊な変形機構を持つ携帯電話も多くありました。

これらの可動機構のために保護ケースを付けられなかったり、付けるにしても複雑で複数の部品が必要になり、便利さよりも煩わしさが先行したため流行らなかったのです。

また、クラムシェル方式やスライド方式の携帯電話は厚みがかなりあったことから、保護ケースを付けるとかさばりすぎるというサイズ的な問題や、当時の携帯電話はバッテリー交換可能なものがほとんどであったため、保護ケースをつけるとバッテリー交換がしづらくなるといった不便さもありました。

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2007年発売のカシオ日立モバイルコミュニケーションズ製「W51CA」。回転二軸ヒンジを採用したヒット端末。このようなヒンジ機構の場合、保護ケースを付けるのは難しい


2008年にiPhone 3Gが日本で発売された直後も、スマホ(iPhone)に保護ケースを付ける、という文化はほとんどありませんでした。それまでの携帯電話同様に何もつけない状態で利用する人が多く、本格的にiPhone用のケースが出始めたのはiPhone 3GSあたりからです。

筆者が「iPhoneケース展」というイベントを毎年のように取材していたのも丁度この頃です。それまで携帯電話に保護ケースを付けるという文化がなかったため、iPhoneとともに持ち込まれたスマホケースという概念そのものが非常に珍しく、それ自体が1つのアートや表現様式、そして1つの市場として認知され始めた時期でした。

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2008年に筆者が愛用していたiPhone 3G用ケース。当時は国産の保護ケースがほとんどなく、欧米からの輸入品が中心だった


尚、iPhoneケース展は現在も続いており、日本各地で年数回開催されるほどにイベント自体も成長しています。

かつてスマホケースの認知と市場の牽引役を果たしたイベントは、今やスマホやスマホケースの愛好家による巨大なコミュニティ文化として定着しているのです。

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人々を魅了したのは製品としてのスマホケースだけではなく、そこに集う人々自身の情熱や想いだったのかもしれない


■スマホの普及や大型化とともに進化したスマホケース
2012年頃になると、iPhoneだけではなくAndroidスマホがブームとなり、人々の間で手帳型ケースが大流行します。

iPhoneの場合、機種のバリエーションが少なかった上に圧倒的なシェアを誇っていたことから、保護ケースも大量生産が可能で1つの大きな市場を作りました。
しかし、当時のAndroidスマホは多数の機種が乱立していた上に端末の販売サイクルが早く、その機種のみに特化した専用保護ケースはシェアが小さくなりすぎて採算が合わないことが多くあり、好んで生産するメーカーが少なかったのです。

そのような中で、汎用性が高くどんな機種でも包み込める手帳型ケースが登場します。本体背面だけではなく画面保護も可能であったことや、手帳型というデザイン的な自由度の高さからファッション性の高い製品が多数発売され、女性を中心に流行り始めたのです。

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現在では女性向け手帳型ケースのブランドやショップも存在する


その後、スマホでの動画視聴やゲーム利用の増加によってスマホが大型化してくると、スマホケースにも複数の進化が生まれます。

例えば手帳型ケースでは、動画視聴に最適なスマホスタンドに変形するタイプが登場します。一般的な保護ケースでは、スマホの大型化と重量化によってスマホを落とす人が増えたことから、耐衝撃性を高めた保護ケースが人気となります。

また、スマホが大型化したために少しでも持ちやすさを確保しようと、ポリカーボネート製やTPU(熱可塑性ポリウレタン)製で薄型軽量のクリアケースも大きく需要を伸ばしました。クリアケースは生産が容易であることから、非常に安価な中国製品などが数多く市場に出回るようになりました。

さらに、大型化したスマホを安定保持するためのホールドリングが付いたスマホケースも登場しました。ホールドリングはスマホスタンドとしても利用できるため、その便利さから一度使うと手放せなくなるというユーザーも多くいます。

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2018年発売のauオリジナルブランドスマホ「Qua Phone QZ」では、ステーショナリーメーカーDELFONICSの人気シリーズ「Rollbahn」とコラボした、スマホスタンドへ変形する手帳型ケースが発売された


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クリアケースは非常に安価であるため、品質で当たり外れの激しい中国製でも気にせず使い回すというユーザーは少なくない


■スマホケースが表現する「自分らしさ」
2019年6月にスマホアプリ紹介サービス「Appliv」が公開した「スマートフォンケースに関するアンケート調査」によれば、スマホケースを付けている人の割合は、画面保護フィルムと両方つけている人も併せて85.3%にものぼりました。

一方で、スマホケースを付けていないと答えた人の割合は、保護フィルムのみ付けていると答えた人を含めても14.7%です。かつての携帯電話では保護ケースをつけている人がほとんど存在しなかった(そもそも保護ケースがなかった)ことを考えると、道具の変化による文化や市場の変遷に驚くばかりです。

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スマホケースは付けて当たり前、スマホケースを付ける前提で本体サイズやカラーを選ぶ人がいるほどだ


スマホケースの選び方では男女に大きな差が生まれ、男性の場合は「ブランド」、「素材」、「機能」、「持ちやすさ」など、実用面での安全性や信頼性を重視する声が多かった一方で、女性の場合は「デザイン」、「価格」、「耐久性」を重視する声が多く挙がっています。

男性はスマホを「実用性の高い道具(デバイス)」として認識しており、女性は「おしゃれなファッションアイテム」として認識していることがよく分かります。

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同じ製品に対して男女でここまでハッキリと性差が出るのは非常に面白い


スマホケースとは、それだけ多種多様な考え方や要求があるものだという証拠です。何よりもデザイン性を求める人、機能性やコスパを最優先する人、耐衝撃性を重視する人、このブランドなら間違いないと太鼓判を押してリピート購入する人。

スマホは私たちが毎日使う道具であり、日常を彩るファッションアイテムだからこそ、スマホ選びと同じくらい使う人の個性も強く反映されます。日常の雑談の中でも、過去に一度くらいは友人たちとスマホケースの話題で盛り上がった記憶はあるでしょう。

普段何気なく利用しているスマホとスマホケース。たまには自分らしさを表現するために着せ替えてみるのも良いかもしれません。

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毎日人前で使うものだからこそ「自分らしさ」を引き出したい


記事執筆:秋吉 健


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