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PCおよびスマホ向けOSのシームレス化と二極化について考えてみた! |
既報通り、Microsoftは24日(現地時間)、オンライン発表会を開催し、パソコン(PC)向けの次期OS「Windows 11」を発表しました。「Windows 10が最後のメジャーバージョンじゃなかったのか」といった声も散見されますが、Windows 10発売から約6年が経過して単なるマイナーアップデートに留まらない多くの新機能や新しいユーザーインターフェース(UI)を搭載するに当たり、メジャーバージョンとして生まれ変わらせる方針へと転換したようです。
そのような方針から現在、Windows 10を利用している場合には要件を満たしていれば、Windows 11への無償アップグレードが可能としています。必要最低要件は「2コア/1GHz以上の64bit互換CPU(SoC)、メモリー(RAM)4GB以上、ストレージ64GB以上」などとなっていますが、要件のチェックも公式に専用アプリ( https://www.microsoft.com/ja-jp/windows/windows-11 )が配布開始されています。
Windows 11で追加される機能の中で注目すべきは「Androidアプリが動作する」というものです。具体的には、Amazonとの提携によってWindowsのアプリストアである「Microsoft Store」から「Amazon Androidアプリストア」が提供する「Android apps on your PC」へアクセスし、そこからアプリの導入が可能になります。
WindowsとAndroidの親和性がより高くなり、シームレスな利用環境が整うことは利用者にとって福音です。一方で、AppleはMacとiPad、iPhoneをシームレスに連携させる「ユニバーサルコントロール」の導入をパソコン向け次期OS「macOS Monterey(モントレー)」から採用します。パソコン向けOSとモバイル向けOSの連携加速は、私たちに何をもたらすのでしょうか。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は各種OSのシームレス化や二極化について考察します。
■Windows 11で見えてくるMicrosoftの本気度
はじめに確認しておきたいことは、現状ではWindows 11で全てのAndroidアプリが動作するわけではない、という点です。正確には「Amazon アプリストアにあるAndroid端末向けアプリがWindows 11でネイティブサポートされる」ということになります。
Android端末向けのアプリストアと言えば、通常はGoogle Playを思い浮かべますが、そこで購入したアプリの動作を保証するものではありません。もちろん、仕組み上今後Microsoft StoreにGoogle Playと提携したストアチャンネルが作られ、そこから導入可能になる可能性はあります。
このように制限はあるものの、OSとして標準でAndroidアプリの動作を保証するのは意外でもあります。
かつては独自のモバイルOS「Windows Mobile」や「Windows Phone」プラットフォームを開発し、AndroidやiOSのシェアを切り崩そうと戦っていた企業が、かつてのライバルと手を組んだのです。これもまた時代の流れでしょう。
ちなみに、サードパーティによるAndroidエミュレーターなどを用いることで、現在でもWindows PC上でAndroidアプリを動作させることは可能ですが、これらは全て自己責任での導入ということになります。
一方、Mac(macOS)では以前からiOS/iPad OS向けのアプリがそのまま動作する仕様になっており、次期OSで導入予定のユニバーサルコントロールは、さらに一歩進んで「1つのコンピュータ上でファイルをやり取りするようにOSやアプリが動作する」というものになっています。
これはAppleというハードウェアからソフトウェア(OS)まで全てを一貫生産している企業だからこそできた離れ業でもあり、MicrosoftやGoogleに望める部分ではありません。
逆に言えば、Windows 11でAndroidアプリの動作をネイティブサポートしたこと自体が非常に大きなサプライズなのです。ほんの4~5年前までの企業競争の中では考えられない動きでもあり、それだけにMicrosoftの本気度が垣間見える事象でもあります。
■将来iPhoneシェアが増加に転じるかも?
