ハイエンドスマホの高額化とスマホ価格の二極化について考えてみた!

既報通り、今月10日にグーグルが都内にて「新製品記者発表会」を開催し、最新プラットフォーム「Android 9.0(開発コード名:Pie)」を搭載した新型スマホ「Google Pixel 3」(以下、Pixel 3)および「Google Pixel 3 XL」(以下、Pixel 3 XL)を発表しました。

すでにNTTドコモおよびSoftBank、Google公式オンラインショップ「Gooleストア」(SIMフリー版)から11月1日に発売が予定されていますが、その価格は最も安いPixel 3(64GBモデル)で95,000円(以下、すべて税込)、最も高いPixel 3 XL(128GBモデル)で131,000円となっています。

これまでGoogleのAndroidスマホは日本では「Nexus」シリーズが発売されており、リファレンスモデル的な位置付けでもあったため性能面はオーソドックスながらも価格は比較的安価なイメージがありました。しかし今回は新たな「Pixel」シリーズであり、Googleが考える最良のスマホとして開発されていることから従来までのNexusシリーズとは立ち位置が変わっています。

そのため両機種も単なるサイズ違いではなく、上部に切り欠きのあるノッチデザインを採用したモデル(Pixel 3 XL)を個別に用意したり、無接点充電「Qi」の採用やカメラ機能の充実を図るなど他社ハイエンド製品にも劣らない仕様を満載し、価格も予想を遥かに上回る約10万~13万円となりました。

筆者の友人の1人は「今iPhone 7を使ってるし、iPhone XSが欲しいけど値段が高くて……」と、安価なAndroidスマホへの機種変更も視野に入れていたようですが、Pixel 3シリーズに限らずに他の「Galaxy」や「Xperia」といった有名ブランドのハイエンドスマホが軒並み高額となっており、結局友人は「価格があまり変わらないならiPhoneでいいか」とOS変更を諦めていました。なお、比較的安価なファーウェイなども勧めてみましたが反応はイマイチでした。

筆者自身も「iPhone XS」が発表された際、あまりの価格の高さに少し驚きつつ「でもiPhone 8が安くなるから……」と苦しい言い訳を自分へ言い聞かせていましたが、絶対値としてのハイエンド製品の高額化は業界全体の流れとして正しく受け止めなければならないでしょう。一方で、比較的安価で必要十分な性能の魅力的な端末も増えてきているのは事実です。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はそんなハイエンドスマホの価格高騰や人気価格帯の二極化を中心にこれからの市場動向を占ってみたいと思います。

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スマホはどこまで高くなるのか


■スマホの「恐竜化」が止まらない
一言で言ってしまえば、スマホの性能が成熟期を超えて停滞期に入りつつあるのです。誰もが満足する端末を用意することが至上命題であった2010年~2014年頃が最も性能の伸びやOSの安定性を重視した時期であり、iPhoneにとってもAndroidスマホにとっても成長期でした。2015年あたりからは性能面(動作面)での不満が少なくなり、いよいよ「一般利用で過不足なく必要十分」に利用できる成熟期へと突入しましたが、メーカーがそこで立ち止まるわけには行きません。止まってしまったら買い替えてもらえなくなってしまうからです。

そこで生まれるのが「ユーザーニーズの発掘」です。ユーザーが求めるものは何か、ユーザーが喜ぶ機能は何かとメーカーは必死に需要を探り出し、そこにターゲットを絞って商品を開発します。例えばその最たる機能はカメラです。レンズユニットは高性能化しユニット数も2基・3基と増え続けています。当然それは部品価格の高騰にも繋がり、またその高度な画像処理のためにより高速なチップセットや専用チップの搭載などが行われます。現在生き残っているメーカーや急成長を遂げたメーカーは、その需要の発掘に成功したメーカーだと言えるでしょう。

そうして喚起されたニーズはトレンドとして各メーカーへさらに波及し、大きな時代の流れを作ります。大きな画面でキレイな写真を見たい。いつでもどこでも簡単に自分をキレイに撮りたい。そういった需要が現在の大型化した高額スマホを生み出したのです。

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Xperia XZ2 Premiumのカメラ技術。最新技術の惜しみない投入は目覚ましい性能向上と引き換えに端末の高額化を生んだ


■端末価格の高騰に「反発」する人々
しかし誰もがそういった高額なハイエンドスマホを求めているわけではありません。大してカメラは使わないという人や、自撮りなんてほとんどしない、という人もいるでしょう。ましてや高速処理を要求されるARアプリなど必要性すら感じないという人は少なくないはずです。

