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ドローンの現在と未来について考えてみた! |
既報通り、NTTドコモがドローン向けの新たな料金プラン「LTE上空利用プラン」を7月8日に発表しました。個人・法人どちらでも契約は可能ですが、通信量120GBで月額49,800円(税込)と高額な点や、利用できるLTE対応端末やLTEモジュールがNTTドコモの指定した製品に限定される点からも、主に法人向けと考えて良いでしょう。
想定される利用用途としては単純な航空撮影以外にも高所からの施設点検や物流などがありますが、中には人を運ぶサービスすらも実用化目前となっているなど、いよいよドローンを使った空の活用が本格化するのだなぁという期待感が否応なく高まってきている今日この頃です。
ドローンはこれまで落下事故や悪用の問題から規制緩和がなかなか進まず、特に日本国内ではその利用が大きく制限されてきました。今後その規制はどのように緩和され、どのように管理・運用されていくのでしょうか。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はドローンの活用や規制の現状から、未来の社会のあり方について考察します。
■ドローンを巡る様々な問題と懸案
そもそも、何故ドローンには多くの規制がかけられているのでしょうか。
冒頭でも書いたように、最大の問題点は「落下(墜落)事故が容易に想定される」ことです。空を飛ぶものが下に落ちたら危ないのは小学生でも分かる話ですが、数百~数キログラム程度のドローンであっても、上空から落ちれば人命に関わる大事故に繋がります。
そのため、現在は200g以上のドローンに対し、
・空港周辺
・人口集中地区の上空
・高度150m以上の空域
・夜間
こういった場所および時間帯での飛行・運用が厳しく規制されています(他にも規制内容はある)。
さらに、利用する電波の問題があります。近距離であれば免許の要らない無線方式を利用できますが、目視が困難になるほどの距離になれば、当然ながら広域無線通信(モバイル通信)を利用することになります。
この時問題とされるのは、通信の安定性や接続性です。例えば私たちが普段利用しているLTE通信などは、基本的に「地上へ向けて」送信されています。それは、人々が地上を歩いて(もしくは自動車などで)移動しているからです。
そのため、上空での安定した利用を行うには基地局設備の調整や利用電波のバンド(周波数帯)をある程度限定し、一般ユーザーが使うモバイル通信網の混雑具合などに影響されにくい環境の整備が必要でした。
今回NTTドコモがLTE上空利用プランを用意してきた背景には、そういった「専用回線」を用意し、ドローンのために「上空へ電波を飛ばす」必要があったからなのです。
また、ドローンは悪用のリスクも常につきまとっています。
極端な例では戦争や紛争などで用いられるような無人攻撃機や爆弾テロのような過激なものがありますが、それら以外にも盗撮や騒音など、市販されているドローン単体で行えるような犯罪や迷惑行為に繋がるものも多数想定されます。
空を自由に飛び回り影響範囲の広い道具だからこそ、その運用と管理には慎重を期しているのです。
■規制緩和のための管理体制強化
こうした危険を回避するために多くの規制が設けられてきましたが、それも技術的な進歩や通信会社による環境整備が整いつつあり、ようやく規制緩和の道が見えてきたのが現在です。
2020年12月に国土交通省(国交省)がまとめた「無人航空機のレベル4の実現のための新たな制度の方向性について」では、「無人航空機(ドローン)の飛行の環境整備」として、2022年を目処に「有人地帯における補助者なし目視外飛行」(レベル4)を実現するとしています。
有人地帯における補助者なし目視外飛行とは、端的に言えば「都市部や住宅地の上空を遠隔操縦もしくは自律操縦でドローンを飛行させる」ことです。
これを実現するため、国交省は新たに機体認証制度や操縦ライセンス制度の創設を考えており、さらに運行管理のルール化も急いでいます。
ドローン活用を本格化させるにあたり、緩和すべき点は技術段階に応じて緩和しつつも、その運用については厳格に管理し安全を確保していくというのが国の方針です。
■ビジネスチャンスを掴み取れ
こういった規制緩和への動きに合わせ、NTTドコモ以外にも様々な業種・業態の企業がドローンを活用した新たなビジネスを模索しています。
例えば楽天は、2016年に世界初の貨物配送サービス「そら楽」を実施しました。楽天グループが保有する千葉県内のゴルフ場でのデリバリーサービスに利用され、スマートフォン(スマホ)アプリから簡単に注文・配送ができるなど、運用方法でも将来を見据えた実証実験でした。
当時はまだレベル4飛行が認められておらず、山林や河川、海など無人地帯における補助者なしでの目視外飛行しかできなかったためにゴルフ場が選ばれましたが、同社はその後も「楽天ドローン」として福島県南相馬市や神奈川県横須賀市の無人島などで配送実験を繰り返しており、今年1月にも三重県志摩市で離島への配送サービスを実施するなど、着々とレベル4運用に向けたノウハウを積み上げています。
また、ドローン運用の側ではなくそれを受け取る側としての準備も始まっています。
ミサワホームが「暮らし、健康、環境など社会が抱えるさまざまな課題の解決」を目指して「ミサワパーク東京」内に建設したコンセプト住宅「グリーン・インフラストラクチャー・モデル」では、A.L.I. Technologiesとの提携により、ドローンによる宅配物を受け取る専用の「ドローンポート」を設置しています。
ドローンポートは移動式で、専用アプリを使って屋内外の移動や配送状況を確認することができるため、留守中でもドローンによる配送品を安全に屋内へ搬送することができるようになっています。
ただ単にドローン配送を事業化しても、恐らく大きな成功や普及はないでしょう。そのサービスが現在の他のサービスよりも安全で便利であることが普及への条件でもあるからです。そういった意味で、配送物を受け取る側の技術的なアプローチもまた重要になります。
■ドローンのある社会を目指して
ドローンを用いた物流サービスや保守・点検サービスなどは10年以上前から検討され続けていましたが、法整備や認可制度の整備が進まず、何よりも技術的な課題が多かったことからなかなか実現できず、数少ない導入事例も特定の敷地内や無人地域に限定されたものでした。
しかしながら、それらの課題も2~3年前から解決に向けて大きく前進し始め、現在は法的な環境整備を待つ状況です。
ドローンの飛行は天候にも左右されやすいため、これまでの物流サービスなどが完全に置き換えられるものでは決してありませんが、新たなビジネスジャンルとして、また新たな社会インフラとして大きな意義と用途を担うようになるのは間違いありません。
20世紀のSF映画やアニメの定番と言えば、空を飛ぶクルマなどがありましたが、まさにそんな未来も現実になりつつあります。
一般的な無人ドローンとは少し形態が変わるものの、JALは2025年度を目処に、その名もまさに「空飛ぶクルマ」という名称で、ドローン技術を応用したeVTOL(電動垂直離着陸機)タイプの機体を用いた旅客輸送サービスの事業化を目指しています。
こうした「空のタクシー」としてのドローン活用の流れは世界規模で本格化しており、もはや単なる実証実験止まりの話題ではなくなりつつあります。
21世紀の社会は、いよいよ空を個人レベルで利用する時代へと突入するのです。筆者はその黎明期に立ち会えている幸運に感謝しつつ、空飛ぶクルマやドローン配送を当たり前に利用する未来までは生きてみたいと夢想する日々です。
記事執筆:秋吉 健
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