モバイル業界各社の新料金プランについて考えてみた!

モバイル通信業界の大戦争が始まりました。

NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといった移動体通信事業者(MNO)の大手3社によるメインブランドでの月間データ通信容量20GBプランが出揃い、それらに対してMNOに新規参入した「楽天モバイル」に加え、仮想移動体通信事業者(MVNO)の各社も対抗策を出してきました。

当然、楽天モバイルやMVNOが大きく動いてくることは予想していましたが、各社の動きは想像以上に早かったと感じます。まずはMVNOの「mineo」(オプテージ)が1月27日に最大20GB/月額1,980円(以下、すべて税抜)までの4コースを取り揃えた新料金プラン「マイピタ」を発表しました。

続いて1月28日にはMVNOの「J:COM MOBILE」(ジュピターテレコム)が5GB/月額1,480円のコースを加えた新料金プラン「J:COM MOBILE Aプラン スタンダード」を発表し、そして1月29日には楽天モバイルが1GB/月額0円から容量無制限/月額2,980円までの従量制の新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」を発表しました。

モバイル業界はまさに大激動の2021年となると予想していましたが、早くもその様相となってきています。そしてこれらの料金の低廉化は誰が得をし、私たちは何を選べば良いのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はmineo、J:COM MOBILE、楽天モバイルの料金プランを解説しつつ、今後のモバイル業界の料金トレンドを考察します。

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通信料金戦争の火蓋は切って落とされた


■低料金で攻めるMVNO&楽天モバイル
はじめに各社の料金を確認しておきましょう。

mineoはMVNOらしく、MNOとの直接対決を避ける形の料金プランとコースになりました。

これまでもNTTドコモやau、ソフトバンクの各MNOから回線を選べる「トリプルキャリア」戦略でユーザー数を伸ばしてきたmineoですが、その成長経緯故にキャリアごとに料金プランが存在し、さらにデータ通信容量によって6段階のコースが存在するという複雑な料金プランとなっていました。

今回の新料金プランであるマイピタはその複雑化した料金プランとコースを一本化し、さらに「容量は増やし、料金は下げる」という方向で調整したものです。

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これまでは18コースに細分化されていた料金プランを……


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一気に1プラン・4コースへ統一。非常に分かりやすくなった上に料金も大幅に下げた


これにより、大手MNOの「20GB/月額2,480円~2,980円」という水準よりも500~1,000円下げつつ、さらに1GB、5GB、10GBという小~中容量を用意することで、低コスト性を重視するMVNOの利用者ニーズに応えるものとなっています。

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データ通信のみのプランも同様に刷新した


同様にJ:COM MOBILEも小容量プランの充実に力を入れた戦略を取り、従来の料金プランに5GB/月額1,480円という料金プランを増設しました。

低料金帯でより細かな料金選択を可能にすることで、大手MNOが用意する20GBプランでも高いと感じるMVNOの利用者ニーズに合わせてきた形です。

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J:COM MOBILEの10GB以上の料金はmineoより割高だが、通信制限時の最大速度が1Mbpsである点は見逃せない


そして「台風の目」となる楽天モバイルです。

MNOでありつつ、衝撃的な「1GB以下なら月額0円(タダ)」を掲げ、さらに3GB以下なら月額980円、20GB以下なら月額1,980円とMVNO並みか、さらにそれを上回る超低料金としつつ、さらに20GB以上使った場合も容量無制限で月額2,980円という、正直「無茶苦茶な料金プラン」を発表しました。

質疑応答でも記者から「独占禁止法に抵触するのでは」や「安すぎるときちんと通信・通話ができないと思われるのでは」、「今後にMVNOへの回線卸が発生した場合はどうするのか」といった不安に近い質問が飛ぶほとでしたが、楽天モバイルとしては「総務省にも連絡や相談を行っており、法的にも事業継続性としても問題はないと考えている」と答えており、採算性はともかく健全な競争であるという立場を貫いています。

楽天モバイルはRakuten UN-LIMIT VIのメリットについて、価格だけではなく専用アプリ「Rakuten Link」を使った無料通話やメールアドレス提供(今夏対応)、そして店舗での契約を挙げ、他の大手MNOが打ち出した20GBプランの弱点を上手く突いたプレゼンを行っています。

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もはや安い高いの問題ではない。後出しジャンケンもここまで来ると暴力に近い