そして生まれたのが端末価格の二極化です。ハイエンドスマホが高額化の一途を辿る一方で、2~3万円で購入できる格安スマホが大きな需要を生みつつあるのです。写真は撮れればいい、画面はそこそこの大きさでいい、ウェブブラウジングやSNSの利用が快適ならいい……。かつて「必要十分」な性能になったスマホがダウンサイジングされ、今では2~3万円でその性能が手に入るようになり、最新モデルや性能にこだわらない層の人々から大きな指示を獲得しはじめているのです。

こうした流れはとくに仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスの市場で顕著です。当然ながら価格メリットの大きなMVNOは低価格の端末と相性がよく、通信コストとともに端末にもお金をかけない流れが定着しています。もしくは筆者のように、結果的に高額化するランニングコストをできるだけ抑えつつ端末はハイエンドを利用するという流れも多く、ここでもまた端末価格の二極化が見られるのです。MVNOで敢えて5万円前後のミッドレンジスマホを使おう、という人はとても少ないのです。

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SIMフリースマホの人気ランキング。上位に2万円台の端末がずらりと並ぶ(価格.comより引用


■高額な端末がブランド力を生む
それにしても基本的な疑問として、どうして各メーカーはハイエンドスマホを年々高額化させていくのでしょうか。部品価格が高いから、というのは当たり前ですが、ではなぜそのような超高額とも言える部品を満載した端末を作り、売るのでしょうか。消費者から「高すぎる……」と絶句されるような端末を作る意味とは一体何でしょうか。それは、ブランド力の醸成と堅持にあります。

スマホ市場は勃興期から成長期にかけてのレッドオーシャンを超え、現在は壮絶なメーカー淘汰のブラックオーシャンもくぐり抜け、シェア争いにもひとまずの落ち着きを見せ始めています。すると今度は獲得したシェアの堅持が重要課題となります。マーケットシェアは低迷しつつも一定の上得意客の獲得に成功したAppleは早くからハイブランド戦略へ転向しており、それはiPhoneが高額化しはじめた2016年あたりからより顕著になっています。

多くのユーザーにしてみればスマホは「普通に使えれば良い」という程度のものかもしれませんが、メーカーとしてはそれでは困ります。自社のスマホを選択的に購入してもらう「理由付け」が必要なのです。端末単体での機能や性能の向上は当然ですが、何よりも「AppleのiPhoneだから」、「ソニーのXperiaだから」という理由で購入してもらえるようになることが何よりも強いことを知っているからです。それがブランド力です。

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スタイラスペンが内蔵された大型スマホ「Galaxy Note9」。本機のシリーズは「Galaxy Noteだから」、「このシリーズじゃなければダメ」と指名買いする人が多い


低価格を売りにしたブランドも世の中にはありますが、基本的にそれでは薄利多売に徹するばかりで利益が出ません。低価格やお買い得感でシェアを広げ、知名度が上がったところで高価格商品を増やしてブランド力を醸成するのは商売の基本です。

そのため、新興メーカーと目されている中国系メーカーでも高額なハイエンドスマホの投入が相次いでおり、未だに日本では根強い「中国製品は安かろう悪かろう」の印象からの脱却を目指す流れが強まりつつあります。

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11月上旬に税込12万円前後での発売が予定されている「OPPO Find X」。日本人の「常識」を打ち破れるか


■人々の求める先にスマホの価格がある
こういったハイブランド戦略に舵を切り始めたスマホメーカー各社ですが、その流れに一抹の不安を感じるのは筆者だけではないでしょう。人々が高級ブランドの高価なバッグを持ちたがる人ばかりではないように、高級ブランドの高価なスマホばかりに市場が傾倒していくことへの反発の証こそが、今のSIMフリースマホ市場に起こっている低価格スマホの人気ぶりなのかもしれません。

皆さんは、どんな価格のスマホなら欲しいと感じますか?10万円どころか15万円にも達するようなスマホでもひたすらハイエンドを求めるのでしょうか。それとも2~3万円で普通に使えるシンプルなスマホが欲しいのでしょうか。はたまた5~6万円で快適になんでも卒なくこなせる中庸な端末を好むのでしょうか。

メーカーにしてみれば、どんな価格でも「売れれば勝ち」なのです。高額なハイブランド戦略が成功するとしたら、それは消費者が選んだ結果です。仮に失敗すればそのメーカーのブランド力に相応しくない製品であると烙印を押されたことになります。

スマホの大画面化や高性能化が人々の求めた結果であるならば、その価格もまた人々が求めるままに決定されていくのでしょう。筆者個人としては……10万円以上はできればご遠慮願いたいところです。

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毎日使うものだからこそ、価格と性能のバランスはとても大事


記事執筆:秋吉 健


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