ついに発表されたiPhone 14シリーズについて考えてみた!

既報通り、Appleは7日(現地時間)、オンラインにて発表会「Apple Event - Far Out.」を開催し、同社のスマートフォン(スマホ)「iPhone」シリーズにおける新製品となる5G対応モデル「iPhone 14」および「iPhone 14 Plus」、「iPhone 14 Pro」、「iPhone 14 Pro Max」を発表しました。

iPhoneシリーズも初代発売から15年。メジャーナンバリングもついに14まで来ました。かつて「乗るしかない、このビッグウェーブに」というiPhone購入者の言葉がネットミーム化したのも懐かしい思い出です。今10代の人は知らない言葉かもしれません。

当時のような爆発的ブームもスマホに対する目新しさもなくなってはや数年、それどころかスマホの基本性能に誰もが不満を持たなくなった現在です。iPhone 14にも「どんな機能が乗るんだろうか」と期待する一方で、多くの人が「どうせ大きな進化は何もないんでしょう?」と冷めた視点で見ているのも事実でしょう。

そんなiPhoneシリーズですが、今回のiPhone 14シリーズの4機種では何が変わり、何が変わらず、誰が買うべきスマホとなったのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はiPhone 14シリーズの雑感やオススメ度などをつらつらと書き綴ります。

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通称ビッグウェーブさんの興奮も今は昔


■進化が見えづらいスタンダードモデルの微妙な立ち位置
はじめにかなり厳しい視点から単刀直入に語らなければいけません。スタンダード(標準)モデルとしてのiPhone 14を一言で表すならば「『iPhone 13S』(かつてあった『S』)相当のマイナーアップデートでしかない」ということです。

確かに本体機能としてカメラの手ブレ補正が強化され、フロントカメラにオートフォーカスが搭載され、フロントカメラやリアカメラともに暗所撮影性能が強化され、写真をより美しく撮影するためにフォトニックエンジンが搭載され、動画撮影機能が強化され、衝撃を検知して自動通報してくれる「衝突事故検出」機能が搭載されました。

しかしながら……大きな変更点はそれだけです。本体デザインはまったくと言って良いほど変わらず、変わったのはカラーラインナップ程度です。ディスプレイ性能やディスプレイサイズも一切変更がなく、プロ(Pro)モデルのようなProMotionテクノロジーによるアダプティブリフレッシュレート(最大120Hzまでの可変リフレッシュレート)機能も追加されませんでした。

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iPhone 12からであればさすがに進化を感じられるが、iPhone 13からは……見た目の変化の無さもあってインパクトが薄すぎる

何よりスタンダードモデルの基本性能の向上を心待ちにしていた人を落胆させたのは、チップセット(SoC)に1世代前のものを使用してきたことでしょう。iPhone 14に搭載されたSoCは「Apple A15 Bionic」です。

これはiPhone 13シリーズに搭載されたSoCであり、iPhone 14やiPhone 14 PlusではそのSoCがそのまま採用されています。もちろん、発表会でもiPhone 14やiPhone 14 PlusにはiPhone 13 Pro相当のApple A15 Bionicであるとされていましたが、やはりSoCの世代が変わらなかったのは残念です。

一方で上位モデルであるiPhone 14 ProやiPhone 14 Pro Maxでは最新のSoCである「Apple A16 Bionic」が採用されています。例年であれば、スタンダードシリーズとProシリーズでSoCの違いはなく(CPUの最大クロック数などは違う場合もあるものの)、主にカメラ性能で差別化してきましたが、今回はSoCでも差別化されたことになります。

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できることなら動作周波数を落とすなどしたA16 Bionicをスタンダードモデルにも採用してほしかった

ただし、SoCがまったく強化されていないわけではありません。前述通り、iPhone 14やiPhone 14 Plusに採用されているA15 BionicはiPhone 13 Proに採用された「GPUコアが5つ」の上位SoCであり、iPhone 13およびiPhone 13miniに搭載された「GPUコアが4つ」のSoCより3D処理性能が高いものです。

この違いはこれまでにもベンチマークテストなどで3D処理性能では1.4倍ほどの差があることが判明しているため(CPU性能はほぼ変わらず)、最新の3Dゲームなどをより快適に遊びたいという人には朗報かもしれません。

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3D処理性能は強くなったが「最新のiPhoneは最新のSoCを採用している」というこれまでの路線と戦略が変更された点は大きい

これらのことから現在、スタンダードモデルのiPhone 13を利用している人が同じくスタンダードモデルのiPhone 14へ買い替えるのは非常に微妙と言わざるを得ません。