ここで少し視点を変えて、現在のモバイル端末(≒スマホ)におけるOSシェアを見てみましょう。
若干古いデータになりますが、MMD研究所が2019年11月に行った「iPhone・Androidシェア調査」によると、「メインで利用しているスマートフォン」の割合は、Androidが57.2%、iPhoneが42.8%となっています。
日本国内では2017年前後にAndroidスマホのシェアがiPhoneのシェアを超えたことで話題となりましたが、2019年の時点でもAndroidスマホのシェア拡大の流れは続いているように見えます。
「メインで利用しているスマートフォンの推移」を見ても、2018年との比較でAndroidスマホはシェアを伸ばし、iPhoneはシェアを落としています。
しかし、次のデータからは若干意外な事実が見えてきます。
メインで利用しているスマートフォンを「性年代別」で調べてみると、Androidスマホの利用率は男女ともに40代をピークに、若い層や高年齢層ほどiPhone利用率が高くなっているのです。
現在の40代と言えば、いわゆる第二次ベビーブーム世代です。人口の多いこの世代や、そのすぐ下の30代のAndroid利用率が高いためにAndroidシェアが大きく拡大しているように思えますが、実は20代以下ではほぼシェアが拮抗しており、10代女性に至っては6割以上がiPhoneユーザーという結果になっています。
シニア層が初めてのスマホとしてNTTドコモの「らくらくスマートフォン」のようなAndroidスマホを使い始めていることもまた、Androidシェアの拡大に寄与していますが、将来的にこの流れが続くかと言われれば否定的にならざるを得ません。
シニア層のスマホ使用率が飽和したあとのAndroidスマホのシェア拡大は大きく鈍化するか、もしくは若年層の増加によってiPhoneシェアが再び拡大に転じる可能性も十分にあることを、このデータは示しているのです。
このような中で、コンピューティングの世界がWindows陣営とMac陣営に二極化していくのは非常に興味深いものがあります。
世界的に見ればiOS/iPad OSはマイナーになりつつあり、そもそもシェアとしてはマイナーから脱出できていないmacOSとともに自陣の囲い込みに躍起になっている印象です。対するWindows/Android連合(?)はデファクトスタンダードの名のもとに強力な布陣を敷き、守るのではなく大きく攻勢に出てきた印象です。
日本では未だにWindows PCが家庭内であまり活用されていない(台数はともかく利用頻度や使いこなしベースで普及していない)事実があり、WindowsとAndroidの連携が与える影響は海外ほどではないと予測されます。
iPhoneシェアにおいても非常に特殊な日本ですが、この流れはその特殊性を更に加速していくようにも思われ、「30代以上はWindows&Android世代、20代以下はApple世代」、「WindowsとAndroidを使っているのはおじさんとおばさんだけ」などと言われる未来すら否定できない状況です。
■二極化していくデジタル世界の狭間で
新しくなったWindows 11のUIを見てみると、ウィジェット画面に代表されるすりガラス状のウィンドウ表示などはかつてのWindows 7のエアログラスを彷彿とさせ、古い世代には懐かしさすらありますが、Windows 10からPCに触れている若い世代には新鮮に映ることでしょう。
タスクバーのスタートボタンやアイコンは画面端から中央へと移動し、macOS的なモダンさを感じさせます。この変更の理由の1つには、PC性能の向上に伴い複数モニターやウルトラワイドモニターのユーザーが増えたことで、画面端に置くよりも中央に置いたほうが作業効率が良いという明確なメリットがあります。
WindowsとmacOS。MicrosoftとApple。AndroidスマホとiPhone。それぞれがお互いに似たような進化を遂げつつも、そのアプローチも戦略もユーザー層も大きく異なっているのが実に面白い点です。
それだけに、デジタル世界のさらなる二極化は避けられない未来でもあります。筆者のように「PCはWindowsだがスマホのメインはiPhone」などというちぐはぐなユーザーは現在でも少数派かもしれませんが、この先ますますそういった「デジタルデバイスを用途毎に個別で利用する」スタイルは減り、PCとスマホをシームレスに繋げて利用していく時代へ突入していくように思われます。
みなさんは、どのようにPCやスマホを使いたいでしょうか。OSやデバイスを統一してシームレスに繋げて利用したいのか、それとも用途に応じて自分なりに使い分けたいか、はたまたあらゆるOSとデバイスに精通しボーダーレスにすべてを使いこなしたいのか。
選択しようとしまいと、私たちはその流れの中に飲み込まれていくのです。
記事執筆:秋吉 健
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