■通信料金は通信品質とのトレードオフ
まさに無敵のプランのように思えるRakuten UN-LIMIT VIですが、不安材料や現状の弱点がないわけではありません。その最大の懸案は通信エリアです。

楽天モバイルがMNOへ参入してからまだ1年経っていませんが、それ故に自社のアンテナ基地局の整備が十分ではなく、多くの地域でパートナー(au)回線を借り受けてローミングによって通信エリアを確保している状況です。

楽天モバイルではこのエリア問題に対して以前より「基地局整備計画を5年前倒しし、2021年夏までに人口カバー率96%をめざす」としており、さらに2023年までに衛星通信システム「スペースモバイル」の導入によって「人口カバー率ではなく面積カバー率で100%をめざす」と断言しています。

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サービス開始からわずか1年半ほどで人口カバー率96%を実現できるのだろうか


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この前倒し計画が成功するならそれほど嬉しいことはないが……


しかし、ここにも不安はあります。そもそも5年も前倒しが可能な計画でMNOサービスを開始している時点で計画の杜撰さを感じる上、スペースモバイルによるエリアカバーは基本的に「緊急手段」です。

スペースモバイルが可能とする通信速度は数百Mbps程度と想定され、しかもその同時接続数は地上の基地局と比較して圧倒的に少ないものです。

以前のコラムでも衛星通信のメリットやデメリットについて書きましたが、衛星通信でエリア問題が完全に払拭されるものではなく、飽くまでも災害時の緊急回線や離島・山岳地帯など地上の基地局が存在しない場所での通信用と考えるべきものです。

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通信衛星とスマートフォン(スマホ)で直接通信を行う方式で、スマホ側の電波出力は約3Km先の基地局と通信する場合と同等になるとのこと


【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:揺れる衛星通信の天秤。安定した通信手段として期待される衛星通信が抱えるメリットとデメリットとは【コラム】

楽天モバイルは現状のエリアに若干不安があり、MVNO各社は混雑時の通信速度に不安を抱えている状態であることを考えると、各社が提示してきた通信料金は「妥当」と感じるところです。

通信品質と通信料金の相関性についてはこれまで本連載で何度も書いてきたことですが、それを踏まえても大手MNOの20GB/月額2,480円~2,980円」という水準は世界トップクラスの安さと通信品質を誇っています。

それよりも安い料金水準を求めるとなれば、さすがに通信品質ではある程度の妥協を求められることになるでしょう。

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日本の通信品質の高さは世界に誇れるレベルだ


■重要なのは「自分に合った通信キャリアとプラン」の選択
MNOの料金低廉化の流れがMVNOを窮地に立たせ、さらなる低料金化を呼びましたが、気になるのは経営にどの程度影響するのかという点です。料金が安いのは嬉しいことですが、それで経営が成り立たなくなり、サービスの停止や品質の低下が起こるようでは本末転倒です。

mineoは発表会の質疑応答の場で「新料金プランでも採算性は確保している。2021年度も黒字化をめざす」としており、mineoユーザーの利用実態を挙げてその具体的な説明も行っています。

楽天モバイルの場合、そもそも通信事業を「自社経済圏にユーザーを取り込むための施策の1つ」としているため、現時点での事業単体での早急な黒字化は考えていない様子です。

今は膨大な赤字を垂れ流しつつ、全力でインフラ整備を行い、さらに取り込んだユーザーによって楽天経済圏を回すことで、グループ全体での利益向上をめざしているのです。

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mineoが低料金化を進めても採算が取れるとする根拠の1つ。ユーザーのほぼ全数が10GB以下の契約、更に8割以上が3GB以下の契約だからこそ、20GBなどの料金を大幅に下げても問題がないとしている


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楽天の三木谷社長(楽天モバイルでは会長兼CEO)は「他MNOはようやく通信以外の周辺部分に力を入れ始めたが、うちはほぼ完璧」と豪語する


MNOおよびMVNO各社から新しい通信料金プランが示された今、みなさんは何を基準に選択するでしょうか。ひたすらに料金の安さを求めるのか、通信の安定性を求めるのか、それとも付加価値に重点を置くのか。

いずれにしても通信サービスの移行も視野に入れた料金プランの再考は必須です。通信料金は毎月発生する生活費の一部です。他人事と思わず、そして「安ければなんでもいい」と安直に考えず、しっかりと見直すことをオススメします。

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鮮烈なプロモーションやリップサービスに惑わされず、自分にとって本当に必要な料金プランを選択しよう




mineo(マイネオ)




記事執筆:秋吉 健


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