冒頭にも書いたようにスマホの基本性能が成熟して不満のない利用が可能になってからかなりの年月が経っており、性能向上を理由にスマホを買い替えること自体が意義を失いつつある中、さらに進化点の少ない機種への早期の買い替えは、コストデメリットばかりが目立ちます。

特に今年は世界の情勢不安や米国の金利引き上げなどといった複数の影響からかつてないほど円安が進み、Appleも為替レートの変動に合わせて日本においてiPhoneシリーズなどの同社の製品価格を今年7月に大幅に引き上げています。

例えば、iPhone 14の価格であれば、最も安い128GBモデルの場合にAppleの公式Webストアや直営店などで119,800円、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどの移動体通信事業者(MNO)では約14万円と、かなりの高額な価格設定となっています。

過去を振り返ってみると、2020年発売の最上位モデル「iPhone 12 Pro Max」の128GBモデルの価格がAppleの公式Webストアで発売時に117,800円であったことを考えると、スタンダードモデルが2年前の最上位モデルよりも高い価格になってしまったことになります。

為替相場の影響とは言え、これでは購入を躊躇したくなる人も少なくないはずです。

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最新のスタンダードモデルが2年前の最上位モデルより性能で上回ることは歓迎したいが、価格まで上回るのは勘弁願いたいところ


■mini路線からbig路線へ。大画面スタンダード「Plus」モデルの復活
それでは、iPhone 14シリーズの他のモデルについてはどうでしょうか。実はスタンダードモデルと異なり、それぞれにメリットが存在するため意外とオススメポイントは多い印象です。

iPhone 14 Plusはスタンダードモデルの大画面版という位置付けで、こういった位置付けのモデルとしては2017年発売のiPhone 8シリーズ以来となります。AppleではiPhone 6シリーズから長らく「iPhone 6」と「iPhone 6 Plus」というスタンダードモデルと大画面モデルを販売してきました。

これは「大画面のiPhoneは欲しいけどPro Maxモデルは高すぎて手が出ない」という人はこれまでにも多かったのではないかと考えるところですが、今回のラインナップはそういった潜在需要を満たすための実験的な投入でもあるのではないかと考えます。

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今度のiPhoneは大型化路線に舵を切った

実験的な投入、と言ったのには理由があります。iPhone 12シリーズとiPhone 13シリーズには小型の「mini」モデルがラインナップされていましたが、このモデルは不人気で販売不振が常に囁かれていたモデルです。

Appleは正確な販売数や生産数を公表していませんが、販売店の販売実績や販売ランキングなどを見ても売れ行きが芳しくなかったことは間違いなく、何より今回のiPhone 14シリーズからminiモデルが出なかったことが現実を物語っています。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:策士策に溺れる。iPhoneのminiモデルで起きた事前調査と販売実績の乖離から消費者心理と数字の落とし穴を考察【コラム】

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筆者個人としてはminiモデルが大好きで毎回購入していたが、市場人気がないのでは仕方がない(画像はiPhone 12 mini)


そこで戦略の転換を図った先が大画面路線です。

そもそもスマホは登場当初から現在に至るまで大画面化の傾向をひた走っており、一般消費者の大多数がより大きな画面のスマホを望んできたことは明白です。

Androidスマホの売れ筋ランキングなどを見ても、ほぼすべてが6インチ台の大きなディスプレイのモデルばかりです。中には6.7インチや6.8インチといったモデルもあり、「とにかく大きな画面が欲しい」というニーズを象徴しているかのようです。

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価格.comによる「Androidのスマートフォン 人気・注目ランキング」。人気スマホのほとんどが6インチ台のディスプレイを持つ


そのため、iPhone 14シリーズも6.1インチのスタンダードモデルと6.7インチの大画面モデル(Plusモデル)の2ラインナップとしてきたのです。

一方、Proモデルではどうしても部材などの影響もあって価格が高くなっていましたので、比較的購入しやすいスタンダードモデルと同じ仕様で大画面というのは十分に需要が見込める市場であると考えます。カメラ性能の強化と合わせ、カメラで撮影した写真や動画をより大画面で楽しみたいというニーズにフィットするのではないでしょうか。

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スタンダードモデルは前機種(iPhone 13)との差異が微妙だったが、iPhone 14 Plusには大画面という大きなメリットが存在する


■順当進化のProモデル。iPhoneの未来を指し示す「Dynamic Island」
また今回のiPhone 14シリーズではProモデルのiPhone 14 ProおよびiPhone 14 Pro Maxについてはカメラ性能のさらなる強化とSoCの進化という大きな違いが存在するため、スペック面での購入に対するネガティブな印象はほとんどありません。

これまでのように「順当に進化したiPhone」として受け入れられると考えられます。

さらに言えば、今度のProモデルにはフロントカメラ周辺のデザインと機能が強化され、2017年発売の「iPhone X」以来続いていた幅広の「ノッチデザイン」が廃され、横長の「パンチホールデザイン」となりました。

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ついにノッチデザイン廃止。iPhoneの新たな時代の幕開けを感じさせる

さらにこのパンチホール部分に「Dynamic Island」(ダイナミックアイランド)と名付けられた仕組みが導入され、Face ID(顔認証)を実現するTrueDepthカメラとしての機能を持つだけではなく、各種ユーザーインターフェース(UI)と融合させることでデザイン的な面白さを生んでいます。

時には通話状況を示すアイコンとして、時には音楽再生コンソールとして、時にはFaceTimeのUIとして。黒く潰されたカメラ周りの「穴」を単なる穴として意識させるのではなく、多機能なフロートデザインのUIとして活用しようという発想はデザインにこだわるAppleらしさの象徴に思えます。

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カメラ周りの無駄を無くせないならUIデザインとして活用してしまえ、という逆転の発想


若干ひねくれた見方をしてしまうなら「従来のノッチデザインでも同様のUI手法は使えたのでは?」とも考えられますが、フレーム部と繋がった黒塗り部分が単に広がって通知領域が広がっただけに見えるよりは、ホームUIに重なるように別のUIが浮かび上がるデザインにしたかったという点は理解できるところです。

このような見た目の新しさは性能・機能面で差別化が難しい現在のスマホにおいては大きなポイントです。

特にiPhoneシリーズはこれまでスタンダードカテゴリーのモデルとProカテゴリーのモデルで見た目の差別化ポイントが少なく、「Proってカメラが少し強いくらいでしょ?」と言われがちだっただけに、Proシリーズならカメラ以外にもUIなどで先進性を感じられるという点は購入者の満足度に大きく関わる部分だと考えます。

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他にも、最大2000nitまで高輝度化された新型ディスプレイの性能が写真や動画の視聴をより快適にしてくれる


■似ているようでまったく違う4モデルのオススメ度
以上、iPhone 14シリーズの4機種の雑感を駆け足で書き綴ってみましたが、筆者とは違った印象を持った人も多くいることでしょう。

筆者は前述のように小型スマホが好みであり、今回のラインナップにminiモデルが存在しなかったことをとても残念に思っていますが、恐らくAppleの判断と販売戦略は間違っていません。

むしろ、スマホ市場のニーズ調査や実際の販売ランキングなどを精査すると、なぜ今までスタンダードカテゴリーに大画面モデルをラインアップしてこなかったのか疑問に思うほどです。

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スマホの大画面化の流れは止まらない


今回の4機種の総評としては機種ごとや買い替えサイクルよってオススメ度合いが大きく変わってくる点が特徴的だと思われます。

例えば、iPhone 13を持っている人がiPhone 14への買い替えを考えているなら「ちょっと待って」と声をかけたくなります。

筆者のように仕事として毎年スマホを買い替えているならともかく、バッテリーが激しく劣化しているなどの状況でもない限り、iPhone 13からiPhone 14への買い替えは性能的にもコスト的にもメリットが薄いと言わざるを得ません。

一方、iPhone 13からでも画面のより大きなiPhone 14 Plusへの買い替えであれば「アリ」なのではないかと感じます。またスタンダードモデルからProモデルへの買い替えであったり、ProモデルからProモデルへの買い替えなども十分「アリ」でしょう。

もちろん、iPhone 12やそれ以前のiPhoneを利用している方には、スマホとしての寿命も考えて買い替えをオススメしたいところです。特に4年以上前のiPhoneシリーズを利用されているなら早めの買い替えが良いでしょう。

ちなみに筆者はiPhone 14を予約しました。iPhone 13 miniからの買い替えとなります。miniモデルがなかったために「仕方なく」というのが本音ですが、そこは前向きに「自分史上初の6インチ台ディスプレイのiPhoneを試してみよう」と考えているところです。

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かつて5.8インチディスプレイのiPhone 11 Proを使用していた際は大きさと重さに若干使いづらさを感じたが、果たしてiPhone 14の個人的評価はどう出るか


みなさんの目に今回の「iPhone 14」シリーズはどのように映ったでしょうか。また本コラムの解説や関連記事などを読んでどのような印象を得たでしょうか。

オンライン予約や店頭に並んでまで発売日に購入する必要はまったくありません。キャリアショップやApple Storeの店頭に実機が並んでから、それぞれのモデルを手に取ってじっくりと選んでみて下さい。

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記事執筆:秋吉 健


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